間話 リフレの冒険者たち
「みんな起きろ!魔物だ、砂虫の大群だ!」
夜中の当直をしていた盗賊リックの叫びで、パーティの全員がすぐに目覚めた。
戦士のアルフレッドは剣を抜き、すでに臨戦態勢だ。
魔法使いのシャーマイン、神官のロベルトも呪文の詠唱を始めている。
「大気に宿りしマナよ、我等を守る盾となれ!」
シャーマインの呪文が完成し、4人の体が発光して防御結界におおわれた。
「青き水竜王の名において、体内のマナよ、活性せよ」
ついでロベルトの神聖魔法が、体内のマナに働きかけ全ての能力を底上げする。
「やつらが来るぞ!」
アルフレッドとリックが前に立ち、来るべき戦いに備える。
シャーマインとロベルトは次の呪文の詠唱を始める。
戦いの火蓋を切ったのは、シャーマインの魔法だった。
「マナよ、風の刃となりて切り裂け!」
風刃という魔法が、襲い来る砂虫の大群を切り裂いてゆく。
そこへアルフレッドの長剣と、リックの小剣が追撃する。
砂虫の最初の群れは、黒い霧となり夜の闇に四散していく。
だが、すぐさま次の群れが襲ってくる。
魔物との戦いは、始まったばかりだ。
凄惨な長い夜になりそうだと、誰もが思っていた。
※※※
砂虫、またの名をサンドワーム。
リフレ王国の砂漠で見られる、代表的な魔物だ。
そして最も恐ろしい魔物でもある。
太さは男の二の腕ほど、長さは足の長さほど。
外見は巨大化したミミズに似ている。
砂虫は、一対一なら初級の冒険者でも倒せる。
砂虫が最も恐ろしいといわれるのは、常に群れて襲い掛かってくるからだ。
手当たりしだいに生あるものを食い尽くしていく。
砂虫の大群が去った後には、砂漠が広がるのみ。
砂虫の大群に襲われ全滅した村の数は、十を超える。
王国の騎士団も、冒険者ギルドも幾度も討伐対をだしてきた。
だが、砂虫の大群の発生はそれ以上だ。
いつも対策が後手後手に回り、被害は増えるばかりだった。
そんな時、砂漠地帯から瘴気を帯びた風が吹くようになった。
瘴気を帯びた風は、リフレ王国の水源を汚染し魔力を奪った。
汚染された魔力のない川や湖の水は、それを糧とする全ての生物の活力を奪った。
もちろん、人やエルフ、ドワーフ、獣人も例外ではない。
魔力…マナの欠乏による原因不明の病が、リフレの民を蝕み始めた。
※※※
「虚無の暗闇に還りやがれってんだ!!」
アルフレッドの長剣が、ぬめる砂虫を両断し四散させる。
「やったか?」
荒い息をつきながら、ようやく静かになった周囲をみまわした。
刃が折れた小剣を投げ出し、リックが膝をついている。
皮鎧の背面が大きく裂け、血まみれだ。
「リック、今手当てします」
ロベルトが祈りの言葉をつぶやき、リックの傷を癒した。
シャーマインは今にも倒れそうな、真っ青な顔をしている。
もう魔力がつきそうなのだろう。
高度な風魔法の呪文を、幾度も使っていたのだから。
無傷とは行かないが、なんとか生きのびた。
あれほどの砂虫の大群を、たった4人で消滅させたのは奇跡といってもいい。
「アルフの旦那、一難さってまた一難だ」
傷の癒えたリックが、前方を指差し囁いた。
「青き水竜王、我等に加護を」
ロベルトが印を切って、祈りを捧げる。
彼らの前方には、巨大な砂の渦巻きが何本もあった。
砂嵐の前触れだ、それも大きな。
「あの砂丘の影に移動だ!」
アルフレッドは、ふらふらになっているシャーマインを肩にかつぎ走り出す。
野営の荷物を回収する暇はない。
リックとロベルトも後に続いた。
数時間後、吹き荒れた砂嵐は彼らの荷物を全て奪い去った。
いや、砂虫の大群と砂嵐にあって、五体満足で生きているのだ。
「まあ、幸運なんだろうな」
炎天下の砂漠で食料も水も失い、今どこにいるのか解らなくなってしまったけど。
「俺達は生きているんだから
砂漠をさまようこと三日目。
彼らは奇跡のような光景と出合った。
緑豊かな木々に囲まれ、細かい光の幕に覆われた風変わりな家を。
「すごいマナの光です。アルフレッド」
シャーマインがうわ言のようにつぶやく。
「まるでマナの泉のようです」
「ああ、まったくだな。言ってみよう」
リフレ王国の上級冒険者パーティー『蒼き流星』。
界渡りの大魔道師リュージとの出会いは、ここから始まる。
大魔道師リュージが、エルフの魔法使いシャーメインの妹と恋に落ちるのは。
また別の物語である。
界渡りの救世主伝説より抜粋




