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ログホラ二次創作短編集  作者: 櫻華
異世界転移(大災害後)編
16/16

番外編#02 ギルド〈暗黒覇王丸〉と〈剣速の姫侍〉の邂逅【原文版】◎

コロッセオ様のご要望で番外編②を改訂した為、元々投稿してあった方の話を『原文版』としてこちらに記載しました。


──“竜達の狂暴化現象”と“不和の王”の一件から、まだ数日しか経っていない頃……



復興真っ只中の〈竜の都ドラゴン・シティ〉の街中を…所々壊れたり、少し欠けたりしている建物の痛々しい姿が目立つ〈幻竜神殿〉への道のりを黒色の着物姿の女性〈武士サムライ〉─夜櫻が、のんびりと歩いていた。







──彼女は〈大災害〉以降…現実化した〈セルデシア〉の大地を、ごくたまに観光目的で歩いて回っている。


実は、今回もその目的の一環で…今回を含めた〈竜の都〉を訪れた三回とも、毎回観光する暇も無く…何等の大騒動に否応無く巻き込まれてしまい、その解決に尽力しなければならない…という状況に陥っていた為…今回の騒動が一段落し、時間にゆとりが出来た今現在…折角〈竜の都〉まではるばるやって来たのだから、『よし!観光しよう!!』…という軽いノリで〈幻竜神殿〉を目指している状況である。


「“竜達の狂暴化現象”も落ち着いた訳だし、〈不和の王〉はすぐにはシェリアちゃんを狙えないだろうし…折角〈竜の都〉に来たんだから、〈幻竜神殿〉の中をじっくりと見て回らないとねぇ~」


そう呟いている夜櫻は、心なしか…軽くスキップしながら楽しそうに歩いている。






──彼女は知らない。

彼女の目的地である〈幻竜神殿〉で、ギルド〈暗黒覇王丸〉によるPK騒動が発生する事になるとは……。






──〈竜の都〉から少し離れた場所…〈恵みの森〉の最奥にある〈妖精の輪フェアリー・リング〉が一際強い輝きを放ち、光が収まる頃には…そこには全員軍服姿の異様な集団─ギルド〈暗黒覇王丸〉のメンバーが出現していた。


その軍人集団に、ゆっくりと歩み寄ってきた…三白眼で浅黒い肌の短髪軍人風の男─覇王丸は、ニヤリと笑みを浮かべながら彼等に声を掛ける。


「皆、よく来たな。

今回は、此処から然程離れていない〈竜の都〉にある〈幻竜神殿〉に奉納されていると言われている〈四竜の宝珠〉を手に入れようと考えている」



覇王丸の言葉に、一同はゴクリ…と息を飲んだ。




【四竜の宝珠】

『〈竜の都ドラゴン・シティ〉を防衛する大規模戦闘レイド《邪黒竜襲来》で登場し、〈幻竜神殿〉の竜巫女レティシアがレイドボス〈邪黒竜ダークネス・カオスドラゴン〉の攻撃から〈竜の都〉を守る為に使用する特殊アイテム。

四方に配置(※配置位置には特に決まりは無い)する事により、街一つを囲う程の大規模で強力な守護結界魔法陣─古アルヴ族の秘術の一つ─であり、竜のブレスすらも防ぎきる程の強固な結界を張れる代物。

プレイヤーの間では、入手出来ない幻の激レアアイテム…とも呼ばれている。


[説明文フレーバーテキスト

竜の都ドラゴン・シティ〉と〈竜の渓谷ドラゴンズ・キャニオン〉…〈大地人〉とドラゴンが共に歩む事を誓い合った誓約の証として竜達より渡された秘術の込められし四つの宝珠。

誓約がたがえられない限りは、この宝珠が街と人々の生命いのちを守り続けるだろう。』




──かつて…ゲーム時代、この宝珠アイテムを〈冒険者プレイヤー〉が入手する事は絶対に不可能だった。


だが…〈大災害〉以降、ゲーム時代には入手不可能だったアイテムが入手可能となっている事が確認され、このアイテムも例外では無かった。



彼ら…ギルド〈暗黒覇王丸〉は、そういったゲーム時代では入手不可能だったレアアイテムを入手する為に…〈大災害〉以降、積極的に活動しているギルドの一つなのだ。



覇王丸の言葉を聞いているギルド〈暗黒覇王丸〉のメンバーは、誰一人反対する事は無く…彼から告げられた行動方針に全員が賛同している。


「では、早速向かおうか」


覇王丸のその一言を号令に…ギルド〈暗黒覇王丸〉全員が一斉に〈幻竜神殿〉へ向けて動き始めた。






──彼等は、〈竜の都〉内を通らずに〈幻竜神殿〉へと辿り着ける…〈竜の渓谷ドラゴンズ・キャニオン〉経由の移動進路ルートを選択した。


〈竜の渓谷〉を通過する際、彼等は一切慢心せず…油断無く、周辺警戒を決して怠らずに順調に進行していく。



険しく遠回りの道程を慎重に歩みを進める事、しばらくして…彼等は、目的地である〈幻竜神殿〉の前へと到着する。



最大の目的である〈四竜の宝珠〉が納められている〈宝物ほうもつの間〉に向かおうと…彼等が〈幻竜神殿〉へと足を踏み入れようとした時、〈冒険者〉の一団─〈西天使の都サウス・エンジェル〉から来た〈竜の渓谷〉攻略部隊─の一人と肩が軽くぶつかる。


