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ログホラ二次創作短編集  作者: 櫻華
ゲーム時代(大災害前)編
6/16

咲良(夜櫻)先輩が『オコ』でした…(泣):早苗談☆

今回は、妄想屋様の『太陽の貴公子番外編』の「舞ちゃんが酔っ払いました」《http://nk.syosetu.com/n1909cm/7/?type=h&guid=on》の後日談的な話となっております。



それから、wildcats3様の所より…レオ丸さんに名前のみですが、登場して戴いております。



また、早苗さん達の台詞や一部の内容表現は妄想屋様監修となっております。




妄想屋様、ご協力ありがとうございました。






なお、話を書く際に『未成年者飲酒禁止法』より条文を一部抜粋しております。




──2018年、東京都・某所。



──早朝、早川弁護士事務所。






──今事務所ここには、昨日から書類整理で徹夜をしたメンバー達が…徹夜明けの眠い目を擦りながら朝を迎えていた。


「うー…眠い……。あっきー…、かずっち戻って来た〜?」

「んー…大谷君ですか…?まだみたいですよ……」


この事務所の所長と副所長が、お互いに眠そうな目を擦りながら私用で現在不在中のメンバー─大谷和博が事務所に戻ったかどうかの問答をしている。


「所長、副所長。徹夜明けで、眠いのはわかりますが…ボーッとした頭では、まともに思考なんて出来ませんよ?」

「洗面所で顔を洗うか、仮眠室で仮眠を取るかの…どちらかの行動を行って下さい」


案件を抱えている事で昨日の書類整理を免除され、朝早くに事務所へと出勤してきた長谷川拓真と井上瑞穂の二人が眠そうな所長と副所長へと声を掛ける。



二人の気遣いに心の中で感謝しつつ…所長は顔を洗いに洗面所へ、副所長は仮眠を取りに仮眠室へとフラフラとした足取りで向かう。



所長と副所長のその様子に…拓真と瑞穂はお互いに顔を見合せ、苦笑いを浮かべた。


「所長に、目覚めのコーヒーを淹れてきますね」


そう言って、瑞穂はコーヒーを淹れに給湯室へと向かう。



拓真は「やれやれ」と軽く溜め息を洩らして、各々にデスクやソファー等で撃沈している徹夜組を起こさない様に注意しつつ…室内の簡単な片付けと掃除を行う。


「あ、拓真君。すみません、雑用をさせてしまって……」


室内を掃除している拓真に、申し訳なさそうな表情で女性が声を掛ける。



□■□



彼女─高崎結香たかさきゆかは、この早川弁護士事務所で経理・事務担当として雇用されており…事務所の経理と事務処理を一手に引き受けてくれている。



その為、経理・事務専用の資格を多数取得している優秀な事務所メンバーであり…実は、現在交際中の拓真の恋人でもあるのだ。






──しかし…近頃は『セクハラ』だけでなく、『パワハラ』、『マタハラ』、『アルハラ』等の裁判案件で早川弁護士事務所は多忙になり…現在では結香一人だけでは手が足りなくなってしまい、今回の様に案件を抱えている者を除き、事務所メンバーすら駆り出して事務処理を行っている様な状況に陥っている訳であるのだが……



■□■



「うー……。ゆっちゃん以外に後二人程、事務業務担当を増やそうかな……」


まだ多少眠そうな目を擦りながら、所長─早川咲良が独り言をぼやき、それを聞いていた拓真と結香が苦笑いを浮かべた。






◇◇◇






「たく君、ゆっちゃん。かずっちは、まだ戻ってきてないの?」


瑞穂の淹れてくれたブラックコーヒーを飲み、多少は眠気を吹き飛ばした咲良は…書類を各々の案件ごとのファイルに纏め、資料用の棚へと片付けている拓真と結香へと問い掛けた。


