コカ・コーラとテイクアウト
時刻は12時を少し過ぎたところだった。この冷たい冬の風が吹きぬくオフィス街の人々は空腹を満たすために昼食を取ろうと躍起になっている時間帯である。
そのオフィス街を少し歩くと、そんな飢えた企業戦士たちの腹を満たす和食・洋食・中華料理と種類豊富にある飲食店が立ち並ぶ通りに出る。
椅子に座りゆっくり飯なんて食っている時間なんてねぇぞこの野郎! と仰る一分一秒も時間が惜む戦士を考慮してテイクアウトも出来るファストフード店も立ち並んでいるので安心して欲しい。
先程から漂う香ばしい香りに俺−−狭間葉蔵も他の企業戦士の例に漏れず、お腹を空かせていたのであった。
がしかし、俺はそんな人々を羨む目でしか見ることが出来なかった。それはなぜかと言うと――
「ううむ」
財布を開けて所持金額を確認する。財布の中には紙幣類は絶滅していて、硬貨が何十枚か散りばめられていた。「はは、んな馬鹿な。」と思い再び財布の口を開くが財布は嘘をついてくれなかった。
財布を逆さまにし、何十枚の硬貨を財布から手のひらに出して数えてみた。
なるほど。現在の所持金514円、ちなみにだが銀行口座の預金残高0なのでこれが全財産なのだ。まあったく、これが給料三日前社会人の所持金かねぇ。
はぁー、と深い溜息をつき途方に暮れる。これじゃあ今日も売れ残っているコンビニおにぎりとパンに会社にある無料のお茶で腹を満たさないとならない。
しかしもうそんな食生活にはうんざりだった・・・。嗚呼、ハンバーガーが食べたい。あと、コーラとポテトを一緒に頼んで流しこむように食べ飲みたい。しかし、金とMPが足りない!!
くそぅくそぅ、このままでは腹が満たされても心が満たされない。それつまり、うつ病へと道が開く気がする。
うん、それは良くないな。非常に良くない。今直ぐにでも鬱を抑制する努力をすべきだな。が、金欠は努力ではどうしようもない。
「なので、お前の力が必要なのだ。力を――いや、金を――貸して欲しい。更に言うと飯をごちそうしてくれると嬉しいぞ。喜べ、もしも上記に上げてくれた全てやってくれたら、もれなく俺へのフラグが立つぞ。ルート確定まちがいなしだぞ、あれれウヒヒな事もあるよっ!?」
俺にとっての最後の砦、それは幼馴染の田淵空流に金や色々を借りるという集団なのだぁ~。
「う~ん、寝言は寝て言って欲しいかな?」
不思議かな。あの子は可愛いエンジェルな幼馴染――田淵空流は屈託ない笑顔で俺への拒絶を申し願ったのだった!! あれ? おかしい。普通、幼馴染の女っていうのは例外なく相手の事を好きで尽くしまくってくれる印象だと思っていたのに!! これは酷い裏切りだ。
「り、理由は!?」
「言わなきゃわからない?」
「ああわからないねぇ」
「なら言ってあげる。葉蔵、貴方はね人間失格の屑だからよ」
「確かに葉蔵って名前はあの人の作品の主役と同名だけどさ、人間失格は無いんじゃないのかな?」
「いいえ、そっちの葉蔵の方が貴方より遥かにマシよね。だって、あっちの葉蔵は美男子で物事を無難にこなされるほどの器量があるもの。でも、貴方は? まるで何もないじゃない。容姿はさほど良くなく、不器用で人付き合いも悪く、無駄にプライドだけが高くて、人が困っている時は助けないくせに、自分が困っている時にだけは助けを乞うという最低な男。あちら様の葉蔵に勝てる要素なんて一つもないじゃない」
「・・・心の汚さじゃ勝ってるし!!」
「そうね、一本取られたわ。そこだけは貴方に軍配があがるわね」
心からの軽蔑な眼差しで俺を見る。へへっ、よしてくだせぇよ姉御。カチカチ棒からホワイトチョコがニュルニュルと出てきそうですぜ。
「ほら、受け取りなさい。そして今後は一切、私の前に現れないで」
財布から1万円札を取り出してそれを地面に捨てる空流。おいおい、俺のことは粗末に扱っても構わんが、お札を粗末に扱うんじゃないぞ。いつの日かお札の神様の怒りを受けるぞ。
「ありがとうございますありがとうございます」
札一枚を拾った俺は、この悲しい気持ちを発散させようとヘルスに駆け込むのであった。