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十話

 「さて、一体どういうことなのか、全部説明してもらおうか」


 ここはルシール伯の居城内の一室、対盗聴、盗撮の術を施した密会用の部屋である。


 幽霊船(ゴースト・シップ)を退治した翌日、親父とルシール伯、それにイリーナやティオら共に幽霊船(ゴースト・シップ)を退治したメンバーを前に説明を求められていた。


 体調不良を理由に逃げ出そうか、などという考えが頭を過ぎるがいつまでも逃げ切れるはずもない。やむを得ずに覚悟を決める。


 

 「そうだね、何処から話そうか・・・ライラ姉は俺がコールとイズンの両上級騎士に話した内容は何処まで聞こえてた?」


 「それがほとんど聞こえなかったわ。なんでも、シンカゲリュウがなんとかっていう言葉が聞こえたくらいで・・・」


 うん、そこが聞こえていたのなら話はしやすいか。・・・もし、側室がどうだこうだって話を聞かれてたらどうしようかと思ったが。


 「みんな薄々気付いてるとは思うけど、俺はみんなが使うのとまったく違う体系の剣術を修めている。新陰流っていうのがその名前なんだけど、どこで修めたかって言う問いには、ちょっと信じられないものになるけど、信じてくれるかい?」


 「なにを今更、あんなありえないものを見せられて、これ以上信じられないものなんてあるもんか」


 呆れたように答えるティオ、どうやら昨日の騒ぎは彼の中の常識というのを木っ端微塵に破壊したようである・・・。まあ、当然か。


 「俺は生まれる前の記憶を持っている。新陰流は前の人生で学んだもので、昨日の術も、今までみんなに話した技術や知識もほとんどが前の人生で得たものになる」


 「なるほどね」


 「うん、通りで」


 「ああ、そうゆうことか」


 「・・・納得した」


 ・・・・・・・・・おい、なんだその反応は。


 「だってよ、あの炎の術に光の壁、イリーナを治した瑠璃色の光、そんな理由でもなけりゃ信じられねえって。なによりギーラだし、『どっかの神様が人の姿で降りてきた』なんて言っても、みんな普通に信じると思うぞ」


 「・・・同感、だってギーラだし」


 「うむ、ギーラだからな」


 「ギーラ君だもんね、むしろその程度?って感じよね」


 ・・・・・・・・・・・・手前ぇら、普段から俺をどんな目で見てたんだ?


 「なあギーラ、一つだけ聞いておきたいんだが」


 絶句する俺に今まで黙っていた親父から声が掛かる。


 「生まれる前の記憶が有ると言ったが、お前は俺の息子のギーラで間違いないんだな?」


 やっぱり来たか、この質問。その問いにはこの数十日間で考え抜き、導き出した答えを口にする。


 「うん、今の『俺』は義威羅ぎいらであると同時にギーラでもある。だけど、俺の名前は『ギーラ・ブル・フォルムス・ルーク・ノーリリア』だ。『鬼熊義威羅』は義彦との全身全霊を賭けた戦いに敗れ命を落とした。また、その戦いと結末は義威羅の誇りでもある、それを否定することは義威羅の人生も否定することだからね」


 「ちょっとまて、義威羅ってお前・・・前の人生でも『ギーラ』って名前だったのか?それに、全身全霊を賭けた戦いに敗れたって・・・お前に勝てるような人間が居たのか?」


 ああ、この辺はしっかり説明しないといけないな。


 「俺の前の名前は『鬼熊義威羅』、地球っていう惑星(ほし)の日本国、奈良県出身。実家は修験道っていう日本独自の山岳宗教の大家で、退魔機関の人間を養成する施設『富士野学園』の第九期生。第九期生は全部で二十八人いたんだけど、そのうち二十五人は時空の歪みに飲まれて行方不明。俺を含めた三人だけが『学園』で修行を続けてたんだが、残りの二人・・・鬼熊義彦と諏訪部真澄っていうのが正真正銘のバケモノでな、諏訪部に勝つのは無理でも子供の時からライバルだった義彦にだけは負けたくない一心で『学園』を飛び出て、禁術・外法を学び、奴に勝つ為に国宝級の呪具を盗もうとして、それを警備してた彼と戦って――」


