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閑話 ターニャ



 「そういうわけで、是非ターニャにも協力を頼みたいのだ」


 「・・・お願い」


 「うん、とりあえず何が『そういうわけ』なのか、どんなことを協力して欲しいのか、その辺りを説明してくれるかな?」



 あたしの名前はターニャ、ターニャ・ベル・ロロリオ、ノーリリア最大の・・・世界でも屈指の規模を誇るロロリオ商会の次女である。


 ギーラ君の『学友』の中ではただ一人、市井の出身ということが密かなコンプレックスであったが、かつてギーラ君から言われた、『市井の人間でなければ出来ないことがある』という言葉があたしを変えてくれた。


 いまでは、ティオ君と一緒に情報面から彼を支えているという自負がある。


 そして、目の前の少女達はあたしと同じギーラ君の『学友』であるイリーナとアリシア。


 イリーナはノーリリアの国王、フォルムス陛下の従兄弟であるフレイム公爵の娘、アリシアは建国時より続く名門、ダスティア侯爵家の出身。


 本来なら国内最大手の商会の娘とはいえ、そう気軽に話せる相手ではないのだが、あたしたちは『学友』である。


 将来はギーラ君の、この国の国王の側近として共に手を取り、おそらくは生涯を同僚として、それ以上に友人として共に生きていくであろう彼女達に対して、変な遠慮は必要ない。


 

 「アタシたちはギーラと同じところに行くことを決意したのだ」


 「・・・だから、修行用の設備や道具、場所の手配をお願い。お金は去年の雪竜(スノー・ドラゴン)を倒して手に入れた分から支払う」



 いまいち言いたい事がわからない。やっぱり天才の思考というのは理解できないのだろうか。


 とりあえず理解できたのは、新しく修行用の道具と場所が欲しいということ。商人の娘として、当然貰うべきものは貰わないといけないが、去年『学友』の修行と称してギーラ君に連れていかれて倒した雪竜(スノー・ドラゴン)の肉や革、爪や角、鱗などを売却した分から支払うというなら問題ないだろう。


 『みんなの為に必要だったら使ってくれ』と、ギーラ君からこっそり渡された氷蜥蜴(アイス・リザード)人食い樹(マン・イーター)白影熊(シャドウ・ベア)の素材をそれぞれ数十匹分以上を売却して得た資金もほとんど残っている。


 ってゆーか、ただ死蔵しておくのももったいないので、彼の許可を取った上で運用したり、それを資金にして建前上はロロリオ商会(ウチ)名義の新たな畑や牧場を拓いたりで総資産という面では倍近くにまで増えている。ベビーラッシュの上、いつ隣国と戦争になるか分からない昨今、食糧備蓄はいくらあっても足りないしね。


 ちなみにこれらのモンスター、本来なら騎士団が討伐隊を編成して立ち向かうような一級危険指定のモンスターであり、『裏庭で見かけたから、ちょっと一狩り行って来た』などと気軽に言えるようなモンスターでは決して無い。


 そもそも二年前に、『力試しと害獣駆除を兼ねて狩って来た、こいつの素材は換金できる?』と地竜(アース・ドラゴン)の死体の前に連れてかれた時の衝撃はとんでもないものだった。


 まったく、『悪いけど、みんなにバレないように付いて来て』と言われたときのトキメキを返して欲しいものである。


 目の前の二人といい、彼といい、天才とナントカは紙一重というが、考えと行動のぶっ飛びっぷりに常識というものが分からなくなってくる。


 だが、くじけるわけには行かない。あたしは、そんなみんなと世間との架け橋なのだ。両方の意見を聞き、翻訳して天才と凡人を繋げる(かすがい)になれるのはあたししかいないのだ。


 

 「えーと、雪竜(スノー・ドラゴン)の素材を売却したお金を使うって事はそれなりに大規模なものってことよね、ギーラ君の名前が出てきたってことは彼も使うって事なの?」



 だが、あたしの言葉に彼女達は首を振る。


 

 「それではギーラに追いつけ無いではないか」


 「・・・出来ればギーラには知られず、思いっきり修行が出来る所がいい」



 ・・・・・・・・・どういう事なのいったい?


