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奇才家三女の政略結婚  作者: 鳴木 空
1章 ある屋敷にて
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19 欠点は何処


 公爵様に寝ていないことが知られていた翌日からは特に代わり映えのしない日常を過ごした。



 朝食を無言で食べ、大広間へ行き日々増えていく贈答品の目録を作り、昼食は使用人達と現状確認と不備や誤字が無いか確認しながら取り、夕食前は公爵様の確認と修正が入り公爵様と無言で夕食を取る。




 そうしてほぼ全ての目録を作り終えた後、私はふとある些細なことに気づいた。



 あれ、今までずっと公爵様は仕事が忙しくて夕食時には帰っていなかったけど最近ずっと屋敷に居ない?


 もしかして私の下書きの出来が悪いせいで余計に仕事を増やし、負担をかけているのではないだろうか?


 もし、そうなのであれば直接教えてくれずとも後で修正点を紙面でもらっても、他の使用人達に聞いても何も問題はない。



 彼には第一王子付き文官という国を支える上で大切な役割を担っているため私なんかに時間を割くのも烏滸がましい。



「公爵様、一つ質問があるのですがよろしいですか?」


 無言の夕食の中、私は思い切って聞いてみることにした。


「なんだ?」

 公爵様は食事の手を止めこちらを見つめる。



「最近、ずっと夕食前から手紙の添削をしていただていると思うのですが、王宮での仕事の方は大丈夫なのですか?前は夕食の時間に帰られてはいなかったと思うのですが‥‥‥」

「‥‥ああ、報告していなかったか。数日前、丁度お前に仕事を任せた翌日から2週間休暇を取らされた」



 ‥‥‥え、ということはここ最近ずっと彼は屋敷に居たってこと?



「まあ私も執務室に居たため気付かなかったのにも無理はない」

「そ、そうだったのですね、大切な休暇を邪魔して申し訳ありません」

「特に問題はない」


 再び食事の手を動かしながら私は今の事実に驚く。


 お母様やアヴェイン兄様程気配を読むのに長けていれば、何処に誰がいて何をしているのか分かるため公爵様が屋敷に居ることぐらい直ぐに分かっただろう。


 しかし私には無理だ。精々殺気や感情、強い視線を感じられる程度。



 食事を食べながら小さくため息をつく。



「しかし、どうして2週間もの休暇を取ったのですか?ベリック兄様はあまり休暇は存在しないと前、話を聞いたことがあるのですが‥‥」

「先ほど言ったはずだ、『取らされた』と。王子が勝手に決めた。まあ、こちらとしても溜まっていた家の仕事が片付いたため結果的に良かったが」

「あの山積みになった物を全て片付け終えたのですか?」

「ああ、そこまで緊急性の高いものではないため時間はかからなかった」



 整った顔立ちに、社交界での評判も良い。加えて気配をお母様レベルで読むことが出来、なんかつ仕事捌きも超優秀。



 逆に貴方の欠点はどこですかと聞きたくなる程優秀ではありませんか!?



 ああ、何処に行っても私は劣っているんだろうな‥‥公爵様が出来ること1つ取っても私は彼の境地には達せていないだろう。



 またもや小さくため息をつく。



「では失礼する」

「おやすみなさいませ」


 食事を食べ終えた公爵様が先に食堂を出た。私も早く食べ終えてしまいたいが最近食欲がない。もそもそとパンやスープを飲み、入浴を済ませて自室に戻った。





 最近こんなことばっかだ。実家にいた時はここまで心がチクチクすることは無かった。


 鏡の前で深呼吸。大丈夫、まだ準備が忙しいため奇才を求められてない。時間がある。


 深呼吸を繰り返す

 泣いてはいけない。人当たりがよくいつも笑っている令嬢でいなくては。



 夜用の動きやすいドレスの裾をたくし上げ自身の太ももを露わにすれば今までつくった傷跡が見える。


 剣術稽古で出来た古傷もあれば一月前程の小さな傷跡など様々だ。


 いつもは魔術の得意なベリック兄様に教えてもらった簡単な魔力を纏わせ色をつける魔術で隠している。



 ここに来たら止めようと思っていたのに‥‥


 痛いのは嫌だ、けど痛みを知れば今までの痛みよりマシだと思える。



 泣いているのか笑っているのかも分からない状態だが、いつも持ち歩く護身用ナイフを取り出し、刃を肌に当てつけた。


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