転生して3日目
衝撃の転生から3日経った。
その間、少しずつこの異世界のことが解ってきた。
異世界の名前は解らないままだが、今俺が在るのはチュルカという王国の西方に流れるネロ川の砂利道だ。たまにやって来る冒険者らしき人達の言葉を可能な限り聞き取り、大体の把握ができた。
声を発することができれば、多少発音に問題があるだろうが会話は可能だろう。…小石に『声帯』なんてないから、ありえないけど。
あと、小石である俺にも一応魔力値なるものが存在する。…ただ余りに少ない数値であるが故に表示されないだけで。冒険者の方々が新米らしい若者に説明しているのを聞いた内容によると、
・魔力は世界の万物に宿る存在する為の力。
・魔力の多い者は種族・貴賤を問わず尊び、敬うべき者。
・稀に魔力の総量が増大すると『存在の昇移位』と呼ばれる事象が起こる。
・逆に魔力を大量に消費し過ぎると『存在の降移位』が起こる。
というものらしい。
“やはりファンタジーな世界は違うな。あーぁ、人の姿なら堪能できるのに、なんで小石かなぁ…”
生まれ(?)直して3日。嘆くのも飽き、そろそろ魔力に関する己の能力について検証することにした。
“先ずは…『魔力収集(微)』か…。現状、魔力を消費するようなことをしていないから、これ以上は収集しないほうがいいかな。吸い過ぎて、ぱりんっ、なんてなったら嫌だし”
生き抜く為の技能で早死になんて笑えない。『石』に『生死』があるかは別にしても、魔力を消費せずして『存在の降移位』なんぞごめんである。
“…そう言えば『魔力流動(微)』ってのもあったな。『流動』ということは魔力を操ることができる能力かもしれない。よし…”
小石の中で小石の周囲を渦巻くようなイメージで念じてみる。
“……お、おっおぉ〜!”
ほんの微風といった『力』がふわり、と動かせたことに感動する。自然の風ではなく、彼の意思で魔力を操ったことに胸が熱くなる。
“…ふぅ、魔力を操るには自分の魔力を媒介にしないといけないのか。よし『魔力収集』〜”
┏ ┓
Level up!
Lv1 → 3
MP5 → 9
┗ ┛
“お、レベルが上がった! …まあ、魔力総量が増えた以外に変わらないから達成感ないんだけどさ…”
┏ ┓
石見 輝晶
種族:鉱物
存在階位:小石
Lv:3
能力:魔力収集(微)
魔力流動(微)
┗ ┛
“まだ魔力が表示されない、か。もしかして10以上にならないと表示されない、とか? 『HP』がないのはどうしてだ? 魔力と同じで一定量にならないと表示されない…いや、だったらさっきのレベルアップで量が増えたって報せがあってもいいはず…”
俺は川の細流をBGMに聞きながら真剣に、今の自身の体を考察する。
小石(無機物)とは言え、このファンタジーな異世界ではどんな災難に遭って果てることになるかわからない。
あらゆる可能性を想定し、あらゆる道を模索するのは無駄ではない。
“無機物だから? 小石程度の存在には表示されない? いや、無機物には無機物で『耐久値』という形ででも表示されてもいいはずだ。なのに、それもない……まさか、『魔力値』=『耐久値』なのか?”
もし、そうなら魔力を使い果たした途端『破砕』つまり『死』ってことだろうか? そう考えるとしっくりくるような気がした。
“まあ、使い果たすような失態は起こらないだろうけど。そもそも、魔力をほんの少し動かすだけしかできないのに、使い果たすもなにもないしな”
地道に魔力流動でLvを上げて、魔力総量を増やしてゆるゆる自然生活を満喫しつつ長生きしてやろう、うむ! と、人(?)生設計を大雑把に決意した時だった。
「ほう、なかなか良い素材だ。わざわざ、街道を外れて採取に来た甲斐があったな」
“え…?”
視界いっぱいに人間の手が広がり、体が急に持ち上がった。
下には『小石(俺)』を陽の光に翳し、機嫌良さそうに笑む青年。理知的な顔つきにとんがり帽子と紫黒のローブ、という『わかりやすい』格好に背筋に冷たい汗(出ないけど)が滑り落ちるような感覚を覚えた。
「次の遺跡探索に使うとしよう。罠や魔物を確認したら、存分に働いてもらうからな?」
“いっ…”
「おぉーぅい、皆待たせたな。良い素材見つけられたぞ!」
「早かったな。じゃ、行くか。今からなら夕方には遺跡を管理している街に着けるだろう」
「野宿も悪くはないが、やはり宿で飲むエール酒がなければ士気に関わるからの」
「それは大酒飲みの貴方とイグウェルくらいだわ」
“嫌だぁああああぁぁっ、放せ! 俺はゆるゆる自然生活を満喫するんだぁああああぁぁっ!”
「さあ、冒険の旅を再開しよう!」
俺の必死の主張は(声が出ない為)無視され、俺は強制的に旅立たされたのだった。