「……おい。今、肩がぶつかったぞ」

「ん?ああ、すまないな。わざとじゃなかったんだが」


肩がぶつかった事に対して、〈暗黒覇王丸〉のメンバーの一人が謝罪を述べるが…


「おい、此奴ら……」

「あぁ、間違いない……」


ボソボソと呟く…彼等の不可解な言動を不信に思ったのか、ぶつかったメンバーの隣にいた〈冒険者〉が「何だ貴様等、わざわざ此方から謝罪を申したと言うのに…!」と怒鳴りつける様に言っている。


「すまない、何せ我々〈西天使の都〉は貴方達の噂を耳にしていてね……。どうも最近、北米サーバーで暴れまくるPKギルドの情報が相次いでいてね…最近になって、〈大地人〉の大量殺害事件が増えてきたんだよ」

「もしかして、アンタ等がその犯人じゃないかと疑っている奴らも多いんだぜ。〈暗黒覇王丸〉さん?」


〈暗黒覇王丸〉のメンバー達は「聞き覚えが無いな」「そもそも、そんな事件さえ知らん」などと素知らぬ様な声を出す。その無関心な態度にイラついたのか、〈西天使の都〉側の〈冒険者〉が怒鳴り声で唸る。


「ふざけるな!!どうせ、お前達の仕業に決まっているだろう!!」

「そうだ!このような残虐行為は、今いるお前以外に誰がいる!!」

「聞けば、日本サーバーではPKギルド狩りをしているらしいが…それは、自分達の獲物が無くなるのが惜しかったではないのか!?

しかも最近では、この北米サーバーにまで手を……」


どうやら、彼等は〈暗黒覇王丸〉の一団に対して因縁いんねんを吹っ掛けるきっかけを求めていたらしく…それに、この北米の地にPKギルドが足を踏み入れる事さえ気に食わないと難癖をつけにきたらしい。


「申し訳ないが、〈暗黒覇王丸われわれ〉は急ぎの用で此処に参ったのだ。貴殿等の相手をしている暇は無い」


覇王丸の言葉に従い、〈暗黒覇王丸〉のメンバー達は次々と〈西天使の都〉の〈冒険者〉達を無視して進み出す。

だが、そこへ割って入ったのが〈西天使の都〉側のリーダーらしき青年だった。


「おっと、そうはさせないぞ。お前達がこの地にやって来たのは、〈四竜の宝珠アレ〉が目的なのだろう?アレは、〈竜の都〉の護りのかなめでもあるのだ!絶対に貴様等の手に渡すものか!!」


〈四竜の宝珠〉は、〈ウェンの大地〉の国宝級の存在でもある。現実もとのせかいでいえば、世界文化遺産の様なものだろう。

つまり、〈四竜の宝珠〉に手を出す事は最悪の場合、北米サーバー中の〈冒険者〉全員を敵に回す事になる。彼等は、〈幻竜神殿〉を荒らそうとしている無礼者達に警告しているつもりらしい。


(将軍、どうしますか?)


〈暗黒覇王丸〉に対しての因縁を吹っ掛けられた張本人のギルメンからの問い掛けに、最初は相手にするまいと考えていたが…幻の激レアアイテムの入手を妨げる存在とあっては話は別だ。覇王丸は冷酷にして非情な命令を下す。


(緊急事態により計画変更を命ず。我々の目的の邪魔をする者は、全力で排除しろ)

了解イエス・マスター


ギルマスである覇王丸の下した命令に従い…ギルド〈暗黒覇王丸〉が〈西天使の都〉の〈冒険者〉達へと牙を向いた。


陛下マスター命令により、侮辱罪及び業務妨害罪の罪で貴様等を処分する。全ては〈暗黒覇王丸〉の為に」

「殺ってみやがれ!!」

「ぶっ殺してやる!!」



~30分後~



「ギャアアアアアアーーーーッ!!」

「ぐふおぁ……っ!!」

「ひぃぃぃっ!!」



──そこから先は、一方的な殺戮劇が繰り広げられる事となった。

それは…〈西天使の都〉の〈冒険者〉達がギルド〈暗黒覇王丸〉の者達によって、圧倒的な力で一方的にPKプレイヤーキルされる…という悲惨な展開となった……。

数は、〈西天使の都〉側は百を超える人数。対する〈暗黒覇王丸〉側はたったの二十四人。フルレイドvs.レギオンレイドと言ってもいい位の人数差だった。その圧倒的な戦力を相手に、簡単なレイドでも出来る人数で相手取っているのだ。勿論、戦力なら〈暗黒覇王丸〉も十分整っている。だが、あえて二十四人だけで挑ませたのは、自分達と相手との戦闘力の差に気付いた上での相手に対する皮肉ともいえよう。


「ちなみに、お前達を相手取っているのは全員が一等兵・二等兵レベルの〈冒険者〉だ。お前達のクラスだと、我々が出なくても良さそうだな。まさか、一方的にそちらが壊滅してくれるとはな……」


