1月2日 ドラさんがいっぱい
ヘックシ!
…寒いです、陛下。
春だけど、上空は寒いですってば。
みるみる遠ざかる憩いの我が家です。
陛下、どこまで上昇する気なんだか…。
今の私はジャージに素足なので、上昇する気流にあおられ寒いのですよ。
両手はがっちり、陛下の前足でホールドされてます。
とりあえず魔力練って、結界をまといましょう。
よおし、これで寒さは凌げるかな。
我が家が点にみえるほどの上空で、陛下は火炎山のほうに向かいました。
東洋龍スタイルのヨッパ大王は、長い体をくねらせて泳ぐように飛行します。
風の流れに身をまかせるような、悠々たる飛行です。
下から見上げた陛下、メタリックゴールドとイエローのまじった下腹部しかみえません。
時々、風に揺れる鬣がちらちら見えます。
「へいかー、聞こえますカー?」
大きな声で叫んでも、返事なし。
しかたがないですね、目的地に着くまで我慢かなあ。
「わが…みーー、サーーキーー」
おおぅ、ギンさんの声です。
器用に前足で何かを抱え、どんどん近づいてます。
抱えてるの、私のディバッグではないですか!
猫の街通勤ように着替えとかいれてるから、とっても助かります。
ギンさん、えらい、ありがとうございます♪
そろそろ火炎山が近づいてきました。
もう、どうでもいいことですけどね、言わせて下さい。
…陛下、転移魔法で帰還したら良かったんじゃないですか?
風邪ひいたら、責任とって下さいね。
※※※
火炎山は、ドラゴンさんの巣窟でした。
巨大な岩山で、大きな洞窟がいくつもあります。
どの洞窟にも、西洋ドラゴンさんが生息してるようです。
火炎竜種のドラゴンさんは、いろんな色合いの赤いドラゴンさんばかり。
鮮やかなバーミリオンから、黒味を帯びたボルドーまで。
頭部から尻尾の先まで、燃え盛る炎のような鬣が揺らめいてます。
ドラゴンさんがいっぱいですね、ほんとに。
西洋ドラゴンの巣窟の火炎山、その最も頂上に近い洞窟が陛下の御住まいのようです。
流れるような動きで洞窟前の岩場に降り立ち、人の姿に変化しました。
前足でホールドされてた私は、現在陛下の右肩の上に座ってます。
だから、火炎山のドラゴンさんの群れが一望できます。
見える範囲のドラゴンさん全部が、翼を広げて陛下を歓迎してますよ。
陛下も軽く手をあげて、それに応えてます。
おおぅ、これぞファンタジーです。
壮観で胸熱な光景、異世界バンザイみたいな。
「皆よ、魔物を滅した界渡りの人の仔を連れて参った。
人の仔より頂戴した上位世界の美味なる酒もある。
皆も人の姿に転じて、魔力あふれる酒を飲むが良いぞ」
「「「おおっ!!」」」
一糸乱れぬドラゴンさんの咆哮が、火炎山の大気を熱くしています。
竜王陛下、とーさんのナポレオンを頭上に掲げてます。
ドラゴンさんの目には、魔力あふれる酒に見えてるんだろうね。
で、陛下、やっぱり、大宴会するのですか。そうですか。
陛下の肩の上で頭をかかえる私。
やっと陛下のそばにたどり着いたギンさん。
陛下の雄叫びを聞いて、前足で頭抱え込んでます。
「「どうしてこうなった」」
私とギンさんの言葉が、見事にはもったのでした。
人に転変したドラゴンさんの群れは、イケメンさんの軍団です。
細マッチョな陛下をはじめ、ありとあらゆるタイプのイケメン赤毛軍団。
「赤毛同盟」とは、この様子を指すのではないでしょうか?
そんな赤毛のイケメン軍団にかこまれ、じーっと観察されると落ち着けません。
とーさん秘蔵のナポレオンを回し飲みしながら、「異界の人の仔」観察会になってます。
「ほんに見事な魔力であることよ」
「猫の街の魔物を殲滅したのも頷けるのお」
「このぶらんでえとやらも、凄まじき魔力を秘めておる」
「界渡りをする物や者は、どれも強大な魔力を帯びておるが」
「この人の仔は格別ぞ」
「これほどの者は見たことがない」
これも逆ハーレム状態なのかなあ。
ギンさんがそばにいるから、なんとか耐えてるけど。
こんな逆ハー状態、絶対やだ。
「陛下、私は珍種じゃないです」
「おお、すまぬ。主の紹介がまだであったな」
ご機嫌なヨッパ大王は、私を立たせてこう告げました。
「これなるは上位世界より界渡りをした人の仔、名をサツキと申す。
この者は吾が保護し、吾の眷属、シグムンのギンが鍛えし剣でもある。
故にこの者は吾の眷属といえよう。皆もそう心得よ」
「「「承知」」」」
赤毛イケメン軍団が、再び一糸乱れぬ咆哮です。
えっとですね。
どこからつっこもうかな、陛下。
いつから私は、陛下の保護下にある眷属になったの?
「サツキよ」
ギンさんが小さな声で囁きました。
「許せ」
…さいですか。




