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魔人 -Restricted-  作者: ともえ
-人虎と三商ギルド篇-
9/35

第一話 「龍だって吸血」


「い、いただきます……」


 首筋に痛みが走る。噛まれた。チロチロと舌を動かしながら、傷口から血を貪っていく。

 熱い。自身の体温ではなく、密着状態からくる人の熱だった。相手が極度の興奮状態であることがわかる。


「……ッッ」


 さらに興奮したのだろう。牙にかかる力が増え、痛んだ。


「す、すまない……」


 申し訳なさそうに詫びを入れるも、行為を辞める気はないらしい。

 すまない、すまないと言ってまた今日も僕が気を失うまでベルは──龍人ドラゴニュート〈ベルガモット・スプリッツァー〉は僕の血を飲み続けた。





 目を覚ます。

 ここは事務所だ。帝国から追い出された僕は共和国制の島国へと移住した。輸出、輸入などにはあまり力を注いでいない小国である。飲食、賭博、売春を国営で商い運営している国だ。


 そして僕は退職金でこの部屋を買い叩き、探偵事務所を設立した。よし、記憶は大丈夫のようだ。


「すまない、つい美味しくて……」


 僕が目を覚ましたことに気付いたベルが謝罪した。頭は彼女の膝の上に置かれている、柔らかくも張りのある太ももだ。

 ハイウエストのショートデニムから素足を惜しげも無く披露していて、薄手のブラウスはその大きい胸部を随分と主張していた。胸当てをしていないため、突起が目立つ。彼女のバストサイズに見合う代物が僕の所有している女装衣装にないためであった。買わないと不味いな、なんてことを膝の上で思う。


 正常な精神をもつ男性紳士諸君であれば、ベルの格好は大変に宜しくない。いや、宜しいのか。とても扇情的でそそる。

 けれど、僕からすればどうでも良いことだった。


 不能なのだ。男性自身が全く機能しないため、女性的な魅力を感じる思考回路がない。

 なぜ不能になったかの経緯は…….まぁ、良いか、どうでも。


「また、僕は気を失ったのか」


「す……すまない」


 この娘はなにかあると直ぐにうつむいて下を向いてしまう。結果、僕は膝枕を受けている訳で視線が至近距離でぶつかった、


「ふぁっ」


 一瞬で顔を朱に染め上げ、ベルがそっぽを向いた。

 理由はわからないが彼女は僕に惚れている……人に惚れるに理由はいらないか。


「良い加減、慣れてくれ。目を合わせる度にそうでは困る。あと吸血の度合いも慣れてくれればなお嬉しい」


 そう言うとまた、すまない。と言って顔を背けてしまった。


「起きるよ」


「あっ」


 頭が離れるのが名残りおしかったのだろう、ベルが寂しさの混じる声をあげた。しかし、何時迄も寝転がっている訳にもいかない。

 御構いなしに身体を起こし、テーブルの上にあった水を一息で飲み干した。


 血が足りない、代わりになるものを体に入れないことには活動が出来ない。


「ふぅ」


 一息つく。

 貧血だった。


 僕が吸血を許すのは理由がある。今は血液が彼女らの食事になっているからだった。

 人であれば日に三度の食事が必要だし、魔人は大抵が人間よりも大飯食らいである。


 我が事務所は不本意にも二人の魔人が在籍しおり、職務に置ける収入は訳あって激減している。僕一人が食うに困る状況であるのに、人よりも燃費が悪い魔人二人を食わせるのは不可能だ。

 そこで血液の話に繋がる訳だ。


 人間の血液は彼女らにとって大変な栄養価があると言う。吸血鬼ヴァンパイアであるもう一人の魔人は勿論のこと、龍人ドラゴニュートであるベルにとっても人の血液は効果が高いらしい。

