三
事件を担当した刑事が、手帳に最初の被害者のホームレス、主婦、検死官の名前を書き連ねる。
その横に、体から蟲の屍骸が散らばっている事を懸念する。
「蟲が人を襲う? まさかな…」
休日 当麻 楓は息子と一緒に公園に向かう。
子供の夏休みの宿題に昆虫観察をあげていた。息子から新種の蝶が出た事を聞かされて、そう言えば…と頭の中で事件の事を思い返す。
三つとも蝶の大群が観察された日である事を思い出す。
息子から、ムシに言葉はあるのかな…?と聞かれ、当麻はさあな…と答えていると、クスクスと鈴を転がしたような笑い声が聞こえて来た。
息子と二人でその声がする方を振り返ると、蝶の柄の着物を着た少女がこっちを見て笑っていた。
「……」
誰だ、この少女は?
この近所の子じゃないらしいな…。
もしそうなら、子供会とかに出ている筈だからな。
当麻がそう考えを巡らせていると、少女がついと人差し指を空に示す。
何処からとも無く蝶が飛んで来て、少女の指に止まった。
「すごい〜!! お姉ちゃん!!」
息子は疑う事無くキラキラと純粋な目で目の前の少女を見ている。
だが、当麻は息子を自分の背に隠すと少女を見据えた。
「刑事さん。憶えていて。蟲はね、仲間が潰されるとその羽音で仲間を呼べるし、体液を相手に付ければ、それをどこまでも追えるんだよ。その子に免じて教えてあげる」
「君は…一体…?」
少女は冷たく微笑むと両手を広げた。
強い風が吹き、二人は思わず目を瞑った。
目を開けた瞬間、まるで狐に包まれたかのようにそこには少女の姿など何処にも無かった。
電車の中で蟲が人々に踏みつけられて死んだ。
蟲の体液を靴の裏に付着させた人間たちは、駅の外へと向かう。
体液が駅構内の内装工事で、床が水浸し。
そこの上を蟲の体液を踏みつけた人達が踏んで行く。体液は薄まりそれをまた何百という人間たちが踏んで行く。
この日も蝉の声がしない。
空を真っ黒に塗り替えるのは、雨雲ではなく蟲の大群。
彼らが狙うのは、自分の可愛い仲間を踏み殺した憎き人間たち。
テレビは蟲の逆襲だと騒ぎだす。
レポーターが騒然となっている現場からレポートをする。その時肩についた蟲を叩き殺したレポーターに向かって蟲たちが一斉に飛びかかってく。
顔の半分を蟲に覆われ、耳の中や鼻の中に蟲が入り込み内部を噛み付き肉を食い破る。
断絶魔のように叫び続け、あまりの痛さにゴロゴロと地面に転がり回る彼女をカメラは捉えていた。
スタッフの咄嗟の判断で、水をかけられ何とか一命を取り留めた彼女の姿は、顔の皮を溶かされ、不気味にも血のように赤くテラテラと光沢する筋肉組織と白い筋のような神経が見える。
その後、人間の世は終わりを告げる。
人間は蟲によって生き方をコントロールされて行く。
政治家たちの耳の中に蟲が入り込むと彼らは、全国都道府県の学校機関に予防接種を義務づける。
予防接種と言う名の種植え。
新生児たちには、検査と称して蟲を植え付ける。
蟲は今日も人間たちの頭の中で生き続ける。
なんて事が本当に起こったら、ホラーだよね。
そう笑いながら、あたしは虫かごの中で蠢く蟲たちを見てにっこりと微笑む。
蟲がキイキイと羽音を立てて行くのを見て、ピンセットで一匹の蟲をつまみ出すと一本一本足をちぎった。
カサカサと部屋の窓ガラスを擦るような音が煩い。窓を開ければ真っ黒い渦が部屋へとなだれ込む。
「麻衣子ちゃん〜ご飯よ」
階下から母親の声が聞こえて来ても、あたしは答えられない。
あたしの部屋は真っ赤な沈丁花の花が舞散ったように床が血で染まる。
蟲は唄う。
初めてホラーを書きました。
むずい!!