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「ありがとう」と、鈴木さんは言った
泣かないで。僕の大切な鈴木さん。
イラスト提供:楠山歳幸様
「ありがとう」と、鈴木さんは言った。
「いや、無我夢中だったから。お礼なんて…」と僕は照れて言った。
――言ったはずだった。
よく見ると華奢な彼女の肩が震え、泣いている。綺麗な陶磁器のような白い肌のところどころが汚れている。僕のためにおしゃれしてきてくれた白いワンピースに染みが付いている…
赤黒い染みでせっかくのワンピースがだいなしだ。…血のように赤い染み。
彼女が泣きながら抱きしめているのは僕。左折禁止で突っ込んできたバイクからカッコよく救ったはずだった。――はずだったのに…
僕は彼女と死んだ僕を見下ろしている。
「初デートがだいなしだ…」
ふと、気付く。初デートではなく、僕の人生がだいなしになったことに。
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