 そして負けたわけだ、完璧にな。


 俺の告白に言葉を失う一同、なんで『生まれる前の記憶がある』で驚かないで『俺が全力で戦って負けた』で驚いてるんだ?コイツラは・・・


 「なあ・・・つまり、そのヨシヒコっていう男はお前よりも強いのか?」


 どこか呆然とした様子で尋ねるイリーナ、そんなの当たり前じゃねえか。


 「『義威羅』だったら勝ち目はあるかもしれないけど、『ギーラ』じゃあ絶対勝てないな。あいつは超一流の術師で、さらに万に一つの勝機を必ず掴み、兆に一つも勝てない相手と引き分ける戦闘の天才だ。あいつの技と駆け引きに対抗できる技術に加えて、押し切れるだけの火力が無いと勝負にもならない。この体じゃどう足掻いたって火力が足りないよ」


 「えーと、じゃあその義威羅でも『勝つのは無理』なんていう、スワベっていう人はどんだけなの?」


 「一言で言うなら『最強』だな」


 同じく信じられないものを聞いたようなターニャの質問に答える。


 「『戦神の末裔』、『人間にして竜神たるもの』、『キング・オブ・チート』、アマテラスっていう日本の神様がいうにはあらゆる並行世界の中でも最強の一角だそうだ。まあ、十二歳で『ヨグ=ソトースの落とし子』に止めを刺して、十五歳の時に火の邪神(クトゥグァ)と引き分けるようなバケモノだしな。二十歳を超えて唯一の弱点だった肉体(フィジカル)の弱さも克服した今なら門にして鍵たるもの(ヨグ・ソトース)邪神の王(アザトース)とガチンコやってたって驚かねえよ」


 まだ俺が『学園』に籍を置いていた十五歳の夏、富士山山頂に顕現し、「這いよる混沌(ナイアルラトホテップ)を愉しませる為の玩具と化したこの世界を滅ぼす」と宣言した炎の邪神(クトゥグァ)に単身挑んで、撃退した義威羅の友人。神話に名を残す怪物を一蹴する様な、地球でも指折りの使い手を持ってしても「彼の存在自体が反則チート」と呼ばせるようになった切っ掛けの事件。


 『俺』と義彦に火の邪神(クトゥグァ)の炎を抑えさせておいて、その隙に止める間も無く向かい、瀕死の重傷を負いながらも引き分けに持ち込んだあの戦いから本格的に人外になって行ったんだよな、あいつ。


 まさか、その十年後には水の邪神(クトゥルー)風の邪神(ハスター)の戦いに乱入して、二柱を力技で撃退するような人外に成り果てるなんて想像もしなかった。


 あの怪獣大決戦〜南海の死闘〜を衛星生中継で見たときは流石にドン引きしたなぁ・・・


 そういえばその怪獣大決戦以来、無期限の自宅待機を命じられて今じゃあ『キング・オブ・ニート』になってるなんて噂も聞いたが本当だろうか。


 「いったい、どんだけ人外魔境なんだよ。その地球って所は・・・」


 火の邪神(クトゥグァ)門にして鍵たるもの(ヨグ・ソトース)などの名前は分からずとも、口ぶりからその強大さは察したようである。


 しかし、俺のかつての故郷を魔境扱いとは、ずいぶんと失礼じゃないか、ティオよ・・・


 そんな考えが頭に浮かぶが、同時に某世界の歴史を再現したゲームで史実を忠実に再現したら、日本の存在自体が不正改造(チート)扱いされたという話が脳裏をよぎる。


 ・・・・・・・・・地球、特に日本が人外魔境、否定できないかもしれん。


 

 「・・・その世界の話はもういい、・・・あの術はどういうものだったの?」


 目に押さえきれない好奇の光を宿してアリシアが尋ねる。説明するのはいいが、多分みんなには使えないぞ。


 「あれは地球で神仏と呼ばれてる上位世界の存在の力を降ろすものだ。真言っていうその神仏を表す言葉を触媒にするんだが、使える様になるためにはいくつか条件があってな、この世界じゃその条件が満たせないから教えることは出来ないよ」


 仏法、修験道系の術の発動にはその神仏との繋がりが必要になる。具体的にいうと、結縁灌頂を結んで寺で仏法の戒律を学び、遵守することを誓ったり、念仏を唱え、座禅を組んで修行を積む、などという事である。しかし、