その言葉には、あまりにも弱い相手に対する呆れと嘲りが含まれていたのだった……。





──〈幻竜神殿〉のある北側地区へとやって来た夜櫻は…神殿に近くにつれ、不穏な空気が漂っている事に気が付く。


「ん?何だかキナ臭いね…。また、〈西天使の都〉からやって来た〈冒険者〉が何か問題事を起こしたんだろうね……」


そう結論付けた夜櫻は、騒動を鎮圧する為に〈幻竜神殿〉に向けて駆け出していった。



──だが、そんな使命感を胸に抱いた夜櫻の気持ちは…〈幻竜神殿〉の入り口前に辿り着く頃には、消え去る事となった。



「だ、誰か!誰か助けてくれェーーーーっ!!」


そこに辿り着くと、謎の軍服集団が〈冒険者〉達を一方的に殺戮している…という悲惨な状況に遭遇する事となった。夜櫻は思わず青ざめる。




──〈西天使の都〉の〈冒険者〉は決して弱い訳では無い。




〈竜の渓谷〉に挑戦する以上、〈西天使の都〉の中でもかなりの実力を有している者達で大隊を編成してから送り出した筈。

そんな〈西天使の都〉からやって来た実力者揃いの大隊人数である筈の〈冒険者〉達が、これ程一方的に少人数の軍服集団にやられるとは思わなかったのだ。


「な、何なの…この状況は……?」


素早くステータスの確認すると…殺戮している軍服集団は〈暗黒覇王丸〉のギルドタグ持ちで、殺戮されている〈冒険者〉達は〈西天使の都〉出身の〈冒険者〉である事が判明する。



ギルド〈暗黒覇王丸〉については、〈大災害〉以降…情報収集に重点をおいていた妹の朝霧のおかげで大体の情報を持っている。

彼等がPKギルド狩りと激レアアイテム入手を目的に積極的に活動するギルドである事も知っていたし、彼等の目的を阻む者は誰であろうと無慈悲に排除するという冷酷無比なギルドでもある事も知っていた。


「あんな厄介なギルドに絡まれるなんて大変だねぇ~。……まあ多分、〈西天使の都〉側が彼等に何か因縁を吹っ掛けたんだろうから、一応は自業自得って事だよね。因果応報って事で……」



──だから、〈暗黒覇王丸かれら〉が此処にいる理由も、〈西天使の都〉の〈冒険者〉達が襲撃されている理由も、何となく理解出来ていたのが……。だが、此方こちらにも都合というものがある。夜櫻は、この悲惨な現場から一度は立ち去ろうとも考えていたのだが……


「ん?あれは……シーザー君!ジョトレ君!!」


襲撃されている〈冒険者〉達の中に見知った二人─シーザーとジョトレ─の姿を見つけ、その二人に対して凶刃が振り下ろされようとした時、気が付くと夜櫻は二人を助けようと咄嗟に身体が動き出していた。

口伝〈残影舞踏乱舞〉でシーザーとジョトレの二人と〈暗黒覇王丸〉の者達との間へ瞬時に移動すると…〈武士〉の特技の一つで、武器の強制解除を行う〈柄頭突き〉で腰の両側に提げていた鞘から素早く打ち出した刀の柄頭で目の前の軍服姿の二人の武器を弾き飛ばす。


「な、何だ貴様は!?」

「いやいや、大した者じゃないよ?」

「よ、夜櫻さん!?」

「どうして此処に!?」

「話はいいから。まずは、一旦此処から離れるよ!」


武器を強制解除され、相手の動きが止まった一瞬の隙を突いてシーザーとジョトレの腕を掴んだ上で口伝〈残影舞踏乱舞〉を再度発動させて〈暗黒覇王丸〉の者達との距離を取る。




──突如、現れた“夜櫻”という第三者の存在により…事態は、膠着状態となった……。





──陛下マスター命令に従って行動していた〈暗黒覇王丸〉のメンバー達は…突如、乱入してきた女〈武士〉の『一瞬で距離を詰め、一瞬で距離を離す』という不可解な能力が全く理解出来なくて、彼女の動きに強く警戒し、距離を取ったままの状態を維持し続ける事しか出来ない。


現在、〈西天使の都〉側で生き残っているのはシーザーとジョトレの二人を合わせた数名のみ。それも、二人を除いた残り全員が瀕死状態のまま。唯一重傷では無いが…酷い怪我を負っているシーザーとジョトレの二人は、ある程度距離は離れているが〈暗黒覇王丸〉を前にしてビクビクと震えている。


「貴様、何者だ!!」

「ただの通りすがりなんだけどさ…とりあえず、アタシの友人を傷付けようとするのは止めてくれないかな?悪い連中が自業自得で制裁を受けるのは別にいいんだけど…この子達や正義感・使命感で頑張って〈四竜の宝珠〉を守ろうとしただけの人達まで殺さなくてもいいんじゃない?」


夜櫻は夜櫻で…〈暗黒覇王丸〉のメンバーに刀を向けた状態のまま、シーザーとジョトレに「大丈夫?」とか「怪我は無い?」と声を掛けている。しかし、構えや佇まいには一切の隙は無く、切り込めば此方が反撃を受けるだろう…というのを思わせる様な雰囲気を纏っている。


「任せて!コイツら全員、アタシが……」



──完全に膠着状態となった現状で、重苦しい緊迫した空気が漂う中…一人の男─覇王丸が発言する事で、場の空気が一辺する事となった。


「下がれ、お前達」

「っ!!?で、ですが陛下……」

「いいから下がれと言っているんだ」


覇王丸の目は、まるで何かに興味を示したかの様に夜櫻の方を向いている。その事に気が付いた〈暗黒覇王丸〉の副将サブマスは目の色を変え、急ぎ「全員、道を開けろ!!」と大声を上げて指示を飛ばす。


「「「了解イエス・マスター!!」」」


徐々に部下達が退いていく姿を見て、やれやれといった表情を見せていた覇王丸だったが…シーザーとジョトレを背後で守る様に立つ女〈武士〉─夜櫻の前へと立つと、「……貴様、前に見た事があるな。それに……」と呟いていたが、一旦そこで言葉を区切る。それに対し、夜櫻は…たとえどの様な状況になっても、すぐさま対応出来る様に覇王丸の一挙一動に対して強く警戒している。だが、彼はそんな様子に臆する事無く、夜櫻に対してこう呟いた。


「お前のその動き…口伝によるものだな」


覇王丸の問い掛けに対して、夜櫻は無言の答えを返す。しかも、そのまま素早く抜刀すると、覇王丸に向けて刃を振り抜く。


「ハアッ!!」


──キィーーーーン!!


