12月21日 だから違いますっていったのに…
今日のお話です。
ブックマーク、ありがとうございます。
界渡りの大魔道師って、なんですか、それ?
ヴァルノーラに来てから使った魔法っていえば。
簡単なヒーリングと、ペンライト作ったクリエイトだけなんですけど。
それも、ギンさんとハリィさんの前で使っただけですよ、ねえ?
「大魔道師殿、我が猫族の冒険者ギルドを訪問してくださりありがたく存じます。
私は猫族冒険者ギルドの長、フィリップと申します。
猫族冒険者ギルドに高名な大魔道師殿をお迎えでき、光栄の至りであります」
「あのー」
黒猫さん、話しながら近づいてきます。
「大魔道師殿の歓迎会を開きたく思いますので、どうぞ我が屋敷へおいで頂きたく参上しました」
「あのー」
言葉は丁寧だけど、話聞かないなあ、この猫さん。
「つきましては、貴女様の使い魔ともどもご同道していただきたく思います。
ささ、さっそくご案内いたしましょう、どうぞ、ご遠慮なさらずに」
フィリップさんとやら、ぐいぐいと迫ってきます。
黄色い目が爛々と輝いて、遊び道具にとびつく猫さんそのまんま。
ビロードのローブからのぞく尻尾をぶんぶんと揺らしてます。
背後のハリィさんはおろおろ状態です。
黒猫さん、慇懃無礼だし、話聞かないし、強引すぎます。
それにギンさんは使い魔じゃないですよ。
竜王さんの眷属だよ、私のもふり対象だけどさ。
ほらあ、ギンさん、機嫌わるくなってきたよ。
毛が逆立ってきてるもの。
もう一歩、黒猫さんが迫ってきました。
私は思わず後退し、ギンさんが私の前へ移動。
低くうなって、黒猫さんを威嚇しました。
「フィリップギルド長、そのシグムン殿は、使い魔ではありません!」
「やや、使い魔の分際で私の邪魔をするか!」
水晶付の杖を振り上げて、黒猫さんがギンさんを追い払おうとしました。
ハリィさんの叫びと、フィリップさんの叫びは同時です。
そして、杖をかわしたギンさん、回り込んで黒猫さんの尻尾にガブリ!
「フギャアアァァア!!!」
うわあ、これは痛いでしょうね、ギンさん容赦なしです。
全身の毛を逆立てて、硬直する黒猫さん。
両手で頭をかかえるハリィさん。
私は「さわらぬギンさんに祟りなし」と、悟ったのでした。
※※※
「シグムンのギン殿。知らぬこととはいえ、失礼いたしました」
ジャンピング土下座せんばかりに誤りたおしてるフィリップさん。
「ギルド長、幾度も説明したでしょう。サツキさんは噂の大魔道師殿ではありませんって。なのに全然話を聞いてくれないんですから」
ハリィさんはフィリップさんの尻尾を手当て中です。
「判ればよい」
ギンさんはそっぽを向いてます。
その背中をなでなでしながら、荒ぶったギンさんの御霊をなだめてます。
硬直状態だったフィリップさんにかわって、ハリィさんが説明してくれました。
私が界渡りの大魔道師さんに勘違いされたのは、昨日の魔力鑑定のせいでした。
私の頭上に輝いた∞の印。
あれとおなじ印をだした、界渡りの人物がいるそうなのです。
遠く離れた人族の国の、冒険者ギルドに現れたその人は…。
流行り病に苦しんでいたその国の人たちを、異界の食物で癒したそうですよ。
「界渡りの大魔道師」と呼ばれたその人は、どこへともなく姿をけしました。
冒険者ギルドはその人を探すため、極秘高速通信網を使って通達をだしました。
「黒髪黒目の∞の印を表す人族の男性が現れたら、最大限の歓迎と感謝をもって迎えよ。そして足止めせよ」
その通達が来たのは、私達がギルドをさった後。
ギルド長のフィリップさんは、すぐさまハリィさん家を強襲。
翌日、ハリィさん家に、私が来ることを聞き出して。
∞の印をだした私を「界渡りの大魔道師」と信じ込んで待ち伏せたってわけです。
ハリィさんが、何度も何度も違いますって説明したのにですよ。
そもそも、私は男性じゃなく、女性ですって。
ここ大事、男性じゃなく女性ですって。
やっぱり人の話を聞いてない、フィリップさんでした。
それにしても。
黒髪黒目の界渡りをしてきた人。
異界の食物で病を癒した人って、同じ日本人なんでしょうか?
とても気になりますねえ。