ガールズトーク
基本的に宿に泊まった翌朝は、宿の食堂でフィオと朝食をとる。
今日もボクが先に食べ終わり、彼女は食事中。
眠気覚ましのコーヒーを飲みながら、彼女を眺めながら待つところまで、半ば習慣になっている。
「クリス。あんまり早食いすると、太るわよ?」
「そうなの? 気を付けるよ」
そんな益体も無いやりとりも、いつもの通り。
ただ、いつもと違って今日はレベッカさんがやってきた。
「おはよう『百合姫』今日はよろしく」
「おはようございます、レベッカさん。それから、ボクの事は出来ればクリスって呼んで下さい」
「この人が昨日言っていた『ビーストテイマー』のレベッカさん?」
もぐもぐと咀嚼していた食べ物を呑み込み、フィオが問う。
「そうだよー。この人がレベッカさん。レベッカさん、相棒のフィオです」
「フィオナ・アップルです。よろしくお願いします」
「レベッカ・シューカーよ。こちらこそよろしく。ちょっと打ち合わせをしたいのだけれど、隣良いかしら?」
フィオが構いませんと答えると、失礼と小さく告げて彼女はボクの隣に座った。
『立てば芍薬、座っても芍薬ってか。この匂い』
座る事で香りが変わったらびっくりだよ。そんな事より、
「あの、なんでボクの隣に座るのでしょうか?」
しかも近い。
「あら。フィオちゃんとは初対面なのだから当然でしょう?」
それもそうか。
でも、ちょっかいを出される前に逃げよう。
……ふとももにそっと手を添えられている感触は、きっとボクの気のせいという奴だろう。
「フィオ。隣良い?」
「あら、つれない」
フィオが隣の席に置いていた自分の荷物を寄せ始めたので、無言の了承と解釈して素早く移動。
レベッカさんの正面に座る。
「それで、打ち合わせってなんですか?」
「公都への行程と出発時間よ」
少し構えて尋ねてみたのだけれども、内容は極めて真っ当な答えだよ。
当然だが、行程も時間もあらかじめ決めている。
地図を見せながら説明すると納得してもらえたようだ。
「うん。わかったわ。じゃあ、2時間後に出発ね。悪いのだけれど今回はよろしくね」
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
「あぁそうだ。一つ忠告なのだけど、その地図は余り人前で出さない方が良いわ」
「なぜでしょうか?」
「それ、軍事機密扱いの地図よ」
……兄様。
「もっとも、貴女は身元がしっかりしているから、貴族に見られても問題は無いだろうけど、変な冒険者に見られると面倒事になるわよ」
「あー、ご忠告ありがとうございます。以後気をつけます」
「うふふ。良いのよ。じゃあ後でね」
そう忠告をして、レベッカさんは部屋に戻っていった。
朝ごはん食べなくて良いのかな?
というか、公都に着いたら、別の地図も買わないと。
「ねえ、クリス。何であの人は軍事機密だってわかるのかしら?」
「何か領政府の依頼でここに来ていたそうだから、軍も含めて政府と付き合いがあるんじゃないかな?」
「ふーん。まあ別に大した意味はないけれどね。私たちも準備しましょうか」
「そうだね」
――――――――――――――――
ボク、フィオ、レベッカさんの三人で公都へ向かう。
今日は何故か一段と力強く歩くアランのお陰で、想定よりも早く到着出来そうだ。
「でもレベッカさんはあの村へはどうやって行ったんですか?」
「その辺の子に、適当に乗せてきて貰ったのよ」
御者台から馬車内の会話を聞く。
どうやらフィオの問いにレベッカさんが答えているようだ。
しかし、その辺の子に、適当に乗せて貰った?
「どういう事ですか?」
「私のちょっとした特技でね、昔から動物に好かれるの」
「へー」
『なんじゃそりゃ? 聞いた事ないぞ』
ボクも聞いた事無いけど、ボクらみたいな人間もいるんだし、そういう体質なんでしょ? ボクらと同じ症状の二重人格も、調べた範囲じゃ過去にもいなかったじゃないか?
『うーん。まあ、それもそうだな』
「まあその特技を活かして、私は冒険者をやっているって訳」
「そうなんですか……。それで、あの村では何を? 領政府の依頼って聞きましたけど」
「鼠や害鳥を追い払ったり、野良犬を躾けたり、逆に益虫を呼び込んだりね。要するに疫病対策ね」
なるほど。野良犬とか怖いらしいからね。
「確かに言われてみれば、余り見かけませんでしたね。じゃあ前はもっと臭かったんだ」
「そうね。でも他の国と比べたらマシなのよ」
あれより過酷なの?
ちょっと想像つかないな。
「確かにあの村には造水装置も下水処理場もまだ無いから、上下水道は作られていないわ。けれども、井戸やため池はきちんとばっ気処理しているし、糞尿だって適切に処理されている。知ってる? 外国では、高低差が何キロも無い川に排水を流したり、窓から道路に糞尿を投げたりするのよ」
「うえぇ、気持ち悪いですね。でもレベッカさんは外国に行った事があるんですね。もしかして、公都出身じゃないんですか?」
「出身は王領よ。外国は何度か仕事で行った事があるの。……この国は本当に恵まれているわ」
本当に気持ちの悪い話だなぁ。だけど、やっぱり一流の冒険者となると、外国へ行く事もあるんだね。
『そうだな。しかし、南北問題がやっぱりあるのか……。そして、王領出身、ね』
どったの? 南北問題って何だい?
『前世の言葉さ。よそはよそ、うちはうちって意味だ』
「勉強になりました。ちょっとこれ以上は気持ち悪くなりそうなので、話題を変えましょう。――そういえば、レベッカさんの使っている香水はどこのブランドですか? 私の知らない香りですけど」
「あぁ、これはね……」
その後、フィオがレベッカさんは香水の話しから始まり、化粧品の話、服の話、公都でのエステの話などを始めた。
ボクはその辺りは最低限の知識しか無いから、フィオにとって物足りなさがあっただろう。ティーナは探求心旺盛だけど、ボクより更にその分野は興味が無いみたいだし。
久々に所謂ガールズトークとやらが出来て、楽しそうで良かった。
村を出発しておおよそ3時間が経過。
今日は順調に進んでいるから後1時間もすれば公都につくだろう。
ところどころで、街道整備に従事する作業員の姿が見える。
今日出発した開拓村の為に、新規に作られた街道だけど、まだまだ工事が必要みたいだね。
公都まで後1時間と言ったところで、森の中の街道に入る。
地図を再度確認したところ、今のペースなら30分ぐらいで抜けそうだ。
次いで公都での手続きを確認していると、突然レベッカさんがボクに話しかけてきた。
「クリス。手綱を締めて。少しスピードを落として」
「どうしました?」
「森に私たちが入ってすぐに、後方で狼煙が上がったの」
……何だって?
「おそらく襲撃されるわ。対策を練りましょう」
どうやら、少々まずい事になったらしい。