「いいえ」

「まだみたいです」


咲良の問い掛けに、拓真と結香の二人は揃って首を横に振る。


「それなら、さっき駐車場にそれらしきワゴン車が入っていってましたよ」

「私は事務所に来る途中で挨拶されました〜」

「私も、先程見かけました」


そう咲良に返答したのは、この事務所のメンバーで同じく書類整理を免除され…つい今しがた出勤してきた南仁美,石井真由,青木佳奈あおきかなの三人だった。


「そうなの?ひーちゃん、、まゆちゃん、かなちゃん」

『はい』


咲良の確認の問い掛けに、三人は異口同音の返事を返す。




──すると、事務所のオフィスのドアを開けて話題に挙がっている大谷和博が室内へと入ってきた。




「すみません、遅くなりました!」

「それだけ祝宴が盛り上がったんでしょ?かずっち。

多少出勤が遅くても、アタシは気にしないからね」


開口一番に謝罪を述べる和博に、ニコリと笑顔を見せながら咲良はそう言葉を述べた。






◇◇◇






「新年会とまーちゃん達の成人祝いを兼ねたオフ会は楽しかった?

……まぁほぼほぼ、さーちゃんが一人で大騒ぎするだけだろうけどね〜」


和博に掛けた咲良のその言葉に…〈エルダー・テイル〉プレイヤーである拓真,瑞穂,仁美,真由の四人と、一度だけ朝香主催のオフ会に参加させてもらった結香が苦笑いを浮かべる。


「ええ、オフ会の出だしはいつも通りでした。

……“アレ”が起こるまでは」


和博の言動から…何かを察した咲良は表情を険しくさせる。


「“アレ”…?」

「何があったのですか?」


拓真と仁美の二人が各々に和博へと尋ねる。


和博がそれに答えようと口を開こうとしたが…咲良がそれを手で制す。


「話を聞くより、まずは和博が撮ってきたビデオカメラの映像を見ましょう」


険しい表情をしたまま…咲良がそう述べ、頷いた和博と拓真が手早くカメラをテレビに繋いでセッティングを済ませる。


「では、再生しますね」


和博がそう一声掛けた後にカメラの再生ボタンを押した。




──映し出された映像は、毎回のオフ会でお馴染みの…笑いながらビール瓶を両手に持ち、豪快にビールをラッパ飲みしている早苗の姿が映っている。


「早苗さんは、相変わらずですね…」


映像を見て苦笑いを浮かべながら、拓真が第一声を発する。


「いつも思うんだけれど、こんなお酒の飲み方をして大丈夫なのかしら?」


次にコメントを述べた仁美は、早苗の身体の心配をしている。


「凄く豪快に飲んでらっしゃいますね……」


次にコメントした結香は、拓真と同じ様に苦笑いを浮かべている。


「うわ〜、無いわ〜。これは無いわ〜」


次にコメントした真由は、映し出される早苗の酒の席での行動の数々を見て首を振りながら否定する。


「相変わらず、女性らしさの欠片もありませんね」


次に述べられた瑞穂のコメントは、早苗の事をバッサリと切り捨てる。


「所長、誰ですか?

この女子力0で女らしさ皆無の残念な感じの女性は?」


最後は、この中で唯一〈エルダー・テイル〉もオフ会も知らない…というより、MMORPG自体の未経験者である佳奈は、映像を見た率直な感想と疑問を咲良にぶつけた。


「アタシと妹の朝香にとって、大学の後輩に当たる子で…早苗っていう名前なんだよ」

「そうなんですか…

でも確か、所長も所長の妹さんも東大卒でしたよね?

