鍛冶と素材
「 」:布目一箇
『 』:鬼束帆乃佳
うん・・・この2人は組み合わせ的に、色々拙いね(^^;
「鍛冶について話せ、って言われてもね」
『鍛冶神ノ一族デショ?』
「そういう嬢ちゃんも、鍛冶神の血を引いてるだろう? しかもその喋り、ドワーフだよね?」
『むぅ、つまらない』
「おや、ドワーフ訛りはやめちゃうのかい」
『ノってくれないんじゃ、つまらないし』
「それにしても、神々と対立する立場で語られる事が多いドワーフと、神との混血とは面白いね」
『そんな一部だけの話しで判断されても、返す言葉が無いわよ』
「ふむ。まあどうでも良いか。
それより鍛冶だな」
『その為には素材からでしょ』
「そういうのは、嬢ちゃんの方の血統が得意とするところだろ?
あたしの血統は、そこから先を得意とするんでね」
『それじゃ、私からって事か』
***素材について***
『そもそも素材って言っても色々なのよね。
鉱物素材に生物素材、加工素材。
要は何らかの性質を持っていて、何かを作れる元になるなら、全て素材な訳だし』
「最初は一般的なところから、ってのがお約束じゃないかね?」
『そうね。それじゃ鉄を例に挙げるとして、鉄原子から扱うのは一般的じゃ無い。一般的にとなると、鉄鉱石とか、砂鉄とかになるわよね。
鉄鉱石を削って剣の形にして、磨いで刃を付ければ鉄の剣は出来るけど、質は酷い事になる。
当然鉄鉱石から精錬して、そこから同じ様に作った方がマシなのは、言うまでも無いでしょう』
「しかしそれだと、通常位の物にしかならないぞ? 要は剣の形の鉄の塊でしか無い」
『そうね。
現在の格付け的には通常位、下位、中位、上位、稀少位、特質位、伝説位、神話位、超越位、超常位の十段階だっけ。
何の鍛錬もしていない一般人と同じ、何の作り込みも無い通常位なんて、練習用にさえならないわ』
「鉄鉱石は混ざりが多いし、純鉄は酸に強くい特徴はあってもすぐ錆びるし、装備向きじゃ無いしね」
『高純度の鉄は、錆び難いんじゃなかったかしら?』
「そこまで高純度化すると、今度は伸びやすくなって、剣には向かないぞ?」
『だからこそ、単なる鉄の剣とは言え、純粋に鉄のみを素材にするんじゃなく、合金にしたり、他の素材と重ねたり、表面を溶着等で加工したりする必要があるわね。
それでも鉄の剣だと、頑張っても稀少位あたりが限界かしら』
「表面処理にアダマントを用いれば、特質位には届くんじゃないか?」
『主体が鉄だと、いくら表面をアダマント処理しても、数回の使用でダメになるでしょ』
「そうだろうな。使い捨ての急場凌ぎでしかない」
『使い捨ての特質位なんていらないわよ。
ともかく、素材と言っても鉱物素材なら取り出して精錬、用途に合わせて純粋化か合金化しないと素材とは言えないし、生物素材なら鞣したりという処理をして初めて、素材って言えるんじゃないかしらね』
「鉱物や生物のそれは、鍛冶師にとっては素材じゃなく、原材料だからな」
『好例がアダマントよね。
アダマンタイト鉱石の状態だと、単なる原材料。それを精錬してやっと、アダマンチウムという金属素材になる。
アダマンチウムを処理して鉄鋼化、それでやっとアダマスになって、硬度としては最高だけど、磁力を持つから、この時点では未だ使い勝手が悪い。けれど、それから合金を作ってアダマントになると、今度は磁力を阻害する性質になるから、ここでやっと剣用の素材として成立って感じよね』
「合金化と言う事は、合わせる物でも結果が変わるんだろ?」
『大抵の物と合わせても、アダマスの段階よりかなり硬度は落ちるわね。それでも堅いけど。
調べた限りだと、オリハルコンとの合金としてアダマントを作ると、若干だけど更に硬度は上がるわ。配合率は秘密だけどね』
「配合率を聞いても、あたしには無理。
素材調合は稀少位が限界だから、そんな伝説位だか、神話位だかの素材は、私には作れないからね」
