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冒険者ギルドの市場価値


 翌朝になり、別の場所で任務についていた分隊が戻ってきた。

 予定より早いので、昨日の伝令は無事到着したのだろう。

 今は小隊長と各分隊長、先生と冒険者さん達で会議をしている。

 でもなんで毎回先生まで呼ばれるのだろう?


『そりゃあ、現時点の冒険者の雇い主だから、契約変更の為だろうな』

 どういう事だい?

『オークが発見された。何が考えられる?』

 はぐれオークがたまたま出た。あるいはオークの集落がある。

『そうだな、ついでにゴブリンの集落だか村だかが、無事かも気になるところだ』

 まあ確かにそうだね。つまりオークの殲滅、もしくは偵察なりの依頼を冒険者さんにお願いしたいって事かい?

『今日はその前段階の街道の警備だろう。街に戻れば、冒険者ギルドにその依頼をするか、騎士団を動かす。たぶん偵察は冒険者、殲滅は騎士団。状況によって合同作戦だな』

 今後はともかく、警備を軍がしないのはなぜ?

『予定外だからだろ』

 予定外って……。その為の軍だろう?

『まずは物資がない』

 あぁ確かに。でも予備の物資を渡して1分隊なり、難しければ3班だけでも、残せば警備は良くないかい?

『ほう……なんで3班だ?』

 それは、軍の基本は3交代制だからさ。

『確かにこの場に冒険者がいなければそうするだろう。だが今は冒険者がいるからな』

 それでも、わざわざ冒険者の雇い主と交渉するよりは、軍の任務にしたほうが、話しが早くないかな?

『政治上の都合と、金銭的都合だろ』

 どういうことだい、それは?

『まず第一に明日になれば、今回の任務にあたっている兵士は休日だ。居残りなんて出来ればしたくない。とは言え兵士に労働三権など無い。だから、命令すればやらざるを負えない。だがな、それをすると不満が残る』

 そんなものかなぁ? だって街を守る兵士さんだよ?

『そんなもんだよ。お前がまじめなだけ。それでだ、不満が残れば市民感情が僅かに悪くなる。なんせここには冒険者がいるのだから』

 うーん完全には納得出来ないけど……。

 その市民感情云々を逆に兵士さんが考えるの?

『まあ俺の世界と違って、選挙権がこの世界の市民にあるわけじゃないが、市民感情は是正者として、可能な限り悪化してほしくない。どうしようもない状況ならともかく、今ここにあるリスクと、戦力を顧みれば普通の士官はそう判断すると思う』


 うーん。

 ……まあ良いや、そういった理由からって事ね。

 でも金銭的都合って何さ。冒険者への依頼金のほうが、兵士への残業代よりはるかに高いよ。

 だからボクらは冒険者になるのだろう?


『冒険者ギルドが存続している理由ってなんだと思う?』

 考えたことも無いよ。でも必要だからだろ?

 もちろん、発足した理由なら習っているからわかるけど。

『じゃあ一応認識に相違がないか、聞かせてくれ』

 世界中の精鋭が国の垣根を超えて、魔物などの人類への危機にあたる為、でしょ。

 でも平和になった今は、一応情報交換はしているけど、国ごとに実質は独立しているみたいだし、人類共通の敵にあたるためって理由じゃないんだよね。

『その通り。もちろん例外的な奴はいるだろう。発足時の理念に沿った奴らがな。だが今は誰でもなれるから、ごろつきまがいの奴もいる。明らかに発足時の理由だけじゃ、現在の質はありえない』


 ちょっと話しが回りくどくないかい?


 それで現在の理由は何だっていうのさ。

『悪かったな。でだ、今の存在理由は騎士団や軍の天下り先の確保と、安い兵力の提供だと俺は思っている』

 いやいや、だから冒険者のほうが日当換算すると高いのが相場だろう? 天下りはともかくとして。

『それでも、だ。質が低下した今でも、その依頼金を払うだけの市場価値がある。何故か? ――冒険者になるなら心の片隅に留めて欲しいから、マジで嫌な事を言うぞ』


 ティーナがわざわざ前置きを置くのは怖いけど……お願いします。



『遺族補償金の必要がない』



 見えないハンマーで、脳天をぶん殴られたような衝撃。



 ――本当に嫌な事聞いちゃったよ。


『俺の世界にはPMCという会社があった。軍隊の無かった俺の国でさえな。まあ人口が増加傾向にあるこの国は、俺の国のPMCよりは、外国のPMCに似た側面が強いが……それはどうでも良い』


 うん。


『とにかく、兵士より命が軽いのが冒険者だ。もう一度言うぞ、兵士より命が軽いのが冒険者だ』


 そう……なんだ。


『もちろん血筋や交渉力で上手に逃げる奴もいる。戦闘能力でどうとでもなる奴もいる。俺たちはどうする? 血筋はまあまあだがな』


 それは、


「頑張って強くなるさ」


『そんなお前だから親父さんは、俺に勝てって言ったんだ。この意味はわかるよな?』


 ――うん。


『幸い俺も協力出来そうだしな。一緒に頑張ろうぜ』


 あーもう! くそ。

 なんか目の前が霞んでいるじゃないか。

 ティーナのバカ!


 でも、ありがとう。


『どういたしまして。お前は家族に恵まれている。それを忘れるな』


 はい。


『……しかしお前は素直な良い奴だな。俺はだいぶイヤな奴だぜ?』


 あれ自覚あったんだ? でも、なんだかんだ言ったって、ティーナも良い奴ってボクは知っているからね。



 だから、もごうとしないでよ!



――――――――――――――――



 結局ティーナの言う通り冒険者さんが残り、軍やボクらは帰還した。


 後日冒険者さんたちの調査の結果、別途2匹のオークの死骸が別々に見つかったが、集落等の痕跡は無かった為、ボクと先生が遭遇したのは、はぐれオークだったと結論づけられた。

 

 併せて、ゴブリンの村も無事だった。ホブゴブリンは、はぐれオークの警戒に出ていたものと思われると、報告もあった。



 その後のボクは騎士科に合格した。

 そして学校の訓練と、日課の訓練以外に、週末にこっそりとティーナとの特訓も始めた。


 そうそう。ティーナはこの一件以来、目上の先輩として扱うようにした。


 もちろんジャスティン兄様よりは目下だけどね。

 俺のほうがジャスティン兄様より年上って?


 うん、そうかもしれないね。

 でも、ティーナは友達だからね。


 ふん。

 照れるなら言わせんなよ、バーカ。




――――――――――――――――




 そして現在。

 ティーナが目覚めて3年が近づいている。

 もうすぐ中学校を、ボクらは卒業する。




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