 先日、初めて僕から血液を摂取した際はその味と効能を大変に驚いていた。


 しかも血液は腹持ちが良いらしく、日に二度も吸血すれば問題なく活動出来るらしい。

 よって、食費の捻出が厳しい昨今は僕の血液で二人の食事が賄われている訳であった。


「ぅぅ……」


 隣でベルが唸った。

 どうにも、僕と二人きりになると緊張してしまうらしく、縮こまり畏まってしまう。


 頬は常に紅潮し、膝上でキツく拳を握り肩肘を張って緊張状態をありありと見せている。

 僕はと言うと、この状況にはもう慣れっこになっていた。水だけでは足りないから、なにかデリバリーで食事でも頼もうかなと思い立った時、扉が開いた。

 依頼者ではない。時刻に目をやると昼少し前……もう一人の魔人が仕事を終えて帰宅する時間だった。


「ただいま帰ったわ。……あら? 無職龍ドラゴニートさんは今日もお暇そうね? 失礼、間違えたわ。龍人ドラゴニュートさんだったわね」


「うっ……ぐぅぅ」


 黒一色のシンプルなワンピースを着込んだ、見た目は少女、中身は暴君なもう一人の魔人が帰宅した。

 ベルは出会い頭に嫌味を言われても言い返せずに、ぐうと唸るだけしか声が出なかった。ぐうの音が出ているだけまだ心は屈服していないらしい。


「はい、貴方。マスターお手製のローストビーフを挟んだサンドウィッチよ、マスタードをうんと効かせてあるから気付けにもバッチリですって」


「そりゃありがたい」


「貴方には精をつけて貰わないと私が困るもの。食べ終わったら良いかしら?」


「すまん、ベルの食事が終わったばかりだ。少し間を置いてくれ」


 そう答えてサンドウィッチを頬張った。美味い。


「……ッチ。無職風情が食事を摂るだなんておこがましいにも程が有るわ」


 舌打ちをし、僕に食事を与え、ベルに悪態を付いたのがもう一人の魔人である吸血鬼ヴァンパイア、<エイリアス・ツェペシュ・ドラキュラ>だ。彼女は僕の生まれ故郷である帝国出身で絶賛家出中。大貴族である魔人ツェペシュ公の娘だった。