この方、とても東大卒(そんな風)には見えませんけど……」


佳奈の率直な意見に、早苗の人となりを知っている皆が苦笑する。



□■□



──確かに…早苗をパッと見た感じ、とても東大卒業生には見えないだろう。



しかし、早苗は東大への入学及び卒業を人一倍も努力し、咲良や朝香,彼女の姉である愛子から受験や卒論の助言等を貰いながら頑張って卒業したという過去がある。




──まあ、入学受験や卒論提出直後の頃に早苗は『姉さんはやっぱり怖い』と何故かひどく怯えていたのだが……



■□■



──映像(オフ会)はさらに時間が経過し、途中で陽輔がトイレで席を立つ。



それからあまり間を置かず、カメラを撮影している和博の声を拾う。


『すみません。副所長の保坂さんの指示で、定時連絡を入れる様に言われているんです。

少しの間だけ、撮影を代わってくれませんか?』


和博の頼みをオフ会参加者の一人が快く引き受けてくれ、和博は定時連絡でしばしの間退席をする。



すると、陽輔を見送った舞に忍び寄った早苗がトンでもない事を始めた。


『大丈夫だって!ビールなんてアルコール少ねぇんだからよ!一口や二口ぐらいイケるって!』


そう言って、まだ未成年の舞にビールを勧める。


「……いや、駄目でしょ!舞ちゃん、まだ未成年だし!!」


拓真が、思わず映像の早苗にツッコミを入れる。



──その後も、酒を断ろうする舞を『陽輔との為だ』的な意味合いの言葉で誘惑している。



『予行演習だよ、グラス半分とかなら舞だってイケるって!』


悪魔の囁きの様に早苗から勧められ、舞は意を決してビールを口にした。


「「「「「あ〜あ……」」」」」


咲良を除いた…映像を見ていた一同の口から一斉に呆れの感情がこもった一言が飛び出す。






その後は、酔った舞によって引き起こされた悲惨な状況だ。




──主に早苗が…(笑)




舞が酔い潰れ、早苗が燃え尽きて…オフ会はそこでお開きとなり、そこで映像は終了した。




「「「「「……」」」」」




──映像を見終わった後、全員がしばしの間絶句していた。




しばらくの沈黙の後、最初に口を開いたのは瑞穂だった。


「……自業自得ですね」


いつも通り、バッサリと切り捨てた。


瑞穂の発言を皮切りに、他の面々も次々に発言し始める。


「未成年にビール飲ませるとか無いわぁ〜」

「これ、未成年者の監督代行者としては完全にアウトでしょ」

「舞ちゃんは、やっぱり母親の愛子さんの酒を飲めない遺伝子を受け継いでますね」

「え!?舞ちゃんって子、大丈夫なんですか!!?」

「俺は、既に愛子さんと共に映像を一通り見てましたが……やはり何度見ても、呆れますね」


まず、真由が呆れ混じりの否定的な発言を述べ、佳奈が弁護士視点の発言を行い、仁美は舞と愛子の体質的遺伝の話をし、結香が舞の事をとても心配し、最後に和博が心底呆れ果てた表情でコメントを述べていた。


「……所長?」


一同が各々に、思い思いの発言をする中…一切発言をしない咲良に拓真は恐る恐る様子を伺う。




──いつもなら、「全く。毎回の事だけど、さーちゃんには困ったもんだね」という苦笑混じりの言葉か「アハハハハ!さーちゃん本当に面白すぎだよ〜」という爆笑しながらの言葉が飛び出すところなのだが……今の咲良は、険しい表情のままで終始無言を貫いている。




