間話 とある異世界トリッパーの独白
今日のお話です。
バイトに行くため、俺は玄関をあけた。
玄関を開けたら砂漠ってのは、正直驚いた。
驚いて、三度見しちまった。
俺の家は砂漠のど真ん中じゃなく、畑のど真ん中にある一軒家だからな。
「あれか、異世界トリップ、やっちまったか?」
俺はラノベとか、ゲームとか、アニメが好きなオタク系だ。
バイトも年末のオタク祭典でがっつり買い込むためやってる。
だからこの異常な状況にも、まあ騒ぐ気がしなかった。
異世界トリップは、大昔から履いて捨てるほどある設定だしな。
「あれだな、怪しいのは真夜中のトクテンとやらだな」
いつもやってるMMORPGのアップデート。
その直後にログインしたら、特典がもらえるって噂。
眉唾だったが、ついついのせられちまった。
ログインして、すぐに出てきた画面のふざけたメッセージ。
『こんぐら、あけおめ、とくてんあたり。
えんたーきーおせ、よろし?』
って、全部ひらがなのメッセージだぜ。
絶対、どっかのハッキング野郎のおふざけだと思った。
思ったが、最後までのってやろうじゃねって、押したんだよな、エンターキー。
『いせかいとりゃっぷ、いちめいさん、ごあんない。
まりょく ∞ たいりょく ∞
あなた、たのしむ、よろし』
ときて、魔方陣出現ときて、寝落ちしてたってばよ。
怪しいのはあれしかねえよな、おい。
それはともかく、どうしたもんかな?
まずは携帯だしてみる…予想通り圏外だ。
家電もアウト。
けど、TVとネットはつながるってどーよ。
日本からの情報は受け付けるってことか?
水道、ガス、電気がつかえるってどうなの?
都合よすぎんじゃね、これ。
ま、いっか。バイトはいけそうにねえし、今日は不貞寝だ、不貞寝。
…オタクの祭典に間に合うように帰りたいけど、無理だろうな。
翌日、玄関のドアを叩く音で目がさめた。
ドンドコドン、ドンドコドンって妙にリズミカルだ。
寝ぼけてドアをあけたら、絵に描いたような冒険者様ご一行。
なんだかくたびれてっけど。
戦士に盗賊、魔法使いに神官ときたもんだ。
魔法使いは、おお、エルフ様じゃねえか!
緑の神に目、それにとがった細い耳ときたらさ。
けど、女か男かわかんねえ。
マントがっつり着込んでやがるよ、おい。
「砂漠で道に迷って困ってます。水を分けてくれませんか」
と、戦士が代表してのたまった。
おおっと、言葉が通じる、異世界補正ってのか?
水、水なら水道からいくらでも分けてやんよ。
だから、エルフさん、性別教えてね。
ある夜、砂漠の真ん中に、突如として不思議な家が現れた。
そこに住まう黒髪、黒目の不思議な男。
迷い込んだ無一文の冒険者一行を、魔力溢れる水と食料で救った男。
この後、流行病で苦しむとある王国の民人を、魔力をもつ食料を分け与え救ったという。
…界渡りの大魔道師の噂は、ここから始まった。