 なぜそんな身分の者がこの事務所に居るのかと言えば、なんの因果かこの娘も僕に惚れているからであって……そうした訳でこのような現状になってる次第である。


「イリス、仕事は順調か?」


「えぇ。今日も程よく勝たせた後うんと絞ってあげたわ」


 彼女は今、僕が常連となっているカジノで働いていた。

 余りにもイリスがギャンブルで勝ちすぎたため、支配人が勘弁してくれと言ってきたのだ。


 最初はイカサマを疑われたが、調べても種も仕掛けも出てこない。

 然るべき理由もなしに客を出入り禁止にしては、面子も立たなくなってしまう。このカジノは客が有利だと出入りを禁ずる、なんて噂が流れたら終いだ。


 だからこそ、支配人自らが〈お願い〉に上がったのだ。

 それに対して、イリスは条件を出した。自身をディーラーとしてここで働かせること。


 そして快諾され、情けなくも彼女はうちの事務所で一番の稼ぎ頭と相成った。


「貴女は身体でも売れば良いのよ。他になにも特技がないのだから、その無駄に発達した胸や尻を存分に使えば良いのよ」


 イリスがまた悪態をついた。

 ベルは現在無職であり、稼ぎ口が完全にゼロだった。


 理由は彼女の不器用さが起因している。飲食店での給仕では焦って転んでしまい、御用聞きでは緊張して聞き間違える。皿洗いでは忙しさに目を回して皿を割る。

 とことん不器用で、逆に彼女が働くと損害買収を請求されるほどだった。


「それだけはダメだ、この身体は、あ、あああ、ある……アルトのものだ……」


 チラリと僕を流し見て、顔を両手で隠した。羞恥心が限界にまで達したらしい。


「ならばアルト。この穀潰しをさっさと娼館へ売り飛ばしましょう。龍人ドラゴニュートの娼婦など世界で類を見ないから、かなりの金額になるわ」


「アレにはアレで才能がいる……ベルの性格では間違って相手を殺しかねないから却下だよ」


 ベルは僕の言葉を自分なりに解釈したのだろう。なんとも嬉しそうな表情を作り、たははと変な照れ笑いをこぼした。


「もう、甘いんだから。実際、ここ最近はアルトにも全く仕事が入ってこないじゃない」


「それを言われると、な……」


 原因はわかっている。

 そしてその理由は魔人二人が大きく関わっているのは言うまでもない。


 まず、この国に魔人はいなかった。もしかしたら人間として隠れて生活している者もいるかもしれないが、魔人ですと大手を振って名乗る者はいない。

 そして、この二人が魔人であることは周知の事実となってしまった。


 あの日、イリスとベルが衝突した夜のこと。気絶していた〈ラルフ・ホプキンス〉氏は途中で目を覚ましていた。

 なにが起きたのか出来事を確認した後、彼は警察機構所長としての任務を果たした。魔人が二人、入国したと全国民に発表したのだ。


 無論、その発表をする前に彼が我が事務所を訪れ二人を口説いたのは言うまでもない。

 結果は二人に一蹴され、情けなく帰ることとなり、彼は僕を恨むことに決めたらしい。


 当然だ、魔人を恨み憎んだところでどうにもならない。だから、彼女らが隠すこともなく好意をよせる僕を大いに嫌うことにした、と。

 どうやらここ最近の依頼の少なさは警察機構からの圧力によるものだと、そう調べがついている。いや、参った。


「ねぇ、アルト。私の稼ぎで食べているのだから、これはもう実質夫婦と呼べるのじゃないかしら?」


「君がそれを強要するのなら、このサンドウィッチは返却するし、この事務所から出ていって貰うことになる。出て行かないのなら僕が出て行く」


そう言うと彼女は、


「もう」


 と言って唇を尖らせた。

 実際問題、僕の食事、食費は全てイリスが持っていた。これではヒモも同然である。


 イリスの職場であるカジノは、彼女が魔人であることを大いに喜んでいた。場所柄、つまり賭博であるからには聞き分けの悪い客がいる。つまり、そう言った意味でも彼女の存在はありがたかったのだろう。

