聞いてないぞ
フィオと話し合って、ボクらは一旦リーリエに戻ると決めた。
彼女の借金を清算する為――それが表向きの目的だ。
つまり、別の目的もある。
子爵関連の仕事ばかりしている現状は、先日ギルドでケンカ沙汰になったことからも、余り好ましい状況ではないとわかった。
その辺りを上手に調整してもらうよう、働きかければ良いのかもしれない。けれどもそれは時期に子爵のお抱えにならざるをえない可能性が出てくると、ティーナが反対した。
アレコレと考えた結論が、一度帰郷する事だ。
公都を離れれば、子爵の仕事は余り受けられなくなる。
物理的に距離を取る事で、人間関係も距離が置ける、角が立たない為の一計だ。
そういう訳で近々帰郷する事をスチュワート課長に伝える為に(もちろん表の理由しか伝えないけど)リッグ建設を訪れたところ……。
「破壊予告、ですか?」
「そう。リポフ商会が最近取得した、ある物を破壊すると予告状が届いた。だから警備の依頼をしたい」
帰郷自体は理由こそ聞かれたものの、特に慰留もされなかった。
予定日が2週間後なので、それまでは依頼をしたいと言われて、ありがたく受けた。
リポフ商会という名の、子爵の関連企業の一つから。
そして具体的な依頼内容を聞いていたのだけれど……予告状ねぇ。
またどうしてそんな物を、いやそれよりも、
「予告状があるならば、軍に依頼は出来ないのですか?」
「どうも最先端技術で作られた特殊な機械らしくてな、企業秘密だから外部に漏らしたくないらしい」
「……そうですか」
だったらなんで冒険者に頼むんだ?
「口には出さなくなったようだが、まだ顔に出ているね。なんで冒険者に? かな?」
「あはは、まだまだ未熟なようで。……それで、聞いても良いのですか?」
「もちろんだ。今回の依頼背景は他言無用なのはもちろん理解しているね」
首肯する。
「その前提でだ……」
要するにボク達が、守るべき品そのものを見る事は無いので問題はないらしい。
運河沿いの倉庫街があるが、そこにある倉庫の一つに保管されているそうだ。
雇われる冒険者は、倉庫街を巡回警備して怪しい人物がいたら報告、もしくは何か騒ぎがあれば駆けつける。
軍に頼めない理由は、頼むとどうしても軍のやり方に沿う必要があって、その機械とやらを開示せざるを得なくなる。 だから、冒険者に頼んでいるそうだ。
そういう理由なら理解できる。
「まあしかし、君にはどの倉庫にしまっているか、教えるがな。勿論、当日になってからだが」
「何故です?」
「君を信用しているから……じゃあダメだろうね」
いやそれは違うだろう。
「自軍で最も強い駒を、遊ばせるのはもったいない。ただそれだけさ」
「? そうでしょうか? それなりに自信はありますが、最も強い駒とまでは思えませんが……」
「私の見立てではそうだ。とにかく依頼期間は、明日から10日間だ。頼んだよ」
――――――――――――――――
「やっほー。二人とも」
「お疲れ様です。レベッカさん」
明日から深夜の警備が今回の依頼内容になるので、体を慣らすために深夜遅くまでフィオと食堂兼酒場でくつろいでいた。
「どうしたんですか?」
「明日からよろしくねって言いに来たのよ」
今回はレベッカさんも依頼を受けるのか。
「そうですか。よろしくお願いします」
「あら、美味しそうなもの食べているわね。私も頼もう……すみませーん」
うーん。そろそろお開きにしようかとも考えていたけど、もう少しかかりそうだな。
ちびちびと一人酒を煽る中、フィオとレベッカさんの二人は盛り上がっていた。
ファッションの流行ネタや、自分磨きネタ。
男の選び方に将来設計だの、普段こんな事を考えているんだってびっくりするね。
話題を時々振られるけど、「はぁ」とか「そうかもしれないですねぇ」とか曖昧な返事しか出来ない。
そんな中で仕事の話題になった時は、いささか興味を惹かれる話題があった。
「ところで二人とも、今回の依頼の品は何か知っている?」
「知る訳ないじゃないですか。レベッカさんは知っているんですか?」
「あくまで噂よ」と前置きを置いて、レベッカさんは話し出す。
品物そのものが何かは、レベッカさんも知らないみたい。
でもその品の経緯が、奇妙だった。
「債権回収として、引き上げられた担保品、ですか」
「そうよ。事の起こりは半年ほど前に……」
王都にマロン工房という会社があった。
よくある町工場といった企業規模だそうだが、歴史のある由緒正しき工房だそうで、普通の会社と違って一つ特殊な取引先を抱えていた。
「その取引先が、スーパードラッグ堂なの」
スーパードラッグ堂……。
この国に住む人間で、知らない人は誰一人としていないだろう。
特殊な品を除いて、ありとあらゆる日用品が手に入る、この国最大規模の会社だ。
この国最大という事は、イコールこの大陸最大の会社でもある。
「スーパードラッグ堂の仕事だけしていれば、安泰だったのにね」
どうもマロン工房は100年以上前にそれまでの仕事を捨てて、スーパードラッグ堂の仕事を専属で請け負うようになったそうだ。
この国の経済成長に比例してその規模を少しずつ大きくしていったが、結局は専属で請け負っている以上、それ以上の成長は無かった。
「そこをつけこまれたみたいで……」
工房の当代社長は、不幸な事故で亡くなった先代を引き継いだばかりで、兄様とさほど変わらない年齢だそうだ。
若者らしく野心に溢れ、それ以上に会社を大きくしたいと、常々考えていた。
だから、別の取引先も探していた。
『経営者として当然の欲求だわな』
そんなもんかい?
「そんな折、いくつかの取引先候補を紹介された訳」
紹介された相手は、どこも反応が良かった。
取引先が新たに生まれるのであれば、事業を拡大しようと考える。
しかし事業を拡大する為には、設備投資が必要になる。
だから銀行に、社長は相談をした。
社長の個人的欲求は別としても、周囲の評価としては堅調に業績を伸ばしていたマロン工房だ。
当然融資は下りるものと思っていた。
だが、なぜか設備投資の融資は取引先の銀行は引き受けてくれなかった。
「そのタイミングで、社長の学生時代の友人にリポフ商会を紹介されたらしいわ」
話を聞いた商会長は融資を申し出たらしい。
『なるほどね。読めた。要するにその社長、はめられた訳だ』
「はめられたんですか?」
「あら? オチはもうちょっと引っ張りたかったのだけど……。そういう事。正解よ」
融資を受けて設備投資をした直後に、取引先候補が白紙撤回を申し出てきた。
工房側はコンセンスは取ったつもりでいたが、所詮は口約束。
納期だの期限だの、あれこれ理由をつけられて、水掛け論になってしまった。
それでも決済日までの僅かな期間に改めて新規顧客を探してみたが、残念ながらその努力は実らなかった。
「そして担保にしていた、その機械を取り上げられてしまったというオチよ」
「つまりその社長が、その事を恨んで破壊を目論んでいるという事でしょうか?」
「さてねぇ……。とにかくいわくつきの品物だから、私たちも十分に注意をするべきでしょうね」
おいおいおい。そんな話は聞いてないぞ。
確かに開示する必要性のない裏話だろうけど……。
『いやな予感がするな……』
まったくだよ……。




