表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ログホラ二次創作短編集  作者: 櫻華
異世界転移(大災害後)編
8/16

笛吹き男と兎の悪魔 −夜櫻 Side− ◎

今回は、妄想屋様の作品『太陽の貴公子』

http://nk.syosetu.com/n2554ch/?guid=on

の第八話と『太陽の貴公子番外編』

http://nk.syosetu.com/n1909cm/?guid=on

の《笛吹き男と兎の悪魔その1》と《笛吹き男と兎の悪魔その2》の二話とリンクしたコラボ話となっております。




時期としては、『太陽の貴公子』の第八話の辺りくらいです。




まずは、妄想屋様の二作品を先に読まれる事をお勧めします。




なお、佐竹三郎様の作品『三匹が!!!』

http://nk.syosetu.com/n3992ch/?guid=on

から義盛とエンクルマのお二人の名前のみですが…お借りしております。



──はっきり言って、今のアキバの雰囲気は嫌いだ。




誰かに犠牲を強いる事も、誰かを虐げる事も嫌いだ。




大手ギルドのおかげでPKは確かに減ったけど…その代わりに得たものは、大手ギルドの台頭…大手ギルドによるマーケットの独占や狩り場の占有化だ。




アタシは、消費アイテムや食事に関してはあーちゃんのギルドを頼れるし、アキバの近隣や少し行った所にある初心者向きの狩り場を幾つも知ってるから…それについては問題無い。




…問題無いんだけど…PKが減ったのだって、大手ギルドの圧倒的な人員数の差に敵わないからだ。






──『数の横暴』。…アタシはそう思う。






数が少ないからって、相手を蔑んでいいの?




レベルが低いからって、相手を罵っていいの?






アタシは、それは違うと思う。










そして何より…初心者達を軟禁している〈ハーメルン〉が、取り引き相手の〈シルバーソード〉や〈黒剣騎士団〉の威を笠に借りて我が物顔でアキバを歩いているのが一番嫌いだ。







「──本当、今のアキバは大っ嫌いだよ」

「じゃあ、アキバを捨てて出ていきますか?」


ゆっくりと進む幌馬車の移動速度に合わせて一緒に移動しながら呟いたアタシの呟きに、フェイ君がそう言葉を返す。




──無論、フェイ君にはわかっている。



アタシがあーちゃんを見捨ててアキバを出ていく事などできない事くらい。




きちんとわかった上で、ただ言ってみただけなのだ。


「…だってさ、今のアキバは雰囲気悪いよ?

大手生産系ギルドによるマーケットの独占。

大手戦闘系ギルドによる狩り場の占有化。

人数の少ない中小ギルドや無所属のソロには住み難い街になってきてるし…」

「…そうですよね。しかも、団長…〈黒剣騎士団〉が〈EXPポット〉を〈ハーメルン〉と取り引きしているから…〈ハーメルン〉に対して誰も何も言えないし…」


そう言って、アル君の表情が暗くなる。






◇◇◇






今のアタシ達は、無所属のシークさんやホーク,エルやフェイ君やアル君と一緒に、天音からの依頼で〈農場主ファームオーナー〉のウルグ君の所有する大農場から大量の野菜や果物をアキバの街…〈放蕩者の記録デボーチェリ・ログ〉のギルドハウスまで運搬護衛の真っ最中なのだ。






ちなみに、現在あーちゃんのギルドが抱えている秘密をここにいるメンバーは全員共有していて、美味しい食事を提供してもらう対価としてあーちゃん達の頼まれ事に協力してくれているのだ。



もちろん、余所には知り得た情報を一切漏洩させない事を大前提に…だけどね。






◇◇◇






「嘆くことは無い夜櫻。罪を重ねれば重ねる度に、彼の者達は神よりの救済を得られる機会が失われていく事を理解できていないのだ。

いずれ彼の者達は、己の犯した分の咎と同等の報いを受ける事になるのだ」

「…と、シークさんはおっしゃっていますが?

私も、いつか彼らはそれ相応の罰を受ける事になると思うわ」


シークさんとエルが掛けてくれた言葉を…正直、アタシは嬉しく思う。




──シークさんの言う通りだ。




いつか、〈ハーメルン〉の奴らに一矢報いる機会が訪れたら…アタシは躊躇いなく奴ら全員を神殿送りにしてやるからね!!

(※シークは『時が来たら、彼らを罰する立場となった誰かが相応の罰を与えてくれるだろう』と言いたかっただけで…夜櫻にPKを唆した訳ではありません)




そんなやり取りをしていた時、突然アタシ達の前に8人の〈冒険者〉の集団が現れたの。




アタシ達は一瞬、PKかと思い、武器に手を伸ばしたんだけど…その8人は全員が傷だらけで、特に〈守護戦士ガーディアン〉の青年が一番酷く…顔の所々に青アザ等があって、それを見て彼らがPKでは無いとすぐに理解したの。



一番傷だらけの〈守護戦士〉の青年は、アタシ達に頭を下げてこう言ってきた。


「あの…すみません!きちんとお金を支払うので、よろしければ少し分けていただけませんか!」


〈守護戦士〉の青年─簡易ステータスで名前を確認したら、真人まさとという名前みたいだ─のその言葉に、アタシは少し困ってしまった。


「う〜ん。分けてあげたいのはやまやまなんだけど…この野菜や果物はアタシ達のものじゃなくて、頼まれて運んでいるものだから…アタシ達の独断で分けたりできないの。ごめんね…」