『私は、素材は作れても、それを使って何かを作り出す事が出来ないわよ』
「・・・ちょっと、神話位の素材を提供してくれないか? 超常位の武器と防具を作ってみたいんだが」
『・・・世界を滅ぼす気?』
***伝説素材について***
「そもそも、伝説素材をどうやって再現したんだい?」
『あっちでも、こっちでも、伝説とされているのは何故か、と言う事に疑問を持ったのが始まりね』
「嬢ちゃんは、あっちの生まれ育ちだろ。
こっちでも伝説素材になっている事を、どうやって知ったんだい?」
『あ、こっちに関しては結果からの推測だったわね。
そもそも、伝説上にぽこぽこ出て来るミスリルやオリハルコン、アダマント、空本意嵩羅、緋緋色金っていう有名どころが、本当に架空で済ませて良いのか疑問だったわけよ』
「気持ちは分からなくも無いな。
その辺りの素材が有るか無いかで、作れる物の幅も大きく変わる。無いと割り切るには惜しい」
『実際、あっちで作れる煉瓦一つ取ってみても、実は過去に作られていた煉瓦とは異なる上に、過去の煉瓦が現在では作れないって聞いた事があってね。
つまりは現在作れない事を理由に、架空とする安易な思考には囚われたく無かったわけよ。現代科学を万能とでもするかの、固執した偏重主義は嫌いだしね』
「ふむ。そういう意味ではこっちには、実際に過去に作られた、呆れる様な性能の現物が幾つか現存している分、架空とまではされていなかっただけマシなのかも知れないな」
『ただね、それでも科学技術の進歩はかなりのもので、伝説素材に近い、新しい素材が生み出されたりしてるわけよ』
「まあ、こっちにもそういうのは確かにあるからな」
『だから、技術だけが失われたと、最初の内は仮定して、色々試してみたんだけど、あっちの法則で考えると、どうしても解決出来ない問題に突き当たってね』
「それは?」
『だってさ、緋緋色金の“木の葉数枚で茶釜の湯を沸かす”って何? オリハルコンの“透明な銅の様”って何?
極めつけは、イシルディンの“星か月の光の下でしか見ることが出来ない”って有り得ないでしょ!』
「普通はそう考えるか」
『そこで、有り得ない事を実現させるにはどうすれば良いかを考えた訳よ』
「有り得ない事を否定するのは、鍛冶師としては当然の流れだな」
『そこで思ったわけ。
伝説素材があったとされる時代と、現代技術の差に理由が有るんじゃないか、とね。
当然の話しとして、当時の技術は今より洗練されていないわけよ』
「そうだろうな。
時代と共に改変されるのは当然だ」
『で、よ。考えてみれば当時は、科学なんていう絞られた技術体系は無かったのよね。
技術は結果論か、錬金術によって生み出されていたわけだから』
「結果論は現代でも通用するが、錬金術自体はあっちでは廃れているんだったか」
『こっちでは、科学が進んでいないしね』
「分離の影響という事か。
それで、両方揃って伝説素材化したとなると、鍛冶師としては憂慮すべき問題だな」
『本当に。
何も、新しいものだけが優れてる訳でも無いのにね』
「ああ、コンクリートだったか? あっちでよく使われている素材。あれ自体、手間はかかるが昔の方が経年耐数が高いらしいねぇ」
『勿論一概には言えないけどね。
過去の方法、過去に対比で衰退したもの、それらが時を経て、有用性を示すなんて例は幾らでもあるから』
「とは言え、伝説素材はそれ以前の話しか」
『そうね。だからこっちに来たのよ。
あっちで培った科学知識と、こっちでの錬金術を合わせれば、伝説素材が有ったとされる時代より、進んだやり方が見つかるかも知れないでしょ?』
「神話位以上の素材を狙っているのかい?」
『当然。
とは言え、あっちだと折角の鉱物が位の低い物に精錬されたりして、素材自体が入手し難いというのも理由ね』
