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4.連座する余罪

 多くのコンサルティング・ファームと同じく、〈ビジリス〉の会社も、基本的に受注のみで事業を成立させている。紹介によって問題を解決するビジリストは、一流の営業と言えるだろう。


*****


4.連座する余罪

 繋沼工場長の更迭が決まったあと、形式上の手続きを踏むために、本人答弁の機会が設けられた。

 そののち、品質管理課長を工場長代理とすることで、事態は一応の決着をみた――はずだった。

「次に、未計上のリベートについてですが、これは明白な脱税です」

「脱税?」

田沼たぬまくん、配って」

 義足の金属音を響かせながら、香坂が部下の田沼たぬま 鏡一きょういちに指示した。

「リベートの収益が繋沼さん個人ではなく、会社に帰属するならば、法人所得となり課税対象です。まず最初に申し上げますが、脱税は極めて重い罪です。所得税法二三八条、法人税法一五九条のいずれも、十年以下の懲役もしくは千万円以下の罰金、またはその両方が科せられます」

「十年?」

 住野すみの専務取締役が思わず声を上げた。

「重いですね。住野専務、税金は誰のものだと思いますか?」

「国民のものだろう」

「はい、つまり国のお金です。そのお金を奪った――コレ、強盗ですよね? なお、刑法二三六条では、強盗罪は五年以上の有期拘禁刑です。有期刑ですから、執行猶予はつきません。いわゆる『一発アウト』です。脱税もそれに近いものだと考えて問題ないでしょう」

「払えばいいだけだろう?」

「ふう……。住野専務、あなたのご自宅にも贈答品が届いていますよね? 配偶者名義で」

「……」

「いえ、答えていただかなくても結構です。黙秘権がありますので。なお、すべての関連会社は調査済みです。すでに大阪国税局にも連絡していますので」

「私にどうしろと言うんだ?」

「何も。私はあなたの敵ではありません。罪があれば償う、それだけのことです。ただ、悪質な事案だけは見過ごせません」

「悪質とは?」

 香坂が取締役を前に、椅子に座った。足を組むと、右足から鋭い金属音が響いた。

「佐藤さんが残業し始めた十年前、住野専務――あなたもその場におられましたよね?」

「何だって?」

 木田常務が社長の隣に座る住野を見た。

「佐藤さんをひとり残し、当時執行役員だった住野工場長と、物流部長だった繋沼さんが、川合課長を誘って昼食に行ったのは事実でしょう? その直後、住野さんは本社移動となり取締役に、繋沼さんは工場長に昇進しています」

 香坂が足を組み替えた。今度の金属音は鈍かった。

「まじめな、いち従業員を否定――犠牲にしてまで昇進を果たすのが、この会社の本質です。そうしたことはしてはいけないのです。変えなければならないのです」

 その時、香坂のポケットが振動した。

「失礼」

 メッセージの内容に、香坂の顔色が一瞬で変わった。

「弊社瀬野の資料を、勝手に閲覧した方がいるようです。提出前の資料は閲覧禁止のはずですが、そんなルールひとつ守れないとは……まあ、予測していましたが。けれど、裏切られるのは慣れませんね」

「申し訳ない……」

 山田社長が深く頭を下げた。

「どうぞ、お顔を上げてください、山田社長。弊社としては、料金が加算されるだけのことですから、むしろ歓迎です。ああもちろんこれはブラックジョークです」

 香坂チーフが悪魔のように微笑んだ。山田は苦虫を噛み潰したような表情をしていた。

「チラッと見てしまうこともあるんじゃあないか?」

 住野が疑問を口にした。

「契約書にも明記されていますが、資料は鍵のかかった場所に保管しています。本件の場合は、神戸工場の大会議室です。鍵は二本あり、一本は棚に、もう一本は工場長の机に保管されています。両方とも、現在弊社のスタッフが管理しています」

「じゃあ、どうやって入ったんだ?」

「さあ、存じ上げません。けれど、理由ははっきりしています」#ホワイダニット

「それは何だ?」

「住野専務、もう結構です。――本当に、申し訳ない。このとおりだ」

 山田が再度、頭を下げた。

「なんてバカなことを……」

 木田が溜息をついた。

「進めてくれたまえ」

 山田が促した。

「最初に、佐藤さんを処分してはいけません。罪ある会社に対して、貢献しています。報復人事をすればSNSで拡散され、炎上は避けられません。第一、労働基準監督署に訴えていません。あくまで社内での解決を求めています。イコール、金銭的に解決可能な案件です。人事考課は御社の管轄です。ただ、佐藤さんが要望している業務改善案については、弊社案と重複している部分がありますので、佐藤案として明記します」

 香坂は、これによって人事考課を検討せよと暗に示した。

「次に、電設(電気設備)関連ですが、ここからは担当が変わります。田沼くん、お願いします」




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