アタシの言葉に、8人が目に見えて肩を落とす。



──少なくとも、アタシ達から無理矢理奪おうとしなかったところを見ると…彼らは、アキバの今の現状の中でも常識はきちんと守っていた様だ。



…だから、そんな彼らにちょっとした幸せを分けてあげようと思った。


「ねぇ、君達。もしかして、朝食がまだじゃない?」

「え?は、はい。まだですけど…」

「アタシ達はこの後、もう少し先に行った所で朝食を食べるつもりなんだけど…君達も一緒に食べない?」


アタシの言葉に、8人は驚いた表情を見せる。


「いいんですか?」


おそるおそる、〈森呪遣いドルイド〉の女性─確認したら、香織かおりちゃんという名前の様だ─が尋ねてきた。


「うん♪朝食、いーっぱい作ってもらってるから…君達8人に分けても、アタシ達の食べる分は充分確保できるよ♪」


アタシの出した提案に、真人君達8人がどうしようかと戸惑っている。



アタシが彼らを受け入れる姿勢を見せた事で…フェイ君達も、彼らを受け入れる事にした様だ。


『オーロラヒール』


シークさんは、彼らを傷だらけのままでいさせるのは可哀想だろうと判断したらしく…〈オーロラヒール〉で回復してあげている。



シークさんのその行動が、彼らの背中を押すきっかけになったらしく……



「あの…折角のご厚意ですし、ご相伴にあがります」


こうして、真人君達8人はアタシ達と朝食を一緒に食べる事になったの。






◇◇◇






とても見晴らしのいい平原で、アタシ達は朝食を食べる事にしたの。




──アタシ達のパーティーの中の…〈斥候〉持ちのアル君と〈狙撃手スナイパー〉持ちのホークは、必要無いとは思うけど…一応、周辺警戒を兼ねた見張り番として、大量の野菜や果物を載せた幌馬車の屋根の上から周囲を見渡しながらつつ朝食を摂っている。




アタシ達は、近くに丁度いい感じに腰掛けられる大きめの石が複数あったので、そこに腰掛けて朝食を摂る事にする。




──この朝食の席には、アタシ,フェイ君,シークさん,エルの他に…幌馬車の御者である〈大地人〉のライオスさん、アタシの厚意で一緒に同席している〈守護戦士〉の真人君と〈森呪遣い〉の香織ちゃんと彼らの仲間の〈暗殺者アサシン〉の直哉なおや君,〈妖術師ソーサラー〉の信之のぶゆき君,〈吟遊詩人バード〉の琴音ことねちゃん,〈神祇官カンナギ〉の柚莉ゆうりちゃん,〈武士サムライ〉の愛奈まなちゃん,〈神祇官〉の華奈かなちゃんがいる。



アタシの〈ダザネッグの魔法の鞄マジック・バッグ〉から、大きめのバスケットを三つ取り出す。



二つのバスケットの中身は、天音の手作りのサンドイッチ。


もう一つは、デザートのアップルパイ。



〈魔法鞄〉からさらに取り出した…木で作ったコップにアップルパイを作る際に出た林檎の皮を使って紅茶の茶葉と一緒に淹れたアップルティーを注いで、それを次々に皆へと手渡していく。



皆にアップルティーを注いだコップが行き届いたのを確認し、『いただきます』の合唱を合図に一斉にサンドイッチを食べ始める。



ライオスさんは既に何回か天音の手料理を食べているのでさして驚きはしないが、真人君達は〈大災害〉以降『味のある料理』は初めてだったのだろう…最初は一口食べてから驚き、次いで慌てた様に食べている。



サンドイッチを二、三個食べた辺りから…真人君達8人は泣きながら食べている。




──今なら、事情を聞いたら素直に話してくれそうだと見たアタシは…真人君に優しく話し掛けた。



「ねぇ、真人君。どうして君達は、あんなに傷だらけだったの?

それに、アタシ達に必死に頭を下げてまで野菜や果物を欲しがったのは何故なの?」


久しぶりの『味のある食事』とアタシの優しさで心を開いてくれた真人君は、アタシ達に詳しい経緯を話してくれたの。






◇◇◇






──真人君の話によると…



彼らは、〈エルダー・テイル〉を始めて約一年位で…香織ちゃん,直哉君,信之君,琴音ちゃん,柚莉ちゃんは同じ大学のサークル仲間で、ギルド〈聖なる鐘ホーリー・ベル〉の仲間でもあるらしいの。



真人君がギルマスで、香織ちゃんがサブマス。



〈大災害〉の当日も、仲良く全員一緒にログインしていて巻き込まれたのだそうだ。



〈大災害〉直後、真人君達は大半の〈冒険者〉の皆の様に半狂乱になったり、パニックを起こしたり、泣き喚いたりはせず…ギルドの皆と念話で連絡を取り合ったり、宿屋を集合場所に選んだり…といった行動をすぐに起こしたそうだ。



そして…真人君は、集合場所の宿屋へ向かっている最中に二人で身を寄せあって泣いている愛奈ちゃんと華奈ちゃんの双子姉妹に出会ったそうだ。



愛奈ちゃんと華奈ちゃんは〈大災害〉の二日前に始めたばかりの初心者で…どうしたらいいのかわからなくて泣いていたらしいの。



真人君には、丁度愛奈ちゃん達位の年齢の妹がいて…そのまま放っておく事がどうしてもできなくて…自分達のギルドで保護する事にしたそうなの。



それからは…苦労しながらも皆で一緒に戦闘訓練したり、日々の食料となる果物等を採取しに行ったりして過ごしていたそうだ。




けど…今日、いつもの様に果物採取に来ているフィールドにやって来たら、そこに15人程の〈シルバー・クルス〉というギルドの人達がいて…「今日からここは、俺達専用の狩り場だ」と言ってきたという。