刃と刃が重なり合い、お互いの攻防がしばらく続く。



──当然だ。〈不和の王トルウァトゥス〉の一件で、戦友となったシーザーとジョトレを傷付けた。そんな奴と口で語る事は無い。コイツは敵だ。……そう夜櫻は心の底から怒っていた。



覇王丸も、夜櫻の激しくいかる様子を見て、素直に答えてくれるとは期待していなかった様だ。そのまま、夜櫻の攻撃に抵抗しながらつつも話を続ける。


「……面白い。今まで歯応えのある相手と、なかなか巡り会えなかったからな。俺とひと勝負をしないか?」

「……それを了承する事で、アタシに一体何の益があるの?他の人は別にいいんだけど…シーザー君達を傷付けた事、アタシは許せないんだけど」

「まあ、話を聞け。貴殿の友人達に対する無礼は謝っておこう」


苛立った様子の夜櫻のその言葉に、不敵な笑みを浮かべながら覇王丸が答える。


「そちらが勝ったら、此方は無条件で一つだけどんな内容だろうと要求を飲もう」

「そっちが勝ったら?」

「その腰に提げている刀…激レア武器の〈神刀・迦具土かぐつち〉だろう?それを貰おうか。〈幻想級〉の武器は滅多に手に入らないからな」


覇王丸が提示してきた条件を聞いて…心配そうに夜櫻を見るシーザーとジョトレに、「大丈夫だからね」と二人に優しい笑顔を見せると…夜櫻は表情を引き締める。


「いいよ。その代わり…そっちの要求条件の刀に、さらに二つの激レアアイテムを上乗せする事で…アタシの要求する条件を“必ず厳守する”と約束してもらえるなら飲むよ」

「夜櫻さん!!」

「駄目です!そんなの無茶過ぎます!!」

「で?肝心の要求と上乗せ分は?」


覇王丸から促され、夜櫻は〈ダザネッグの魔法の鞄マジック・バッグ〉から二つのアイテムを出す。


「まずは上乗せ分。

激レアドロップ〈古代竜エンシェント・ドラゴン光鱗こうりん〉で造られた〈聖剣・星竜剣スタードラゴンブレード〉と、現在はクエスト自体が無くなったので入手が不可能になった〈緋竜妃の印章〉。アタシが持っている分だけしかないから、〈神刀・迦具土〉と同じだけの価値はあると思うけどね」

「成程。確かに上乗せ分としては十分に見合った価値はあるな」


覇王丸が提示した上乗せ分のアイテムの価値に納得したので、夜櫻はそのまま話を続ける。


「アタシが勝った場合の要求は…『〈竜の都〉より即刻立ち去り、二度と〈四竜の宝珠〉には手を出さないで。』

……これがアタシが一騎打ちを受ける条件だよ」



──夜櫻自身、この〈竜の都〉には深い思い入れがある。当然、かつて大規模戦闘レイドでお世話になった〈四竜の宝珠〉に対しても思い入れがあるのだ。夜櫻にとって…〈ウェンの大地〉は〈大災害〉前も、後も、沢山の大切な思い出が詰まった…第二の故郷と思える位に大好きな場所なのである。

そして…この地に生きる人達の希望の光であり、国宝とも言える〈四竜の宝珠〉を奪い取ろうとしている輩に敵意を向けない訳が無い。だからこそ、長年共に歩んできた相棒であり、自身の半身とも言える存在でもある愛刀〈神刀・迦具土かぐつち〉を犠牲にする事になっても…必ず〈四竜の宝珠〉を守り抜く。それが、夜櫻が胸に抱く〈竜の都〉への強い思いなのだ。


それに何より…戦友達を酷い目に遭わせた奴は、絶対に許さない。


夜櫻の目には、深い怒りが宿っていた。


夜櫻の提示した要求条件を聞いて…〈暗黒覇王丸〉のメンバーは「不遜な態度だ」とか「将軍に対して不敬過ぎるぞ!」という苛立ちの声が上がっているが、覇王丸は愉快そうに笑みを浮かべる。



夜櫻は〈四竜の宝珠〉を自分達に諦めさせる為に、わざわざ一騎打ちを受ける条件として提示してきた。

しかも、自分に勝つつもりらしい。


(夜櫻、面白いヤツだ。自分の実力に余程の自信があるのか……それとも、実力を過信しているのか……まあ、刃を交えてみれば分かる事だ)


そう思考し終えた覇王丸は、自分の得物を抜いてから構える。

それに合わせるかの様に、夜櫻も自身の得物を抜いて構える。

さらに、夜櫻は特技〈朱雀の構えアサルト・スタンス〉と口伝〈神眼〉に〈疾風怒濤〉を連続で発動させる。

一方の覇王丸も、口伝〈武者ぶしゃの心得〉を発動させる。


「アンタも、口伝使いなんだね……」

「手加減はせん。本気で来い!!」



──しばしの沈黙の後…まるで戦闘開始の合図をするかの様に、〈竜の都〉中央に立つ時計塔の時計の針が十二時を差し、それを知らせる為の鐘の音が大きく鳴り響いた。その合図と共に、一瞬の間に二人は刃を交えた。



──ゴーン!ゴーン!ゴーン!



