12月24日 復活の猫達
ただいま、中央広場上空です。
ああ、なんということでしょうか。
いつもは活気に満ちた猫の街中央広場が、ゾンビの群れに占拠されています。
ところどころ、ばたばたと倒れた猫さんの姿も見受けられます。
ああ、その屍が蘇って、ゾンビの仲間に加わっております。
誰か、哀れなゾンビの群れに愛の手を…。
「サツキよ、先刻から何をつぶやいておる?」
私を背中にのせたギンさん、あきれたように聞いてきました。
現実逃避です、ギンさん。
下界の惨状を、ちょっと現場レポートしてみたんです。
街全体が見えるような高さを飛んでるのにね。
ここまでお酒の匂いが漂ってるのですよ。
この後始末、私がやるんですよね、
少しぐらい逃避したくなってもしかたないと思いませんか。
猫の街の城壁は、半分以上破壊されてます。
その周辺も同じように瓦礫の山になってます。
ある一線から無事なのは。対魔結界がはられたからでしょう。
あの瓦礫の下には、どれだけの猫さんが眠ってるのかな。
もう一度、黙祷。
あの猫さんたちを安らげるためにも。
生きてる猫さんたちを復活させなきゃ、ですね。
私にできる事からはじめます。
ギンさんがやってたように、丹田で魔力を練って全身にいきわたらせます。
たぶん、ギンさんごと発光してるんじゃないかな。
両手を上にあげて、ギンさんが唱えた呪文を私風にリスペクトです。
「猫の街の猫さんズの体にいるお酒の精さん。お願い、外に出てちょーだい」
言葉とともに魔力開放です。
え、リスペクトじゃなく、まんま表現してるだけじゃないかって?
いいじゃないですか、ようは魔法が発動したらいいんです、モーマンタイ♪
「…確かに『解毒』しておるようじゃ」
よしよし、私の魔力が広場中の猫ゾンビーズと屍猫さんズを包み込んでいます。
青く光って、猫さんズの体内に入って、もう一度発光。
ギンさんのお手本どおり、解毒完了です。
ゾンビさんも屍さんも、にゃあにゃあいいながら復活してます。
「ミッションコンプリートです、ギンさん、お腹すきましたあ」
「みっしょんこんぷりーと?」
「いいから、いいから、帰りましょ」
ギンせんせは、首をひねりながらハリィさんの家へと舞い降りていきました。
ハリィさんの居間、荒れ放題だったけど綺麗にかたづいてます。
ゾンビ化してた猫さんたちも、受付のシャム猫さんを除いていなくなってました。
「ハリィさん、みんなどうしたの?」
「これからのどうするか決めるため、冒険者ギルドへいったにゃ。
サツキさん、疲れたにゃ、朝食食べるにゃ」
「わあい~、ご飯だあ♪よく食料のこってたね~」
「…ま、なんとかかんとかにゃ」
にゃ?なんでハリィさん、がっかりしてるのかな?
こんがり焼いたソーセージと、黒パンと、お茶の簡単な食事だけどね。
とってもいい匂いで、よだれがでそうです。
居間の真ん中に車座に座って、大皿から好きなようにとれるようになってます。
シャム猫さんが、お茶をカップにいれて渡してくれました。
「改めて、昨晩は失礼したのにゃ、私はトルナシェルンというにゃ」
にっこり微笑んだ受付猫のトルナシェルン嬢。
昨日の暴れっぷりが嘘のような美猫さんです。
それに、にゃにゃにゃ語を隠すこともしないしねえ。
あれですね、お酒飲むと猫が変わるというあれですね、わかります。
「サツキさん、幻獣のギン殿、改めて冒険者ギルドからお願いがあるのにゃ」
楽しい朝食の後、あらたにいれたお茶を飲みながらトルナシェルン嬢が言いました。
「大きな痛手を受けた猫の街の再建に、力を貸してほしいのにゃ」
「トルナ、その話は改めて」
「ハリィ、サツキさんの魔法をみたにゃ。すごい魔力の持ち主にゃ。
シグムンのギン殿は、上位の幻獣にゃ。どうしてもお二方の力が必要にゃ。
だから、少しでも早くお願いするにゃ」
「それはそうだけどにゃ、いくら何でも速すぎにゃ」
「ハリィは遅すぎにゃ、もっと早く決断してたら、この惨事も防げたにゃよ」
「…トルナ、それは…」
「ごめんにゃ、言い過ぎたにゃ」
「いや、トルナのいうとおりにゃ、私がもっと早く決断してたらよかったにゃ」
「ごめんにゃ、ハリィ、ごめんにゃ」
あのー。
ギンさんと私、完全にお邪魔虫ですよね。
猫の街の復興に、協力はする気満々ですけどね。
ギンさんと私は顔をみあわせて、二猫の世界から退場することにしました。
さ、仕事、仕事、頑張りましょう。
とりあえずは、瓦礫の撤去からですよね。
今日のお話です。
冒険者ギルドの受付嬢は、何処も最強かもしれませんw




