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閑話 ギーラ 前編



 「さて、始めるとするか」



 大小と赤、この世界に存在する三つの月が全て満月となる今夜、数十年に一度の、あらゆる種類の魔力が活性化するこの時に、準備だけで数ヶ月以上をかけた儀式魔術に取り掛かる。


 地面に描かれているのは北を頂点とした六芒星、西洋ではダビデの星と呼ばれ、また日本では籠目紋と呼ばれて、伊勢神宮の石灯籠などに刻まれている文様である。


 その中央に倒れているのは、昨年より王都の北で暴れまわっていた三匹の龍の骸。通常の雪竜スノー・ドラゴン氷竜アイス・ドラゴン嵐竜ストーム・ドラゴンのような、翼を持つトカゲとも言うべき姿ではなく、蛇の体に蝙蝠の翼、鷹の爪に虎の掌、鹿の角と駱駝らくだの頭を持った東洋風の龍――、


 この世界では古龍エンシェントドラゴンと呼ばれる、世界でも最強クラスのモンスター。


 今夜の儀式魔術に使うために激務の合間を縫い、俺自身の手で狩って来た獲物である。


 地脈の集まる場所を厳選し、時を待ち、世界最強クラスのモンスターの骸、三匹分を使う儀式魔術。


 おそらく、この世界で行われる魔術としては、有史以来、最大にして最高難度のものになるだろう。俺は心を鎮めると、極限まで魔力を練り上げ、言霊を口にする。



 ―― 南無・諏訪大明神 ――



 本来ならば、これは俺がかつて修めた修験道系の術とは別系統の、神道系の術。


 それを地の利と時の利を使って力技で発動させる。



 「お、お、おおおおおおおおお!!」



 裂帛の気合と共に練り上げた魔力を操り、空間に亀裂を入れる。


 その亀裂より呼び出すのは、神の分霊わけみたま。オリジナルとまったく同じ力と知識、神格を持つ、神霊の分身である。



 「あ……あ、あああああああああ!!」



 身体の中の魔力を最後の一滴まで振り絞る。俺は神に仕える神主では無く、この場には神の力を降ろす巫女も居ない。


 それでも、異なる術理を力技で発動が可能なのは、その神霊が己の意思で協力してくれているからだ。


 その神の分霊を魔力の綱で縛り上げ、一本釣りのイメージで引き上げる!



 「い、あ、らああああああああああ!!!」

 


 俺の絶叫と共に爆音が響き、地面に描かれた六芒星が爆発する。爆風で土煙が舞い上がり、一帯を隠す。


 爆音の余韻が消え、息が詰まるような静寂が場を支配しておよそ十数秒。


 風が吹き、土煙がゆっくりと晴れてゆく。


 爆発し、跡形も無くなった六芒星が描かれていた場所、つまり古龍の骸が置かれていた場所には、骸の代わりに一人の少年が佇んでいた。


 …………そう、彼はまぎれも無い少年である。


 極上の絹を思わせる緑の黒髪。


 小鹿を思わせる華奢でしなやかな肢体。


 そして幼くも甘い可憐な顔立ち。


 外見だけで言えば、絶世の美少女以外の何者にも見えないが、それが見た目だけのものであることを、俺は幼児の頃から知っている。


 そして土煙が完全に晴れ、三つの満月の光が照らす中、その少年は一糸纏わぬ姿で口を開いた。



 「ふう、上手くいったみたいだな、義威羅……いやギーラよ。…………って、なんじゃこりゃああああ!!声高ッ、視線低ッ!腕も細ッ!!おい、鏡よこせ、鏡。なんだ、この身体?下手すりゃ年齢一桁レベルじゃねえのか!?」



 どうやら三匹の古龍エンシェントドラゴンの骸を材料に使って、それでもこの男の肉体を再現するのは幼子の頃の物が精一杯だった様だ。


 まあ、コイツの事だし赤ん坊の身体とか、精神体での分霊にならなかっただけでも良しとしよう。



 「この世界じゃ鏡は高級品だ、城に行かなきゃ無えよ。あとさっさと服を着ろ。ショタ好きなお姉さんや、男の娘好きな連中が、妙なフェロモンを嗅ぎ付けて寄って来ないとも限らん」