「行くよ!!!」

「来い!!!」



◇◆



──キィンキィン!カキィーーンッ!



「くっ!しぶといな!!」

「どうした、随分と押され気味の様だが?」

「……まだまだ!」

「フッ。甘い!!」

「っ!!?」


夜櫻は、覇王丸の攻撃の軌道を読んで紙一重でかわしたり、刀で上手く力を逃がして受け流したりして…全く攻撃を当てさせない。

だが、覇王丸も負けてはいない。確かに、今の実力は五分五分で拮抗している様に見える。しかし、現状では覇王丸の方が有利なのである。何故なら……


「……成程。さっきから防戦一方だと思ってはいたが、後ろにいる仲間達を庇っていたのか……」

「まあね。アンタがどんな手段を使うつもりかは知らないけど…彼等は、もう戦えないんだ!!」


そう言って、夜櫻は覇王丸に向けて刃を大きく振り下ろす。だが、それを完全に読んでいた覇王丸は、ニヤリと笑みを浮かべると…太刀筋を見切って易々やすやすと避けてみせる。


「確かに、お前は強い。……だが、その仲間思いの優しさ故に甘いんだ!!」

「……うっ!!」

「「夜櫻さん!!」」


夜櫻が見せた一瞬の隙を突いて、覇王丸の一撃が夜櫻の持つ刀を吹き飛ばす。


「そこだ!」

「しまっ…!?」


──ザクッ……!


覇王丸の鋭い一撃が、夜櫻の胸を完全に貫く。ポタポタと、地面に血が次々としたたり落ちていき、ゴホッ…!と口から少量の血を吐血する。その姿を目の前で目撃してしまったシーザーとジョトレの二人も…一瞬、絶望的な顔をする。


「「よ、夜櫻さんーーーーっ!!」」



──そう。それが、彼女の幻影で無ければ……



「何っ!?これも幻影だと!?」


殺されたかと思われた夜櫻……。だが、それは彼女が用意した囮だった。それは、夜櫻の口伝〈残影舞踏乱舞〉が発動した事で生み出された幻影であった。僅かだが、覇王丸も〈暗黒覇王丸〉のメンバー達も驚きを隠せない。


「隙あり!」


その一瞬の隙を突いて、夜櫻の刃が覇王丸の脇腹へと命中する。だが……


「……惜しかったな」

「えっ!何これ!?」


確かに、手応えのある一撃が見事に決まったと確信していた夜櫻の刀による一撃は、覇王丸の身体を突き通す事は出来なかった。何故なら、刃の当たった彼の身体の一部が黒く硬化していたからだった。


「〈黒金剛石武装ブラック・ダイヤモンド・アームズ〉だ。これは、強化・防御型の口伝でな。俺の得意分野なんだ」

「それは…本当に厄介な口伝だね!」


覇王丸は、先程の様に夜櫻の太刀筋を読んで回避したり、回避が困難な場合は口伝〈黒金剛石武装ブラック・ダイヤモンド・アームズ〉で攻撃が当たりそうな箇所を硬化させて防御したりと…こちらは、ダメージそのものを無効にしていく。

そんな覇王丸の巧みな戦法に…夜櫻は苦戦を強いられたが、それは覇王丸にも言える事だった。覇王丸もまた…夜櫻の機敏な動きと、強力な口伝〈残影舞踏乱舞〉に翻弄されていたからだった。




──あれから、どれ位の時間が経ったのだろうか……


三十五合ほど打ち合った後、周囲の〈冒険者〉達は黙ってこの状況を眺めていたのだが…これ程長い戦いになるとは、誰も思いもしなかっただろう。



──だが…決着の時は、突然やって来た。



まるで仕切り直しとばかりにお互いに距離を取り、お互いの間に少しばかりの沈黙が訪れた……。

すると突然、覇王丸がニヤリと笑みを浮かべて見せた。そのまま、大声で笑い出す。


「フハハハハハ!!この我と互角に渡り合える者がいるとは…しかも女!貴様、気に入ったぞ!」

「貴方も、なかなかやるね。アタシの名前は夜櫻だよ」

「我は覇王丸だ」


まるで親しい友人同士が語り合うかの様な気安い態度でお互いに名乗り合う。




──しばらく睨み合うかの様に対峙していた二人だったが…覇王丸が武器を納めた事で、一騎打ち勝負に終止符が打たれた。二人の突然の行動に、周囲の〈冒険者〉達は激しく動揺する。特に、〈暗黒覇王丸〉のメンバーは目を丸くさせている。



