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奇才家三女の政略結婚  作者: 鳴木 空
1章 ある屋敷にて
7/47

7 うーん‥‥


 部屋に戻って、付いてきたマリアにお茶を淹れてもらい一息つくと、段々と眠くなってきた。

 いやいやここで寝てはいけない。まだお風呂が残っているのだ。食べてすぐ寝るなど幼子がすることであって私はもう19である。


 そうは思いながらこっくりこっくりしていると部屋の戸が叩かれた。少しびっくりして目を覚まし、返事をすると荷物を抱えたアリーが入ってきた。


「フレデリカ様、入浴の準備が整いましたのでご案内いたします!」

「分かりました」



 階段を降り、一階の奥の部屋に進んでいくと大きな大浴場があった。



「ここは大浴場で使用人浴場とは別に公爵家ご家族や来客の方々が使用できます!」

「スキンケアや入浴時のお世話などお任せください!」


 

 ……え、お風呂までついてきてくれるの!?

 ちょっとどころじゃない位恥ずかしいのですが!?

 実家は基本全て自分でやってたし、ここまで浴場も広くなかった。

 それに、色々見られるのはまずい。



「大丈夫だよ、今まで一人でやってきたから手伝いは要らないかな。石鹸の種類さえ教えてくれたら後は自分で出来るから」

「しかし、それでは私共の仕事が‥‥」

「じゃ、じゃあ仕上げのスキンケアはお願いしようかな」

「洗髪なども仕事なのですが‥‥」

「アリー、フレデリカ様が困っています。主人が望むように取り計らうのが我々使用人の仕事です」

 


 アリーは「はっ」としたように私の方を向いた



「申し訳ありません、フレデリカ様。私、美容関連が得意なため少し熱くなってしまいました‥‥‥」

「大丈夫だよアリー、仕事熱心なのは良いことだもん」


 アリーには申し訳ないがこればかりは恥ずかしいため譲れない。

 一通り石鹸の名前を教えてもらったら2人には外で待機してもらい、私は服を脱ぎ浴室に入る。



 わしわしわし‥‥‥わしわし‥‥わし‥‥わ‥‥し



 っは!!寝てない寝てない



 何度か意識が飛びかけたが何とか湯船までたどり着いた。

 お湯の温度は少し熱いが丁度いい範囲だ。何か薬効を入れているのかもしれない。ほのかにいい匂いがするし肌がすごくツヤツヤしているように見える。


 しかし湯船に入って直感的に分かる。

 あ、これ駄目だ、絶対寝る。来て初日に湯船で寝てのぼせるとか絶対にしてはいけない。



 慌てて浴槽を出て着替え、2人を呼んだ。



 しかし何故だろうか。2人が入ってくると別の部屋に案内されあれよクリームやらマッサージやらむくみ取りやら沢山された(らしい)



 はい、撃沈しました。寝ている間に終わっていた。



 つるつるぴっかぴかになった私は、ほぼ意識が曖昧になりながらも寝間着を着るのを手伝ってもらい、部屋に戻る。




「フレデリカ様、着きましたよ」

「うーん‥‥ふたりともありがとう。おやすみなさい。あしたもよろしくおねがいします」



 扉を開けて部屋の中に入る。



「おい」

「うーん‥‥」

「おい、部屋を間違えてる」

「‥‥‥うーん?」

「お前の部屋は2つ奥だ。使用人に案内されなかったのか」


 公爵様がいる気がする。けどもう駄目だ、眠すぎる。

 私は近くにソファがあったのでそちらに移動する。


「おい、そっちは違う。部屋を間違え‥‥その服、まさかアリーとマリアの仕業か」


 何か言っている気がするが眠すぎる。私はソファーに横になり意識を手放した。



ー ー ー ー ー ー ー ー



「アリー、マリア‥‥‥その気配まさかダルクもか」



 フレデリカがカノンの私室ですやすや寝息を立ててから数分後、彼に呼ばれて3人は顔を扉から覗かせ部屋の状況を確認した。



「ダルクさん、やっぱりフレデリカ様寝てしまいましたよ!」

「旦那様、どうして手を出さないのですか。フレデリカ様、可愛いのに」

「やはり早すぎましたか」



 早い早くないは別として、使用人達はやっと出来たカノンの婚約者を逃さまいと既成事実を作ろうとしていた。


 当のカノンは表情筋こそ動かないが、全身から不機嫌な圧を醸し出していた。


 慣れていない者なら一目散に逃げ出しそうな圧も、長年仕えている彼らにはあまり効果がない。



 使用人として主人の意に背く行動は懲罰の対象だが、カノンは今まで婚約を全て断り続けた自身の行動から咎めることが憚られる。



「私は彼女を捨てることは出来ない。だから今後はこのような行動に出るのはやめろ」


「え、やっぱり旦那様、フレデリカ様に惚れてるんですか?本人はその気はないって言っていましたが」

「旦那様、ファイト!」



 カノンは盛り上がる恋愛脳侍女達を無視してフレデリカの元へ向かう。

 


 若草色の髪はふわりと三つあみが編まれリボンでとまってる。生地の薄いナイトドレスは彼女の上半身のラインに合わせられ、腰から下はひらりと足首までたっぷり使われた生地がソファから落ちている。

 全体的に彼女の髪の色に合わせられ、惚れている人でなくとも大多数が手が出てしまいそうなナイトドレスを着るフレデリカはすやすやと寝息を立てている。



 カノンはフレデリカの前で片膝をつき、上半身と下半身を支え持ち上げた。

 俗に言う、お姫様抱っこである。



「きゃーー!」

「わーお」


 侍女達がカノンの行動に盛り上がっているが彼は気にせず部屋を出る。


 カノンはダルクに冷やかな視線を送るが筆頭使用人は澄まし顔で後につく。


 フレデリカのために用意された部屋に入り、奥のベットに彼女を寝かせると、彼は起こさないようにそっと部屋を出た。


 

元々は全身ピカピカに磨くつもりだった恋愛脳侍女二人組は、諦めてマッサージ特別コースに変更。もしフレデリカが眠くなければナイトドレスなぞ断固反対していたでしょう

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