 そう言って、あらかじめ用意しておいた服を放り投げる。



 「推定、小学校中学年の身体で構成したことをスルーして、さらに人を繁殖期の昆虫みたいに言いやがって……、一応俺は、これからこの世界タームチュールの守護神になる予定の存在だぞ、もーちょっと敬意を払え、敬意を」



 「お前は、俺からそんな種類の敬意を受けて嬉しいか?俺だったら、そんなむず痒いだけのものは勘弁だが」



 「…………それもそうだな」



 そう言って彼は用意された服に袖を通す。フリーサイズのものであるが、元々本来の姿の彼……身長192cm、体重135㎏の筋肉達磨のために用意されたものである。


 当然ズボンは大きすぎて履けず、同じく大きすぎるシャツだけを貫頭衣のように身に纏い、長すぎる分を裾で縛って、足にかからないようにする。


 サンダルもサイズが違いすぎて使い物にならないが、原生林の獣道程度ではこいつの体に傷一つ付けられまい。とりあえず裸足で城まで行って貰うとしよう。



 「しかし、こうやって見ると裸より色っぽいな。リョウが見たら『わが人生に一片の悔い無し!』なんて言いながら、鼻血まみれで立ち往生するぞ」



 「あー、普通に有りそうだ。あいつが戻ってきても言うなよ、血涙を流しながら『なんで、写真を撮らなかった』って末代まで呪いかねない」



 彼の言葉におもわず苦笑する。俺の主観時間では三十年以上も前に別れたというのに、リョウのその姿がありありと脳裏に浮かぶ。


 “三つ子の魂百まで”というが、どれ程の時が経とうとも奴ならばそうするだろうと、俺の心の中にはそんな確信がある。


 そのように旧友を懐かしんでいた俺に向けて、二つの気配が凄まじい勢いで近づいてくる。少し離れた場所で地脈の調整を行っていたオウカとキッカだ。


 弾丸のように突っ込んできた二匹の犬神は主人であるはずの俺を無視し、千切れんばかりに尻尾を振って少年の元に馳せ参じる。



 「お久しぶりでございます、諏訪部様!」



 「まさか、再びお会いできるとは夢にも思っておりませんでした。本当にお懐かしゅうございます!諏訪部様!」



 二匹はそう言うと少年に――、『戦神の末裔』諏訪部真澄に向けて飛び掛り、彼に身体をこすりつけ、その顔を舐めまわす。



 「おお、久しぶりだな、お前ら!義威羅が家出して以来だから、十一年ぶりか!?……で、こっちの世界だと、それプラス十七年?二十八年ぶりか……いや、元気そうで何よりだ、マジで!!」



 諏訪部は心の底から嬉しそうに言うと、自分より大きな体躯の犬神二匹を至福の表情でモフり始める。


 そして、彼のその反応に気を良くしたのか、オウカとキッカのテンションはさらに上がっていく。


 まったく、盆に帰省した元飼い主を出迎える飼い犬かよ、お前らは。


 あ、過呼吸でぶっ倒れた。



 「…………なあ、ギーラ。この世界じゃあ、犬神も過呼吸になるのか?」



 「しらねーよ、実際に倒れてるし、なるんじゃねーの?」



 それ以外にどう答えろというのか、それより、ここで話をしていてもしょうがない。馬鹿犬二匹の実体化を強制解除し、改めて諏訪部に声を掛ける。



 「さて諏訪部よ、ようこそタームチュールおれのせかいへ、ようこそノーリリアおれのくにへ。歓迎するよ、親友」



 「おうよ、……こんなんなった後で、改めて言われても締まらねえがな」



 うるせえよ、ほっとけ。




 

 諏訪部を……正確には彼の分霊を召喚した場所から南に約20km、ノ-リリアの王城へと続く獣道を走り抜ける。


 普通ならば数歩ごとに小枝や藪に引っかかり、まともに進めないであろう諏訪部の格好であるが、まるでアウトドア用の専用装備を着ているかのような動きで、俺の後ろにぴたりと付いて来る。