「やめるの?まだ、決着はついてないけど?」


と言いつつも、同じく刀を納刀しながら夜櫻は問い掛ける。


「……引き分けでいい。折角巡り会えたのだ。我を楽しませる程の強敵と、今すぐ決着をつけてしまうのは勿体無いのでな」

「そっちがそれでいいなら、別に構わないけど……

この場合、一騎打ちを引き受けた時の取り決めも無効って事なのかな?」


夜櫻のその言葉に、覇王丸がニヤリと笑みを浮かべながら答える。


「本来は勝利した時の報酬だったが…我を楽しませてくれた褒美として、夜櫻殿の望みを叶えようじゃないか」


覇王丸からの申し出を聞いた夜櫻は、驚きのあまり目をパチパチさせる。


「随分と太っ腹だね。でも、いいの?それだと、君達が得られるものは何も無いんだよ?」

「フッ。お前という強敵と巡り会い、思い切り打ち合えた事…我は、心底楽しかったぞ。それだけで、我は十分満足したぞ」


そう話を終えた覇王丸は、〈暗黒覇王丸〉のメンバー達の方を向く。


「我等〈暗黒覇王丸〉は、夜櫻殿の望み通りに〈四竜の宝珠〉を諦め、〈竜の都〉を即刻立ち去る事とする」

「「「了解イエス・マスター!!」」」


覇王丸の号令に従い、〈暗黒覇王丸〉のメンバー達が次々と〈幻竜神殿〉より立ち去り始める。

同じ様に立ち去ろうとしていた覇王丸だったが…急に何かを思い出したかの様に足を止めると、副官に「お前達は先にこの街から出ろ。俺はしばらく彼女と話がしたい」と命令を下した後、夜櫻へと声を掛ける。


「夜櫻殿。もし、また会う機会があれば…再戦を希望したい。その時は…お互いに全力を尽くし、お互いの命を賭けた死闘をしたいものだな」


覇王丸のその言葉に、夜櫻は笑顔で応じる。


「いいよー。アタシも、君とは良き強敵ともになれそうだと思ってたところだったんだよね~。」

「フッ。やはり面白いな。〈弧状列島ヤマト(日本サーバー)〉で、お前みたいな興味がある〈冒険者〉はこれで十人目だ」

「ん?アタシ以外にも、君の興味を引く人物が他にいるんだ」


覇王丸は「ああ、そうだ」と言って、コクリと頷く。そして、自分が知っているヤマトで活躍している連中の名を次々と挙げていく。


「クラスティ、アイザック、カナミ、ウィリアム=マサチューセッツ、ジン、ソウジロウ、濡羽、シロエ、そして……ジャリス」

「ジャリス?……聞いた事無いね。何処の〈冒険者〉?」

「いや、そいつは〈冒険者〉では無いんだ。正確には、〈大地人〉の騎士なんだが……あの騎士は顔に似合わず、殺伐とした戦い方をしていたな。前に一度、戦った事があるのだが…実は、遠征訓練の途中であってな…戦いの決着がつかずに終わってしまった。“ジャリス”は家名らしくてな、名前は名乗らんかった。……いや。あの様子だと、名乗るのを忘れただけかもしれんな」

「それは……随分と天然な人物だねぇ~。その人」

「しかし、戦ってみたのは良いのだが……あの者には、剣よりも槍の方が似合っていると思うんだがな」


覇王丸は「ウンウン」と腕を組みながら、顔をしかめていた。


「……で?結局、そのジャリスって人物は何者なの?」

「彼の上司に話を聞いたところによると、彼の実家はイースタル直属の名門騎士の家系でな。だが、その実家がとんでもない鬼畜外道の血筋だと聞くが……」

「あっ…。な、なんか聞いた事がある様な気が……」

「ヤマトでは、幾らか耳にした事があるだろう」


──思い返してみれば…“ジャリス家”の噂は、確かにヤマトではそこら中に知れ渡っていた。何でも、“鬼神兵”の異名を持っていた筈だ。



「一度は、お前も奴と戦ってみるといい。なかなか歯応えがあって、良い相手になるかもしれんぞ?」

「考えてみるよ。アタシより強かったらね」

「そうだ。良かったら、お前の知り合いで俺と互角に渡り合える奴が居たら、紹介して貰いたいんだが……」


覇王丸からの突然の頼み事に…夜櫻は、しばし考え込んだ。



──自分の知る中で、覇王丸かれと─つまりは、自分と─互角に渡り合える程の実力者となると……そう多くはいない。


一番可能性がありそうだったクラスティ、アイザック、ソウジロウの三名の名は…既に覇王丸本人の口から挙がっていたので、完全に却下の方向で確定だろう。

次の候補は、カナミなのだが……。そもそも、彼女は二年前に海外に行くに当たって〈エルダー・テイル〉を引退している。もし、仮に再開していたとしても…彼と渡り合える程にキャラが育っているかが怪しい。あくまでも仮定の話なので、そんな居るかどうかが曖昧な人物を紹介するのもどうだろうか……。


カンザキ、ベルセルク、幸村の三名については…今の自分と互角に渡り合えていない時点で、完全にアウトだろう。




──そうやって、しばらく考え込んでいたが……夜櫻の知る限りで、覇王丸に紹介出来そうな人物に心当たりがない…という結論に達しつつあった。



「……と言ってもねぇ~。君って、アタシと互角に渡り合える程でしょ?そう他には……あっ、そうだ!カズ彦君ならどうかな?ミナミでは最強の一角らしいよ?」



──と言っても、夜櫻本人は〈大災害〉以前にしか手合わせした事が無く…今現在の彼の実力については、妹の朝霧やミナミの知り合い経由の客観的情報でしか知らないのだが。



「……却下だ。奴の事は知っている。一度、ミナミで手合わせをしといたからな。だが、実力はトップクラスだが…俺に負ける様ではどうしようもない。……何より、奴はあの陰険な女の犬だからな」

