一 改稿
ホラーは初めて書きます。
小心者の神流ですが、サクサクと話の展開を進めて行きます。
加筆&改稿しました。
蟲信仰と言う言葉が遥か古の時代に、この和の国である日本にもあったと伝えられる。
百足をご神体とするのが善とすれば、羽音を震わせ飛び回るあの蟲は悪と言われるのだろうか。
青螺神社は、昔から蟲神社と呼ばれている。
お祭りになると、氏子たちが蟲の仮面をつけて踊りだす。
蟲様がお怒りにならないようにと願いを込めて。
そんな青螺神社が祀られていた村が、水不足で喘いでいた都会の人間たちの生活を潤すために、ダムの底に沈んで行った。
カンカン日照りが続く中、ダムの貯水湖が減って行くと今まで幻の村とされていた暁ヶ原村が何十年ぶりに地上に出て来た。
崩れた神社の井戸から、一匹の蟲が飛び去るとそれは空高く舞い上がっていく。
今まで封印され、人々から忘れ去られていた事を悲しむかのように、羽音を立てて飛んで行く。
2013年7月中旬ー
いつもは忙しいくらいに鳴いている蝉さえも、この日はお通夜のように静まり返っていた。
生暖かい風が突然吹きすさぶと耳が一瞬鋭く痛くなるようなハイヘルツの音が大気を震わせる。
空が一気に真っ黒に覆われると特攻隊のように一つの物体に向かって飛び込んでく。それまで辛うじて生きていた物体は、ものの数分で白骨化となった。
まだこの段階では誰も異変には気づいてなかった。
草の茂みの影で蠢いている黒い影は、不気味な音を立てている。
「なあ、ヨシさん。ここんところ、動物の屍骸があちらこちらにあるよな。気味悪いよ。おお、それよりも今日は、これ食べれるかな?」
動物の屍骸の近くで拾ったと言う立派な蟲(蜂)を指でつまんでみせた。
「ああ、あれか…さあな、ここんとことんと雨なんか降らないから、それで餌が貰えずに死んだんだんじゃないのかい? それよりやすさん、これは珍しい! イナゴじゃないが、それっぽいやつの珍味じゃないか。どうしたんだいこれは?」
前処理に蟲(蜂)から醤油と砂糖で甘辛く味付けされている蟲(蜂) の足をひょいと指でつまむと、やすと呼ばれた男がそれを口に運ぶ。
バリバリと小気味よい音をさせながら、蟲(蜂)を噛み締めて行く。
ご飯代わりのうどんを啜りながら、この日に捕まえた蟲(蜂)を料理して行った。
ホームレス生活もなれて来た頃、彼らは蟲(蜂)が異常発生している事に気がつくとそれを食料にしようと考え始めた。
蜂なら食べれる筈だと。
ゴミ置き場から拾ったフライパンと簡易コンロを使って早速捕まえた蜂を調理して食べ始める二人。
二人が嬉々として食べている蜂を仲間の蟲たちが複眼を使って見ていたなど知る由もない。
それまで煩いほど鳴いていた蛙や蝉の声がピタリと鳴きやむと、生暖かい風が二人の男たちの体を包み込む。
腹も膨れ、男たちはごろりと横になると妙なことに気がついた。
「あれだけ煩かった蝉や蛙の声が、ぴたりと止まった?」
不気味な黒い影が二人に襲いかかる。
柔らかい唇、耳たぶ、頬肉、太もも、腹、腕と言った箇所に噛み付いて来る。あまりの痛みに男たちは七転八倒した。
「うわあぁぁぁぁぁ!!」
「た、助けてくれ〜!」
辺は血の海となっても良かったが、その血さえも出させるのが勿体ないと言わんばかりに、何百何千と言う膨大な数の蜂の大群が黒い固まりとなって、二人の体を覆い尽くす。
彼らは黒い影に体中を噛み付かれ、断末魔を上げる。だが彼らの叫び声も、電車や自動車の喧騒で掻き消えされていった。
彼らから助けを呼ぶ事さえも出来ない。
黒い影は彼らの穴と言う穴に入り込むと、柔らかい肉を食い破るとつぎに声帯を食い破った。影は彼らから助けを呼ぶ声を奪うと二人の男たちは、血だらけの手で喉を掻きむしっていく。
空から一雫の水が滴り落ちて来ると、あっという間に黒い影に覆い尽くされた二人の体を自然のシャワーで包み込んだ。影は散り散りに飛び去って行くと地面に残されたのは、顔の殆どを食い尽くされ、目玉もだらりとくぼみの部分から横に出ている。
ウーワンワン!!