「所長…?どうかされましたか?」


思わず問い掛ける和博に、咲良は一切の感情を込めずに静かに言い放った。


「和博、すぐに仮眠と朝食を取りなさい。

それと、悪いけれど…昼過ぎ頃に早苗を事務所ここまで連れてきて」

「は、はい…」

「「「「「しょ、所長〜!?」」」」」


咲良のいつも違う言葉と様子に…声を掛けられた和博も他の一同も一瞬唖然とし、戸惑いを隠せない様子だった。






──そこには、いつもの早苗の行為に対する反応とも普段の感情を顕にして怒る時とも違い…早苗の事を静かに怒る咲良の姿があった。



□■□



──昼前、早苗の自宅。



そこへ一本の電話が入る。


「もしもし?」


電話を取ったのは早苗…ではなく、その姉である愛子。


『あ、愛ちゃん?』


電話口に出たのが元大学の後輩である愛子だと判った咲良は、電話をかけた詳しい経緯と昼頃に早苗を迎えに和博を寄越す旨を手早く話す。


「分かりました。早苗には、私から伝えておきますね」

『宜しくね』


そう言って咲良から電話が切られると、愛子は早苗の居る仏間へと向かった。



■□■



──仏間では、未だ正座中で…心なしかゲッソリとした様子で未だに「ごめんなさい」と呟き続ける早苗と、それを複雑な表情で眺めている陽輔と舞の姿がある。




そこへ、愛子が入ってきて早苗へと声を掛ける。


「早苗」

「うぁい?」


ゲッソリした様子のまま、早苗は返事をする。


「ご飯食べたら咲良先輩の事務所に行きなさい。さっき連絡来たから」


ニッコリと笑顔でそう告げる愛子。でも、笑顔は怖いもの。


「ふぇっ?」


当の早苗は、咲良に事務所に呼ばれる理由が分からない為、すっとんきょんな声を出す。


(多分昨日の事だな…舞ちゃんにお酒飲ませたし)

(多分昨日の事ね…暴れてたし)


早苗が呼び出される理由に見当がつく陽輔と舞は、すぐに昨日のオフ会の件だと推測する。


(一体何だろう…姉さんの笑顔も怖いし…)


未だに呼び出された理由に見当もつかない早苗は、そんな事を思考している。


「僕達も行きます」

「当事者だし…」


苦笑いを浮かべながら、陽輔と舞が各々に述べる。


「そう、分かったわ。じゃあお願いね。

先輩達には二人も行くって連絡しておくから」


そう言って、咲良に連絡する為に愛子は仏間を後にする。




──未だに疑問顔の早苗を余所に、この後に待っているだろう展開を思い…陽輔と舞は知らず知らず、溜め息を洩らしていた……






◇◇◇






──昼過ぎ、早川弁護士事務所。




──早川弁護士事務所のオフィスの一角…応接室には今、七人の人物がいる。




一人は、呼び出された人物にして…『早苗』当人。



一人は、呼び出した人物にして…この事務所所長の『咲良』本人。



二人は、呼び出された早苗の付き添い人である陽輔と舞。



残り三人は、呼び出した側の関係者であり…この事務所副所長である保坂秋人と、事務所所員の拓真と和博である。




□■□




咲良と早苗は向き合う様にソファーに座り、早苗を挟む様に両脇に陽輔と舞が各々腰掛け、咲良の隣の席には秋人が腰掛け、咲良の後ろに拓真と和博が控える様に立っている。



何故か咲良は…普段のとても明るく、友好的で飄々とした和やかな雰囲気では無く…ピリピリとした空気というか雰囲気を纏っている。



そんな咲良の纏う雰囲気に、緊張からか圧倒されてなのか…呼び出された早苗だけでなく、付き添い人の陽輔と舞や同席している秋人、咲良達の後ろに控える拓真と和博ですら…思わず居住まいを正してしまう。



ついでに早苗の様子を詳しく話すならば、原因不明の冷や汗(※既視感デジャブによる心的外傷トラウマが原因だが)が大量に流れ、若干全身を震わせている事も追加しておこう。



■□■



──本当なら、陽輔も舞も事務所ここに来る理由も必要も無い筈なのだが…昨日のオフ会()の事を考えると、『今度は大谷(土方)さん達にも迷惑を掛けるのでは…?』という疑念が浮かび、付き添い人としてこの場に付いて来たのだが……



「……」

(怒ってる…)

(怒ってる…)


陽輔と舞は、普段の人好きする様な優しい笑顔の咲良の姿を知っているだけに、見事なまでの思考同調シンクロした考えを抱いていた。



□■□



──一方の…早苗は早苗なりに(一応は)考えていた。




(あれ?あたし、咲良先輩に何かしたか…?)


