表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/57

着替え

 ボクの騎士科予備試験の時と違い、今回は冒険者の随行はなかったらしい。

 明日まで、軍が警備を担当するようだ。


 もっとも、すでに到着した冒険者も数パーティーいるらしく、何人かは入れ替わっているみたいだ。


 到着した僕らが、簡易的に作られた指揮所に挨拶へ行くと、兄様が待っていた。

 兄様もまた、現場に残っていた士官と既に交代したらしく、現在の責任者は兄様だった。


「お疲れさま。クリス、フィオ」

「お疲れ様です。到着の報告に参りました」

「うん、確かに報告受領しました。君たちの依頼は明日からなので、それまでは体を休めて下さい。――それでだ、君たちのテントはここの横。荷物もすでに入れてあるよ。隣だから、何かあれば私に言えば良いよ」

「色々とありがとうございます」


 荷物を運んで貰った事も、場所を隣にしてくれた事も、本当に助かった。


 それは助かったのだけれども、フィオと二人というのはまずくないか?


「兄様。私とフィオの二人ですか?」

「ん? あぁそうだな。クリスは問題ないが、ティーナがいたな……」


『事案発生しねーよ!? ロリコンと一緒にするな』


「ティーナ? 誰ですか?」


 フィオが当然の疑問を口にする。


「フィオ。ティーナについては後で説明するよ。それからティーナは兄様に暴言を吐いております」

「そうか。まあいつもの事だ。ともかく、一人にするのも危ないだろうし、クリスがうまくやってくれ」

「はぁ、仕方ありませんね。かしこまりました」


 参ったな。


 テントに行き、手荷物をおろし、さっそく荷物の整理を始める。


「それでティーナって誰の事?」

「うんティーナはボクの……って、何着替えてようとしているのさ!?」

「えっ、依頼は明日からでしょう? ちょっと休憩しようと思ってるのだけれど」

「ボクの前で着替えないで! 外に行くから終わったら教えて」

「? ……あぁ、そっか。わかった、ごめんね。そうするわ」


 慌てて外に飛び出した。

 ふぅ。びっくりしたよ、もう。

『慣れていると言っても、避けられる時はな……』

 まさしくそうだよ。


 数分もすると着替え終わったらしく、フィオから声をかけられた。


「クリス。ごめんね。着替えたからもう良いよ」


 改めて中に入ると、普段着に着替えたフィオがいた。

 冬の寒さのお陰か、きっちりと着込んでくれているので一安心だ。

 余り薄着されると目のやり場に困る。


「いきなりびっくりしたわよ。でも、小学校時代は一緒に着替えていたじゃない」

「まあ、それはそうなのだけどさ、何か事情がある場合は仕方無いとしても、可能な限り一緒に着替えたりするのは良くないよ」

「————ちょっとわからないなぁ」


 うーん。余り理解されないようだ。

 やっぱり、男性と組んだ方が楽かなぁ?

『いやいや、勘弁して』

 なんでさ?

『所謂ストレートの男からすれば、俺もお前も女以外の何物でも無い』


 うーん……。

 でもきっと、この問題はティーナの言う事が正しいのだろうな。

 前世とやらは、ボク達みたいな人が、ある程度認識はされていたみたいだし。


「でもさ、中学校とかで更衣室やトイレはどうしていたの?」

「そこを言及されると苦しいなぁ。確かに女子用を使っていたけどね」

「それと今と、何が違うのよ?」


 やっぱり、そう思うか。


「不可抗力か、回避手段があるかだよ。ごめんね。君にとっては面倒だと思うけれど、なんか罪悪感を覚えちゃう」

「私は気にしないけどなー。……それじゃあ、例えば突然この拠点に盗賊が攻め込んできた。私たちはすぐに準備しなければならない。仮にそんなことがあれば一緒に着替えるの?」

「その場合は申し訳ないけれど、一緒に着替えるよ」

「うん。当然そうしてね。……それからこれは興味本位だから答えなくても良いけど、クリスは百合趣味なのよね?」

「行為対象は女性という意味では間違ってないよ。最も未経験だけどね」


 百合じゃなくてFTMだけど、この世界に、その言葉が無い。


「つまり女の子の体を見ると、興奮する?」

「状況によるだろうけど、基本的にはね。中身は男の子だし」

「中身は男の子、か。じゃあ黙って見ていたいものじゃないの? その、例え私みたいな体でもさ」

「フィオは魅力的な女の子だと思うよ。見た目も、中身も」


 そう思うよね、ティーナ。

『まあ確かに、な。グラマラスとまでは言えんが、それなりにスタイル良いし、背も低くて、顔も可愛いと思うがね』

 見た目ばかり触れるねぇ、君は。


「そ、そっちはどうでも良いのよ。もう一つの方はどうなのよ」

「うーん。なんていえば良いのかな……。そうだな、『女の子の体』と『女の子がボクに見せてくれる体』は別物だからかな? でもこれは、ボクが男の心で女の体だからこそ、そう感じるのかも」

「あー。それはちょっと、わかるかも」

「なんか、うまく言えないけど、ボクがこの体を利用して女性の着替えや裸を見るというのは、ボクの『男の子』という気持ちを、自ら裏切る事になるんだよね」

「うん。うん」


 結構理解してくれているのかな?

 それなら助かるな。

 あぁ、そうだ。


「それで、ティーナはボクのもう一人の人格。これは秘密にしてね」

「秘密は構わないけど……えっと男の子の人格って事?」

「違うよ。ボクとティーナは別の人格。別の人格だけど、二人とも男だって自覚している」

「多重人格? それ本当?」


 むむっ。


「嘘ついても仕方ないだろう? そうだ、証拠も見せれるよ」

「どうやって?」

「明日見せるけど、ボクとティーナは別々に魔法を使える」

「ふーん」


 自動魔法という方法もあるけど、多少は説得力が増すでしょ。


「それで、たまにティーナになる事もある。それと、普段からティーナの意識はあって、ボクにはティーナの声は聞こえているし」

「それだけ聞くと普通の二重人格なのかなぁ? しかし、クリスも色々と大変ね」

「そんな事は無いよ。ただのボクの個性だよ」

「そんなものなの?」

「そんなものさ。さあ、夕食の準備をしようか」


 今さらティーナのいない人生なんて考えられないし、男の体での生活もよくわからない。

『ふん。そんなに褒めても何も出ないんだからね』

 なんでツンデレ? そもそも褒めた?



 この後、夕食を取り再度ボクの事を色々と話した。

 結構夜遅くまで話してしまった。

 初任務前日というのに、ちょっと反省。


 でも彼女なりに『ボク』というちょっと特殊な存在を受け入れようとしてくれていて、嬉しかった。


 話しの中で、ティーナっておじさんがボクに憑依していたとして、一緒に着替えると考えたら嫌じゃないか? そう例え話しをしたら、彼女は腑に落ちたようで、着替えの件を納得してくれた。


『人をダシに使いやがって。怒るぞ』

 なんてティーナが文句を言うが、笑っている事は伝わってくるので、説得力は無い。



 それにしても、山から吹きおろしの風が吹いている影響か、折角拠点に着いたというのに深夜は寒かった。




この世界にはFtMという概念がありません。

つまり、クリスが自分(FtM)らしく生きる。方向性が現代と違います。

というか指標が無いです。

その為、クリスは『男の体での生活はよくわからない』と発言しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