「コロ! 何かいたのか?」
いつもは従順な飼い犬がぐいぐいとリードを引っ張ってくると根負けしたように飼い主が犬と一緒に河川敷の草むらに入ると半分白骨化した遺体を発見した。
「ひ、ひええええ!!」
老人は腰を抜かすとその場で悲鳴をあげながら、四つん這いになって助けを求めた。
その後、遠くからパトカーのサイレンが聞こえて来る。
《多摩川の河川敷で、青色テント生活をしていた二人のホームレスの男性の変死体が発見されました。至急、現場に向かって下さい》
覆面パトカーのスピーカーから流れるのは、事件の声。やる気の無い富永正臣と松田レンは座席のシートを倒して昼寝中だ。
「おみ、変死体だってさ」
「ああ、聞いたさレン…ったくしゃあねーな」
灰が今にも落ちそうだった煙草を面倒くさそうに灰皿の上で捻消した富永正臣は、途中で灰が落ちたのを見て顔を思い切りしかめた。相棒の松田レンの口から煙草を奪うと強制的に灰皿行きにした。
「俺のは灰が落ちなかったってことで、バツゲームな。今日の運転と綺麗な女子大生をナンパするのはお前な、おみ」
松田は倒していたシートを元に戻すと受信機を掴んで、すぐに現場に行く旨を伝えた。
いつもなら部活の学生や、河川敷で畑を作っている自称農家の人達で賑わう多摩川に、不似合いなけたたましい警察のサイレンの音が響き渡る。
すでに変死体が発見された噂がメールやつぶやきで回されていたのだろう。大勢の野次馬がすでに土手の所に分厚い黒山の人だかりとなっている。
「あーモミクチャになっちゃうね」
「あーあ、色男が台無しだよ」
自分で言うか?
それもそうだな。
二人はそう言いながらも背広を羽織ると車(覆面パトカー)から降りた。
人ごみをかき分けながら、青いシートの向こう側に行くと、制服を着た警官の側を通り抜けた。
キャンキャンと怯えて吠えている犬を連れた老人が、怯えながら事情を説明している。犬が煩過ぎて老人の声がよく聞き取れないのか、警官が「すみません。もう一度お願いします」とさっきから何度も同じ言葉を繰り返している。
犬は死体を見て吠えているのではなく、警官の背中に纏わりついていた蟲(蜂)を見て吠えていた。
そんな事など知らない。
「こりゃあ、ひでえな…鑑識できんのかな…」
(どう見ても、死後半年は経っているだろうな…)
「さあな。確かにこれは鑑識泣かせだな。半分白骨化って言うのは一番キツイしな…」
(おいおい、吐くなよ)
二人がそう言うのも遺体は性別さえも判別するのが困難になるほど、体中の筋肉組織が溶かされていた。男性だと言う決め手は、骨盤の形からだった。だが、彼らの年齢も容姿さえも分からない。
警察はあまりの惨たらしい遺体の有様に、現場では吐き気を訴える署員も数名いたほどだ。
遺体発見現場の周りには青いビニールシートで目隠しをしていると、返ってそれが目立ってしまっている。
実際にいつもなら河原なんて寄り付きもしない主婦たちまで、買い物かごをさげて現場付近をウロウロとしている。憶測が人を呼び、交通渋滞まで引き起こした。
遺体は、黒い入れ物に入れられるとすぐに解剖へとまわされた。
現場付近は銀蝿と一緒に黒い小さな影が飛び交っており、死因に繋がるような武器は一切見つける事が出来なかった。
死後、半年は経っているのではないのかと思われていたため、目撃情報もないままこの事件は迷宮入りになった。
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