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persona  作者: 草薙
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第二話 

 リナレス・サミュが目を覚ましたのは、まだ日も上がらない時間帯だった。

 慣れ親しんだベッドから足を降ろすと、冷たい空気がちりちりと足を刺す。いつもはこんなに早く起きたりはしない彼女だが、覚醒した理由はすぐに分かった。

 彼女を目覚めさせたのはどこからか聞こえてくる音だった。 金属を叩きつけるような……、甲高い音が短いインターバルで続いている。

 リナレスの家は村のほぼ中央、一つしかない広場に面していた。どうやらその音はそちらの方角から聞こえてくるようだ。

 重い目蓋を瞬かせながら、部屋の窓から広場を覗いてみる。するとまだ薄暗い中、動く2つの影が見えた。すぐに人だとわかる。

 一体何をしているんだろう?

 寝ぼけた目を凝らし、注視すると2人は近づいたり離れたりを繰り返し、持っている細長い何かをぶつけ合っている。動きは激しく、間隔は短い。

 そして、その度に例の音が甲高く鳴る。そこで、彼女は気付いた。

 ドクン、と何かが跳ねる


 あれは…………剣?


 瞬間、鼓動が速くなる。

 頭が白く塗りつぶされる。なぜ、そんな事をしているのか。


 分からない。

 彼女の思考は既に停止している。

 眠気はかき消され、心臓の音だけが近かった。痛いくらいに。


 止めなくてはいけない……。 リナレスは走りだした。

 リナレスは扉を開け放ち、外に飛び出した。外気の冷たさに身体が、一瞬硬直したが、それさえ気にならない程に彼女は高ぶっていた。

 2つの人影は、広場の真ん中で、まだ剣を振るっている。

 なんて事を…野蛮な……っ、よりにもよって安息地で……。

 リナレスは、自らを律せていない事を自覚したが、湧き上がる感情を抑えることはできそうも無かった。

 あそこは、墓なのだ。

 ――――巫女の、墓

 広場の中心には、石碑が建てられてある。幾つかの名が刻まれた中には、彼女の知る名も一つあった。

 だから、それで充分なのだ。

 彼女が激するには。それで。

 リナレスは息を吐いた。ゆっくりと、砂糖のように甘く。

 深く。

 そして、彼女が小さく何かを呟くと、一瞬、空気が震えた。

 たわんだ糸が張るみたいに。 


 『やめなさい』


 その声は、人のものとは思えないほど、澄んでいた。

 玲瓏と鳴り響くそれは、幾重にも律動し、広場を支配する。

                                               『――剣を下ろしなさい。ここは巫女の墓……神聖なこの場所で、そのような粗暴な振る舞いは許されません』


 リナレスの声は辺りを更に震わせた。その振動は伝播し、静かに広場を圧する。

 途端、影たちは動きを止めた。否、停止せざるをえない筈だ。先ほどの、震えを感じた者ならば。

 リナレスは、再び、小さく何かを呟く。

 一瞬で圧力が消える。

 酷く、静寂がうるさい。

 緊張的な時間は、途切れる。

 安堵した、といってもいい。力を使うのは、久しい。御せるかどうかは、意思の強さにひとえに掛かっている。

 彼女にも、一抹の不安はあった。

 意思に少しでも抵抗があれば、効力は発揮されないばかりか、自身にもリスクを誘発する。

 だが今、彼女に変調はない。少し、ふらつきはするが、それは力に、身体が追いつけていないだけのこと。

 ちょっとした酔いだ。


 「よかった……」自然に、息が漏れる。ちゃんとできたようだ。

 だが、まだ気を抜く訳にはいかない。リナレスは気をただす。

 こんな場所で私闘とは、一体何事なのだろう?

 ユマリではそういった行為が看過されない事は、村人なら誰でも知っている筈だ。私闘はもちろん、些細ないざこざですら度が過ぎれば、村の長達の審問にかけられる。

 しかも、今は"水の蛇"に備えて皆、準備に勤しんでいるのだ。そのような時に争いあうのは、愚かしいにも程がある。

 ましてや、ここは死者を悼む場所。

 彼女が“声”まで施行したのはその所為だ。本来なら無闇に使う事は許されないものだが、致し方無い。

 それほどに迅速さを求めた理由は、彼らにあった。

 遠目でも分かる激しい斬り合いと辺りに鳴り響く音の大きさは、戯れで済まされる程度を超えていた。

 そんな両者に割って入り、止める事など、リナレスには不可能である。そんな膂力など彼女は持ち合わせていなかった。

 しかし、力が無いわけでは決してない。ただ、それが普通と異なるだけで。

 辺りが、白白としてきた。

 石畳の上をゆっくりと、進んでいく。徐々に彼我の距離は縮まるにつれ、人の輪郭が明確になった。

 彼らの顔が覗けるまでになって、リナレスは驚愕した。

 彼女が想像していたのは、大人の男だった。しかし、暗い広場を貫くように、陽光が示した表情はあどけない。

 剣を携えたまま、静止していたのは、自分とさほど変わらない少年だった。

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