 「俺は正式な修行を途中ですっぽかした外法師だからな、他人に仏法を説く伝法灌頂を頂いてる訳じゃあない。誰かに説法を説くなんて事は出来ないし、する気も無い。霊力・・・魔力の増加や強化などの修行法なら教えられるがな」


 「そう・・・残念。でも、修行法は教えて欲しい」


 失望半分、嬉しさ半分といった様子で答える彼女。具体的な術は学べなくても地力を上げることが出来るのは嬉しいのだろう。この世界の魔術は地力が上がるのに比例して出来ることが増えていく。


 

 「じゃあ剣術はどうなのだ?そちらは特に条件など無いのだろう?」


 「特には無いが、『新陰流』は名乗れんぞ。俺が新陰流を学んだのは『学園』でだが、目録位まで・・・伝位は上の下までしか貰ってないからな。だからあくまでも『新陰流』を下地にした我流の剣術を俺から盗むって形なら大丈夫だ」


 その言葉に飛び上がって喜ぶイリーナ。俺の場合は他の古流の技も幾らか盗んで使ってるから二重の意味で『新陰流』は名乗れないが、この形なら過去に例が幾らでもある。


 「なら当然俺たちが盗んでも文句は無いのだな?」


 あ、親父も食いついた。隣ではルシール伯爵も目を輝かせている。


 流石は世界にその名を轟かせる『剣鬼』と『剣聖』、まったく体系の違う実戦的な剣術というものは気になって仕方が無いのだろう。無論その事に文句など有ろうはずが無い。



 「あたしからも質問、何年か前にギーラ君が話して実現した、輪裁式農業も地球の技術なの?」


 「ん、ああ『ノーフォーク農法』か。あれは十八世紀・・・俺の生きた時代からだいたい三〇〇年くらい前に英国はノーフォーク地方で考案された農法だな。それ以前はこの世界と同じように三圃式農業で一〇〇〇年以上やってたんだが、ノーフォーク農法が考案されて莫大な人口増加と、それによる農業の資本主義化、さらには産業革命の遠因にもなった『世界を変えた』技術の一つだね」


 うん、やっぱりターニャの気にする所はそこか。ノーフォーク農法の採用で現在進行形で進む爆発的な人口増加、それに伴う経済の変化をノーリリア最大の商会の娘が気にするのは当然だろう。


 「それで世界がどう変わったか、世界を変えた技術は他にどんなものがあるか、是非とも教えて欲しいのよ」


 「了解ー、だけど俺も専門家じゃないから大まかな内容を説明して、細かい部分はそっちのプロに再現してもらうって形になると思うが、大丈夫か?」


 「問題ないわ、ロロリオ商会ウチ)の従業員は優秀だからね。こんな感じの技術があったって事を教えてもらえれば、そこから研究・開発が進められる」


 なるほどなるほど、だったらルシール領での竹炭の生産や(竹炭の製造法が確立したのは二十世紀になってから、なおノーリリア本土では竹が自生していない)、石炭の存在と利用、初歩的な化学肥料の生産方法、産業革命・市場経済の説明あたりか。科学・農業ヲタクだったり歴史・経済ヲタクだったりした凄まじく濃い『学園』の友人たちのおかげでその辺の知識は広く浅くではあるが持っている。


 流石に蒸気機関や石油、電気機器の存在は自重するか、そんな駆け足で文明を進めたら変な歪みが出てきそうな気がする。銃器は魔術という代替技術があることだし必要になったら考えよう。現在の技術じゃ作れるとも思えないし。


 当時は江戸時代の肥料が〜とか、リン鉱石が〜とか、市場経済と楽市楽座の共通点が〜とか、うんざりしながら聞いていたが、まさかこんな所で役に立つとは。人生、どんな知識が必要になるか分からないものである。


 今までの疑問が解決し、さらには異世界の知識と技術が得られると分かって喜んでいる一同を前に、今まで必死になって前世での事を隠そうとしていた自分が馬鹿らしくなった俺であった。 




 


 


 


 


 


 とりあえず、ストック分は以上となります。

 残りもキリのいいところまで書き上げたら投稿します。おそらく今月の下旬には何とかなるはず・・・


 読んで頂き、ありがとうございました。



 追伸、筆者のモチベーションUPの為にも評価のほう、よろしくお願いします。

    いや、本当お気に入りが増えてたり、評価頂けると頑張ろうって気になるんですよ

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