「そっかぁ……。結構良い線いってると思ったんだけどなぁ……」

「すまないな」

「いやいや。君は全然悪くないからね。……うーん。君には悪いんだけれど…これ以上の心当たりは無いなぁ~。ゴメンね、全然役に立てなくて」

「いや、構わない。こうして貴殿に会えただけでも嬉しいからな」

「あっ、そうだ!すっかり忘れてたけど…さっきの勝負、引き分けなのにアタシだけ利益を得るのは流石に不公平だと思ってたんだ。

……折角だから、これをあげるよ」



そう言って、夜櫻が覇王丸に投げ寄越したのは〈聖剣・星竜剣〉だった。


「……いいのか?」

「言ったでしょ?アタシ達は引き分けたんだから、君達も何等かの利益を得ないと不公平だって。

……それに、ただの善意って訳じゃないよ。それは、さっき君と交わした再戦の『約束の証』のつもりでもあるんだからね。それと…これはオマケだよ」


夜櫻は、さらに〈緋竜妃の印章〉と〈冥界の冥鏡めいかいのめいきょう〉─使用すると、蘇生猶予時間を20秒程延長出来る─という…こちらも激レアアイテムである…も覇王丸へと投げ寄越した。


「これは…滅多に手に入らない激レアアイテムでは……!!」

「いいの、いいの。〈緋竜妃の印章〉については、実はもう一つ持ってるんだよね。

それに…それは、君に絶対にお似合いだと思ったんだ。」



──これは嘘では無く、本当の事だ。〈水晶谷の月命草〉のタイムアタッククエストでの〈銀月命草〉入手パターンの最短クリアへの挑戦を二回程行っている。

そういう経緯もあって、〈緋竜妃の印章〉を二個入手していたのだ。



「こっちの〈冥界の冥鏡〉の方は…実は、アタシも君と戦えて結構楽しかったから、そのお礼だよ」

「そうか。では……」


夜櫻のその言葉を聞いて、覇王丸は〈聖剣・星竜剣〉を含めた三つの激レアアイテムを黙って受け取る。

聖剣を受け取り終えると…覇王丸は今度こそ、夜櫻に見送られながらも二度と振り返る事もなく、〈幻竜神殿〉を…〈竜の都〉を去って行こうとしたのだったが……


「あーーーーっ!!そうだ、すっかり忘れるところだった!!」


突然、夜櫻が上げた大声に…覇王丸も、周囲の〈冒険者〉達も、思わず狼狽する。

少し困惑気味な覇王丸が、夜櫻へと声を掛ける。


「何だ?一体、どうしたというのだ…?」

「君が探している条件に、ピッタリと当てはまる人物がいるかもしれないんだよ!」

「何だと…?」


夜櫻の告げた言葉に、覇王丸が反応する。


「今ね、〈ホネスティ〉ってギルドにアタシの昔馴染みがいるんだけどね……」

「ああ、崩壊寸前気味の落ちこぼれギルドか…。衰退した戦闘ギルド等には興味は無い」

「いやいや、ギルドの方じゃなくてね。そこに所属している“とある〈冒険者〉”の方なんだよ」

「あそこには、特に目ぼしい〈冒険者〉は……」


夜櫻は「チッチッチッ」と舌を鳴らしてから、ニコリと微笑みながら楽しそうに告げる。


「きっと、君とは絶対に気が合うと思うんだ~」



◇◆



《後日談》



──〈不和の典災トルウァトゥス〉の討伐戦…ある意味、トルウァトゥス討伐大隊規模戦闘レギオンレイドから一夜が明けた翌日……。




それは、夜櫻の何気無い呟きを発端に始まった。



「覇王丸君とギルド〈暗黒覇王丸〉がいたら、討伐戦がもっと楽だっただろうなぁ~」

「それって、誰ですか?」




──夜櫻の呟きに反応した〈施療神官〉の男性─モノノフ23号が問い掛け…そこから夜櫻は、覇王丸とギルド〈暗黒覇王丸〉にまつわるエピソードを全て話す事となった。



最初の内は、興味深く話を聞いていた面々だったが…覇王丸と〈暗黒覇王丸〉が〈竜の都〉の護りの要であり、今回の討伐戦でも活躍した〈四竜の宝珠〉を狙っていた事や何度も共闘した事で親しくなっていたシーザーとジョトレの二人の命を脅かした事を知り…話し終える頃には、全員の顔には嫌悪感があらわになっていた。


「僕は……その人を…その人達を好きにはなれません」


最初に口を開いたのは、モノノフだった。


「その方は…〈四竜の宝珠〉が〈竜の都〉に住む方々や〈ウェンの大地〉に居る〈冒険者〉の方々にとって、どれ程大切な物なのか…存じた上で奪うつもりでしたのよね?」

「人々の希望を奪おうと考えていたなんて…〈不和の典災〉と同じ位…いえ、それよりもたちが悪いですわ」


次に、気だるげなマダム〈召喚術師〉─菜穂美と鮮やかな桔梗色の狐の耳尻尾が生えた女性〈武士〉─桔梗が口を開く。


「もし、仮に討伐戦の時に居たとしても…共闘などゴメンです」


最後は、コバルトグリーン色のロシアンブルー種風で聖堂騎士テンプルナイトの鎧を身に付けた女性〈施療神官〉─常葉が口を開くが…誰もがあからさまな不快感を示した発言をしている。