勿論、真人君達は反論したそうだ。



そこは、昨日まで真人君達が果物採取をしていた場所だし、真人君達はそこを自分達だけで独占する様な事はせず…他にも同じ様に果物採取に来ていた人達と仲良く話し合いながらそのフィールドを共有し合っていたそうだ。



それなのに、いきなり『自分達だけの狩り場だ』と言われて納得できる筈が無くて…「そんなの横暴だ」、「ここは皆で共有し合う場所だ」と抗議したら…〈シルバー・クルス〉のメンバー達は鼻で笑い、真人君達6人を地面に押さえつけた上で、複数で殴る蹴るの暴行を加えたそうだ。



相手は全員がレベル90、対する真人君達は…真人君以外はレベル70〜80番台。


初心者である愛奈ちゃんと華奈ちゃんに至っては、まだレベルは12位。



人数差とレベル差があって、まともに抵抗する事も出来なかったんだって。



彼らは真人君達にしばらく暴行を加えた後、真人君達を解放する時に「弱小ギルドが!弱いクセに、偉そうに説教してんじゃねぇーよ!馬鹿が!」と罵り…嘲笑ったのだそうだ。




真人君達は、果物がよく採取できる狩り場を他に知らなかったから…「これからどうしよう…」と途方に暮れながらさ迷っていたところに、大量の野菜や果物を載せた幌馬車を引き連れたアタシ達が丁度通りかかったのだそうだ。






◇◇◇






──真人君達の事情を聞いた後、アタシがまず思ったのは…『ギルド〈シルバー・クルス〉は、後でギッタンギッタンにぶちのめす!』だった。



そして、アタシのその思考パターンを理解しているフェイ君は溜め息を洩らし、エル達は苦笑いを浮かべている。



──とりあえず、〈シルバー・クルス〉の件は一先ず置いておいて…真人君達をこのままにはしておけない。




だから、アタシはこう切り出したの。


「ねぇ、君達。ギルド〈放蕩者の記録デボーチェリ・ログ〉か朝霧ってプレイヤー名に聞き覚えはない?」


アタシの問い掛けに反応したのは、香織ちゃんだった。


「知ってます。初心者をサポートしているギルドですよね?

私も一時期、お世話になりました」

「そう。なら、話は早いや。

その〈放蕩者の記録〉はね…今の君達みたいに困っている人達に色々と手助けしているんだよ。

衣食住も提供してるし、必要なら色々な情報もくれるし、ギルドに加入しろって強制もしないしね。

君達の事情を聞いたら、きっと快く迎え入れてくれるよ♪」


アタシのその言葉を聞いて、真人君達は皆でしばらくの間話し合い…その後、ギルドは解散しないまま全員で〈放蕩者の記録〉にお世話になる事に決めたそうだ。



うんうん。良かった良かった。






◇◇◇






──アキバへと移動を再開したアタシ達は…とりあえず、〈放蕩者の記録〉にお世話になる上で守らなければならない決まりや秘密の事、アタシ達が大量の野菜や果物を載せた幌馬車を引き連れてアキバへ向かっている経緯を真人君達に説明していたの。




真人君達は、『味のある食事』の事を公表しない事に最初は納得できない様子だったけど…何故公表しないのかの理由を詳しく丁寧に説明したら、最後は理解してくれた様で了承してくれた。




必要な事を話し終えた後は…〈放蕩者の記録〉がどんな感じなのかとか、アタシ達が昔どんな冒険をしたのかとか、アタシ達が今までに出会った人達の事とか…そんな他愛もない話で道中賑わっていると、アタシの耳に念話の呼び出し音が聞こえてきたの。


「ん?誰かな?」


素早くステータス画面を呼び出し、念話を掛けてきた相手を確認する。



そこには、『朝霧』というアタシの妹のあーちゃんの名前が表示されていた。



あーちゃんと確認したアタシは、『つなぐ』を押してすぐに念話をつなぐ。



つながったと判断したアタシは、あーちゃんへと声を掛けた。


「ほいほーい♪あーちゃん、今回は一体何の用なの〜?」


アタシの明るい声に…あーちゃんは多分、苦笑いを浮かべただろうね〜


…けど、すぐに本題を話し始めたの。


『…実はな、先程まで早苗達がギルドハウスを訪れていたのだが…』

(お?さーちゃん、さっきまで〈放蕩者の記録〉のギルドハウスに来てたんだねぇ〜)


──あーちゃんの話を聞きながら、きっと賑やかだっただろうなぁ〜…等とさーちゃんの事を考えて思わず笑いがこみ上げそうになる。



…あーちゃんの次の言葉を聞くまでは。



『今から〈ハーメルン〉に喧嘩をしかけに行くところだと思う』

「…〈ハーメルン〉…」


うわぁ〜、一気に嫌な気分になったよ〜






◇◇◇






──アタシは、〈ハーメルン(アイツら)〉が一番大っ嫌いだ!!