 結局要領を得ない二人を自室に呼んで詳しい話を聞いた結果、どうやら彼女達はギーラ君に追いつくための修練場が欲しかったらしい。


 ギーラに追いつく、その言葉を理解したとき、あたしは何かの聞き間違いかと思った。


 たしかに何度も『ギーラに追いつく、ギーラに追いつく』と繰り返していたのだが、それが言葉通りのものとは思わなかったのだ。


 たしかにイリーナは昔からギーラ君をライバル視していたし、彼を除けばノーリリアでも最高クラスの天才といえるだろう。


 アリシアだって『百年に一人の天才魔術師』だ、彼女達が歴史上の天才達にも匹敵する才能を持っていることはよく知っている。


 だけどそれでもギーラ君は、ギーラ・ブル・フォルムス・ルーク・ノーリリアは力の次元が違いすぎる。


 わずか十歳で地竜(アース・ドラゴン)を傷一つ負わずに倒すような戦士など、歴史上でも存在しない。


 わずか十二歳で幽霊船(ゴースト・シップ)を消滅させるような戦士など、御伽噺のなかにも存在しない。


 何よりつい最近彼の口から語られた彼の秘密、地球という異世界で鬼熊義威羅(ぎいら)という名で生きていたという告白を彼女達も聞いていたはずである。


 『タームチュール(このせかい)』より千年は進んだ文明、洗練された魔術、そのなかでも退魔機関の養成施設で育ち、地球でもトップクラスの術師であったという彼。


 そもそものスタート地点が違うのだ、とうてい彼に追いつけるとは思えない。


 いつものあたしだったら真面目に取り合おうとはしなかっただろう。だが、目の前の二人が宿した目の光に押され、その日は少し考えさせて欲しいと言葉を濁し別れたのだった。



 「ギーラ君の隣に立って、同じ景色を見てみたい・・・か」



 寝台(ベッド)に寝そべって一人呟く。


 その気持ちは理解できる。あたしが自分の限界を悟る前、イリーナやアリシアに確かな差を付けられる前は似たような気持ちを持っていた。


 あたしとて鬼人族の端くれ、さらにはギーラ君の『学友』でもある。いまでも並みの騎士隊長クラスが相手なら互角以上に戦えるし、実家のお得意様である武装商人や冒険者を見ても、あたしと戦える相手にはめったにお目には掛かれない。


 だが、その程度の実力ではギーラ君はおろか、イリーナやアリシアの隣にも立てないのだ。あたしは純粋な戦闘力では鬼人族として十人並みでしかない。


 彼らが当たり前に話す魔術や剣術の話は横で聞いていても理解できない事ばかり。その事にあたしはみんなに置いて行かれるような気がして必死で剣を振り続けた。


 日が昇る前に起きて鍛錬場の周囲を走り、教官が着き次第に素振りを見てもらう。『学友』のなかではあたしだけが貴族出身ではないという事実が、なおさらあたしを焦らせていた。


 そんな時にギーラ君からかけられた一言が前述の『市井の人間でなければ出来ないことがある』というものである。


 それはまた、あたしにしかできないことがある、という風にも聞こえていた。


 だからそれ以来、あたしはあたしの得意なものを磨くことにした。肩を並べて戦場へ出ることはできない。ならばその前、準備、用意の段階でできることをしようと思ったのだ。


 両親に頭を下げて実家の人間から家庭教師をつけてもらい、物資の調達方法をはじめ、経済、簿記、財政管理、そういった文官の仕事を徹底的に学ぶようになった。


 それからしばらくしてロロリオ商会の本店や町の各ギルドの長のところにギーラ君と顔を出し、彼のアイディアによる新製品の数々――実際は前世の知識による地球の製品だったわけだが――を売り込み、利益を調整し、混乱を最小限に抑えつつ、それらを浸透させることに成功した。


