第二話
そのタイミングで、外からミーナの「ただいま戻りました!」という声がした。
「主様、お使い終わりました。オアシス街までの水汲みとヤギの乳とデーツです」
「ああ、見せてくれ」
彼女に差し出された袋を見て、俺はまず軽く鑑定スキルで品質を確かめたが、別段そこまで悪い品質の物はなかった。この分なら次から買い物をミーナに任せても問題はなさそうだ。
「ありがとうミーナ。次は槍稽古か」
「はい! 頑張ります! 今よそ行き用の服なので訓練用に着替えてから稽古をつけますね」
そう言って彼女はそのまま倉庫に向かった。現在は倉庫で奴隷の服の管理なども行っており、少しずつだが服の種類を増やしつつある。ただ服はお金がかさむので、本当に徐々に買い足ししてる、というのが実情だ。
「なあ」ミーナの出て行った後を見ながらふと呟いた。「あいつ全然冒険者デビューする気がないみたいなんだ。こうやって毎日俺の雑用をこなして槍稽古して、みたいな」
「ふふ、なら無理矢理命令する?」
「いや、しばらく考えておこう。どうせカイエンたちが十分結果を出してくれるだろうしさ。それにあれぐらい可愛いやつが店先で奴隷に稽古をつけている、ってのは凄く宣伝効果が高いはずだからな」
「あら、じゃあ私も何か稽古しようかしらね」
彼女のその呟きに、そういえば高級奴隷たちにも何か稽古をさせるのも悪くないな、と俺は考えた。
「だよな、高級奴隷たちも歌だけじゃ暇だものな」
「歌? ああ、ユフィとネルは、イリちゃんと一緒によく歌っているわね。でも私は歌ってないわよ?」
「え、ヘティは歌ってないのか?」
「……書類仕事があるもの」
いやお前私も稽古したいとか何とか言ってたじゃないか。
「いや、書類仕事しながらでも歌えるだろ」
「……私、お仕事中に歌えるほど器用じゃないわ」
ふい、とつれなく答える彼女の様子を見てふと気付く。もしかしてこいつ音痴なのでは。だから恥ずかしくて一緒に歌ってないのではなかろうか。
「命令だ、仕事中にでも歌って、お前も歌唱技術をつけるように」
「……ご主人様って、私のこと嫌いなのかしら」
「好きだよ、だから歌ってよ」
「……もう」
口先を尖らす彼女を見て、あれそう言えば最近ヘティは二人きりの時は表情豊かになった気がするな、だなんてどうでも良いことに気がつくのだった。
ちょっとした時間の空きが出来た俺は、槍稽古に参加するのもいいと思ったが、どうせなら奴隷商ミロワールのところに向かって奴隷を仕入れようかと考えていたところだった。
(ミロワール、刻印師でありながら奴隷商人でもある不思議な女。俺も刻印師になれるようにスキルを鍛えたい物なのだが、果たしてどうすればいいか)
オアシス街を渡り歩いて、ミロワールの店へと到着する。小綺麗な店の外装を見て、俺の店ももう少し綺麗にしようかな、なんてことを考えたりする。
「いらっしゃいませ。トシキ様ですね」
ゆっくりと頭を下げるのは、奴隷商人ミロワール本人だ。彼女の美徳は礼儀正しく、あと動きが優雅であることだ。
「こんにちはミロワールさん。今日もまた適当に奴隷を見繕いに来ました」
「畏まりました。奥へどうぞ」
そろそろもうお馴染みの展開だ。奥のテントに案内してもらうのもこれで何回目になるだろうか。
どうせならテントまで向かう間を世間話で潰す。
「いやあ、そろそろ蚤の市ですね。私たち商人にとってみれば大きな取引の機会です」
「ええ。遠方から貴族の方々が来られることもあって、私としましても普段より身構えて商売をする必要がございます」
「そうですね、貴族の人たちも普段は中々こちらに足を運ばないので、こういう機会にでも顔を知ってもらい、あわよくばお得意様になって頂かなくてはと思いますよ」
「ええ。ところでトシキ様は、次の蚤の市に奴隷を仕入れられる予定でございますでしょうか」
「ええ、オアシス街にやってくる大量の奴隷商隊から欲しい奴隷を適当に見繕って拾う予定です。何、私みたいな未熟者にとっては目を鍛えるいい経験になると思いますよ」
「まさか、トシキ様は大変審美眼があると思います。私では到底かないません」
「ご謙遜を」
だなどと特筆すべきこともない会話を続けて、奥のテントにつく。
ちなみにミロワールの「審美眼がある」発言は本心からの言葉のようだ。イリを買ったときだろうか、それともその後もちょくちょくここに奴隷を仕入れに来ているからだろうか、とにかくミロワールは俺の奴隷の選別を隣で見ているわけだが、ステータスの多い少ないで決めない(スキルで決めている)俺の選別方法に何かを感じているようだった。
「こちらです」
「ありがとうございます」
軽く頭を下げてからテントへと足を踏み入れる。
今回は本当に適当に見繕いに来ただけなので、特に格安奴隷とかそういう制限もない。色々と奴隷を観察しつつ、適当に目星をつけて練り歩く。
(ん?)
ふと目に付いたのは魔族の人頭奴隷の一角。魔族と言えば普人族から忌み嫌われているためか最も人気がなく、同時にペットや使い捨て奴隷としてなら使い出もあるとして盛んに取引される種族でもある。
そう、魔族とは有り体に言えば、本当の奴隷、というやつだ。
もしもこの世の階級制度をざっくり説明するならこうだ。
普人族と精人族、龍人族が最高カーストに位置し、次に獣人族や蛇人族などの亜人族が当てはまる。
亜人のカーストは微妙に定まり切っておらず、見た目が人に近いか近くないか、端正か端正でないか、で扱いが決められている一面がある。ヘティやミーナになると見た目が良いためカースト的にも上位になるだろう。
そして最後、魔族はかなり下に位置する。
魔族の扱いが低い理由は、魔族が人に刃向かった種族である、という言葉に尽きる。人に仇なして刃向かうものを魔物、そうでなく人に迎合したものを魔族、として一応区別してはいるものの、もはや一般市民からみれば魔族は魔物のようなものだ、というわけだ。
どうして俺がそんな魔物扱いされる魔族に対して目を付けたかというと。
(料理Lv.0? そして、美食神の加護……)
魔族にしては風変わりなスキルと加護を持っているから、である。
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名前:ルッツ・オーク(奴隷)
年齢:11歳
レベル:2
HP:15 MP:4
筋力:3
俊敏:2
魔力:1
耐久:3
固有加護:御饌津神の加護
特殊技能:料理Lv.0
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オーク族のルッツ。加護持ちとはいきなり大当たりを引いたかもしれない。




