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奇才家三女の政略結婚  作者: 鳴木 空
1章 ある屋敷にて
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29 髪を梳く

私が公爵家に嫁ぐこととなったのが2ヶ月前その9日前にお父様が下戸にも関わらず酒を飲み街へ繰り出し賭け事で負ける方法の試行をした結果伯爵家全財産が消えたと報告を受けるその次の日からはお父様は部屋にこもり私が家を出る時まで引きこもったばっかだったお母様は怒るのでもなく悲しむのでもなくただ「そう」と一言言っただけだったダーネルお兄様は財政難よりも私の披露宴のドレスに意識が飛びエルミアお姉様はいつも通り絵を描いた弟のグルトは悲しみ眉をひそめた程度で法律の勉強を始める確かに財政難と言われたのにも関わらず家の生活は普段と同じようにが進んでいたこの時点で怪しむべきだったのに私の精神はそれどころではなく婚約について考えないように逃げるように家の家事に没頭したお母様が外壁を壊してもお姉様が湯水のごとく絵の具を使っても平気だったのはお父様が持ちこたえていたからかと思っていたが財政難自体嘘だとしたら前提がひっくり返るまずもって3ヶ月前には私が公爵家に来ることが確定していたのならば両家で何かしら契約が交わされている可能性が高いまずもって我が家は基本中立だから親第一王子派のムニリア公爵家と積極的に関わるのは考えにくいならば公爵家からの提案だろうかやはり目的が分からないまずもって何故家族は私に違う事実を教えたのかその理由も分からない2ヶ月以上部屋にこもりきりのお父様は何をしているのか流石に食事の時ぐらい顔を合わせても良かったのではないかもしや嘘がバレないようにするためにワザとさけていた?可能性は十分あるじゃあ何故公爵家と縁談を結んだ公爵様は何処までを知っているまさか私が才能を持たないことを最初から知っていたいやないなお祖父様に頼み込んで知られないように最大限根回しと隠蔽を図ったもしやお祖父様が裏切った可能性はあるのかそうなった場合どうやっても手のひらの上で転がされていたけど本当に目的がわからない最初の縁談発案者は誰なのか私はどうしたらいい何をすれば良い家族はもう私が邪魔だと切り捨てた?確かにその可能性は十分ある内心お荷物だと思っていたのかもしれないじゃあお兄様お姉様が公爵家に来たことはどう説明するまさか最後の手向け?顔を拝まされた?いやいや流石に2人がそこまで私に興味を持ってるはずがないそういえば公爵様は親第一王子派王族が1枚噛んでいる線もあるベリック兄様は家を出て伯爵家の後ろ盾は存在しない王子は奇才家の力が欲しくて後ろ盾のある私を取り込んだ可能性がある王権争いはこれから激しくなるとされている根回しとしては十分に確率があるだろう‥‥‥







 なんだか、さわさわする



 あれ、私どのくらい考え込んでいたんだろう。


 ゆっくりと意識を元に戻していく。すると髪を誰かに触られているような感覚がした。


 ああ、アリーが髪を梳かしてくれているんだ。


 そういえば私はいつ湯浴みをしたのだろうか。そんな事を思いながら後ろを振り向く。



「アリー、もう髪を梳かなくてだいじょ‥‥」

「ん?」


 アリーだと思って振り向いたら何故か公爵様がいた。


 え、なんで?


 私は状況を理解できずに固まる。


「やっと気がついたか」

「‥‥‥」


 長い事公爵様の金の瞳を見つめ続け、やっと自分が彼に髪を梳かされていた事を理解する。



「なっ、なんなん、ななななんで公爵様が‥‥」


 少しでも公爵様から離れようとずりずり長椅子の端に移動して身を埋める。


「何故私がここにいるかか?それはここがムニリア公爵家の屋敷であり私が当主だからだ」

「‥‥‥」


 そういう事を言っているのではない。


 

「まあ、順を追って話そう」


 公爵様は長椅子の後ろから回り込み何故か私の隣に座って櫛を手前の机に置く。


 そこでやっと私が執務室にいることに気づいた。



「まだ夜は、長いからな」




ー ー ー ー ー ー ー ー




 カノンはフレデリカがピクリとも動かずいる姿に大きく首を傾げていた。


「私が、フレデリカ様がご使用になられ始めた執務机の話をしたらピクリとも動かなくなってしまいまして‥‥」


 マリアが状況を説明する


「何か、気に障る事を言ってしまったのでしょうか」


 基本的にあまり感情が動かないマリアだがこればかりは不安気に下を向く。


「ふむ‥‥」


 ひとまずフレデリカの方へ近づき声をかけてみる。


「フレデリカ」


 顔の前で手を左右に振ったり頬をつついたり足首に優しく触れてみたりもしたが、まばたきをする以外何も反応しない。



 ふと、同僚のベリックが物事に集中する時、周りの情報をシャットアウトする癖があることを思い出し、フレデリカの今の状態も近いものなのではないだろうかとカノンは予想する。


「浴室で水にあたれば戻るだろうか?」

「確かに、フレデリカ様は湯浴みがお嫌いですし驚いて戻るかもしれません!」


 アリーが妙案だと言わんばかりにポンっと手を叩く。


「‥‥彼女は湯浴みが嫌いなのか?」

「ええ、大体固まって、時間が過ぎるのをただひたすら待っている猫みたいな感じでいますよ!」

「お一人の際も結構な速さで済まされますし」

「‥‥そうか」



 カノンは侍女からの意外な話を聞くと、動かないフレデリカを持ち上げる。


 いつもであれば、虚無を極めた様な顔になるが今回は全く反応を示さない。



 浴室に到着すると侍女に任せてカノンは近くの部屋で待機する。いつもであれば、この時間は書類を捌きながら待つが、今日に限っては婚約者の急変っぷりに驚きそれどころではない。



 数十分待つとマリアが呼びに来たのであとに続く。



「‥‥‥」

「旦那様、戻りませんでした‥‥」

「やはり、私が何かしてしまったのかもしれません」

「それに‥‥‥」


 マリアの表情が一向に戻らないことから薄々気づいてはいたが、やはりどうしたものかとカノンは首を傾げる。



 アリーとマリアはもうとっくに労働時間を過ぎている。このままでは明日の仕事にも響いてくる。



「2人はもう今日は休め、もう夜も遅い。まだ夕食も済んでいないだろう?」

「確かにそうですが‥‥」

「後は私が様子を見ておく。明日の朝までにフレデリカが戻らなかった場合は2人は付きっきりで様子を見ることとなる。今日はもう休め」


「「かしこまりました」」



 2人は腑に落ちない顔をしていたが、当主として流石にこれ以上残業をさせるわけにはいかない。



 侍女達が出ていくのを見送った後、カノンはフレデリカに近づくと、まだ髪が濡れていることに気づいた。



 適当に浴室にあった櫛とタオルを手に取るとフレデリカを持ち上げて執務室に移動する。



 本当にピクリとも動かないフレデリカは、魂が抜けてしまったのかのように目に光が無い。



 長椅子に座らせて後ろに立つと、カノンは本来の風の魔術の威力を最小限弱くし、髪を梳かしながら風を当てた。


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