咲良の纏う雰囲気から怒っている事は一応理解出来たが…その原因について必死に考えてはいるものの、早苗は何が原因であるかを一向に思い付かない(と言うより、いつも(※オフ会の松永(レオ丸)法師に対しての行いの数々)は見逃されている率が非常に高い為、『昨日の酒の席での行い=呼び出された原因』という因果関係が頭の中で結び付いていないだけ)。




しかも、現在の咲良の纏う雰囲気は何処と無く…怒った時の姉である愛子や大好きな先輩である朝香が纏う雰囲気に酷似している為、無意識に居住まいを正すだけでなく─流石にソファーで正座は無理なので、正座はしていないが─無意識の恐怖心からくる身体の震えが止まらない状態である。



■□■



──ピリピリした雰囲気を纏った咲良が口を開いたのは……早苗達が応接室に着席してから約十五分が経過した頃合いだった。




「早苗」

「ひぇっ!?」


唐突に咲良から声を掛けられ、早苗はビクリと一際身体を震わせる。


「貴女は、今自分が何をして呼び出されたのかが全く解って無いでしょ。アタシが、一体何に対して怒っているのかも」


咲良のその言葉に、早苗は咲良から自身に向けられる威圧感プレッシャーに怯えながら弱々しく頷く。



ほんの数分のやり取りだが、咲良から感じる威圧感プレッシャーに陽輔達は緊張で息を飲み、汗を流す。



そんな周囲の様子を…普段とは違い、気にする様な素振りは一切見せず…咲良は言葉を続ける。


「昨日の動画を見たよ」

「えっ?」

「早苗だって、普段の仕事でのストレスに現実リアルやゲーム内の人間関係で、精神的に色々と疲れる事があるだろうし…それを発散する為に酒の席で多少は羽目を外したくなる気持ちは解らないでも無いから…ある程度の事には目を瞑ってきたわ」


咲良のその言葉を聞いて、秋人,拓真,和博の三人の思考は完全に一致し、全く同じ事を考えていた。


(あの、だったら酒の席での被害者であるレオ丸さんを助けてあげて下さいよ(助けてあげなよ)…)




──それは、毎度早苗により被害を被る松永(レオ丸)法師の事を思いやり、彼に同情の念を抱いた上での…咲良に対しての苦言だった。



□■□



──実を言うと…咲良(夜櫻)松永(レオ丸)法師を早苗から防衛する為に本気で動いてくれれば、難なく止める事は可能であり…朝香(御前)が毎回酒の席での『松永(レオ丸)法師防衛戦』で頭を悩ます必要が無くなるのだが……咲良が防衛戦で本気で動いてくれたのは、ほんの数回のみで…その為、現在までの防衛戦の勝率は二割程という状況なのである。



■□■



陽輔と舞の二人は二人で、咲良の発言へ思い思いにツッコミを入れる。


(それ殆どレオ丸さんじゃ…)


陽輔のツッコミは、大体の話を聞いているが故のものだった。


(それは出来れば取り締まって下さい…)


舞のツッコミは、たまに聞く話から察した身内の恥故のものだった。




──そんな…秋人達の思考の完全一致や陽輔達のツッコミ等には一切気が付く事は無く、咲良はさらに言葉を続ける。




「でもね、今回のオフ会で…舞ちゃんにお酒を飲ませた件は戴けないね。未成年の舞ちゃんにお酒飲ませちゃ駄目でしょ!」

(はっ!カズが撮ってたヤツ!!)