 アケビや葛の蔓を使った細工物を工房ギルドに持ち込み、増えすぎた葛は刈り取り、牛馬の飼料に。輪裁式農業や栃の木が増えたことによる蜂蜜の増産には蜂蜜酒の増産の他に蜂蜜を使ったお菓子の製造法を広め、需要を増加させる。


 フォルムス陛下やトライド王弟殿下とも話し合って開拓地における一定期間の免税措置を行い、輸入品、輸出品の関税を調整すると共に輸入する際の代金を金だけでなく銀や銅、あるいは特産品による物納も併用して、国内の金銀流通量を一定に保つ、などなど・・・ 


 それらの事業に対してあたしはティオ君と共にギーラ君の秘書的な立場で応対した。目の回るような忙しさだったが、実家から経験豊富なアドバイザーが来てくれたこともあり、なんとか乗り切ることができた。


 あの修羅場を乗り切って初めてあたしはギーラ君の『学友』として認められた気がしたのだ。


 

 ・・・・・・ああそうか、あの二人にとっては『今』がそうなのか。



 あたしがギーラ君に仕える秘書として居場所を見つけたように、彼女達は戦士として自分達の居場所を求めている。


 ただでさえ彼には護衛など必要ないのでは、と思わせる実力に加えて、先日の告白で知らされたギーラ君の前世の仲間の事が彼女達を焦らせているのだろう。


 オニクマヨシヒコとスワベマスミ・・・ギーラ君と同等以上の実力を持った戦士の存在など、あたしですら信じられなかったのだ。


 あたし以上にギーラ君の実力を理解している二人にしてみれば、空が落ちてきたような衝撃だろう。


 それが自分達の存在意義(アイデンティティ)を揺るがせているとは考えられないだろうか。


 それは一時の気の迷いとは思えない、彼女達が彼女達である上で譲れないものなのだろう。


 うん、あたしとしてもオニクマヨシヒコとスワベマスミの二人には我慢のならない所がある。


 前世の記憶がある、と告白したあの日、ギーラ君は実に楽しそうに彼らのことを話してくれた。


 彼と共に十年近くを過ごしてきたあたしですら、あんなに楽しそうな彼の顔は見たことが無い。



 ・・・それはつまり、あたしたちみたいな美少女といるより、前世(むかし)仲間(おとこ)の事を話すほうが楽しいということなのか!?



 その事に思い至った瞬間、あたしはあたしの持つ全てを使ってイリーナたちの手伝いをすることに決める。


 ただ単に嫉妬丸出しなだけという気もするが、未来の国王陛下の秘書としてはお世継ぎのことも重要な懸念事項である。


 現国王であるフォルムス陛下の妻は正室であるルイザ王妃のみだが、先々代のゴーン陛下を初め歴代の国王は複数の妻を持っていたのが普通だし、『学友』を妻とするのもありふれたことである。


 ひとりの女としてギーラ君のことを独り占めできないのは悔しいが、彼の心を前世(むかし)仲間(おとこ)に取られるのはそれにも増して我慢がならない!


 まだ、イリーナとアリシアだったら親友だし、みんなで共有という形にするのも悪くない。そのうちライラ姉さんにも声を掛けて、包囲網に加わってもらおう。


 彼はあの時、『俺の名前はギーラ・ブル・(ノーリリアの)フォルムス(フォルムスおうの)ルーク・ノーリリア(ちょうなんギーラ)だ』と言った。


 だったらその言葉の通りに、この国の第一王子として取るべき責任を取ってもらうよ、ギーラ君!

 

勢いで書いたまま、ほとんど推敲もしてないので、後日書き直すかもしれません。そうなったら申し訳ないです・・・

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