祝勝会の会場にて… ☆
今回の主役は、朝霧です。
時期としては、〈D.D.D〉結成前の…まだ朝霧とクラスティが、〈共鳴の絆〉でレイドコンテンツに挑戦していた頃位です。
オヒョウ様のところより、『レオ丸』さんをお借りしました。
オヒョウ様、快く許可をくださり……ありがとうございます!!
──2007年、東京にある……とある超一流ホテルにある大きなパーティー会場の一つを丸々貸し切って……そこで、MMORPGである〈エルダー・テイル〉の〈世界共通100人規模戦闘〉の〈略奪の征服王〉に参加した〈共鳴の絆〉のメンバーと助っ人として参加した者を招いて、オフ会を兼ねた祝勝会が行われていた。
──本来、オフ会ではプレイキャラ名ではなく現実の本名で呼ぶのが普通だが……今回は、〈共鳴の絆〉のメンバーが全員参加していて人数が多い上…助っ人メンバーも参加している為、今回限りプレイキャラ名で呼び合うという事に決まり、会場の入り口で手渡されたキャラ名の書かれたネームプレートを身に付けてもらっている状況であった。
今回のオフ会の主催者は、朝霧で…この会場を貸切状態にし、このホテルで有名な超一流シェフ達に料理を準備してもらい、遠方から参加する参加者にはハイヤーまで手配するといった力の入れ様である。
ベルセルクやカンザキは、その力の入れ様に思いきり苦笑していた。
◇◇◇
朝霧は、ワインを手に持つ紳士風な雰囲気を纏った男性─ネームプレートには『にゃん太』と書かれている─に話し掛けた。
「にゃん太、今回の助っ人…本当に感謝する」
「はははは。我が輩は、大した事はしてません」
「いやいや。あそこでにゃん太が敵の真っ只中に切り込んでくれたおかげで、遊撃部隊の戦線崩壊の危機を脱する事ができた。本当にありがとう」
「お役に立てたなら、何より」
にゃん太の謙遜的な態度に、笑みを浮かべながら朝霧は頭を下げ…にゃん太の元を離れると、別のところにいる男性─ネームプレートには『西武蔵坊レオ丸』と書かれている─に話し掛けた。
「レオ丸法師、今回のレギオンの助太刀……そして、的確な召喚生物による敵の殲滅……お見事でした。誠に感謝しています」
「御前さんにそないに思いきり頭を下げられたら…なにやらむず痒いで?ワシは、自分に任せられた仕事をきっちりとこなしただけやさかい。
……そないに頭を下げられる程の事やないと思うんやけどなぁ?」
「いや、こういう事のけじめはきちんとしておかないと……私自身が嫌なんだ」
「……そないに生真面目過ぎるんも、どないやとワシは思うけどなぁ…。
まあ、夜櫻さんやカナミお嬢さんみたいにノリだけで世渡りできてまうもんの方が稀有やしな。
けど、あんま肩筋を張らずに…たまには肩の力を抜く事を忘れたらあかんで?」
「……肝に命じておきます」
レオ丸からの助言に、朝霧は苦笑しながらも返事を返した。
レオ丸に別れを告げると、朝霧は和服美女─ネームプレートには『夜櫻』と書かれている─と会話をしている青年─ネームプレートには『ランスロット』と書かれている─に話し掛けた。
「……康介。この間は、レイドボスの強烈な必殺の一撃を一身に受け止めてくれて…本当に助かったぞ。
姉さんは、咄嗟に敵愾心を大量に稼いで、にゃん太と連携する事で遊撃部隊の戦線崩壊を阻止してくれて、ありがとう」
「僕のサブ職業の〈守護神〉が、ずば抜けて防御力が高かった事と…〈キャッスル・オブ・ストーン〉の効果持続時間が通常の〈守護戦士〉よりも10秒程長くなってたからこそ出来た荒業ですけれどね」
「ハッハッハ!あーちゃんに、こんなに素直に褒められるなんて…アタシは、なんて素晴らしい仕事したでしょう!!」
「……調子にのんな」
──パコッ!
