初恋の彼に会ったら…
――――でも私はときめかない
イラスト提供:天甲斐エコ様
午後の光が降り注ぐ明るいカフェのラウンジで友人が私に語りかけます。
「初恋の彼と街でばったりと会ったらさ~」
「やっぱさ、ときめくよね~」と嬉しそうに私の友人は言うのです。
でも私はときめかない。そのきもちがわからない。
だから久しぶりに街角で合った彼が、懐かしそうに話しかけてきた時。
私は彼を認識したけど、「ときめき」は感じなかったのです。
彼はちょっと寂しそうな笑顔を浮かべて「またね」と言って去っていきました。
だって、しかたない。
二十歳を迎えた日に、私の肉体は交通事故でロストしてしまったから。
悲しみにくれた両親が、財をつぎ込み複製した人造人間が今の私。
金属とICチップでできた頭脳は優秀だけど、過去の記憶は欠落し感情もないのです。
彼に会って学生時代のアルバムと日記帳を探し出し、
「人間だった頃の私のきもち」を初めて知りました。
ところどころ涙で文字が滲んだ日記帳。
辛い恋心が綴られていました。
でも、今の私には「心」も「涙」もないのです。
こんな時に人は泣くんですね…
記憶と概念はインプットしたけれども。
泣けないのは幸せなのか不幸なのか。
感情がない私にはそれはよくわかりません。
ただ少しだけ「うらやましい」というきもちが理解できるような気がしました。
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