1月17日 天気晴朗なれど魔物でたし
ひゃっほ~いっ!!
潮風がとっても気持ちいいです。
ただいま大型帆船プリンセス号と、並列飛行しております。
もちろん鎌倉大仏スタイルで♪
三本マストの帆は、潮風をはらんで大きく膨らんでます。
船首の半魚姫像は、真っ白な波しぶきを二つにわけて海面を突き進んでいます。
船上で働いている魚な船員さん達は、私を見ないふりしてますけどね。
壮絶船酔い駆逐完了、完全復活しましたよ。
『結跏趺坐空中浮遊術』に栄光あれ、です。
長いし漢字が難しいから、大仏飛行って命名したけどね。
どん引きされたって、船旅の間はこのスタイルでいきますよ。
船酔いで絶食したのは、ほんとにつらかったんです。
逃亡したシーリスさんが恐々持ってきてくれた野菜スープ、どれだけ美味しかったことか。
「スープうんまいうんまいうんまいにゃー」
と、数年前、TVで話題になった猫さんと同じ状態になってしまうほどでした。
一心不乱に大仏スタイルでスープを啜る私に、シーリスさんはさらにどん引きしたみたいだけど。
「食べれてよかったにゃ、おかわり持ってくるにゃ」
と、言ってくれたシーリス嬢、まじ天使です。
その間、私から魔力を吸収してたギンさんは…腹黒悪魔だよね。
そんなわけで、ただ船内を浮遊してるのも芸がありません。
魔法の修行もかねて、プリンセス号と並んで海面を訓練飛行しています。
「サツキ、結界のはり方が不安定ぞ。安定を心がけよ」
弟子を扱くため飛行中のギンさんから。ビシバシと注意が飛んでくるのが難点です。
「おおい、サツキ嬢ちゃん!気持ちよさげだの~」
「サツキ、気分はどうにゃ~?」
船の縁から身を乗り出してるドワーフさんとシーリスさん。
片手にジヨッキを掲げて、すっかりご機嫌モードです。
二人の船酔い対策は、酔っ払うこと。
といっても、シーリスさんは鉄の三半規管と胃袋の持ち主みたいです。
酔ってなくても『船酔いなんてなにそれ美味しいの?』なのですよ。
お酒大好き猫さんと、お酒大好きドワーフさんが意気投合したってことね。
「気分最高だよっーー!」
「そりゃよかったぞい」
「元気になってよかった…サツキ、あれなんにゃ?」
「なに?」
動体視力の優れた猫族のシーリス嬢、遠くになんか見つけたみたいです。
よし、オートマップスキル起動です。
このスキルもレベルアップして、今では32インチ画面が3方向に展開します。
中央に私の赤い点滅三角、これが船の位置。
その周りは海また海、向かって右画面の端っこに火炎山のある獣人領域。
向かって左の画面に5個の黄色い点。
それがプリンセス号に向かって近づいてきてます。
「魔の気配ぞ、サツキ」
「海の魔物来襲ですか」
「然り…このあたりの海魔といえば海ミヅチあたりか」
「シーリス、魔物が近づいてるって、船長さんに報せて!」
「わかったんにゃ」
「おお、魔物来襲か、腕がなるぞい!」
ドワーフさんはジョッキを一気飲みして、背中にしょった戦斧を構えました。
すでに臨戦態勢みたいです。
「吾は魔物の確認をして参る。サツキは船のまわりに結界を展開せよ」
「まかせて!」
ギンさんは高度を上げて、魔物のいる方へ飛んでいきました。
私は練った魔力を放出して、プリンセス号全体をカバーします。
船上も慌しくなってきました。
船員さん全員が皮鎧を着たり、武器を配ったりと準備中。
帆の向きを変えて、魔物の来襲に備えてます。
『サツキ、やはり海ミヅチの群れぞ。
こやつらは先触れ、黒鮫の大群が何処からともなく現れる。
気をつけよ!吾はこの群れを先に滅する』
ギンさんが遠話の魔法で、魔物の正体を報せてきました。
その情報を、戦場で指揮するリグリアス船長に伝えてっと。
魔力弾の準備をしながら待機です。
黒鮫さんとやら、どこからでもばっちこいですよ。