〈EXPポット〉を入手する為に、『初心者救済ギルド』と偽って多くの初心者達を抱え込み…その後は初心者達を酷使して狩りに行かせたり、ギルドホールに生産と称して人質として留めたりと…あーちゃんやシークさんから聞いた限りでは、最低最悪のギルドだ。



──それに、アイツらはアル君が泣く原因を作った。




アタシが記憶してる限り、アタシの弁護士事務所に勤め始めた時からアル君はいつもニコニコしていて…悲しい事や辛い事とは無縁そうな感じだった。



…むしろ、弁護を請け負った泣いている依頼者を励ましたり宥めたりしてあげる心優しい子だと思った。




そんなアル君が〈黒剣騎士団〉を抜けてきた日…初めてアタシの前で大泣きした。




『大好きだった〈黒剣〉の仲間と後輩が…エンクルマと義盛が本気の殺し合いをしたんだ…

サツキ達が止めてくれたからこそ、最悪の結果─義盛がエンクルマの手で死亡するという事態には至らなかったけど…俺は、二人が殺し合うところなんて見たくなかった!

〈黒剣〉の大好きな雰囲気が、あんな風に壊れてしまうところなんか見たくなかった!!

所長…俺、もう〈黒剣〉にはいられないよ…

これ以上、大好きな〈黒剣〉が壊れてしまう姿を見たくないよ…』



そう言って、アル君はアタシにしがみついて大泣きした。




──あの時から、アル君を泣かせる原因を作ったアイザックと〈ハーメルン〉を許せないと思っている。






◇◇◇







アタシの声を聞いた念話先のあーちゃんから苦笑が漏れ聞こえる。



とはいえ、あーちゃんは話を続ける事にしたようだ。


『事前に、早苗から我が〈放蕩者の記録〉を保護した初心者の受け入れ先の選択肢に入れたいという申し出もあってな…もし、初心者達を〈放蕩者の記録〉に所属させるという話でまとまった場合、こちらから迎えを寄越す事になるだろう』


あーちゃんのその言葉で、アタシに念話を掛けてきた意図を理解できた。


「ふ〜ん。成程ね。…つまり、その場合の迎えに行く役目をアタシに頼みたい訳だね?」


アタシが意図を理解できた事をすぐにわかったあーちゃんは話を続ける。


『姉さんの言う通りだ。無論…迎えに行った後は、すぐにギルド会館でギルドへの入会手続きは済ませておいてくれ』


あーちゃんのその言葉に、アタシは快い返事を返す。


「りょ〜か〜い♪…ところで、肝心のあーちゃんはその間はどうするつもりなの?」


頼まれ事は快く引き受けたけど…その場合、あーちゃんが何故来ないのかを〈ホネスティ〉のメンバーに尋ねられる可能性が高い筈。



その時、あーちゃんの事を誤魔化すべきか素直に話して良いのかを判断する為にも一応動向を尋ねてみたの。



アタシの問い掛けの意図を…あーちゃんは素早く理解してくれたみたいで、はっきりと告げてきたの。


『…“私は、マリエールとウッドストックと茜屋=一文字の介の三人に呼ばれている。

中小ギルドの間で何やら色々と話したい事があるという話でな。

その場所や話し合いの内容についてを事前に色々と打ち合わせしたいらしい。…無論、大手ギルド抜きでだ。”

まぁ、そういう訳だから…私は“色々と忙しいから行けないのだ”と言っておいてくれ』


幾つかの重要な言葉が出てきたのは…アタシなら自分の意図を理解してくれるとあーちゃんが信じてくれているからだろうね…あーちゃんは話し終えると黙ってアタシからの返答を待っていたの。


「ん〜…つまり、あーちゃんは“中小ギルドのギルマスさん達が集まって何かしら話をしようとしている話し合いの為の…事前打ち合わせに参加する”…って事でいいのかな?

