お父様の試験 決着
『本当にお父様はタフだな』
だから言ったでしょ?
初級魔法やボクの攻撃を2、3回当てたところでオーガは倒せないよ。
『いやお前の蹴りを前世の俺がくらったら、死ぬ自信があるわ』
いや、自慢されても……。
お父様が大剣を用意する為に、一度中座する事になった。
肩のダメージも、ボクの回復魔法で治療済みだ。
初戦は魔法で圧倒して、お父様の本気を引き出せた。
『ここまでは予定通りだな』
うん。後はちゃんとミスリード出来ているかだけど……。
「さあ、用意が出来たようですので、副団長の再登場です!」
司会の宣言と共に登場した、お父様に観客は……
「おいおい! そりゃ無いだろ!」
「プライド無いのかー!!」
「くそ野郎! 今すぐ俺に娘さんをよこせぇぇ!」
罵声が飛び交っている。
流石にお父様もイライラしているのか、怒気を隠そうともしない。
『そりゃ、フルプレートアーマー着て再登場したらバッシングされるだろ……』
「クリスは文句あるか?」
「ありません。望むところです」
スピードと魔法で戦うのがボクのスタイルに対して、圧倒的なパワーで戦うのがお父様のスタイルだ。
これでハンデなし。
――お父様の本気が見れる!
「ではレイモンド様。お願いします」
「いやしかしな、お前は娘を殺す気か?」
「死にはしませんよ。――オトコだそうですから」
「……ふう。わかった、急所は外せよ。では」
「始めぇ!」
「「パワード!」」
開始の合図と共にまずはお互い強化魔法、真っ直ぐに向かって来るお父様。
ここまでは一回目と同じ。
次の強化魔法を用意しながら後ろへ下がる。
道中現れる水の壁も、今度は引っかからず両断される。
「アクセル!」
速度に乗って更に後退。
可能な限り、魔法で削りたい。
作戦を考える間にも、ボクの身体から飛びだす炎の矢。
「ファイヤージャベリン!」
続けて放つ炎の槍。
――ダメか。矢は避けられ、槍は剣でガードされた。
何度か繰り返すも結果は同じ。
徐々に距離が縮んでいく。
それにしても速い。
否、正確には速く感じる。
実際は初戦より遅くなっているはず、だが剣捌きと足捌きの妙で位置を少しずつ詰められている。
昔見た時も凄いと思ったが、実際に相対すると、こんなにも違うものか!
「ブラストウィンド!」
目先を変えて風属性中級魔法を放つ。
お父様へ暴風が吹くも、あたかもそよ風のような影響しかない。
嘘だろ!
「詰みだな」
とうとう間合いに入られた。
その時、ボクとお父様の間に水の壁が現れる。
一度振り上げようとしていた剣を、腰だめに構え直したお父様が突きを放つ。
「グッ!!」
こちらの剣を下から当てて、かち上げようとするも一切ぶれない突きの軌道。
反射的に突きの左側へ避けるも、ショルダータックルの体勢でそのままぶつかりにくるお父様。
「ガァ!!」
とっさに飛んで足の裏でタックルを受ける。
なんとか受けたが全身に響いた衝撃は凄まじい。
そのまま20mは後方へ跳ね飛ばされる。
『痛ぅぅ! メチャクチャ痛ぇ! だがチャンスだ!』
っわかった!
なんとか受け身をとりつつ地上へ衝突。
跳ねられた勢いそのまま後方へ転がりつつも立つ。痛い。
魔力を練りつつ再度、後方へ移動。
無理な体勢でタックルをしたお父様もすでにこちらへ向かってきている。
だが、この距離なら。
「ファイヤーボール!!」
爆発力をもった炎の玉がお父様へ向かう。
狙いは足元。
横に避けても、剣で受けても、その後の爆発でダメージを受ける位置。
乗ってこい!
「甘いぞ!」
そう叫び炎の玉を飛び越える。
背中で爆発が起こり、相当なダメージがあるはずなのに、逆に爆風を背に加速して飛んでくる。
ボクは次の魔法の準備中。
クレイガードで、防げる威力じゃない。
でもね。
『アクアキャノン!』
水属性中級魔法によって発生した、直径2m程度の水の塊がそれなりの速度で迎撃。
空中では避け場のないお父様は、とっさに剣を盾にして衝突、落下。
とどめ!
「ファイヤーボール!」
足の止まったお父様に今度こそ炎の玉は直撃。
同時に爆発。ドンっという音とともに爆風が吹きおこる。
結構至近距離で放ったボクも、爆発の余波で後方へと下がる。
その時背中に硬い感触。
壁だ。
危なかった、円を描くように後退して、端に行かないように気をつけていたが、いつの間にか追い詰められていた……
粉塵が収まりお父様を見ると、
――立っていた。が、ボロボロだ。
だが油断は出来ない。
「おいクリス」
さてどう出る。
「俺の負けだ」
……嘘だろ。
いや準備はしてきた。
確かに予定通り進んでいた。
最後まで、ティーナは初級魔法しか使えないように、見せかけてきた。
確かに作戦としては勝てると思っていた。
だけど――
『やったなクリス! でも、まずはお父様の治療をしないと』
しまった!
「お父様、今治療します。……ハイヒール!」
お父様の元に近づき、急いで最上級魔法のハイヒールで治療を行う。
『バカ! お前もう魔力少ないだろう。俺が治療しないと……』
あっ、
しまった。
『お、おい。クリス。クリス』
……駄目だ。魔力切れる。
ゴメンティーナ。後はお…ね……。
――――――――――――――――
……うーん。
『よぉ、おはよう』
うん、おはよう。なのかな? 今何時だい?
『20時回ったところだ。晩飯は済ました』
そっか。ずっとティーナになっていたのかな?
『それ以外に何があるよ?』
そっか。
……お父様にはティーナは自己紹介したの?
『あぁ。家族には、もう隠す必要もないからな』
――そうだね。
『何はともあれ、おめでとう、だな』
ああ。お互いに、ね。
そっか。
勝ったのか。
『なぁクリス』
――なんだい?
『俺がお前の年の時にな、高校受験があったんだよ』
うん。
『で、まあ当然合格したわけだ。絶対落ちない自信のある2流の高校と、その滑り止めの3流の高校の受験だったからな』
ティーナらしいね。
『別に感動も何もしなかった。人生こんなもんだと思った』
『で、その後の人生はその考えのツケを払っていたんだが』
『まぁ。そんな俺でも死ぬほど努力した事がその後にあってな』
うん。
『肉体的にも、精神的にも本当にキツイ日々だった』
『乗り越えて、ようやく目標を達成した訳だ』
『23歳のいい歳だったよ』
『俺は目標を達成した時、突然ボロボロと泣いちまった』
『止めようと思っても、止められないんだ』
『人から聞いてはいた。頑張り抜いた先で泣いちまう事があるって』
『絶対にそんな事無いと思っていたよ』
『でも泣いちまった』
『本当に言葉に出来ない、訳がわからない涙だったな』
『それもいい歳だったのにだぜ』
『かっこ悪いかな?』
いや……そんな事はないよ。
『ありがとう。それでだ。お父様は本当の本当、とんでもない強さだったよな』
あぁ。
『その試練を乗り越えた今日は記念するべき日だ』
『お前も素直になって良いんだぜ』
『じゃあ俺は寝るわ。おやすみ』
――ふん。
いつも、いつも、そうやってかっこつけるのだから。
そもそもティーナだって一緒に頑張ってくれたじゃないか。
……だからこの涙はティーナの為だ。