 警察機構の横槍もなく、すんなりと働き口を決めることに成功した。このことから、嫌がらせを受けているのは僕だけと言うことになる。


 酷すぎる、完全にとばっちりだ。


「ごちそうさま。美味かったよ、マスターにもそう伝えてくれ」


「自分で言えば良いじゃない」


「行きたいところだが、種銭がないよ」


 そう言ってお手上げのポーズをとった。

 食べる金もないのに、博打なんて出来るはずもない。


「……あげましょか? お金」


 イリスが下卑た笑みを浮かべた。

 この娘はどこかサディスティックな部分があり、こうして僕を苛めるのが趣味なところがある。


「その金を貰ったらいよいよ僕もおしまいだ。だからさっさと閉まってくれ、終わりになる前に」


「その安いプライドはほんと、どうにかならないものかしら」


 コレばっかりはどうにもならない。

 しかし、だ。これは本当に由々しき事態で、打開策がない。依頼者は来ないし、ベルに働き口もない。稼ぎがあるのはイリスだけ。


「すまない……私が働けないばっかりに」


「本当に、全くもってその通りね。なぜ働いていない貴女が先にアルトの血を啜って私が後になるのかしら。夜勤明けだから眠りたいのだけど、お腹が減って眠れそうにないわ」


 完全に言い負かされ、ベルはシュンとしてしまった。

 僕はため息を一つつき、


「少しだけなら、まぁ死なない程度に頼むよ」


 そう言って左肩側の首筋を叩いた。

 彼女らは何故か場所にこだわっているらしく、左側がイリスで、右側がベルと縄張りが決まっていた。


「そうね、食事も摂ったことですしお言葉に甘えようかしら」


 それに、相手がイリスなら少しだけ安心度が増す。吸血鬼ヴァンパイアと言うだけあり、ベルに比べると驚くほど吸血が上手い。

 相手が死ぬギリギリのラインがわかるそうだ……だから毎回死ぬ間際まで吸われるのだが、ここは置いておこう。


「ではベッドに移りましょう?」


「ここじゃダメなのか?」


「言ったでしょう? わたし、眠いの。そのまま寝たいし、貴方も恐らく眠ることになるわ。それに──トカゲさんの前で吸ってたら視線が気になるもの」


 なるほど、と納得した。

 イリスは僕が貧血で倒れることを前提としており、だからベッドの方が手間が少ないと言っているのだろう。


 そしてそのまま僕を抱き枕にするつもりだ。


「ず、ずるいぞイリス! 私はそんな、べべべべっ、ベッドでなんてしていない!」


「お黙りなさい。無職龍ドラゴニートは雑巾がけでもしてなさいな、労働者である私は疲れてるの」


 よくわからない抗議も虚しく、ベルはピシャリと言い伏せられてしまった。

 無職と言われると弱いらしく、やはりシュンとして縮こまってしまった。


「さ、行きましょう」


 まるで子供のようにニコニコと笑顔を作りながら、イリスは僕をベッドに誘った。

 いかんな、だめだ。


 きっと僕は気を失い眠るだろう。眠くもないのに、眠ってばかりで不健全極まりない、死期を早めているだけな気がする。

 どうにかして収入をなんとかせねばと、頭を悩ます僕を無視し、イリスは甘えた声で首筋に噛み付いた。

 案の定、僕は気を失い次に起きたのは日も傾きかけた夕方になっていた。


 こんな生活は、嫌だ。





 翌々日。

 幸運は向こうから歩いてきた。


 なんとも笑えることに、依頼者は僕の仕事を阻害している警察機構の所長さん……の奥さんだった。二度目の調査依頼。

〈ローゼス・ホプキンス〉さんはやはり夫を疑っているらしく、二度目の調査をお願いされたと言う訳だ。


「それでは、宜しくお願いしますね」


 そう言って前金を置き、事務所を後にする奥方。

 前金を受け取ってほっとする。やはり、手持ちがなにもないのは不安と言うものだ。


「よ、良かったな、アルト。私も自分の事のように嬉しい」


 優しくはにかむベル。イリスが仕事に出かけてるものだから二人きりな訳で、やはり緊張しているようだった。

 ベルの足先から首元まで視線を動かす。


「?」


 僕の意図してることがわからないのだろう、首を傾げてなんだろうかと尋ねてくるがそれを無視して観察を続けた。

 見ているのは服装。今日は足のラインが良く見えるタイトなジーンズに、胸囲のサイズがあってないためにピッチリと体を締め付けている無地の白いシャツ。当然のように頭頂部にある突起物が自己主張をしている。