ん〜…なら、〈ホネスティ〉関係者にはまず話しちゃ駄目だし、とっしーやさーちゃんにも“今は”話さない方がよさそうだね。

うん!わかったよ。じゃあ作戦が成功した暁には、もう一度連絡して。

アタシとフェイ君で迎えに行くから〜♪」


あーちゃんの言葉からアタシは、その言葉に含まれる意図や思いを理解した結果…『あーちゃんの動向については誤魔化すべきだな』と判断したの。


『…ありがとう、姉さん。わかった。早苗から作戦成功の報告がきた暁には、必ず姉さんに念話を掛けるな』

「うん!頼んだよ〜」


そうあーちゃんに対してアタシは返事を返すと、そのまま念話を切ったの。



アタシの念話が終わり…よく見ると、真人君達がアタシをジッと見ていたんだ。



アタシは、アハハと笑いながら真人君達に声を掛けたの。


「さっきのは、アタシの妹で〈放蕩者の記録〉のギルドマスターからの念話でね…ちょっと頼まれ事をされただけだよ♪」


アタシのその言葉を聞いた真人君達は、これ以上追及するつもりは無いのか…その後はアル君達との会話を楽しみ始めたんだ。



──ただ一人、さっきのあーちゃんとの念話の中で名前が挙がったフェイ君は、アタシの傍へと近付いてきた。


「(先程、私の名前が出ていましたが…一体、何の話ですか?)」


アタシの会話の端々から、周りにペラペラと話していい内容では無い事を察していたフェイ君が、周りに聞かれない様に小声で話し掛けてくる。


「(うん。さーちゃんが〈ホネスティ〉のメンバーを巻き込んで、〈ハーメルン〉に喧嘩売りに行ったんだって)」

「(はあぁぁぁぁぁ?!!)」


アタシの言葉に、フェイ君が小声ですっとんきょんな声を上げる。


「(…あの人は、〈大災害(この状況)〉でも相変わらずですね…

…で?そこが、私とどの様に関係してくるのですか?)」


若干さーちゃんに呆れつつも、フェイ君は自分の名前が出てきた理由を尋ねてくる。


「(さーちゃん、その時に〈ハーメルン〉に所属させられてる初心者の子らを保護するつもりなんだって。

さーちゃんは、保護した初心者をあーちゃんのギルドに入れる事も視野に考えてるみたいでね〜

…で、あーちゃんはこの後予定が入っていて忙しいから…もし、あーちゃんのギルドに入る事が正式に決まったら、代わりにアタシに迎えに行って欲しいって頼まれたの。

その場合、初心者の子に色々と説明する時に説明上手なフェイ君に同行して欲しいんだ〜)」


アタシの言葉に、少し考える様な仕草をしてから…フェイ君は承諾してくれた。


「(…成程。そういう事情なら協力しましょう。私も、〈ハーメルン〉に所属させられている初心者達の事が気掛かりでしたし。

少しでも初心者達を助ける事に繋がるのなら、手助けしたいですしね)」

「(ありがとう、フェイ君!作戦が成功したら、あーちゃんが念話を掛けてくれるから…その時は、宜しくねぇ〜♪)」

「(了解しました)」


フェイ君から協力する事への承諾がもらえたので…アタシは、幌馬車をアキバの街に無事に辿り着ける様に護衛する事に専念する為に意識を切り替えたの。






◇◇◇






──アキバの街の南側、〈ブリッジ・オールエイジス〉を無事に渡り切り…〈放蕩者の記録〉のギルドハウスの前へと辿り着いたアタシ達は、早朝から長々と続いた幌馬車の護衛の依頼を見事に完遂したの。



ギルドハウスから出てきた天音が、御者のライオスさんに謝礼の金貨を手渡した後…ベル君,ザッキー,アルトちゃん,キルちゃんがライオスさんに近付き、帰り道の護衛として一緒に同行する旨を伝えている様だ。




アタシは、〈放蕩者の記録〉のサブマスであり…弟の幸村─ゆっきーに、真人君達ギルド〈聖なる鐘〉を置いてもらえないかを伝えたの。



──勿論、真人君の事情や出会った経緯を説明し、〈放蕩者の記録〉のギルドハウスを利用させてもらう上で守らなければならない秘密等についてをきちんと話した事…真人君達は、それらを理解した上で了承した事まで話し終えた後、ゆっきーは「わかりました」と返事をしたの。


「えっと…〈聖なる鐘〉のギルドマスターの真人君だね?」

「はい」

「僕は、〈放蕩者の記録〉のサブギルドマスターの幸村です。

ようこそ、〈放蕩者の記録〉へ。僕達は、君達〈聖なる鐘〉を歓迎します。

ギルド参入ではありませんが、僕達〈放蕩者の記録〉は…君達の様な困っている人達の為の受け皿だと思っています。

…なので、挑戦してみたい事等があれば気兼ねなく言って下さい。

僕達は、資金や物資でそれを支援・援助しますから」


ゆっきーは、優しい笑顔と語り口で真人君達に話し掛けたの。



真人君達は、ゆっきーの見せた優しさに…「ありがとうございます」と言葉を口にした後、『もう…ギルドの仲間達だけで不安な毎日を過ごさなくていいのだ』という安堵感から皆は泣き出してしまったの。



──その様子を見守っていたアタシの耳に突然、念話の呼び出し音が聞こえてきた。



アタシはステータス画面を呼び出し、相手を確認すると…それはあーちゃんからだった。



念話を繋ぐと、あーちゃんが話し掛けてきた。


『あ、姉さん。早苗達の作戦は成功したそうだ』


あーちゃんからの第一声は、さーちゃん達の『〈ハーメルン〉襲撃計画』が成功したという喜ばしい結果報告だった。


「おー、無事成功したのか〜…良かった良かった」


さーちゃん達の作戦が無事成功した事をアタシは心から喜んだ。


『保護した初心者は三人だが…『テルオ君』と『よりこちゃん』は脱退するが、『トウヤ君』は残るそうだ』


あーちゃんの話はそのまま続き…次に、保護した初心者の子達の処遇についての報告へと移り変わり…保護された初心者三人のうち一人が〈ハーメルン〉に留まると聞いた時、アタシにはその子─トウヤ君の意図を瞬時に理解した。


「…はぁ〜、まだいる初心者達の為だね…」

『あぁ、その通りだ。

人質としてギルドホールに閉じ込められている双子の『ミノリ』という子や他の初心者達を守りたいそうだ』


あーちゃんの口から語られたのは『トウヤが〈ハーメルン〉に残る理由』で…それを聞いたアタシは、深い溜め息を洩らした。


「トウヤ君って子、凄く良い子だね。…そんな風にお互いを思いやり助け合える様な良い子らに、彼奴らは…」


アタシは、再び〈ハーメルン(アイツら)〉に対する怒りを覚える。




──嫌いだ、嫌いだと〈ハーメルン(アイツら)〉の話を聞く度にいつも思っていたのだが…アタシは今回でさらに嫌いになった。


(…うん。やっぱり一度〈ハーメルン(アイツら)〉は、全員まとめて『神殿送りの刑』に遭わさせないといけないね!)