 「流石だな、この世界じゃあ、そんな風に走れる奴はいない。みんな、身体の使い方が下手なんだよな」



 「そんなんで大丈夫なのか、この世界。日本だったら、陸自のレンジャーは全員俺と同等以上に走るぞ」



 いや、あんな伊賀や甲賀の忍者たちと互角以上に張り合うような連中を基準にされても困るんだが。



 「まあ、今年の富士登山マラソンは、陸自の元山岳レンジャーが風魔忍軍の若頭の五連覇を阻止して初優勝してるがな」



 なん……だ、と……。そうか……そこまで強くなってたのか陸自の中の人。


 『学園』時代に俺達が仕掛けたトラップや障害を乗り越えつつ、富士一合目から山頂に登り、降りてくる毎年恒例、初夏の富士登山マラソン。

 

 『学園』に於ける罠の講師が風魔忍軍の忍者だったこともあり、長らく風魔忍軍の天下が続いていたが、どうやらそれも終わりになりつつあるらしい。 


 しかし、吹っ飛びはするが、死人はもちろん、怪我人も出さない程度に罠の威力を調整するのが大変だったよなあ……


 …………一番大変だったのが、ここぞとばかりに暴走する『学園』九期生の女マッドサイエンティスト、霧沢怜奈を抑えることだったのは、俺達九期生だけの秘密である。



 「明かりが見えてきたな。あれか?結構立派な建物じゃねえか」



 と、そんな話をしているうちに王城に到着する。ギーラとしての十七年の生涯を過ごした我が家だ。質実剛健を絵に描いたような、無骨で頑健な城というより砦と言った方が近い威容。


 確かに日本の高層建築や国宝四城を知っている者が見ても、十二分に観賞に足る建物である。



 「ああ、確か築八〇〇年とか言ってたな。此処の建築もなかなか大したものだぞ」



 「築八〇〇年の古城か、モノが良ければ世界遺産クラスだな。お前、そんな良い所で暮らしてたのか……」



 どこか感心したように諏訪部が呟く。


 地球の八〇〇年前といえば日本では鎌倉時代、中国では南宋時代で、ヨーロッパではフランスとイングランドの第一次バロン戦争が始まった辺り。


 両国の間でいわゆる英仏百年戦争が始まったり、イタリアでルネサンスが始まる百年以上も前だ。


 文化的、技術的に目立った変化の無いこの世界では八〇〇年と言っても実感が湧かないが、地球の歴史で見てみるとその長さに驚かされる。


 だが、そんな長い歴史を持つ我が家は現在、蜂の巣をつついたような大騒ぎになっていた。





 「おい、一体どうした!?」



 俺は騒乱真っ只中の王城の中、手近な兵士に声をかける。


 そしてその兵士から返ってきたのは、俺の思いもよらぬ言葉であった。



 「殿下!城下一同で探しておりました!一体どこに行っておられたのですか!?」



 …………あれ?もしかしなくても、俺を探してたのか?



 「そんな、たかが誕生日パーティーを抜け出して、半日留守にしたくらいで大げさな……」



 「それは、お前が悪い」



 思わず口を吐いて出た言葉に、間髪置かずに諏訪部が突っ込む。



 「殿下、こちらのお嬢様は?…………あ、し、失礼をいたしました!どうかごゆっくりと!」



 目の前の兵士はそう口にすると踵を返す。……ちょいと待て、お前は何か勘違いをしているぞ。


 誤解を解こうと話しかけようとするも、彼の中では既に不変の結論が導き出されているらしく、俺の話を聞こうともしない。


 …………断じて俺は幼女趣味ロリコンでも稚児趣味ショタコンでもない。


 諏訪部よ、お前からも何か言ってやれ、と彼のほうを向くが、彼は苦笑しながらも沈黙を保っている。


 その格好は上半身に大きめのシャツを着ただけの、“裸Yシャツ”に近い格好、そして中身はともかく、彼の容姿は、未だ幼くも男ならば誰もが目を奪われるような美少女である。


