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【短編】現代ドラマ短編シリーズ

布団が吹っ飛んだらダンスで天下無双!

作者: 烏川 ハル

   

「布団が吹っ飛んだ」という言い回しがある。

 古くからある有名なダジャレだが、それっぽい言葉を掛け合わせただけに過ぎない。実際に布団が吹っ飛ぶ状況に陥ったり、そんな場面を目撃したりする者は少ないだろう。

 しかしこの日、春川香奈太は、その数少ない一人になった。


 風の強い昼下がりのことだった。

 朝寝坊をした彼は「時間的には少し遅いかも」と自分でも思いつつ、布団を干していた。

 ベランダと呼ぶには狭すぎる、窓の外の細いスペース。その外壁に布団を掛けて、外側と内側の高さが同じくらいになるよう、布団の位置を調整していく。

 基本的にはズボラなくせに、変なところだけ几帳面で神経質な彼は、こんな高さ調整でも、できる限り同じにしないと気が済まない性分だった。

「……ん? もうちょっとかな?」

 と、細かく直しているうちに……。


 突然、ピューッと強い風が吹き荒れる。

 その日一番の強風だった。朝の天気予報では「午後から風が強くなるので注意してください」と言われていたが、その時間まだ布団の中だった香奈太に、当然その情報は届いていなかった。

「うわっ!」

 驚きの声を上げる香奈太。

 半ば横殴りの風向きであり、前後で言えば向い風というよりも追い風だ。

 さすがに彼自身が飛ばされるほどではないが、せっかく均等に調整して掛けた布団は、ベランダからふわりと浮き上がってしまう。

「あっ、布団が……!」

 慌てて押さえつけようとするが間に合わない。するすると落ちるようにして、布団はベランダから離れていく。


「……吹っ飛んだ」

 思わず呟いてしまったのは、彼の頭にも「布団が吹っ飛んだ」のフレーズが浮かんできたからだろう。

 しかし現実の布団は「吹っ飛ぶ」というよりも、むしろ「落ちていく」という感じで、真っ直ぐ地面に向かっていき……。

 一瞬そのまま布団の行く末を見守ってしまう香奈太だが、すぐにハッとして叫んでいた。

「いや、違う!」


 ちょうど再び、先ほどと同じくらいの強風が吹いてきたのだ。

 ただし同じなのは風の強さだけ。風向きは異なっていた。

 今度のは、複雑な風向きだった。気流が渦を巻く……という雰囲気だ。その渦に巻き込まれる格好で、彼の布団も複雑に回り回っていた。

 それは、まるで布団がダンスをしているかのようで……。


「ああ、布団が踊っている!」

 そう見えたのは、彼がダンサー志望だったからかもしれない。他の者が見れば、別の感想を抱いたかもしれない。

 しかし彼にとっては、それは布団のダンス。しかも今まで見たことがないほど、素敵なダンスだった。


 その数年後、この目撃例を元にした奇抜なダンスで、春川香奈太は一世を風靡する。まさに天下無双というほどのレベルで、ダンサー界の頂点に立つのだが……。

 彼独特のダンスの起源となるエピソードを、雑誌やテレビのインタビューなどで何度も披露した結果。

「布団が吹っ飛んだ」という言葉よりも、彼の「布団が吹っ飛んだらダンスで天下無双!」発言の方が、布団関連の慣用句として一般的になったという。




(「布団が吹っ飛んだらダンスで天下無双!」完)

   

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