そんな─〈円卓会議〉を立ち上げた後の〈円卓〉のメンバーが聞いていたら、確実に大反対しかねない様な物騒な制裁(PK)を実行する─という、とんでもない考えを思いつきながら…アタシは、あーちゃんの話を聞き続ける。


『保護した初心者達は、脱退後に一旦〈三月兎の狂宴(早苗の所)〉で待機させるそうだ』

「OK〜♪さーちゃんの所に迎えに行けばいいんだね?」

『後、早苗に貸し出してある〈雲隠れのマント〉六枚も全て回収してきてくれ』

「りょ〜か〜い♪」


そうあーちゃんに返事を返したアタシは、念話を切った。



アタシは、早速迎えに行く為にフェイ君へと声を掛ける。


「フェイ君、さーちゃん達の作戦が成功したって」

「それは良かったです」

「それで、初心者の子を二人保護してギルドを脱退させた後に〈狂宴(さーちゃんの所)〉で待機してもらってるそうだから迎えに行ってくれって言われたよ」


アタシの説明を聞いたフェイ君は、アル君達に駆け寄り…『用事ができたので出掛ける』という旨を手早く簡潔に伝えると、素早くアタシの元へと戻ってきた。


「所長、行きますよ」

「え!?今すぐ?!!」

「当然です。今回は迅速に動かないと、全てが水の泡となってしまいます」


そう言っているフェイ君の表情は真剣で…彼が、保護されている初心者の子らの事を思って本心から言っているのだという事を読み取る事ができた。




──そんなフェイ君の心遣いを…思いやりを無駄にする程、アタシも馬鹿じゃない。



「…わかった。今すぐ、〈三月兎の狂宴(さーちゃんの所)〉に向かおう」


アタシは、真人君達〈聖なる鐘〉の皆をゆっきーとアル君達に任せ…〈三月兎の狂宴〉のギルドハウスへと急ぎ向かう事にした。






◇◇◇






──〈三月兎の狂宴〉のギルドハウスに辿り着くと、中から賑やかな話し声が聞こえてきた。



アタシは、来訪を知らせる為に軽く数回扉をノックして〈三月兎の狂宴〉のギルドハウス内へと入った。


「お久しぶりです、早苗さん」


フェイ君がさーちゃんに挨拶をしている。


アタシも、それに続いて挨拶する。


「さーちゃんおひさ〜♪」

「あ、夜櫻先輩お久しぶりです〜♪フェイ君も久しぶり〜♪」


さーちゃんもアタシ達に明るく挨拶を返し、アタシに抱き付いてくる。



──アタシはそれを拒む様な事はせず、さーちゃんを優しく受け止めてあげ、よしよしと頭を撫でてあげた。



さーちゃんはアタシに頭を撫でられながら、本当に嬉しそうな表情をしている。



──うん。さーちゃん、可愛いぞ!!




アタシは、さーちゃんの頭を撫でる手を止めないで〈ホネスティ〉の幹部の人達と社交辞令を交わした。


「おやこれはこれは。〈渡り姫ワンダー・マジェスティ〉のお出ましですか」

「てっきり御前本人かと思っておりましたわ」


十条さんと菜穂美さんが、あーちゃんが来なかった事を気にしてるみたいなので…あーちゃんと事前に打ち合わせあった通り、アタシはこう言ったの。


「あーちゃんはちょっと忙しくてね〜♪」


アタシの言葉に、菜穂美さんが食い付いてくる。


「一体何をなさっておいでなのですか?出来ればわたくし達にもご教授頂きたいですわ」


菜穂美さんがそう言ってきたけど…あーちゃんと決めた通り、アタシはこう誤魔化しておいた。


「さぁ〜、詳しい事は知らなくてさ〜あははははは」

「にょほほほほほ」

「うふふふふふ」


十条さんも菜穂美さんもこちらに向けて火花を散らしてくるので、アタシも応戦してやる。



視界の片隅にシゲさん、とっしー、フェイ君の三人が軽く冷や汗を流しているのが見える。




──気のせいかな?三人の顔色、少し悪くない?




──ちなみに…さーちゃんは、アタシの胸の中で幸せそうに頭を撫でられ続けているという状態だ。




──うん。やっぱりさーちゃん、すごく可愛いぞ!!




流石に、このままでは駄目だと思ったのか…フェイ君が躊躇いがちにアタシに声を掛けてくる。


「あ、あの、所長、そろそろ…」

「あぁごめんねぇフェイ君」


フェイ君からの制止もあり、アタシはさーちゃんを撫でる手を止めないまま…初心者の子達の方へと向こうとして…その途中でよー君とまーちゃんに気付き、二人に向けて微笑みかける。



二人はそれに気が付いたみたいで…視界の隅で二人が少し会釈する姿が見えた。



それを心の中で微笑ましく思いつつ、アタシは二人の初心者へと向き直り、声を掛けたの。


「テルオ君とよりこちゃんね」

「「は、はい」」


アタシからの声掛けに、初心者の二人は顔を強張らせて返事をしている。



──思った以上に、〈ハーメルン〉での体験が初心者の子らの心に深い傷跡を残している様だ。



アタシは、二人を怖がらせない様に優しく微笑みかけながら話し掛ける。


「さて、最終確認だよ。

本当にあーちゃんのとこでいい?こっちとしては別に何処でもいいんだよ?

〈ホネスティ〉でもさーちゃんのとこでも…」


アタシのその言葉に、初心者の二人は少し躊躇いがちだったけど答えてくれたの。


「…私達、さっき話し合ったんです…」

「ほとぼりが冷めるまでは…俺達、目立つギルドには居ない方がいいかもって」



──さらに二人の話を聞いていると、リリーちゃんっていう…さーちゃんの知り合いの女の子とは、あーちゃんのとこにいても自由に会いに行けるという事も決め手の一つになったらしい。