 落ち着け、落ち着くんだギーラ。これは状況だけを見れば、逢引きしていたとしか思えないシチュエーション。


 そのうえ諏訪部の容姿は、俺の周辺にいる女性達とはまったく違うタイプの美少女である。このような女性が俺の好みであると思い込むことも十二分にありえる。


 ここで慌てては図星を付かれて焦っているとしか思えない状態。しかも昨年の海賊退治の後、イリーナ、ターニャ、アリシア、そしてライラ姉の四人が正式に婚約者となった現在、“浮気したから隠れてた、慌ててる”と邪推されかねない状態だ。


 諏訪部が黙っているのは初めての場所、初めての相手に藪蛇を怖れているのだろう。事実、彼のような見た目幼女が何を言ったところで、普通の兵士が話を聞いてくれるとは思えない。


 一瞬、成り行きを楽しんでいるのかとも思ったが、リョウと違ってコイツにそんな趣味は無かったはずだ。


 ならば対応は一つ、諏訪部が何者かという問いを誤魔化しながら、彼は男性だと説明し、目の前の兵士の誤解を解くだけである。


 説明はあくまでも論理的に、筋道を立てて、この男が納得できるように……



 「ちょっとギーラ君!探したんだよ、どこに行って……、誰?その子。まさか……」



 と、兵士に話しかけようとしていた俺に向けられた少女の声。


 ギーラとして生まれ変わって、その生涯のほとんどを共に過ごした幼馴染の声は、今までに聞いた事が無いほど冷たく寒々しいものであった。


 最悪だ…………、だが、心の中では焦りつつも、それを顔に出すような真似はしない。


 少しでも有利に話を進めるため、何事も無かったかのように、平然と声を掛ける。



 「えーっとだな、ターニャよ、信じられないとは思うが、こいつは男……」



 「話は後で聞くから、ちょっとこっちへ来なさい」



 そう言うと、彼女は俺の耳を摘まんで力の限り引っ張りながら、城内へと足を進める。



 「ちょ……ちょっと待てよ、ターニャ。誤解だって。お前の考えてるようなことは何一つ無いって……、話を聞けよ、おい」



 「なあギーラよ、この状況、ひょっとして詰んでねえか?」



 どこか諦めたかのような諏訪部の声が、なすすべなくドナドナされる俺の耳に届く。


 …………いや、まだだ、まだ終わらんよ!





 「だから、こんな格好してるが、彼はお前らも知ってる諏訪部真澄の分身だ。断じてそーゆー関係じゃねえよ」



 「……うん、まあ、信じられない話だけど……」



 「…………ン・ガイの森の出来事をあれだけ詳しく知ってるなら、本物と判断してもいいと思う。……確かに信じにくい事だけど、ギーラ絡みのことだし今さらだと思う……」



 ふう…………、どうにか納得してもらえたようだな。『ギーラのことだし』で片付けられるのは複雑な気分だが、背に腹は変えられない。


 やはり説得には正直と誠実さが最大の武器だな、うん。



 (いったい、どの口でそのような事をおっしゃいますか)



 (同感でございます。不動金縛りで拘束した上、精神を朦朧とさせた状態で情報を刷り込むのは、洗脳というのです)



 いいんだよ、結果が良ければ全てよし、だ。何より俺は、真実しか語っていないしな。


 俺の話を聞こうともせず、ヒステリー気味に問い詰め続ける女性陣四人を相手にして、他にどうしろというのか。


 結果以上に過程を重視する人間がいるのは知っているし、その考えを否定する気も無い。それに俺だって物事しだいでは過程を大事にする。


 ……が、婚約者に前世の幼馴染な男の娘と浮気を疑われての修羅場、なんてものを回避するのに過程を選んではいられない。


 そんな情けない事になったら、恥ずかしさのあまり悶死する自信がある。ノーリリア王太子にしてグーノフォードの魔王が、そんな死に方をするわけにはいかないのだ。



 「あれだな、一回刺されたほうが良いんじゃねえか?お前」



 他人事みたいに言ってんじゃねえ、諏訪部よ。半分は貴様がややこしい見た目をしてるのが原因だろうが。



 「それはそうとして、肝心なことを言ってなかったが、なんでスワベさんの分身がこの世界にいるんだ?たしかあの人はギーラにこの世界のことを任せて、別れたんじゃなかったっけ?」



