六話
授業中、私の鞄から突然大音量で音楽が流れ始めた。
それも、あのどら焼きが大好物の青い猫のテーマソングである。
私はこんなものをダウンロードした覚えはない。
この高校は朝のショートホームルームから帰りのショートホームルームまでは携帯の電源を切る決まりになっている。
恐らく守っているものはいないだろうが、授業中に盛大に鳴らす奴はほとんどいない。
それはそうだろう。
先生に見つかったら取り上げられるのだから。
私は迅速に電話を切り、携帯の電源を落とす。
クラスは沈黙に包まれた。
先生はというと、あれだけ大きな音であったのにも関わらず、割れ関せずの様子だった。
しばらく経っても誰も騒ぎ立てず、気持ちの悪い沈黙だけが続く。
誰の仕業かは予想がついている。
あのストーカーだ。
一体いつ私の携帯をいじったのかは知らないが、隙ならいくらでもあっただろう。
体育の時間でもその他の移動教室の時間でも。
あるいは夜中に私の家に忍び込んで構ったのかもしれない。
少々突拍子の過ぎる発想ではあるが、あいつならやりかねないのだ。
私がいくら家中の鍵を掛けても、携帯にロックを掛けても、あいつなら簡単に侵入してくるだろう。
それがあいつの異常たるゆえんだ。
ストーカーにしては、あいつは有能すぎる。
私は教室の一番隅の席の奴が場違いな私の着メロを聞いてクスクス笑っている姿を想像せざるをえなかった。