皆のその様子に、夜櫻は思わず苦笑いを浮かべる。



──おそらく…此処に当事者だったシーザーやジョトレがいても、皆と同じ反応をしているだろう。

通常のプレイヤーは、彼等を好意的に受け止める事は出来ないだろう。



夜櫻は運営やPK狩り専門のPKKプレイヤーキラーキラーに協力したり、自分も自主的にPK狩りをやっていたり…と、そういうものに度々関わっていた事もあり、そこの辺りについては割と寛容だ。

それに、愛しの旦那様であるシーク=エンスもPK狩り専門のプレイヤーであり、PK狩り専門のギルドと共闘する事も何度かあったとも聞いている。

それに、妹の朝霧も…〈大災害〉以降のこの世界で発生した個人またはギルド単位でのPKへの対策として〈暗黒覇王丸かれら〉の様にPKを専門に狩る存在を容認してきたと聞いている。

もし…彼や妹が此処に居れば、夜櫻と同じ様に苦笑いを浮かべていただろう。




──プレースタイルは、人それぞれ。『十人十色』『千差万別』という言葉通り、自分の考え方を相手に無理矢理押し付けてはいけない…と、夜櫻は考えているのだ。




「まあまあ。考え方は人それぞれなんだし、彼等はあーゆう人達なんだよ」


嫌悪感をあからさまにしている皆に対して、夜櫻は諭す様な言葉を掛ける。


「しかし……」

「「ですが……」」

「彼等の在り方を肯定する気は、私達には全くありませんよ」


……残念ながら夜櫻の諭す言葉は、彼女達の心には全く響かなかったらしい。

皆のその様子に、夜櫻は「やれやれ。取り付く島も無し…か」と呟いて苦笑いを浮かべながら肩をすくめていた。




「……何の話ですか?」


蒼い髪に蒼い瞳で、蒼い巫女服に身に纏った〈竜巫女見習い〉の女性─シェリアが、問い掛けてくる。


「少し、夜櫻さんのちょっとした体験話を聞かせてもらっていたんだ」


シェリアの問い掛けに、モノノフが簡潔に答える。


「そうなんですか。夜櫻さんのお話は大変興味がありますが、でも…私は、モノノフさんのお話も聞いてみたいです」

「えっ!?……も、勿論構わないよ!!」

「本当ですか!……嬉しいです」


シェリアの言葉に、モノノフが傍目から見ても分かりやすい程の嬉しそうな反応をする。

モノノフの嬉しそうな返事を聞いて、シェリアは花がほころぶ様な可愛らしい笑みを見せる。



そんな…お互いへの仄かな恋心が見え隠れする甘々な雰囲気を醸し出す二人の様子を…夜櫻、桔梗、常葉は微笑ましく眺めている。



──だが、約一名は違っていた。



菜穂美は、二人のとても親しげな様子を見ていて驚愕している。

実は、彼女はモノノフに対して密かな恋愛感情(※モノノフ本人は知らない)を抱いていたのだが…自分の知らぬ所で、二人の間で恋心を育んでいたという事実に目に見えてショックを受けている。


「そそそそそそれでは、おふふふふたりはしししししんみつつつつな関係でいらして!?」


動揺を全く隠せずにいて、明らかに狼狽うろたえている様子の菜穂美の言葉に対して、夜櫻がアッサリと肯定の言葉を述べる。


「うん。そうだよ」

「フゥー……」


──ドサッ!


夜櫻からの肯定の言葉がトドメとなり、菜穂美はそのまま卒倒そっとうした。


「「菜穂美さん!?」」


いきなり倒れてしまった菜穂美の事をモノノフとシェリアが本気で心配している。




──モノノフ達のその様子を…夜櫻達三人は、苦笑いを浮かべながら眺めていたのだった……。











──その後、夜櫻と覇王丸が約束の再戦を果たせたのかどうかは……神のみぞ知る事…である。

「彼の異名は“白神”。ゲーム時代に暴れ回った伝説のPKプレイヤーキラー……」



「何っ!?伝説のPKプレイヤーキラーだと!?」



「今は引退して、ゲーム時代とは別の名前に成っちゃったけど…彼は相当の強者つわものだよ?」



「……して、名は何と申す?」



「うーん。まだ、名前は教えられないかなぁ~。でも、会って戦ってみたら絶対に分かると思うよ?覇王丸君にとって、大した相手じゃなかったら本当にゴメンねぇ~。でも……」





──そこで、一旦言葉を区切ってから…夜櫻は、ニヤリと不敵な笑みを浮かべながら告げる。














──『彼を本気にさせたらヤバイよ?あの、〈図書館の番人〉さんはね?』














──ギルド〈ホネスティ〉





「ヘックション!!」



「どうしました、シゲルさん?」



「いや、誰かが噂でもしてるんじゃねぇか?……ヘックション!!」



「どうやら、悪い噂みたいですね。二回くしゃみをするのは、誰かが悪口を言っている証…と聞いた事があります」



「いや、俺が思う限り…一回目と二回目は別人だろう。そして…二回目は多分、カラシンだ。そうに違いない」



「今の〈ホネスティ我々〉と〈第八商店街彼等〉は敵対関係ですからね……」



「くそっ、カラシンめ…!ゲーム時代の事をまだ引きずっているのか、コノヤロー!」



「えっ?カラシンさんと、ゲーム時代にお会いした事があるんですか?」



「まあ、ちょっと……揉め事があってな」













──『一度、ぶっ殺した事があるんだ……』

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