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第五話

 カイエンの剣を指導しつつ、鑑定スキルで彼の過去を調べる。

 勝手に過去を調べるのは気が引けたが、必要なことであると割り切った。


 カイエン・レプティリアン。

 レプティリアン家の一六世代目の分家に生まれ、父オブライエン、母カリアンの三男。

 レプティリアン家は爬虫類氏族でも大きなものであり、彼の親戚レプティリアン一族は、この砂漠を越えて遙か西に数多く存在するようだ。


 カイエンは生まれたときの区分は奴隷ではなく、一般農民であった。

 どこかの市の市民権を持っていなかったことを考慮すると、カイエンは田舎育ちということらしい。


 カイエンが冒険者ギルドに所属したのは九年前。

 八年前に結成したパーティー「牙二つ」には、カイエンともう一人、クラッドという冒険者がいた。

 牙二つを調べる限り、三年間ずっとそのまま喧嘩別れとかもない。きっとカイエンとクラッドは仲の良い冒険者であったことが窺われた。


(クラッドか、もし生きているならば彼にカイエンの過去を聞き出すことも考えられるな)


 クラッド・セリアンスロープ。

 彼の存在がきっとカイエンの人格形成に大きく影響を与えたに違いない。

 俺はそう直感し、クラッドの経歴をみる。


 クラッドは死んでいた。


 そうか、死んでいたか、生きていれば色々と手がかりはあったのに。

 少しばかり落胆したが、死因を調べて既視感を覚える。

 カイエンの罪状とほぼ一緒の表記。


(……つまりどういうことだ)


 カイエンの罪状は、貴族の女をかどわすために、睡眠薬を仕掛けて、侍従と冒険者と兵士を合計三人殺したこと。

 そう、カイエンがクラッドを殺したことになっている。

 三年も連れ添った親友を、こうも簡単に殺すだろうか。

 明らかな違和感を感じとる。


 さらに調べて気付く。

 クラッドの死因が睡眠中にファングによる攻撃を受けて、とある。

 別にカイエン自身が手を下したわけではないようだ。

 しかし罪状には、あたかもカイエンが手を下したかのような書き方をされていた。


(これは、何者かの工作か。貴族の権力抗争の都合で、カイエンは濡れ衣を着せられた可能性がある)


 こうも違和感が続くと、怪しいのはマリエールの家系筋だ。

 例えばマリエールの兄弟姉妹がいたとして、マリエールが邪魔であるから葬ろうと画策したとする。

 そのための暗殺計画で、カイエンは巻き込まれてしまったのではないだろうか。


 そう思いながらマリエールを調べてみる。

 マリエール・フォン・デュローヌ。

 デュローヌ地方の貴族マリエールは、次女でありながら権力抗争に敗れ、今は平民の踊り子として一座で働いているようだ。

 顔の傷から「傷の踊り子」と揶揄されているらしい。


(……デュローヌ家、か)


 俺の頭の中ではシナリオが既にうっすら見えていた。

 デュローヌ家の何者かがマリエールを暗殺しようとする。

 その計画にカイエンが巻き込まれる。

 そして後始末に、カイエンが罪に問われてその罪を擦り付けられた、と。


(……裁判記録、これを冒険者ギルドに見せてもらわないといけない)


 カイエンの罪状を詳細検索し、裁判番号を控える。

 年月日と、この番号を伝えれば裁判記録は調べられるはず。


 どうせ冒険者ギルドには足を運ぶ予定だった。

 カイエンが冒険者として復帰できるかどうかを聞くつもりだったのだ。

 そのついでに裁判記録を調べることなど訳はない。


「カイエン」


 目の前で剣術の稽古に励んでいたカイエンは、ふと動きを止めた。

 まだ少しその表情には警戒の色がある。


「どうした、旦那」

「今度のサバクダイオウグモ討伐、死ぬなよ」


 果たして俺の言葉は届いたのだろうか。「おうよ」と返された言葉は、俺に向けた言葉のようでいて、その実、誰に向けた言葉でもなさそうであった。






「犯罪奴隷の再登録ですか。結論から言うと、不可能です」


 冒険者ギルドの受付から、俺に返ってきた言葉はにべもなかった。

 俺が呆気にとられていると「規則ですので」とあっさりしたものだった。


「いや、少々お待ちください。犯罪奴隷であっても、何か特例措置があるはずです」

「すみませんが、原則不可能ですので」


 随分な返事だ。俺は思わず顔をしかめてしまった。

 どうやら俺とあまり言葉を交わしたくないのだろうか、必要以上に言葉を制限している気配がする。


「……もしも、ですが宜しいですか」

「あの、次の方がお待ちですので」


 何だこの受付は、と思わず憤りを覚えて、しかし俺はあくまで冷静になるよう努めた。

 怒ってはならない。

 これは交渉だ。そうだ、交渉スキルを上げるチャンスだ。そう考えるんだ。


「例えばもしも犯罪奴隷が冤罪であることが判明した場合、彼は冒険者になれませんか」


 話を切り上げようとしていた受付は、俺の質問に露骨に気を悪くしたようだった。

 鼻をしかめさせて俺に冷たい目線をくれている。


「本当に冤罪ならば、ですがね」


 それきり受付は「次の方どうぞ!」と俺を追いたてるように急かした。

 俺は腹を立てながら「ありがとうございます」と立ち去った。


 原則不可能。

 原則ということはつまり特例措置があるということだ。

 それを俺に答えたくないとはあの受付嬢、中々いい根性をしている。


(いいだろう、冤罪の証明か別方法で冒険者登録をすればいいのだろう?)


 ため息の出るような仕事だ。俺は頭を抱えながら、ギルド書庫へと足を運んだ。

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