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奇才家三女の政略結婚  作者: 鳴木 空
1章 ある屋敷にて
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6 もぐもぐ うまうま


「フレデリカ様?」


 マリアの声かけで小さな自己嫌悪に陥っていた思考が切り離される。

 こんなこといつものことだから気にすることはない。


「ごめんね、ちょっとぼーっとしていたよ」

「いえ、こちらもまだ慣れていない環境なのに色々負担をかけてしまって申し訳ありません。私共はそろそろ失礼させていただきます」

「夕食時になりましたらお声がけさせていただきますね!」



 どうやら気を使わせてしまったらしい。私としてはもう少しおしゃべりしたかったのだが仕方がない。



「そうだね、じゃあ少し休ませてもらおうかな」


 2人はテキパキと後片付けをすると挨拶をして部屋を出た。



 確かに疲れているのかもしれない。初対面の挨拶が心臓に悪すぎた。

 しかし、休息を取るにしても後1時間程で呼ばれる時間だ。昼寝をするには時間が足りない。



 ひとまず、先ほど渡された今後の予定の資料でも読んでおくとしますか。


 


 この出席名簿が結構面白くてのめり込んでしまった。

 

 あ、いつもお茶会で顔を合わせる人だ〜とか、あれ?この人招待されてないけどムニリア公爵家と何か問題があるのかなとか想像を膨らませるのが面白い。


 全員覚えろとの指示だが、前々からお母様に貴族の顔と名前は覚えろと叩き込まれていたので大方記憶している者が多かった。




「フレデリカ様、そろそろ夕食のお時間です」


 1時間が経っていたようだ。心地よい疲労を感じながら資料を机に置き、席を立つ。扉を開けるとアリーが待っていた。



「今日は旦那様が遂に婚約をしたと知った料理長が張り切っていまして、いっぱい作ってしまったそうです!この屋敷の料理はどれも美味しいので楽しみにしていてくださいね!」

「沢山あったら食べきれるかな?」



 少食というほどでは無いが私はそこまで食べれる方ではない。これでは折角作ってもらった夕食が無駄になってしまうかもしれない。



 はあ、私ももう少し大食いだったらもっと身長が伸びたかもしれないのに。胃袋は言うことを聞いてはくれないのだ。


「大丈夫ですよ!残ったものは私共に下げ渡されますので」


 アリーが人差し指を立てて、結んだ桃色の髪の毛を左右に揺らしながら教えてくれる。

 残しても無駄にならないなら安心だ。

 


 3階の部屋から階段を降り、1階中央の部屋に案内された。

 公爵様はまだ来ていなかったがマリアや他の使用人達が続々と料理を運んでいた。サラダや炒め物、スープ、肉料理、魚料理と多種多様な品ぞろえだ。確かにこれは量が多い。



「この他、食後のデザートがあるらしいので楽しみにしていてくださいね!」



 デザートもあるのか。一体いつから仕込んでいたのだろう。料理人の本気度が伺える。

 


 アリーが椅子を引いてくれた席に座る。丁度大きなダイニングテーブルの中央で場所的に逆側に公爵様が座るのだろう。



 食事のときは黙っていたほうが良いだろうか。仮にも私は公爵様のプライバシーを侵害している身である。彼にも彼の生活があるだろうしここで私がしゃべり倒してしまったら迷惑だろう。うん、きっとそうだ。今日は料理に集中して様子をみよう。



 そんなことを思いながら料理が並ぶのを待っていたら公爵様がやってきた。彼が座り料理が出終わると一言『多いな』と言い、口をつけ始めた。

 


 貴族のマナーに、食事は一番身分の高い人が食べてから他の者も食べるというものがあるため私も彼が食べ始めたのを見て開始する。

 食べる順番は特に決まっていないので好きなものを選ぶ。公爵様は魚のムニエルを切り分けていたが私はスープを手に取る。



 コーンスープだろうか。スプーンを使い口に入れると程よい甘みがふわっと口の中に広がる。きっとコーンの他にも野菜が使われていそうだ。複雑だが優しい味は口の中にほどよく残るが他の料理を邪魔しない程の存在感で留められている。



 これはすごい。料理人の腕の良さが伺える。



 次は肉料理とパンを食べる。すごい、肉が溶けた。口の中で溶けた。甘辛いソースは少し固めのパンとよく合う。


 もぐもぐもぐ うまうまうま


 もぐもぐもぐ うまうまうま


 もぐもぐもぐ うまうまうま



 (ちなみにここまで公爵様とは1度も話してない)



 ただやはり量が多い。未だ半分も食べ切れていないがもう腹8分目である。1度も手を付けられていない料理もあるが、これは使用人達に美味しく頂いてもらうとしよう。



 ふう、と食事の手を止めて公爵様の様子を見てみる。



 そういえば、先刻の威圧感は全く感じられない。というかピリピリされながらいたら私はここまで美味しく料理を堪能できていないだろう。

 


 彼の一挙手一投足は洗礼されていて隙がない。相変わらず表情筋は全くと言っていいほど動かないが確かにこの美顔なら惚れる令嬢も多いだろうと勝手に考える。



 ふと気づいたのだが彼に用意されていた料理がほとんど綺麗残さず平らげられていた。すごいね、この量食べちゃうんだ。


 騎士の兄様も家にいた頃は食費が半端じゃなかったが、やはり鍛えてる人とは胃袋の大きさも常人とは異なるのだろうか。



 「なんだ?」



 私の視線に気づいたのだろうか。さりげなく見ているつもりだったが気づかれていたようだ。


「いえ、よく食べるのだなと」

「今日は流石に量が多いがな」


「‥‥‥‥‥」

「‥‥‥‥‥」



 ‥‥‥‥うん、会話、続かない



 二人ともほぼ食事を終えていたため、使用人たちが空気を読んでか皿を片付け、デザートの用意をしてくれた。


 デザートは爽やかな果実を使ったタルトだった。今は初夏、季節の訪れとしてはぴったりだ。

 近年は4つの季節ごとの気候が顕著に表れ始めているが今はそこまで暑くはない。



 タルト生地のサクサク感と瑞々しい果物が絶妙に噛み合っている。スイーツなど夜会の時ぐらいにしか食べられないから屋敷で出るなんて背徳的すぎる。



 うまうまと頂いていたら今度は公爵様がこちらを見つめていた。


「なんでしょうか?」

「‥‥‥明日、私は朝早く出かけるがお前は好きにして構わない。何かあれば使用人を頼ると良い」

「分かりました」



 必要事項を言うと公爵様は席を立ち、部屋を出ていった。

 どうやら彼は忙しいようで、もしかしたら今日の休みも無理をきかせたのかもしれない。同じ職場のお兄様には申し訳ないことをした気分だ。



 私も食事は終わったので立ち上がり、使用人達の挨拶と、料理が美味しかったことを伝えて自身の部屋に戻った。


 

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