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時奏者の少女  作者:
2/4

海洋都市ユーポラ

幌の隙間からこぼれる光りが強い。


眩しい。眠りの世界から一気に現実世界に引き戻される。

背中に感じる振動が馬車の進みを教えてくれる。


どれくらい寝ていたのだろう、ふとそう思って胸元の時計を見た。

時計の針は十時少し前を指していた。


寝たのが5時少しすぎだから5時間弱寝ていた事になる。

やはり慣れない早起きのせいで眠かったのだろう。

寝床で立てていた音に気がついたのか、アルクが御者席から声をかけてきた。


「お、起きたか。もうユーポラの近くに来てるぞ。顔出してみろ」


御者席の向こう側には青空が覗いていた。

そして吹き込んでくる風に混じる微かな、嗅いだ事のない匂い。


落ちないようにアルクの横から顔をだしてみると、ミミトの目に写ったのは、

地平線ではなく水平線だった。


「海!」

「はは、感動したか。落ちるなよ!」


初めて見た海。空と同じ色が一面に広がり、まるで空が落ちてきたように見える。

海の上には大きな帆を張った船が何艘も同じ方向に向かい、見た事のない鳥が空を鳴きながら舞っていた。


かすかに混じる風の匂いは潮風そのもので、ミミトの気持ちを一気に舞いあがらせた。


「あと三十分もしないでユーポラに着くぞ」


再びアルクの隣に座ったミミトにアルクが告げた。

目の前には水平線だけでなく、見た事のない建物が遠目にも確認できた。


「アルクさん、あれがユーポラ?」

「そうだ。村と違って人が多い。だから皆ああやって建物を高くして住んでるんだ」

「凄い…」


自分の知らない風景が目の前にあり、それがユーポラだと言う。

今すぐにでも駆け出したい衝動にかられそうになる。


「あとな、ユーポラで迷子になったら大変な事になるから絶対に俺の傍から離れるなよ」

「そんなにユーポラって広いの?」

「広さは村の10倍ぐらいだって話だが、そんなことは対した事じゃない。色んな人間が住んでる。誰もが良い奴じゃないって事だ」

「そうなの?」

「そうだ」


アルクがミミトに言い聞かせるように言う。

アルクはミミトと5歳程しか離れていないが、両親のいないミミトの世話をずっと見ていたせいか、

兄の様に接する。

実際アルクはミミトの夢を一番に応援しているが、一番に心配しているのもアルクだった。



水平線と平行に馬車が進む事三十分、二人の目の前に大きな門が現れた。

ミミトが幾ら見ようと背伸びしても全体を目に入れる事が出来ない。

門の前に人が何人もいて、門の開け閉めを行っている。


「この門を進めばユーポラだ」

「わあ…、すごい」


門を進む際、アルクが門の傍にいた人、後で聞いたがその人は門の警備員だったらしい、に通行証を見せている時もミミトは目の前の光景に目を奪われっぱなしだった。


見た事のない人、建物。それは想像を遙かに超えていた。


門をくぐり抜けて、アルクが馬車を止めた。

近くに何台かの馬車が止まりっていて、アルクのように行商人の溜まり場らしい所だった。


「ミミト、降りろ。こっからはウィリスの家から迎えが来る。俺も一緒に行く」

「そうなの?どうしよう、私変な格好してない?ああ、ドキドキしてきた」

「…お前、緊張すると早口になる癖変わってないんだな」


アルクが目を細めてミミトの頭をくしゃくしゃっと撫でる。

妹の様な存在のミミトがこれから自分の手の届かない場所に一人で生きていくと思うと、

寂しいような、何とも言えない気持ちが正直な感情だった。

勿論、ミミトにはそんなことは言えないが。


「ああー!髪の毛ぼさぼさになっちゃった」


手櫛でなんとか直そうとするミミトが幼く見え、可愛らしい。

ミミトから夢を打ち明けられた日から兄として精一杯の事をしてやろうと決めたのだが、ウィリスの事を考えると少し不安になる。


自分の友人を信用していない訳ではない。

もしかしてこの気持ちは親心というものだろうか。


そんな事を思って苦笑しそうになり、ミミトから目を逸らした。


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