早苗は、ここにきてようやく咲良の言っていた“動画”がなんであるかを理解する。


「えっ、わ、私ですか!?」


それまでずっと聞き手に回っていた話の内容で、突然咲良から名指しされた舞本人は驚き、アタフタとしている。


「いや、確実に舞ちゃんだよ」


舞のその様子を見て…陽輔は苦笑いしつつも微笑ましそうにそれを見つめているし、秋人達は咲良の醸し出すピリピリした雰囲気ですり減っていた精神が少しだけ癒される。


「カ、カズ裏切ったな!?」

「元々そう言う話でしたよ」


そんな様子の舞達とは対称的に、咲良から向けられる威圧感プレッシャーに早苗はさらに身を縮こませながらも和博に抗議するも…和博は若干呆れ気味にそう言ってかわす。


「早苗」

「ひゃいっ!」

「今時の子供(小学生)でも、『未成年に酒を飲ませたら駄目』って事位は当たり前の様に知っているわよ?

早苗は、もう40代後半のいい大人でしょ?

なのに、未成年である舞ちゃんに酒を飲ませたの?

『未成年者飲酒禁止法』で、あの場での舞ちゃん達未成年者の“監督代行者”の一人である筈の早苗が未成年者である舞ちゃんに飲酒させるなんて…一体何を考えてるの?

それとも、子供(小学生)でも知っているそんな“当たり前の事”を解らない程に貴女は子供(幼児)なの?」

「ぁぅ……」


普段とは違い、辛辣な言葉を投げ掛けてくる咲良に…早苗は顔面蒼白で、小刻みに震える子羊状態である。



咲良と早苗のその様子に…陽輔達は呆気に取られ、ポカーンとした表情でそれを眺めていた。


「法を預かる弁護士として、アタシから言わせてもらえば…『未成年者飲酒禁止法』内の第一条第一項で“満20歳未満の者の飲酒は禁止”されてるし、第一条第二項では“未成年者の親権者や監督代行者に対して、未成年者の飲酒を知った場合に、これを制止する義務”がある事が条文に書かれてるんだよね。

この条文に書かれてる“未成年者”は舞ちゃん達、“監督代行者”は早苗って事だよね?

つまり、本来なら制止する側である筈の“監督代行者”に当てはまる早苗が“未成年者”に当てはまる舞ちゃんに飲酒勧めるって行為は、この条文に違反するって事だよ?

しかも、第三条の第二項には『満20歳未満の飲酒を知って制止しなかった親権者や監督代行者に対して科料かりょう(※1000円以上1万円未満《つまり9999円以下》の金銭を強制的に徴収する財産刑の一種。ちなみに…よく聞く“罰金”は、1万円以上である)を科す』って書かれている訳だけど……早苗、アタシが弁護士だからって甘えてないよね?

『アルハラ』って分かる?

最近の事務所ウチは、『アルハラ』─『アルコールハラスメント』で個人や企業を訴える様な案件が徐々に増えてきている訳なんだよね。

……そんな案件に関わる機会の増えたアタシの知人に、『未成年者飲酒禁止法』を平気で違反する様な人物がいるなんて噂が立ったら…依頼者クライアントや関係者との間に長年築いてきた信用が失墜し、信頼関係を大きく揺るがす様な事態になりかねないって事なんだよ?わかる?」

