2 旅立ち
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「ねえ〜フレデリカ、ちょっと聞いてるの〜?」
ちょっと間抜けた声で私に呼びかけるのはクリーム色の髪とルビーの瞳を持ったお母様だ。40代後半だが童顔なため20代後半くらいの若さに見える。
ただ、雰囲気はそんじょそこらの奥様方より威厳がある。お母様は強いのだ。
「もちろん聞いてるよ。公爵夫人として最低限仕事は果たせって話でしょ」
「違うわよ。最大限よ」
お互い笑みを深めて見つめ合う。
ほとんど面識もない相手に最大限尽くせるほど私の心は広くないのだ。
「いい〜、侯爵家までだったら私の顔が効くけど、公爵家はさすがに無理なのよ。だから、包み隠さず頑張ってもらわなきゃ困るのはそっちよ〜」
お母様は元侯爵令嬢であり、今でも社交界での顔は広い。
ただまあ、あちらで失敗して反逆罪やら不敬罪で処刑されてはたまったもんではない。
第一我々は助けてもらう身だ。相応の礼を尽くすのが礼儀というものだろう。
「分かりました、お母様。私のような未熟者にどれほど出来るかは疑問ですが、頑張ってきます」
「うんうん、そうしてちょうだ~い」
「あと、お父様には元手を3倍にして絶対返せって言っといて」
「んふふ〜」
これは一種の腹いせである。
「フレデリカ!服の型はある程度決まっている。あとは公爵家の了承を何としてでも得てこい。相手の希望は最大限応えるのがデザイナーの礼儀というものだ!」
私の公爵家としてのお披露目夜会で着るドレスを是非とも手掛けたいと熱く語るのは2つ上のダーネルお兄様である
お母様譲りの長いクリーム色の髪を一つに束ね、菫色の瞳をこちらに熱く向けている。
私の婚約が決まるやいなや睡眠時間を削ってまで一心不乱にドレスのデザインを決めていたため、酷い隈が出来てる
本人は楽しそうだが
「公爵家には大きな庭園があるらしい。視覚効果が気になるからスケッチしてきて。何なら私を招待して、よろしくね」
庭の視覚効果のスケッチを要求するのは1つ上のエルミアお姉様
肩にかかる水色の髪には寝ぐせと絵の具が付き、つけているエプロンにも絵の具の層が出来ているがこれも一つの芸術といえそうな具合だ
どちらも自分勝手な要求ばかりしてくるが今に始まったことではない。二人とも私の気持ちなど二の次だ
「ドレスの件は折を見て伝えてくね。庭園のは‥‥スケッチは‥‥、、許可が出たら招待するよ」
「姉さま、もし公爵様に意地悪されたら僕に言ってくださいね。いま、この国の法律の本を読んでいるので役に立てると思います!」
そうえば、いたや。私以外にまともな人格者
私のことを「姉さま」と呼ぶのは3つ下の弟グルトである。濃い緑色の髪は短く切りそろえられ、キラキラとした紫の瞳でこちらを見てくる。
彼は本の虫であり、一日中書架か王立図書館にこもっているが根は真面目である。いわば、奇才家の突然変異。伯爵家の次期当主はグルトであり、能力も申し分ない
「公爵ともあろうお方が意地悪をするとは思えないけど。ありがとう、この家をよろしくね」
「はい!姉さまもお元気で」
「フレデリカ様、そろそろ出発いたします」
業者の人に言われて私は馬車に乗り込む
8癖ほどある家族たちだが、やはり別れるとなると寂しいものだ。しかし、その気持ちをぐっと押し殺し最大限の笑顔をつくる
「家族の皆にピオニライの導きがありますように」
「フレデリカのこの先にピオニライの導きがありますように」
これは、別れの挨拶、旅の行く末をこの世界の神に見届けてもらえるようにという願いがある
「それじゃあ皆、行ってきます」