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旅路

「フィオ。馬車酔いは大丈夫かい?」

「大丈夫よ。しばらくここにいて良い?」

「もちろん」


 出発した際は荷馬車の中で過ごしていたが、酔ったらしく御者台で隣に座ったフィオは、まだ少し顔色が悪い。

 乗り物酔いは、じきに慣れるので酔わなくなるだろうけど、最初は辛いよね。


 現状ボクらは隣町へ向けて、リーリエを出発したばかりだ。

 お父様に口利きしてもらって購入した馬(アランと名付けた)は、騎士団に納入される予定で調教されていた為、力強く、相当量の荷を載せているにも関わらず、かなりの速度で進んでくれている。


 ちょっと値は張ったけれど、野盗に出会うリスクが減少すると考えれば、安いもの。

 外国に行く予定は今のところないし、この国の失業率や治安を考えれば、実際は野盗など少ない。

 けれども、全くいない訳ではないのだから、馬を購入したのは無駄ではないはず。


「しかし……ちょっとした商人になった気分よね」

「あはは、確かにね」


 兄様から貰った地図を見て、次の目的地を確認する。

 せっかく移動するのに、空馬車では勿体ない為、ギルドでいくつか輸送の依頼を受けた。

 結果、最短距離で公都に向かわないので、ボクも初めての行程だ。


「冒険者にこんなにも、輸送の依頼が多いとは思わなかったわ」

「普通は商人さんに頼む事が多いだろうしね、ボクも知らなかったよ」


 なんでもモンスターの肉や魔石などを、きちんとギルドを通して売却し続けた為、今回の依頼を受注出来たそう。

『公共事業の入札だからな。入札を受けるにはポイントを稼ぐのが一番って事だ』

 そういう理由らしい。



 ――――――――――――――――



 街から街へ、補給物資や手紙、場合によっては公文書などを運びながら、少しずつ公都へ向かう。


 道中、見回りの兵士さんや行商の商人さんと出会ってお話をしたり、手つかずの自然に見とれたあげく入道雲を見過ごして濡れ鼠になったりと、生まれ育った故郷を出てから、想定していた事態もあれば思わぬハプニングに遭遇したりもする。


 世界の広がりを知り、自分の小ささを認識すると、矛盾した話だが、全能感に支配されるボクもいる。

 道は何処までも、何処へでも続いていて、ボクは何処にでも行けるのだから。


 旅は冒険者の醍醐味だと知った。



 ――――――――――――――――



「おーい。起きてくれー。交代の時間だ」


 誰かに軽く肩を揺さぶれて、目が覚める。

 揺さぶる手の持ち主は、声から推測するにクリス。

 どういう状況だっけ?


 あぁ、そうか。今日は初めて野宿したのだった。


「んー。おはよう。クリス」

「よう、おはよう。やっと起きたな。疲れてそうだが大丈夫か?」


 まだはっきりしない頭を余所に、けだるい体を起こす。


「ごめんクリス。私、どれぐらい起きなかった?」

「2分くらいかな? それから今は、ティーナだ。それで体調は大丈夫なのか?」

「大丈夫よ。寝ぼけているみたいだけど」

「そっか。外で待っているから、準備してきてくれ。ゆっくりで良いぞ」

「うん。ちょっと待っててね」


 伸びを一つしていると、ティーナが外へ出て行ったのが視界のすみに映った。

 肌着を着替え、装備を整える。


 意識が覚醒してくれば、蒸し暑さと、虫の音に煩わしさを感じる。

 馬車のお陰で虫に刺されないのは助かるけれど、熱がこもるのは考え物ね。

 お陰で脱いだ肌着が、汗を吸って湿っているのが良くわかる。


 ……さっき肩を触られていたのよね。

 ……次回から、自分で起きなきゃ。


「お待たせティーナ。交代しましょう」


 準備が出来たので外へ、ティーナに近づき声をかける。

 剣を振っていたティーナは、それを鞘に納めこちらを向いた。


「本当に大丈夫か? 熱っぽかったが」

「大丈夫、暑さで馬車の熱が籠っていただけよ。それよりも何しているの?」

「寝る前のストレッチ替わりだな」


 素振りがストレッチって絶対におかしい。


「そんな事をしてクリスは起きないの?」

「問題ない。俺もクリスもどこでも寝られるし、すぐに起きられる。そう訓練してきたからな」


 屈伸をしながら答える彼に、少々呆れてしまう。

 今行っているのが、世間一般のストレッチだと思うのだけれど。


「しかし、そんなに暑いのか。今度から打ち水でもしておくかね」

「そうね。夏の間はそうしたほうがゆっくり休めると思う」

「了解。とは言え、馬を起したら可哀想だから今日は我慢だな」


 確かに、今はアランも寝ているみたい。

 馬は人間に比べると、睡眠時間が短いと聞いた事があるけれど、間が悪いわね。

 そういえば、


「そんな事より、今さらなのだけど、本当に睡眠3時間で足りるの? 私だけ6時間も寝かせて貰うのは、ちょっと不公平じゃない?」

「何度も言わせるなよ。俺たちは交代で寝られるから大丈夫だ。体は休ませる必要があるから、多少は睡眠が必要だがな」


 最近、只の男の子と認識していたのだけれど、その体質は本当に同じ人間かしら?


「じゃあ、悪いけど頼む。お休み」

「お休みなさい」


 彼は懐から出した時計を見ながら、馬車へと戻っていった。

 さて、気を抜かずに見張るとしますか。


 うん? ちょっと待って。

 さっきまであそこで、私は汗を掻きながら寝ていた訳だ。

 つまりは、籠っているのは熱だけでなく、匂……。


 あぁ、いえね。良いのだけど、良いのだけれどね。

 私の中で何かが壊れる音が、聞こえてくる気がするわ。


 ……要するに、打ち水じゃなくて、窓が必要みたい。早急に。



 ――――――――――――――――



 今日は開拓途中の村へ届け物をして、明後日には公都に着く。


 楽しかった旅も、ひとまず終わりだ。





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