「いった〜!ザッキー!痛いよ!!
後、そのハリセン……どこに隠し持ってたの!?」
「……普通に十兵衛が持ってたのを借りたけど?(※ライムへのツッコミ用)」
「なんですとーー!!?」
姉の夜櫻とカンザキのどつき漫才を眺めながら、ランスロットと朝霧は苦笑していた。
◇◇◇
──会場を見渡してみれば、誰が誰なのか…雰囲気からや会話を聞いているだけでも意外と判るものだ。
方言訛りの蘇芳、能天気なライム、独特の雰囲気を醸し出すファウストは…一目見ただけですぐに判ったのだが……(苦笑)
──そうやって会場を見渡していると…とある一角に、眼鏡をかけた理知的な風貌の青年の姿があった。
朝霧には、それが誰であるのかわかっていた為…彼に話し掛けた。
「……どうした、クラスティ。もしかして……退屈なのか?」
朝霧からの問い掛けに、青年─クラスティは苦笑した。
「……ええ、退屈です」
クラスティのその返答に、今度は朝霧が苦笑する。
「折角の〈世界共通100人規模戦闘〉の祝勝会で、一番の功労者が退屈するな」
「……と言われましても。
事実、僕は今の状況に退屈していますからね」
クラスティの発言に、朝霧はやれやれと溜め息を洩らした。
「……仕方がない、私が話し相手になってやろう」
そう言ってクラスティの隣に椅子を持ってきた朝霧は、椅子に腰掛け…手に持ったワイングラスの中身である赤ワインを飲み干していた。
◇◇◇
──クラスティから見て…朝霧は、彼の身近な女性達とはまた違う雰囲気や所作を持つ魅力的な女性だと思った。
〈エルダー・テイル〉内では、自分の相棒であり戦友。
大規模戦闘では、頼もしい指揮官。
(……ですが、僕は御前の事をどれ程理解しているのでしょうね。
……少なくとも、ベルセルク達程深くは理解できていないという自覚はありますが)
そう心の中で呟きながら、クラスティは手に持つワイングラスに注がれた赤ワインを軽く飲む。
──しばらくの沈黙の後…クラスティは唐突に口を開いた。
「……僕は、一つの組織を作ってみようと思っています」
「……どんなだ?」
朝霧は、クラスティの発言にしっかりと耳を傾け…聞く姿勢を見せていた。
「運営側の思惑をも超える様な人材交流システムと、そのシステムを使ったレイド攻略を行う組織です。
……どうです?“なんだか面白く”ありませんか?」
クラスティのその考えに、朝霧は「クラスティらしいな」と思った。
(……だが、その発想は面白いな。運営側の思惑すらも超える様な組織…か)
──クラスティの考えを聞き、朝霧はこう声を掛けた。
「折角だ。なんだったら、私もその“組織”とやらの構築に協力しようか?……凄く面白そうだしな」
朝霧のその言葉に、クラスティは思わず目を見開く。
──再び、しばらくの沈黙の後…クラスティは口元に笑みを浮かべながらこう言葉を紡いだ。
「……それはそれは。御前が一緒ならば、しばらくは退屈せずに済みそうですね」
クラスティは、クスクスと意地の悪い笑みを浮かべていた。
朝霧もまた、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべていた。
◇◇◇
──後に、〈日本サーバー〉で最初に誕生した本格的な戦闘系のギルドにして…後々〈アキバ〉でも日本でも最大手と呼ばれる程の規模となる戦闘系ギルド〈D.D.D〉が結成されたのは、この盛大なオフ会を兼ねた祝勝会が行われた日から、一週間の後の話であった……
今回のテーマは、『朝霧がクラスティが創り上げた〈D.D.D〉の初期メンバーの一人となった理由』です。
彼女は、クラスティの考えを否定して〈D.D.D〉を出ていった訳ではないという事が、この話から少しでも伝われば良いけどなぁ〜…と思っています。
後、レオ丸さんの大阪弁はこれで合っていたかな?…と少し心配中です。