男の子であるために
今回は女性が女性と結婚するための方法についての説明文が書かれています。
長いので後書きで要約したものも書いております。
ティーナと一緒に色々な事を調べたこの一週間で、ボクらは一つの結論に達した。
メアリー・アザル様の功績にあやかる事だ。
彼女のとった方法を理解するには、まずは一夫多妻制度の知識が必要だった。
この世界は一夫多妻制が、かつては当たり前だった。
なぜか?
それは女性で戦える人間という者は、いない訳ではないが多くはない。
基本的に戦いは男性の仕事だ。
必然的にモンスターによる犠牲者の多くは、男性になる。
一夫多妻制でなければ、人類はどんどん減ってしまい滅んでしまっていただろう。
時代が下り、人類が増え、国が生まれ、組織的な行動が可能になった時、この制度が一部見直された。
死亡率が下がり、比例した平均寿命と人工増加に比べ、生産力の上昇が緩やかだった為だ。
なぜそのような事態になったのか?
色々と説はあるが現在最も支持されている見解は、『今日を生き延びる事に必死であった人類にとって、5年先、10年先を見据えた計画的行動という概念がまだ無かった』というものだ。
ともかくそういった状況の中で、無規律に制度を維持すると、重婚をした当人達やその子供達に取って、十分な食糧が無いという、不幸な状況を生みかねなくなっていた。
けれども同時に、いくら死亡率が下がったとは言え、完全に廃止をすれば、また人類が衰退してしまう危険性があったと推測される。
そういった時代背景、状況を勘案し当時の支配者達は、おそらくは熟考の末、重婚は爵位を持つものに限る事にした。
同時に、爵位は原則として男性が継ぐものとなった。
戦う男達に対する敬意という点もあったのだろうが、一夫多妻が爵位を持つものに対する制度な以上、実質的な側面が大きかったのであろう。
女性は一度に一人しか子供を産めないのだから。
というのが、とある本に記されている、一夫多妻制度の内容だった。
『とても意義のある制度ではあるのだろうけど、今と昔の偉くてエロイ人達を慮った解釈だ。だがそれが良い』とはティーナ談。
ただメアリー・アザル様はこの制度を利用した突破口を見出した。
爵位は原則男性が継ぐが、継承権を持つ男性が生まれず、娘しかいないケースがある。
親戚の男子を養子にするのだが、それもいない場合もやはり稀にある。
その場合は娘が継いで、婿なり、さらにその子供が成人したら継ぐ事になるが、その間その女性は法規定上『みなし男性』として扱われるのだ。
何故そのような面倒な制度にしたかといえば、これは他国との外交上の問題でそうしたらしい。
残念なことに爵位を持つ者の家族の女性は『みなし貴族』であって『みなし男性』ではないと規定されていた。
そういった状況で、男爵位となったメアリー様は女性と結婚する事を国に認めさせる裁判を起こした。
『みなし男性』が女性と結婚して何が悪い。というのがメアリー様の主張。
かなり無理のある主張だ。
しかし時の最高裁はメアリー様の訴えを認めた。
本音は『王女』であり『勇者』に外国へ亡命されてはたまらないだが、建前はメアリー様の主張を認める形をとった。
本音で司法が判決を下したのであれば、特例となるケースだ。
要件として『王女』や『勇者』がついてくる。
ただ建前を司法がとった以上、立法も追認措置を取らざるを負えない。
結果『みなし男性』が『女性』と結婚する事は合法となる。
これはあまり知られていない事だ。
そして准貴族もこの法律が適用されていた。
だからボクらは一日も早く士爵になる為に、お金を稼げる冒険者になる事を決めた。
――――――――――――――――
「中学卒業するまで時間をやる。その時に模擬戦で俺に勝ってみせろ」
お父様にとんでもない条件を出されてしまった。
それと同時に、譲歩してくれているのも理解出来る。
「ジャック。いくらなんでも、それは厳しすぎるのではなくて?」