その話を聞いていて…アタシの脳裏には弁護士という仕事柄、知識として知っている北米のある制度が浮かんでいたの。


「あぁ〜、成程…証人保護プログラムね…分かった、二人の決意が本物ならいいよ」


アタシは、二人が自分自身で決めたその決断に納得したの。



初心者の二人との話が終わり…アタシは、さーちゃんの頭を軽くポンポンと叩く。



それを受けて、さーちゃんはアタシから素直に離れたの。



それを見ていたフェイ君は、頃合いとばかりにさーちゃんに近付き…アタシとの事前の情報共有で聞いていたあーちゃんの所から貸し出されていた〈雲隠れのマント〉を『回収するので渡して欲しい』と話し掛け、さーちゃんから〈雲隠れのマント〉を受け取っている。


アタシは、初心者の二人へと声を掛ける。


「そんじゃあ行こうか」

「は、はい!」

「よ、宜しくお願いしまひゅっ」


緊張していた為か…テルオ君が思いっきり噛んだ。



テルオ君のその様子が…その場を支配していた重苦しい緊張を孕んだ空気を打ち壊し、張り詰めていた緊張の糸が急速に緩んで周りから失笑が沸き起こり、場は和やかな雰囲気に包まれる。


「ちょっとテルオ〜!何やってるのよ〜!」

「そうよ〜、大事な所じゃない」

「い、いやだって緊張して…二人ともそんなに笑わないでくれよ〜」


リリーちゃんとよりこちゃんの二人に弄られて、恥ずかしさのあまりに顔を真っ赤にしたテルオ君がオロオロしている。



アタシ達は穏やかな雰囲気の中、その三人のやり取りを温かく見守っている。




──少なくとも…三人は、こんな賑やかなやり取りができる位には心に余裕ができたみたいだった。






◇◇◇






──三人の一通りの賑やかなやり取りと笑みを含んだ和やかな雰囲気が落ち着いた頃、フェイ君がさーちゃんから回収した六枚の〈雲隠れのマント〉の内二枚をテルオ君とよりこちゃんに身に付けさせる。


「こうすれば、ステータスを読まれませんからね」

「顔を隠せば、ギルド会館に行っても素性がバレないから安心だよ」


フェイ君とアタシが、優しく語り掛ける様に話し掛けたのだけど…テルオ君とよりこちゃんはすっかり恐縮しちゃっていて、ただただコクコクと頷く首振り人形状態になってしまっている。



そんな二人の様子を少しの間微笑ましく眺めていたけど…すぐに気持ちを切り替えて、さーちゃん達に別れの挨拶をする。


「んじゃ、さーちゃん、よー君、まーちゃん、またね」

「あいさー!」


手を振りながらのアタシの別れの挨拶に…さーちゃんは敬礼、よー君とまーちゃんはお辞儀で返してきた。



さーちゃん達と別れを済ませたアタシは、フェイ君,テルオ君,よりこちゃんを連れて〈三月兎の狂宴〉のギルドハウスを後にしたの。










──ギルドハウスを出る直前、フェイディットと土方歳三の二人の間で「土方君、今回は早苗さんのお守りをご苦労様です」「フェイディットさんこそ、ほぼ毎日の所長への付き添い…ご苦労様です」という会話を夜櫻と早苗に内緒で密かに交わしていた事は、ここだけの秘密である。






◇◇◇






──〈三月兎の狂宴〉のギルドハウスを出たアタシは、〈魔法鞄〉から〈金狐の仮面〉と〈銀狐の仮面〉を取り出して…〈金狐の仮面〉をテルオ君に、〈銀狐の仮面〉をよりこちゃんに手渡したの。



「テルオ君、よりこちゃん。この仮面を被るといいよ」

「これは?」

「何ですか?」


仮面を渡されて、二人は少し困惑している様だ。


「…今からね、ギルド会館に行って君達のギルド登録を済ませようと思うんだけどねぇ〜

道中やギルド会館で〈ハーメルン〉の連中とバッタリ出くわすとヤバイっしょ?

…だから、〈放蕩者の記録〉のギルドハウスに辿り着くまでの間、君達の顔を隠す為のアイテムだよ」


アタシの説明を聞いて納得したテルオ君とよりこちゃんは、素直に渡された仮面を被ってくれたの。



テルオ君が〈金狐の仮面〉を…よりこちゃんが〈銀狐の仮面〉を被り終わり、綺麗に顔が隠れているかをアタシが確認していると…フェイ君が〈雲隠れのマント〉に付いているフードを被せていたの。


「これでパッと見には〈ハーメルン(彼ら)〉に、君達であるとは気付かれないでしょう」

「あ、はい!」

「ありがとうございます!」


テルオ君とよりこちゃんがフェイ君にお礼を述べている。


「じゃあ、ギルド会館に向けて…レッツ!ゴ〜♪」


アタシのその掛け声を合図に、アタシが先頭に立って歩き出し…その後ろを慌ててテルオ君とよりこちゃんが付いてくる。そして、フェイ君が溜め息を吐いて二人の少し後ろの位置に付いて歩き出した。



──おそらくフェイ君は、後方警戒の為にその位置に付いたんだろうね。



アタシ、テルオ君とよりこちゃん、フェイ君の順番で…アタシ達はギルド会館を目指す事にしたんだよ。






◇◇◇






──夜櫻さんはギルド会館に向かう間、私達に〈放蕩者の記録〉ってギルドがどんな所なのか…お話して下さいました。



そこは、私達がいたギルド〈ハーメルン〉と違って…やってみたい事があれば色んな事に挑戦させてもらえるだけでなく、私達みたいな困っている人達を手助けしているサポート系ギルドっていうものだと言っていました。



他には、ギルドの幹部の人達はとても個性豊かな面白い方々だとか、ギルドメンバーの中には少し変わった方々がいらっしゃるとか、ギルド内でのちょっとした失敗談だとか…話を聞いていて、私もテルオも思わず笑ってしまう程楽しい話ばかりでした。