「ぁぃ……」


咲良の…弁護士として法律を交えつつの説教で、涙声の早苗は最早撃沈寸前だった。



そこに、壁を軽くノックする様な音が室内に響く。



突然聞こえた音に…一同が音がした方を向くと、そこには応接室の入り口になんかかり、腕を組みながら壁に握り込んだ右手を当てている風見康介の姿があった。


「あ、康介先生」

「あ、ランスロットさん」

『康介さん!?』

「……康介、何の用?」


突然の第三者の登場に…陽輔達は驚きの声を上げ、咲良は低いトーンで問い掛ける。


「あ、康介!!」


逆に早苗は、『地獄に仏』…救い主が現れたと思った。




──康介の次の言葉(死刑勧告)を聞くまでは……




「今朝方、愛子さんより話を聞いた母さんに頼まれまして…『早苗さんを家に連行してこい』と呼んでいます。なので、説教の続きは我が家で行って下さい。

あ、ちなみにその話を聞いた秋仍お祖母ばあ様も、現在大変ご立腹ですし…実を言うと、私も舞ちゃんにした事にすごく怒ってます。……早苗さん、覚悟して下さいね」


そう告げた康介の笑顔は、目が全然笑っていない恐ろしい笑顔だった。


「な…なん、だ、と!?」

「朝香も、康介と秋仍さんも、アタシ同様に怒っているみたいだし…風見家に行こうか」


ポン!と怖い笑顔の咲良に肩を掴まれ、早苗がこの世の終わりの様な顔をする。


「じゃあ、僕達も…」


早苗が移動する事になり、陽輔と舞がソファーから立ち上がりかけたが…咲良がそれを片手で制止する。


「陽輔君と舞ちゃんは、このまま残って。

わざわざ早苗に付き合う必要なんて二人には元々無かった訳だし…真由が今、美味しいケーキを用意してくれてるし、それを食べたら和博に送ってもらってお家の留守番でもしててくれないかな?」

「え、でも…」

「舞ちゃん、大丈夫ですよ。

早苗さんは、後で私が責任持って家までお送りしますから」

「は、はぁ…」

「じゃあ…分かりました…」


咲良と康介の二人から、有無を言わせない雰囲気を纏わせながらつつそう言われたら、引き下がるしかない陽輔と舞は…そのまま再度ソファーに腰掛ける。


「た、助けて〜…」


咲良と康介に両脇を掴まれて引き摺られて連行されながら、早苗がそう叫んで退室していく。




──それらの一連の出来事を、唖然としたままの一同が黙って見送った後…出て行った咲良達と入れ替わる様にコーヒーとケーキの乗ったトレーを持った真由と結香が室内へと入ってきた。




「さっき、所長が出て行かれましたが…」

「皆、どうしたの〜?」


結香と真由の問い掛けに、一同はただ苦笑いを浮かべる事しか出来なかった……






◇◇◇






──康介の運転する乗用車で、咲良と早苗は風見家へと到着した。




普段は、大好きな先輩(朝香)に会えるのを胸が踊る程に楽しみな気持ちで訪れている筈の風見家だが……今の早苗の頭の中は、訪れるのが恐ろしい─先輩に会うのが怖い─という思いで一杯に埋め尽くされていた。



「さあ着いたよ」

「では、行きましょうか」

「ひぃっ!」


しかし、咲良と康介が協力(今の早苗からしたら、二人が共謀している様にしか思えない)して風見家へと引き摺っていくので…逃亡する事も叶わない。




早苗は、咲良と康介に両脇を抱えられたそのままの状態で…風見家─朝香の自宅へと無情にも強制連行されていった。






◇◇◇






──朝香の自宅の一角…庭を臨む和室へと強制的に連れてこられた早苗は、咲良,朝香,康介,秋仍の四人に四方向から…姉の愛子と同じ様な怖い笑顔を向けられ、原因不明の脂汗(※既視感デジャブによる心的外傷(トラウマ)が原因)が大量に流れ出している。


「……」

「……」

「……」

「……」

(みみみ皆怖いあばばばっばばばっばあばばば)


正座をした身体が小刻みに震え、今の早苗の心境はまさに『四面楚歌』といったところだろうか……



□■□



(センパイコワイサクラセンパイコワイコウスケコワイアキネサンコワイネエサンコワイマイコワイ…)



──原因不明の脂汗(※既視感デジャブによる心的外傷トラウマが原因)を大量に流し、正座した身体を小刻みに震わせ…早苗の思考は最早、支離滅裂と化していた。




「未成年者の舞ちゃんに酒を飲ませるとか…お前は一体何を考えているんだ!!」

「しかも、早苗さんのお姉様である愛子さんは、全くお酒を受け付けない体質の方とお聞きしていますよ。

なら、その娘さんである舞さんが、その体質を引き継がれている可能性を…何故思い付きませんの?」

「そもそも、以前からオフ会でのレオ丸さん─松永法師に対する『アルハラ』という…とても目に余る行為の数々がありましたが、まさか姪である舞ちゃんにも『アルハラ』を働くとは…呆れてものが言えません。