お母様が取り成してくれるが、お父様は何も言わない。
腕を組んで、ボクを真っ直ぐ見つめている。
こうなってしまうと、絶対に意見を変えないのがお父様だ。
お母様は仕方ないとばかりに今度はこちらを向いた。
「ねえクリス。貴女の気持ちは心底理解したとは言わないけど、ある程度は理解したわ」
「いえ急な話ですから。……申し訳ありません」
「ただね、私としてはやっぱり冒険者は心配ではあるの。准貴族になら私がしてあげるから、家でフィーナの手伝いでもしない? 家を出たいなら医者とか……まあなんだって良いの、先生でも、兵士でも、侍女でも、勿論騎士でも」
あぁ、お母様は昔から本当に優しいな。
もちろん本当に准貴族にいきなりしたりはしないだろうけど、こっそり手伝ってくれるのだろうな。
思えば昔からお母様には甘えてばかりだ。ただ、これは受けられない。
「お母様ありがとうございます。でもそれは出来ません」
「そう。理由を聞いても良い?」
だってそれは
「それは男の子がする事ではありません。親に甘えて好きに生きるなど」
それが男の子のする事でないかは本当のところわからない。でも、少なくとも、ボクは男らしくないと思っている。
自分が男らしくないと思っている事を受け入れるなんて、それじゃあ意味が無い。
「……あーもう。二人ともそっくりなのだから。わかった。私の負けよ」
「ごめんなさいお母様。……でも、ありがとうございます」
謝罪し、礼を伝えて、――ふとこんなとんでもない事を、突然打ち明けられたお母様の気持ちを、改めて想像すると、
泣きたい気持ちになった。
でも、ボクは男の子だから泣かない。泣いてはいけない。
「クリス」
「はい。お父様」
すっかり冷めてしまった紅茶から口を離して、お父様がポツリポツリと話し始めた。
「時代を切り開く奴ってのは、ガキの頃から分かるもんらしい」
「なんせメアリー様は10歳の時に一人でグリフォンを討伐したそうだ」
ティーナが『なんで10歳の王女が一人でグリフォンと遭遇するんですかねぇ』とか場違いな事を言っている。
無視だ。
「俺はもちろんだがお前だって、流石にそこまで規格外な訳じゃない」
「上手くは言えないが」
「俺ら凡人は自分の手に届く範囲で、自分の望みをかなえ、手に入れ、守ってくしかないと俺は思っている」
「そんな中でも、俺は最大限努力したと誇れる。なんせ母さんを嫁に貰ったんだからな」
「お前たちは俺の宝物だ。守りたいものだ」
ごめんティーナ。やっぱり何か言ってよ。
じゃないと……
「でもお前がしたい事は、俺がしたこと以上に難しい事だ。出来ればそんな無理させたくない」
「でもお前が、そうしたいって言うのなら」
「俺以上の無理難題を成し遂げたいと言うのなら」
「俺に勝ってみせろ」
話は終わりだと言わんばかりに、お父様は席を立った。
大きな体を揺らしながら歩き、ドアへ向かい、部屋を出るドアの前でもう一度ボクを見た。
「楽しみにしているぜ」
そう言ってお父様はドアを開き出て行った。
――あぁ、きっと物凄く困らせた。だって、絶対に理解出来ないのだから。
でも受け入れてくれようとしてくれていたのだけは、よくわかった。
気付けばボクは、涙を流して俯いてしまっていた。
そんなボクの隣にいつの間にか座っていたお母様は、何も言わずに頭を撫でてくれていた。
古代
モンスターに殺されて、男が沢山死んじゃうから、一夫多妻ね
中世
大分モンスター減ってきたけど、メシ足らないから貴族だけ一夫多妻ね。
だから基本貴族は男ね。
どうしようもない場合は女が継ぐけどその場合は「みなし男性」って事で。
現代
百合姫
(女と結婚させないと亡命するよ?)
『みなし男性』が女性と結婚して何が悪い?
裁判所
(それは勘弁)
いやメアリー様の言う通りです。
結果
『みなし男性』が女性と結婚するは合法
クリス
『みなし男性』=貴族になろう