 ただ一人、不動金縛りの拘束を受けず、冷静に話を聞いていたティオが不思議そうな顔で口を開く。そしてその問いには諏訪部が答えた。



 「あー、俺もそのつもりだったんだが、状況がちょっと変わってな……」



 彼が口にする内容は、一年近く前に俺が受けた神託と同じもの。それぞれの神界に住む、地球の神々の手によって作られた計画であった。


 簡単に言うと、クトゥルフ神話に代表される邪神たちから地球を守るため、新たに防衛ラインとして複数の世界を作り、現在存在している地球以外の異世界のうち幾つかを、魔力や戦力の補給を行う為の集積地にしようとするものである。


 そしてタームチュールは元々イザナギ様がイザナミ様の為に創った箱庭であるが、集積地として最高に近い適正を持っていたらしく、最大級の集積地として使うことがなし崩しに決定してしまったというものだ。


 だが、この世界はかつての諏訪部と門にして鍵たるものヨグ・ソトースとの戦いの余波で極めて不安定になっている。


 そのため、急遽世界を立て直す必要に駆られ、俺は人間の立場から、そして諏訪部は神……というより世界を司る精霊としての立場から、世界の再生を依頼され、また命令されたのである。


 具体的な内容としては、俺が人の世の混乱を収束させ、穏やかで建設的な社会を創るということ。つまり俺がやることとしては、諏訪部からの頼まれごととあまり変わらない。


 そして諏訪部の仕事が地脈・龍脈を始めとする世界の魔力ラインの再生と管理、さらに非常事態が起きた場合、この世界の守護神となり、脅威を排除する事などである。


 パソコンに例えるならば、俺の仕事がソフト面からの修理で、諏訪部の仕事がハード面からの修理といったところであろうか。


 ちなみにこの“仕事”、俺の場合は依頼という形になるので、とても美味しい報酬が入るのだが、諏訪部の場合は八百万の神々の末席に名を連ねる者として、アマテラス様からの勅命のため拒否権はなく、また報酬も雀の涙ほどらしい。


 ……なんか、アレだな。中学高校と学年トップだった同級生が、ブラック企業に就職して扱き使われてるのを見せられてるような、複雑な気分。



 「その視線は何だ、ギーラよ。この仕事の手当てが無いってだけで、給料はきちんと出てるからな?れっきとした国家公務員で、ボーナスも年二回出てるからな?」



 「でも、これはサービス残業なんだろ?」



 「げ……月給制だから、その辺は管理職と同じだから!」



 「俺の記憶が確かなら、日本には『名ばかり管理職』ってのが有ったような……。お前世間じゃあ『キング・オブ・ニート』なんて言われてるけど、こういった非公式な仕事を入れたら、拘束時間どんだけよ?」



 「い……いや、非公式な仕事は分霊を使ってるし……、本体は東京で、二十四時間自宅待機のヒキコモリだし!」



 「で、買い物は通販のみ。温泉もゲーセンもラーメンも食いに行けずに、ひたすら自宅でネトゲとマンガ、アニメ三昧と……」



 「ローン組んでホームジムを作って筋トレもしてるし、離れの柔道場で、毎日の打ち込み五千回と各種の受け身二百回づつを欠かしたことも無いわ!」



 むう、『キング・オブ・ニート』の分際で……それじゃあまるで、昭和の新書ノベルに出てくる格闘家のような生活じゃないか。


 あれか?食事は牛乳とサバ缶とロースハムに卵とか、おじやにバナナに炭酸抜きコーラとか、そんなんか!?