早苗さん、貴女は馬鹿なのですか?」

「今回の件、アタシは一切貴女の弁明には回らないよ。貴女が悪い訳だし、弁護士として見逃せないし、アタシも凄く怒ってるし」




──周囲を完全包囲され、逃げ道も全て塞がれ、間断無い辛辣な言葉の波状砲撃(笑)を撃ち込まれ……現在の早苗は、四面楚歌、孤立無援、窮途末路、絶体絶命状態で完全に追い詰められている。




(皆怖い皆怖い皆怖い皆怖い皆怖い皆怖い皆怖い皆怖い皆怖い皆怖い皆怖い皆怖い皆怖い皆怖い皆怖い皆怖い皆怖い皆怖い皆怖い皆怖い皆怖い皆怖い皆怖い皆怖い皆怖い皆怖い皆怖い皆怖い皆怖い皆怖い皆怖い…)


早苗の思考は、完全に『皆怖い』という単語で埋め尽くされているが…朝香達の説教という名の集中砲火(笑)はまだまだ続く。


(怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いこわいコワイ個羽居KOWAI…)


早苗の思考を埋め尽くす『怖い』という単語の最後の辺りは完全にゲシュタルト崩壊を起こしている。


(※☆@&#%〒♭Ωξф♪℃¥∞…)




──尚も続く容赦無い朝香達の説教の集中砲火(笑)に…精神的に追い詰められ、原因不明の脂汗(※既視感デジャブによる心的外傷トラウマが原因)を大量に流し、歯をガチガチと鳴らし、顔色は顔面蒼白、正座した身体は小刻みに震え続け…今の早苗はまともな思考は不可能になっていった。




■□■



──その後、約二時間にもおよぶ朝香達の言葉の集中砲火(笑)は一切止む事は無く……説教から完全に解放されて康介の乗用車に乗せられ、ようやく自宅へと帰される事となった時の早苗の様子は……




「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」




──心の傷トラウマを思いっきり深く抉られ、精神的に燃え尽き、魂が抜け出たかの様に虚ろな目をした早苗は…うわ言の様にただ『ごめんなさい』を繰り返して呟き続けていた。






◇◇◇






──尚、早苗はしばらくの間完全に再起不能状態になり…彼女が元の精神状態に戻るまでに約一週間程の時間が掛かったのは、ここだけの話である。

【エピローグ的な後書き】


──早苗の自宅。



◇陽輔と舞、大谷さんに送ってもらい…無事帰宅。



陽輔&舞「「ただいま…」」

(ヽ´ω`;)ゲッソリ…←若干憔悴気味


◇愛子、リビングから玄関へとやって来て二人と大谷を出迎える。


愛子「あらお帰りなさい。

…早苗は?」

大谷「朝香さんの所に…」(;^ω^)←苦笑い


◇愛子、その一言で全てを理解。


愛子「あらそう。分かったわ、ありがとう」

(^-^)ニッコリ。

大谷「……えっ?」

Σ(゜□゜;)!?


◇その後、大谷さんはそのまま事務所へ帰還。




──約三時間後。



早苗「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごm(ry」

(;゜□゜)

舞「お、叔母さん!?」

Σ(◎□◎;)!?

陽輔「えっ、さ、早苗さん!?」

Σ(◎□◎;)!?

舞(い、一体何があったの!?)

(((;´ω`|||)))

陽輔(相当しごかれたんだな…)

(-人-;)ナムー

康介「では、愛子さん」

咲良「確かに送り届けたよ」

愛子「はい、わざわざありがとう御座いました」

(^-^)ニッコリ。←お辞儀してニッコリ笑顔

早苗「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい(ry」


◇虚ろな目で「ごめんなさ…」をうわ言の様に繰り返す早苗が帰宅(苦笑)

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