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仮説


 オークとの戦いはさほど時間がかからずに終了した。


 もともと先生の魔法が致命傷だったのだろう、攻撃を一度躱すと勝手によろめいた。

 その隙に蹴り倒して、背中から何度か刺したらあっさりと倒せた。


 慌ててトーマス君の元へ向かうと、すでに先生が介抱していた。

 ひとまず警戒を続けていると、中央から冒険者さん達が応援に来たので、交代してもらい、トーマス君のケガを見る事にした。


 全身打撲と右腕を骨折していたようで呻いていたが、命に別状は無いようで安心したよ。

 念の為に、回復魔法をかけておいたほうが良さそうだね。


「ヒール」


 ヒールの光に包まれて、少しずつ傷が修復する。痛みも引いてきて、話しをする余裕も出てきたらしい。


「先輩、迷惑かけてすみません」

「君はバカだ。クレイガードで正面から受け止めようとするなんて。あれは止めるんじゃなくて角度を付けていなす魔法だろ? まあとっさにガードしたからこの程度で済んだのは良かったけど、オークロードなら死んでいたぞ」

「……本当にすみませんでした」


 あー泣いちゃった。でもフォローはしない。

 けが人に、ましてや子供にこんなムチを打つ様な真似は可哀想だけど、兵士になった以上は少しでも強くなって欲しい。


 そうじゃないと、次は死ぬかもしれないから。


「クリスさん、その程度にしましょう。しかしホブゴブリンはともかく、オークが出たのはまずいですね。そんな情報は無かったはずです」


 先生の言う通りだ。そもそも、ボクは彼を指導する立場では無い。

 でも心配したんだよ。


 もう! 落ち着けって言われてもさ、もやもやするだろう?


 ふぅ。


 ……わかったよ。


「幸い今回遭遇したのは一匹だけでしたので、山から降りてきたはぐれの可能性もありますが、もしかしたら近くに拠点があるのかもしれません」


 ……確かに事前の説明で、この辺でのオークの出没報告は、ここ数年特に無かったはずだ。

 もし集落が近くにあるのならば、規模にもよるがボクらはかなり危険な場所にいる事になる。


「撤退しないとまずいですよね?」

「それは私たちが決める事ではありませんが、私もそう思います」



 数分後2班の戦闘も終わり、分隊長の元に各班の班長と先生、冒険者さんの代表が集まっていた。


 ボクは4班のメンバーと共に、魔石の回収の護衛をしていたので会議には参加しなかったが、どうやら街道まで撤退する事になった。


 復路では、分隊として固まって行動した。

 一匹ならともかく、オークの一団に襲われれば班単位だと危険だからだ。


 念の為に右側面の防御を厚めにした帰り道だったが、一度だけ少数のゴブリンとの戦闘があっただけで、特にオークとは出くわす事は無く、街道まで撤退出来た。


 全ての分隊は本日中に街道までは戻ってくる予定になっているため、オークの出現を伝える伝令が放たれた。



 ――――――――――――――――


 ふう、ようやく落ち着いた。


 夜営準備が終わり、一団から少し離れたところに来た。


 それでティーナさんや。昼間の事を説明してもらおうか?


 えっ、『あんなでかい化け物が火だるまで突っ込んできたら、悲鳴を上げるだろう』ってそっちじゃないよ。それからもうちょっとはっきりしゃべってくれ。


『クリスさん、めしはまだかのぅ?』

 さっき食べたでしょう、おじいさん。


 じゃなくてわかっているでしょ。ファイヤーアローの事だよ。

『ナイス突っ込み』

 そりゃあどうも。で、どういう事さ? 


『わからん。なんか、子供やばい、魔法出ろ、そう思ったら撃てた』

 わからんって。

 ――ちょっと人の身体で鼻をほじらないでよ。

『ん? あぁすまん、ここまで表に出てくるとお前の体ごと動かしちまうらしいな。つーか煙が凄くないか?』

 服になすりつけるな! 

 あれ? でもオークの時に特に勝手に体が動いたりはしなかったけど。

『そうなっていたらやばかったな。腰を抜かしてたか、全力で逃げてたぜ。まあ今は気が緩んで、リラックスしてたからだろ?』


 んー、じゃあちょっと体動かしてみるから、何か出来るか試してみて。

『わかった。――うんやっぱり動かないぞ』

 なら良かったよ。

『いやちょい待ち』

 うん。

『エアソナー』

 

 その瞬間わずかな発動光が身をまとい、エアソナーが発動した。


『魔法は放てるみたいだな。』

 いやいやどうなってるのさ。

『ドヤァ!』

 ドヤァじゃないよ。ティーナは魔法なんて使った事ないでしょ。

『いやまあ使った事ないけど、使っているのはクリスの体な訳だし』

 いや、それはおかしいよ。ボクの魔力が集中した感覚はなかったよ。


 その時先生が後ろから声をかけてきた。


「クリスさん。何かありましたか?」

「あー、いえなんでもありません。ちょっと魔力コントロールに違和感があったので、試しに魔法を放ってしまいました」

「……まあ今回は良いですが、集団行動中なので一言声をかけて下さいね」


 すみませんと謝ると、先生は戻っていった。


 ちょっと、ティーナのせいで怒られたじゃないか。

『すまん。ところで、お前の魔力が集中した感じがなかったのは本当か?』

 うん、魔力が減っている感じも無い。もっとも、初級魔法だから判らないだけかもしれないけど。

『そうなるとなんだろうな。……そういや人間の体って魔石ないんだよな』

 ないね。

 魔石を体内に宿している生物が魔物だけど、これは覚えているよね?

『あぁそうだったな。じゃあ人間が魔法を使えるのはなんでなのか、覚えているか?』

 なんでだっけ?

『定説としては、人間は呼吸で取り込んだ空気中の微量な魔力を魂に溜め込んでおけるからだ。ちなみに魔力枯渇時に気を失ったり、寝ている時に特に回復するのは、魂が吸収しやすい状態になるからと言われている』


 えっと……

 つまり、ボクとティーナの魂は別だって、そう言いたいの?

『俺の考えでは根っこの部分でつながっているが、上層の半分で分かれているんだと思う。ところで魔力総量は、クリスは多いほうか?』

 一般的な正騎士よりは多いけど、4属性全てに適正があるわりにはちょっと少ないほうだよ。ヒールを5回も使ったら、多分気を失う。

 総量を上げる訓練は特に力を入れているのだけど、ボクは伸びにくいんだ。


 あー、なんとなく言いたい事わかったかも。


『おそらくだが、半分は俺の管理下にあるんだろうな。さっきや昼間、魔法を使った時に、俺の感覚では魔力の集中を感じた。今思えばだがな』


 ……それって本当?


『まあ現時点の仮説でしかない。帰ったらちゃんと検証しよう』


 これはもしかして、嬉しい誤算なのかもしれない。





 ――それでなんでだいティーナ? おっぱいを触っているのは?


『いや表層に出てきたら、いささか違和感を感じてな。もげないものかと思ったら……ついな』


 ちょっと、ちょっと、なんでもぐのさ!?





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