第9話 「過去の記録(レコード)と【神級】スキルの起源」
悠悠自適の共同生活は軌道に乗り、ドレッドもすっかりグループホームの清掃担当として馴染んでいた。夜遅く、皆が寝静まった後、悠斗は一人、事業所の帳簿整理をしていた。
(ドレッドさんの清掃後の魔力安定率は98%。ガルドさんのリハビリ指導は、新人冒険者の事故率を10%も低下させた。順調だ……)
誰もいない静寂の中で、悠斗の脳裏に、突如として激しい頭痛と共に過去の記憶がフラッシュバックした。
――それは、前世の最後の瞬間だった。
【回想:前世・ブラック介護施設『希望の家』】
「黒岩! また記録が遅れてるぞ! 夜勤中に書類整理なんて非常識だと思わないか!」
耳元で響く施設長の怒鳴り声。目の前には、未記入の膨大な『個別支援計画書』と、夜勤明けの疲れで震える自分の手。
「す、すみません、施設長。今日も、急変対応と、身体介護が……」
悠斗の身体は限界だった。連日の残業、休憩なしのワンオペ、利用者様への虐待すら黙認される環境。理想を抱いて飛び込んだ介護の世界は、地獄だった。
『希望の家』は、全てが崩壊していた。介護職員は疲弊し、利用者様は適切な支援を受けられず、ただ生かされているだけ。
「クソッ……! こんなはずじゃ……」
悠斗は鉛のように重い頭で、利用者Aさんの『個別支援計画書』にペンを走らせようとした。そこには、Aさんの趣味や希望ではなく、「職員の都合の良いスケジュール」がぎっしり詰まっていた。
(この計画書じゃ、誰も救えない。支援じゃなくて、管理だ。俺が本当にやりたかったのは……)
悠斗の視界が歪む。疲労困憊の脳が、なぜか現実の書類ではなく、電子的なウィンドウを展開した。
【対象:Aさんの人生】 【状態:希望喪失(LV99)】 【原因:不適切な支援環境】 【課題:リソース不足、制度崩壊、環境の劣悪化】
「編集したい……。こんなクソみたいな環境を、根本から、制度ごと書き換えたいんだ……!」
悠斗は、ペンを握る手に最後の力を込めた。彼が心底望んだのは、目の前のAさんを救うための『完璧な制度と支援』だった。
その瞬間、激しい光と、脳を灼くような痛みが悠斗を襲った。
バタン。
ペンは床に落ち、悠斗の意識は暗闇に飲まれた。
【回想終了】
悠斗はハッと息を吐いて、現実に引き戻された。額には冷や汗が滲んでいる。
「そうだ……あれが、俺の最後だった」
そして、あの時の極限の願い――「制度ごと書き換えたい」という狂気的な執着が、異世界転生と同時に**【障害福祉サービス:神級】**というチートスキルとなって発現したのだと悟った。
悠斗は自分の両手を見つめた。
「俺のスキルは、単なる魔法じゃない。あの時、崩壊した介護の現場で俺が本当に必要としていた、『完璧な支援制度の青写真』そのものなんだ」
だからこそ、彼のスキルは単なる回復魔法ではなく、『個別支援計画』や『就労移行支援』といった、「環境と制度の構築」に特化している。
(俺は、前世でできなかった、あの時のAさんのような、制度の犠牲になった人々を、この世界で救う。制度そのものをチートで書き換えることで)
悠斗の瞳には、過去の悲劇を乗り越えた、揺るぎない決意が宿っていた。
「さあ、この世界にも、『不適切な支援制度』の闇は必ずある。次は、その闇を暴きに行くぞ」
悠斗は立ち上がり、外の夜空を見上げた。彼の心は、過去の重荷を背負いながらも、新たな支援の目標に向かって燃え上がっていた。
どもー、作者です!今回はシリアス回、悠斗くんの過去の回想でした!
やはり、主人公がなぜ「介護チート」にこだわるのか、その動機付けは重要ですよね。彼のスキル【神級】は、単なる魔法ではなくブラック施設で過労死する寸前に彼が切望した『完璧な福祉制度の具現化』だった、という設定にしてみました。
この設定があるからこそ、彼の『個別支援計画』や『就労移行支援』が、戦闘魔法よりも強く、この異世界の根源的な『社会問題』に切り込んでいけるわけです。
これで悠斗くんの「支援にかける熱意」の理由付けは完了。
次回は、この決意を胸に、彼がこの異世界の『制度の闇』、つまりギルドや貴族社会が抱える問題に切り込んでいく展開になりそうです!
また次話でお会いしましょう!感想と評価、お待ちしてます!




