12月24日 できることから始めます
ギルド内にいた全ての猫さんが、ハリィさんに向け尻尾を立ててます。
うんうん、フィリップギルド長さん、やっと静かになったもんね。
これで何もかもスムーズに進みますよね。
神速猫パンチで撃沈されたフィリップさん。
ギンさんが首根っこを咥えて、奥に引きずっていきました。
「トラベリングストーンの在庫は、二階奥の倉庫にある」
受付嬢のトルナさんが、大きな鍵束をハリィさんに渡しました。。
「二階倉庫の鍵だ。全部開放して、必要な物資を必要な物に配布する。
手の空いてる者は、トラベリングストーンで近隣の村や町へ跳んでくれ。
そして、不足しているヒーリング・マジックポーションを集めてほしい。
かかる費用は、猫の街冒険者ギルドが負担する。以上だ」
手の空いてる冒険者達は、ハリィさんの指示に従って動きだしました。
心なしかハリィさんが指示をだして、みんな明るくなったみたい。
フィリップさんて、猫望、底辺すれすれの超低空飛行だったのね。
怪我人の手当てを再開しながら、そんなことを考えてました。
※※※
「猫の人、食べ物、持ってきた」
リザードマンさんの集団がやってきたのは、怪我人の手当ても終わりかけたころ。
毛皮が鮮やかな翠の大鹿をはじめ、いろんな獣を担いでます。
焼肉にゃっはーできそうな、すごい数です。
彼ら、昨日の魔物との戦いでも、城壁の外側で大活躍してたそうです。
どうやら森に戻って、食料用の獣を狩ってきたみたいですね。
色鮮やかなもふもふ付き鱗スキン集団にも、だいぶ慣れました。
「よく来てくれました、リザードマンのみなさん。解体場へ案内します」
「頼む」
「む、人のメスさま、いる。助け、してる?」
「元気か、人のメスさま。俺達、メスさまのおかげ、元気たくさん」
「人のメスさま。また、食べ物、分ける、いいか?」
リザードマンさん。
あなたたちに、悪気がないのはわかります。
人のメスさまってのが、敬ってくれてるのもわかります。
けどね、メスさま連呼されると凹むのですよ。
名前…覚える気ないかなあ。
私の周りでひとしきり騒いだリザードマンさんズ。
獲物の山を解体するべく、ギルドの裏手に移動しました。
ギルドホールの怪我猫治療も完了です。
あとは猫さんたちの体力が回復するのを待つのみです。
「ハリィさん、この後、私とギンさんは瓦礫の撤去作業を手伝えばいい?」
「お二人が手伝ってくれたら百猫力にゃ、お願いします」
「まかせて!」
ギンさんの背中に乗って、ふたたび猫の街上空へ。
中央広場には、亡くなった猫さんたちの亡骸が安置されはじめてました。
胸が痛いです。
もの言わぬ猫さんたちが、今度の災厄の悲惨さを物語ってます。
もっと早く街についてたらって思います。
あの猫さんたちの何人かでも助けられたのかなって。
私はただの女子高生。
後悔しても、どうにもならないことはある。
解ってるけど、それでも、ね。
ギンさんが、低い声でいいました。
私の心を読んだみたいに。
「魔物に襲われたら助からぬ。真っ先に虚無に命を侵食されるゆえ」
「でも、ギンさんと初めて会った時、白毛玉に齧られたけど大丈夫だったよ?」
「お主は、上位世界からの希人ぞ」
「よくわかんない」
「無尽蔵の魔力を持つからぞ。それよりも、街道の瓦礫じゃ」
「…そだね、できる事からしなきゃだね」
「そうじゃ、参るぞ、人の仔よ」
「うん」
ギンさんは速度をあげて城門の残骸へと向かっていきました。
街道に通じる瓦礫を片付けて、もう一度、猫の街と外の世界を繋げるために。
やるっきゃないよね。




