第8話 「自立訓練(ライフ・スキル)と心優しき魔王」
職業で成功を収め始めてから、数ヶ月が経過した。
ガルドのトレーナー業は「呪いや病の後遺症に特化したリハビリ」としてギルドで大人気となり、リーファの特殊鑑定は貴族御用達となり莫大な収入を生んでいた。ジンが作成する「聴覚マッピング地図」は、その正確性から冒険者たちの間でプレミアム価格で取引されていた。
彼らの成功は、街の隅々まで広がり始めていた。
ある日の午後。悠悠自適の玄関に、ボロボロのマントを纏った大柄な男が、怯えた様子で立っていた。その男は、全身から微かに黒い魔力を漏らしており、その存在だけで周囲の一般市民が逃げ惑うほどの威圧感があった。
「あの……すみません。ここが、『不適合者』を支援してくれる場所、でしょうか……」
男はそう尋ねたが、その声は想像に反して弱々しく、今にも泣き出しそうだった。
【対象:ドレッド(元・魔王四天王候補)】 【状態:統合失調症様障害(極度の対人恐怖)】 【潜在能力:圧倒的な魔力(S+)、戦闘能力(SSS)】
「いらっしゃいませ。どうぞ、中へ」
悠斗はまったく動じることなく、男をリビングへ招き入れた。ガルド、リーファ、ジンも、彼の圧倒的な魔力に警戒しつつも、悠斗の指示に従い冷静だった。
「私はドレッドと申します……。その、私は『魔族の血』が濃く、普通に暮らしているだけで周囲から恐れられ、石を投げられます。私は誰かを傷つけたくないのに……」
ドレッドは泣きながら続けた。
「魔力を使うと、頭の中で恐ろしい声が聞こえます。誰かを破壊しろと……。私は、もう誰とも関わりたくないのです……」
これは、悠斗が施設で最も多く対応してきた種類の課題だった。「精神的な不安定さ」による「社会生活の困難」だ。
「わかりました、ドレッドさん」
悠斗は紙とペンを取り出した。彼のスキル【自立訓練】が起動する。
「あなたは、その圧倒的な魔力をコントロールする『生活スキル』を身につける必要がある」
「生活スキル、ですか……?」
「我々の支援は、『自立訓練』を軸に進めます。あなたの問題は、魔力そのものではなく、『魔力と感情の結びつき』が強すぎることだ」
悠斗はドレッドに、まず『感情の切り分け訓練』を課した。
「毎朝、魔力を一切使わずに、このグループホームの『掃除当番』をお願いします。目的は、『力を抜いて、単純な共同作業を行う』という生活習慣の確立だ」
悠斗はガルドに指示を出した。
「ガルド、あなたの『身体介護』の知識で、ドレッドさんの『非言語的コミュニケーション』を支援してくれ。言葉に頼らず、落ち着いた姿勢を彼に教えるんだ」
ガルドは、ドレッドに対し、ゆっくりとした動作と落ち着いた目の合わせ方、そして感情を落ち着かせるための深呼吸を指導した。
次に、リーファが名乗り出た。
「悠斗。私が彼と一緒に、『魔力制御のための瞑想時間』を担当します。私の【行動援護】が、彼の中の『破壊の声』が発するトリガーを特定し、代替行動を誘導できます」
リーファとドレッドは、毎日定刻になると静かな部屋で向かい合い、互いの魔力波動を安定させる訓練を行った。
そしてジンは、ドレッドが外出する際の『危機管理』を担当した。
「ドレッド。お前がもし外でパニックになりそうになったら、俺の『聴覚マッピング』の指示に従え。安全な避難経路を瞬時に指示する」
悠斗の【自立訓練】は、彼が持つ最強の魔力を「日常生活の安定」という地道な土台の上に築き直す作業だった。
数週間が経ち、ドレッドは目覚ましい変化を見せた。彼はもはや怯えることはなく、巨大な体で丁寧に床掃除を行い、仲間たちと穏やかに会話するようになっていた。
「悠斗……。私の頭の中で聞こえていた『破壊しろ』という声が……今は、リーファと一緒に笑っている時、『掃除を頑張ろう』という声に変わった気がします」
ドレッドは感謝の涙を流した。
悠斗は満足そうに頷いた。
「それが、『自立』だ、ドレッドさん。あなたの最強の魔力は、誰かを支配するためじゃない。あなた自身の穏やかな『生活』を守るためにあるんだ」
こうして、悠悠自適は、最強の魔力を持つ元・魔王候補を、『心優しきグループホームの清掃担当』として迎え入れたのだった。彼らの支援事業所の影響力は、確実に異世界全土へと拡大しつつあった。
どもー、作者です!今回は待望の*『新たな仲間(元魔王候補)』登場回でした!
「最強の魔力を持つ魔族が、精神的な不安から社会生活が送れない」という設定、最高に燃えますよね!そして、悠斗くんがぶつけるのが【自立訓練】と【行動援護】、そして『掃除当番』という地道な生活スキルっていうのが、この物語の真骨頂です。
結局、異世界最強の魔力も、安定した生活習慣には勝てない!というメッセージです(笑)。
これで、身体・精神・視覚、そして最強魔力のドレッドと、メンバーがさらに強化されました。ドレッドの魔力が「清掃力」として発揮される日も近いかもしれません。
次回は、このメンバーで、いよいよ街の外の大きな問題に挑むか、あるいは、悠斗の過去(過労死の施設)と繋がるような、この世界の『介護制度の闇』に触れてみようかな、と考えています。
また次話でお会いしましょう!感想お待ちしてます!