 「えーと、二人で盛り上がってるところ悪いんだが、二人ともこれからどうするんだ?ギーラは今までと変わらないとして、スワベさんの仕事が地脈と龍脈の再生なら、世界中を回りながら作業したりするのか?」



 あ、ティオのことを忘れてた。



 「いや、俺の仕事の報酬の中には『諏訪部の助力を得れる』っていうのも有るからな。コイツくらいになると地脈の再生は世界中どこでも出来るし、知識や技術も俺とほぼ同等だから、俺のサポートとか副官みたいなことをやってもらおうと思ってる」



 諏訪部は俺と同じ時、同じ先生に学んだ同級生だ。当然地球の技術や知識については俺とほぼ同等……いや、本体が地球に居て情報を共有している彼ならば、俺以上に的確な答えを出せるだろう。


 また神々の末席に座するものとして、直接人を害することは出来ないが、軍の指揮を執るくらいなら可能なはずだ。“孫子”や“六韜”などの兵法書は『学園』の必修科目であり、その比較資料として“君主論”や“戦争論”に、ハンニバルやアレクサンダーの戦術の研究論文を読み込まされてた訳だし、現在進行形でそれらを調べなおせるんだからな。


 間違いなく、この世界のどんな名将よりも上手く軍を率いてくれるだろう。



 「……ちょっと待て、お前はそれで良いかも知れんが、周囲が納得しないぞ」



 「同感だ。アタシたちも部下たちも、お前の命令だから付いて行ってるんだ。新入りがいきなり現れて、『今から彼が副官です、これからは彼の命令を聞きなさい』なんて納得できるわけが無いだろう」



 あ……、言われてみればその通りか。俺にしてみれば、『戦神の末裔』がわざわざ指揮を取るのだから、異議を唱えるものなどいないと思っていたが、ここは異世界である。彼の事を知っているものが俺以外にいるはずが無い。


 さて、どーすっかな……、もう諏訪部にやってもらう予定の仕事はぎっちり詰まってるし、今さらあの量の仕事を自分でやるのは御免である。


 催眠状態から覚めた直後のイリーナでも思いつく問題をまったく意識しなかったとは、どうやら仕事を丸投げできる相手の出現に相当浮かれていたようである。


 あ゛ー、と、彼の扱いに悩み続ける俺に諏訪部本人が声を掛けたのは、その少し後であった。



 「だったら、俺がギーラの副官に相応しい実力を持ってるのを証明できれば良いんだろ?王族の権力を使って、天下一武○会みたいなの開けねえか?それが無理なら百人組み手みたいなやつとか。で、強い奴は認めるっていう軍関係の人間を抑えてから、他を納得させればいい」



 「……天下一武道○!?なにそれ!面白そう!」



 「つーか、ネーミングセンスが良いな!地球には、そんなカッコイイのがあるのか!?」



 そこに食いつくか、お前ら。


 だが、その名を使うことは断じて許さん。


 俺たち、かつての少年にとっての聖書バイブルの中身をそのまま使うなど、あまりにも恐れ多いわ。


 それが彼らの反応を見ての俺の思いである……が、そんな俺を他所に、ティオたちは話を進めていく。



 「伯父さんたちは庭で呑んでるよな」



 「……うん、他にも腕っ節が強い人はみんな揃ってる」



 「場所はあたしたちがいつも使ってる訓練場でいいよね」



 「当然アタシも出るからな!スワベさんの本体は一目で最強だと理解出来たが、分霊のそんな細腕でどんな戦いをするのか、お手並み拝見させてもらう!」



 おい、まだやると決まったわけじゃあ…………



 「よし、みんなにこの事を話してくる!」



 「会場作りは任せて!アリシアも手伝ってくれる?」



 「……了解」



 「アタシは戦いの準備をしてくる、……まったく、腕が鳴るぞ!」



 あまりの展開の速さに俺はもちろん、言い出した諏訪部さえも呆然となる。……マジでやるのか?


 あー、えーと、その、なんだ…………うん。あーあー、テステス。ただ今、声真似のテスト中、ただ今、声真似のテスト中……よし。



 そんなこんなで、後編へ、続くッ!




 

 



 

 

以前、気分転換に書いていたものがまとまる目途が立ちましたので、投稿します。


後編は明日の18時ごろ投稿の予定です。

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