「よし」


 と一言。

 買い物に出かけることにした。





 ベルは随分とご機嫌な様子だった。

 この国に入国していらい、このようにショッピングを楽しむことなどなかったからだろう。

 埠頭に身を隠し、魚を獲って飢えをしのぎ、夜はダンボールに包まって眠る。こんなに惨めな龍人ドラゴニュートがいるだろうか? とさえ思う。


 事務所に住み着くようになって、衣類の問題が出てきた。

 幼児体型とすら言えるイリスと違い、ベルの体型は僕の衣装にフィットしない。


 僕が望んで始めた共同生活ではないが、窮屈な思いをさせるのはなんとなしに嫌な気分になる。

 率直な(傲慢とも言える)イリスと違い、ベルはほとんどを受け入れてしまうため不満を漏らすようなことはないが、それでもやはり良い気持ちではない。


「あるとっ! あるとっ! あれは、なんだろう?」


 子供のようにはしゃぐベルは、僕の手を握りながら菓子屋を指差した。

 コンペイトウと言う、半透明の砂糖菓子に興味が湧いたらしい。


 こんな時間の潰し方も悪くはないな、と思ったがイリスの顔を思い出し表情を引き締めた。

 今日のことは黙って……いや、バレたらなにを要求されるかわからない。成功報酬がでたらあいつも買物に誘ってやろうと決めた。


「それはコンペイトウと言う。甘くて、食感の楽しい砂糖菓子だ。東の方の国から広まった珍しいものだな」


「な、なるほどー」


 ガラスのショーケースに収まっている色とりどりのコンペイトウを、キラキラとした目で眺めている。

 僕にも焼きが回ったものだな、と自身に悪態をつき、


「お姉さん。コンペイトウを一瓶お願いします」


「あいよ。お連れさん、綺麗だねぇ」


 どう見ても立派なオバさんにそう言ってコンペイトウを包んでもらった。そしてまた、どう見ても支払った価格よりも容量が多い。


「ア、アルト……?」


 困惑した表情を作っている。

 ははぁ、と思考巡らせ一人で納得した。ベルは人から何かを貰ったりしたことがないのだろう。特に、こう言った些細な贈り物は経験がない。だから、僕が差し出すコンペイトウにきょとんとした表情を作っている。


「あげるよ」


 そう短く言葉を切り、コンペイトウの詰まった瓶をベルに手渡した。

 コンマ遅れて状況を把握したベルは破顔し、たははと照れ笑いを作った。


「取り敢えずの衣類は買い揃えられたな」


「あ、ありがとう……役立たずな私にこんなに沢山の服を……な、なんて言ってお礼を言えば良いかわからない」


 こんなに沢山、と言っても大した数ではない。上下を数点と、ベルの胸囲にあった下着を数点買っただけだ。

 それよりも、彼女の言い回しの方が困りものと思えた。


「あまり自分を卑下しない方が良い。少なくともそれはプラスに繋がる台詞ではないよ、ベル」


「しかし、私はイリスの言うように穀潰しの役立たずだ……その、アルトに迷惑かけて、ばかりを……」


 段々と言っていて目尻に涙を浮かべていく。戦えば悪鬼羅刹をも裸足で逃げ出すような力を持つ娘だと言うのに、メンタルはどうにもこうにも柔らかすぎるようだ。


「その内になんとかなる、今は気にするな。それ以上にぐだぐたと言うのなら、嫌うぞ?」


 そう言うと、


「いっ、嫌だ! アルトに嫌われるのは、その、とても困る。想像しただけで耐えられそうにない……」


 痛い痛い! 僕の手を掴む力が跳ね上がった。しかし、騒ぐのも格好がつかない。

 よって、僕は空いた手の方でベルの頭をくしゃくしゃと撫で回し場を濁して話題を終わらせることを選択した。


 そうこうして歩いていると、大通りに出た。昼時とあり、そこかしこが握わっている。まだ前金も残っているし、貧血でもあるから肉でも入れて行こうかと周囲を見渡すと一風変わった格好の女性を目が捉えた。

 髪型は後ろで纏めたショートポニーテール。ベースの色は金髪なのだろうが、染料が落ちているらしく所々に黒髪が混じりストライプ模様を作っている。


 服装はと言うと、上半身はぶかぶかのラフな綿のシャツに、下は余りにもダメージを受けすぎ肌色がかなり露出されているジーンズで履物はビーチサンダル。

 そしてなにより、寒くもない気候だと言うのに彼女は真っ赤なマフラーを首に巻いていた。


 上背は僕と同じ程度、胸囲は……イリスを控えめと表現し、ベルを暴力的なと言うのであれば、彼女のそれは健全なサイズと言えるだろう。薄い褐色の肌が健全さをより増長させていた。

 断りを入れさせて貰えるのであれば、僕はそう言ったフェチがある訳ではない。職業柄、不可思議な姿形をしてる者は細かく見てしまう癖があるんだ。


 彼女と目があった。微笑まれたような気がした。

 はて、知り合いだったかなと思うのもつかの間。僕たちの進行方向と彼女の進行方向は逆向きだったので直ぐに行き違ってしまう。


 目線があったのは気のせいで、後方にいる誰かに投げかけたのだろう。少しばかりの恥ずかしさを覚えた時、後ろから突き刺すようなプレッシャーを感じた。振り返る。ポニーテールの彼女は此方を見つめていた。



「みつけた」



そう言った後、彼女は更に発言した。


確かに、力強く、ハッキリと。




「──変身」




そう言ったのだ。

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