──楽しい話を聞いている内に、私達はギルド会館に辿り着きました。




会館内では、〈ハーメルン〉の怖い人達と何度かすれ違いましたが…夜櫻さんの貸して下さった〈銀狐の仮面〉とフェイディットさんが貸して下さった〈雲隠れのマント〉のおかげなのか…気付かれないで済みました。




…けど、やっぱり怖いものは怖いので…ギルドの入会登録というのをして、ギルド会館を離れてしまうまで…気付かれたりしないだろうかと、不安で不安で本当に怖かったです。




──ギルド会館を離れて、〈放蕩者の記録〉のギルドハウスって場所に向かう間夜櫻さんが話してくださったのは、〈エルダー・テイル〉がゲームだった頃に夜櫻さんがした冒険の話でした。




冒険の話は聞いていて、私もテルオも…時にドキドキしたり、時にワクワクしたり、時に驚いたり、時に笑ったり、時に泣いたりしました。




冒険の話を聞いている内に、いつの間にか〈放蕩者の記録〉のギルドハウスに到着していて…私達は中へと入りました。




私もテルオも…夜櫻さんの話で〈ハーメルン〉とは違う事は聞いていましたが…やっぱりギルドが怖いって気持ちがあって、ギルドハウスの中に入って数歩歩いた後…私もテルオも、突然身体が震え出して足が止まってしまったの。




そしたら、夜櫻さんが突然しゃがんで私達に声を掛けてきました。


「テルオ君、よりこちゃん。よく聞いて」


そう声を掛けてきた夜櫻さんは、さっきまでの『明るくて楽しい人』って感じとは違って…大人の人だなぁって感じになっていたから、私は思わずビックリしました。


「貴方達は、本当に運がいいのよ?

早苗が助ける事を考えて、その考えが〈ホネスティ〉の幹部を動かし、朝霧の協力すら取り付けて…貴方達を助け、気にかけてくれる人達がいる事はとても運がいい事なのよ。

このギルドには、海外の〈冒険者〉の人達もいるけれど…海外の方はもっと酷くて、貴方達の様な弱い立場の人達を平気で切り捨てる様な酷い人が多いらしいわ」


夜櫻さんの話を聞いて…私もテルオも、言いたい事が何となくわかりました。




──つまり、『このギルドは怖がらなくても大丈夫なんだよ』って事を夜櫻さんは伝えたいのだという事が。




だけど、やっぱり身体の震えはなかなか止まらなくて…そんな私達の様子を見ていた夜櫻さんは私達を優しく抱きしめてきました。


「ごめんね……。アタシ達、大人が本当は貴方達の様な子どもを守ってあげなきゃいけないのに…どうしたらいいのかわからなくて困っている貴方達を放っておいたばかりに、〈ハーメルン〉っていう悪いギルドに騙されて、酷い思いをして…苦しんで…。本当に…ごめんね…」


私達を抱きしめたまま…夜櫻さんはそう言って、謝っていました。



いつの間にか私達の身体の震えは止まっていたので、私達はお互いに頷き合って夜櫻さんに言いました。


「夜櫻さん、なんで謝るのですか?むしろ、私達は夜櫻さん達に感謝しています」

「夜櫻さん達は、俺達を助けてくれて…ここまで連れて来てくれました。

それに…こんなにも、俺達の事を気にかけてくれて…感謝以外の言葉なんて浮かびませんよ」

「テルオ君…よりこちゃん…」


私達は夜櫻さんにニッコリと笑いかけてから…〈ハーメルン〉に残ったトウヤ君達の事を思い出して…悲しくなってしまいました。


「トウヤ君達、大丈夫かな…」

「心配、だね…」


トウヤ君達の事を思い出して悲しい気持ちになった私達に、夜櫻さんは微笑みかけてこう言いました。


「大丈夫だよ。テルオ君、よりこちゃん。

古今東西、『悪の栄える事は無し』

弱い立場の人達を虐げ、悪事を行っている〈ハーメルン(彼ら)〉は…いつかそれ相応の罰を受ける筈よ。

…ううん。アタシの手で、いつかそれ相応の罰を与えて、貴方達の苦しみを少しでもわからせてあげるよ!」


そう言ってくださった夜櫻さんの気遣いの言葉に…私達は、嬉しさのあまりに涙が溢れてきて…「ありがとうございます…」と、小さく感謝の言葉を呟くのがやっとでした。






◇◇◇






──テルオとよりこは知らなかった。




夜櫻の『アタシの手で、いつかそれ相応の罰を与えて、貴方達の苦しみを少しでもわからせてあげるよ』と二人に語りかけた言葉は、二人の事を思って語りかけた気休めの言葉では無く…正真正銘、本気で〈ハーメルン〉のメンバー達を襲撃(PK)すると宣言した事に…










──この時から約1ヶ月近くが経ち、アキバの街に自治組織〈円卓会議〉が設立した後…ギルド〈ハーメルン〉は解散。




元〈ハーメルン〉のメンバー達は、アキバの街を一度は立ち去るのだが…アキバを立ち去った筈の彼らが、何故かアキバの大神殿で全員復活するという謎の事態が起こる。




それを不思議に思った〈冒険者〉の一人が彼らに尋ねてみるが…全員が口を揃えて証言したのは、『〈修羅姫〉が現れた』と言う言葉のみで…その事を語る時の彼ら全員の様子は、何か凄く恐ろしい者に遭遇し、凄く恐ろしい目に遭ったという恐怖に怯え震えていたという話であったそうだ…

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