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帰路


「つ、着いた……」


 後ろで呟いたフィオを見ると、疲れきった顔をしている。

 まあ人とすれ違う時は、怪しまれないよう速度を落としていたので、この1時間ほどはシャトルラン状態だったから、慣れていないと普通に走るよりキツイだろう。

 慣れているボクでも結構応えたし。


 それはともかくまずはサンフラーに到着。

 入門の際に少し緊張したけれど、特に咎められる事は無かった。

 ひとまず安心だ。


 でも早めにここも発っておいた方が無難だろう。

 だから配達先へ急ぐ。



 ――――――――――――――――


「失礼します。依頼で配達に伺いました」

「ご苦労様です。……恐れ入りますが、クリスティーナお嬢様でしょうか?」

「そ、そうですが。何故?」


 そういえばここ――サンフラーでの配達先――は、たしか実家の商会からのれん分けされた商店だったかな?

 だけど、ボクはこのご主人に覚えがない。

 だからもしお会いした事があったとしても幼少時な訳で、今のボクを見て認識できるとは思えないのだけれど……。


「やはり。お元気そうで何よりです」

「何故私と?」

「そうでしたね……。奥で奥様がお待ちです」


 あぁ。そういう事ですか。

 ……って。はい?



「孫が挨拶も無しに帰郷するとは、寂しい限りですね」


 奥へ入るとお祖母様がいた。


「いや、その……。申し訳ありません」


 でもどうしてボクの行先に先回りできたのか?


「フフ。冗談ですよ。二人とも元気そうで何よりです」

「ありがとうございます。……しかし何故ここにいらっしゃるのですか?」


 フィオもボクと同じ疑問を持ったみたい。

 ボクの聞きたかった事を、彼女が問う。


「説明するには少し時間がかかりますから、またの機会にしましょう。クリスもその方が良いでしょう」


 しかし答えははぐらかされる。

 確かに時間は無いし、その事をお祖母様も理解している。

 だがしかし。


「それならば何故こちらに?」


 きっと今回受けた依頼自体、お祖母様が敢えて手配したのだろう。

 どういう訳か、ボクの行動を予見していたみたい。

 そしてその予見した根拠を説明する気は無い。少なくとも今は無い。

 そう明言された訳だ。


 だが根拠を説明しないというのであれば、今度はわざわざこの場所に来た意味がわからない。


「……私は貴方を危険に巻き込みたくありません。それはわかって貰えますか?」


 わかって貰えるか?

 その言葉の裏に秘められた意図を、理解している訳では無い。

 しかし危険に巻き込みたくないという言葉が、嘘ではない事だけはわかる。


「はい」

「貴方がどこまで知っているのか? 昨日何が起こったのか? 一昨日からここにいる私には把握出来ていないわ。でも、その点をすり合わせる時間は無いわよね?」


 この口ぶりからすると、理由はわからないがテッドの正体やその背景を知っているのだろう。

 そして、もしボクがそれを知らないのならば、巻き込まないようにして下さっている。

 さりとて、お祖母様の仰る通り、時間は無い。


「えぇ。申し訳ありませんが、なるべく早くここを出たいです」

「わかりました。ここに来ているという事は、おおよその検討はつきます。……何かしら問題があっても、私が話をつけておきますから安心なさい」


 お祖母様の言葉は、やっぱりその意図を全て把握できる訳ではない。

 把握できる訳ではないけれど、安心しろというからには安心しても良いのだろう。


「申し訳ありません。何か私に出来る事はありますか?」

「なるべく早く片はつけるつもりだけれど……念の為に1週間ぐらいは街によらないようにしてくれると確実ね」


 なるほど。1週間以内には体裁は整えてくれるという事か。


「申し訳ありません」

「そこは、『ありがとう。お祖母様』で良いのよ」

「はい。ありがとうございます」

「よろしい。……そろそろ準備も整ったでしょう。気を付けてね」


 準備? なんのと思ったが、促されて表に出るとすぐに答えがわかった。


「ねえ。あれってさ……」

「あぁ……うん。間違いないよ」


 表ではアランが荷馬車をつけて待っていた。


「それでは、ちゃんと注意して帰るのですよ」


 御者台に座ったボクにお祖母様はそういった。


「はい。何から何までありがとうございます」

「……そういえば」


 そういえば?


「貴方は何故ここに? と、問いましたね」


 ええ。まあ。


「はい」

「祖母が孫を見送るのに理由などありませんよ」


 まったく。そう言われてしまうと、どうもねぇ……。

 ボクはお祖母様からすれば、未だに面倒のかかる孫に過ぎないらしい。


「フィオちゃん」


 ボクがなんとも言えない顔をしていると、お祖母様はフィオに話しかける。


「は、はい」


 突然声をかけられたフィオは、曖昧に返事をする。


「この子をよろしくね」

「――はい!」


 力強く答えて笑う彼女。

 どういう意味だろうね?


『女には女同士、阿吽の何かがあるんだろうさ』


 うーん。よくわからないよ。


『気になるなら直接聞けよ』


 ……それは悪手という事だけはわかるよ。

 理由は説明出来ないけれど。


『俺もそう思う。つまりそういう事だろ』


 男と女は別って事ね。

 ――それより急がないとな。


「それでは。ありがとうございました」


 最後に改めて礼をする。


「状況によっては直ぐに呼び出すかもしれません。……ですが、私たちは貴方の幸せを願っています」


 たち(・・)、か。


「ありがとうございます。……お祖父様にもよろしくお伝えください」

「任されました。――道中気を付けるのよ」

「はい」


 こうしてボクらはこの小さな宿場町を後にした。


 ――――――――――――――――


 その後は特別な事もなくリーリエまで帰れた。

 いや、1週間も街に入れなかった時にフィオはご機嫌斜めだったか。


 兎に角ボクらは4か月ぶりに、無事地元に戻る事が出来た。




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