「ふむ。位の低い物に、か。
勿体無い話しだな」
『ミスリルは単なる銀、オリハルコンは黄銅辺りの扱いね。
もっとも、錬金精錬が出来ないから、あっちではそれら鉱物も、単に不純物の差異程度でしか認識出来ないんだから、仕方無いんだけどね』
「逆にこっちでは、環境への影響を考慮していて、大規模な鉱山開発は行われていないから、未だ未だ良い素材が有りそうだな」
『こっちでの採掘って、どうなの?』
「地中に住む種族が、生活環境を得る為に掘れば、素材が出るだろ? そういうのが売りに出るわけだ。
あとは国外の、それこそドワーフの様に鉱山開発をしている種族からの購入だな」
『一応、鉱山開発はあるわけか~』
「とは言え、生物素材も有るから、話しに聞いたあっちの乱開発程酷いものでは無いな。
むしろ鉱山の無い場所の方が多数だろう」
『いくら生物素材が有るからと言っても、開発自体は必要になるんじゃないの?』
「必要消費燃料は術式によって、ある程度賄えるし、そもそも水を術式分解して水素として使っているから、燃料開発はほぼ無い。
地下素材も、そういう種族が売りに出しているし、生活状況は大量消費を良しとしていないのだから、乱開発を必要とはなり難い」
『そうか、根本的に“人”の定義が違うんだものね。
消費を良しとしなければ厳しい人間自体、こっちでは圧倒的多数じゃ無い以上、必要前提も異なるか~』
「大量消費する最たる理由が、あたし達の様な鍛冶師の実験だからね」
***武器について***
「素材もそうだが、武器も一種類の素材だけで作るには無理があるからなぁ」
『アダマントのみで剣を作ったら、どうかしら?』
「切れ味がなぁ。堅いから壊れはしないが、単なる撲殺武器にしかならない」
『やっぱり刃が欠けるか~』
「それ以前に、薄くすると作っている段階でボロボロと・・・」
『撲殺武器としては有りなんじゃない?』
「振り回せるならこれ以上の物は無いが、重量的に無理だろうな」
『軽量化の式を刻んだらどうかしらね?』
「撲殺武器だと、重さも攻撃力要素だぞ?
持てる程度に軽量化するなら、同程度の威力の物は、他の、もっと一般的な素材で作れるだろう」
『コスト的にも、見合わないわね』
「結局、一種類の素材だけでは、素材と同じ段階か、一つ下の段階の武器しか作れないというのが結論だろう」
『武器や防具にして、最高で素材より二段階上までが限界よね、確か』
「今のところ試してはみたが、二段階が限界だな。古文書を読み解いても同じ様だ。
あたしの目標は、三段階に至る事だが、残念ながら実現していない」
『私も、神話位を越える素材は試しているんだけどね、鉱物的に入手が限られてるから、あまり試せないのが現実ね』
「それでもだ、現存している最上位の装備品が神話位の、所謂神器までだろう?」
『そう聞いてるわね』
「それを越える物を作ってみたいという欲求があるんだがな」
『それこそ、世界を手にする、あるいは世界を滅ぼす気?』
「何を言うかね? あたしは鍛冶師だぞ?」
『私もそうだけどね』
「ならば、だ。作りこそしても、それを使うのはあたし達ではないだろ?」
『まあね』
「作ったら、後は知らなくても良くないか」
『この世に存在する者としては、それはどうかと言いたいけど、鍛冶師としては、そこはどうでも良いわね』
「ところで、だ。
超絶位や超常位の素材が出来たとして、それを使えば、超常位を越える何かが出来る可能性は、有ると思うかい?」
『十段階を越える物、ね。
それこそ深淵位かしら』
「そこが行き着く最後とは限らないし、それこそ落伍者の行き着く場になるかも知れないがな」
『それでも、そこを覗いてみたいという好奇心は、捨てる事は出来ないわね』
「何だ、気が合うな」
『そうね』
「・・・・・・」
『・・・・・・』
「はははっ」
『クフフフッ』
※危険なので、強制終了します。