14 んふふ〜(圧強め)
ついに今日、ダーネルお兄様が公爵家に訪問する日が来てしまった。
基本的に服絡みになるとお兄様は話が通じなくなる。そうなった場合、上手く服飾絡みの話題をしつつ会話をする必要があるため本当に大変だ。
昨日、公爵様は午前中屋敷にいることを聞いたので顔を合わせることはあるし、話すこともあるだろう。あらかじめ断りを伝えとく必要がありそうだ。
すぅーはぁー
すぅーはぁー
鏡の前で深呼吸。大丈夫、今日も笑えてる。
目の前に映る自分の顔を見て表情を作っていく。
私に服は作れない。お兄様みたいにアイデアが湧き出て、形にできるような感覚には到達できない。
それでも‥‥
大丈夫、今日も笑えてる。
昨日は時間管理で大きな迷惑をかけてしまったが今日は絶対気を抜かない。
一通り今日の予定と心の準備を整えて食堂に向かう。
「おはようございます」
「ああ」
昨日と同じように公爵様は食事を始めていた。この人本当に早起きだなぁと思う。
「本日はお時間を頂きありがとうございます」
「‥‥‥遅かれ早かれしなければなかったことだ。気にするな」
一体公爵様は好きでもない人の婚約者のドレス選びに付き合わされることをどう思っているのだろうか。
ひとまず不機嫌な気配は感じない。怒っても‥‥‥いなそう。疲れてそうではある。
ベリック兄様は公爵様の同僚だが迷惑をかけていないだろうか‥‥
「今日の事なのですが、ダーネル兄様はその、‥‥‥とても仕事熱心なのでも服飾関係になると周りが見えなくなることがあるんです。なので、もしかしたら公爵様にご迷惑をおかけする行動をとってしまうかもしれないこと先にお詫びいたします」
「迷惑とは?」
「服や布について熱く語りだしたり、デザイン案を脇目も振らず書き出したり‥‥」
だけで済んだらよいが
「ヴェーガル伯爵家三男ダーネルは社交界にほとんど顔を出しておらず作法にも疎いのだろう?職人が集中する光景は見たことがある。配慮はしよう」
そういうことでは無いがまあ、言質は取れたので良いだろう。
その後は黙々と朝食を食べる。昨日ジルとモニカと話したコーンスープを作ってくれていた。
前頂いた時よりも美味しく感じる。うまうま。
「旦那様、フレデリカ様。そろそろお客様が到着すると知らせを受けました。朝食を急いでください」
マリアに言われて慌てて食べ終えてエントランスに向かう。本当に朝一で出発したようだ。
少しすると馬車が到着した。荷物も運ぶため2台用意したようだ。
はぁお兄様、勝手な行動をしないで下さいどうかお願いします。我が家の社交界の印象がこれ以上変な方向に進みたくはありません。
祈る気持ちを込めて馬車を見つめていると扉が開かれ馬車からお兄様が降りてくる。
「おお、フレデリカ、3日ぶりだな!おっ、こちらがムニリア公爵様だな。お初目にかかる。私はヴェーガル伯爵家三男ダーネルだ。妹が世話になっている」
よし、人に意識が向いている。
「ああ、この度はドレス作成の申し入れと急な予定調節感謝する」
「こちらこそ申し入れを受け入れてくださったこととてもうれしく思うぞ」
初対面の挨拶は乗り切った。このまま用意した部屋に突っ込もう。
礼儀や口調は少し難ありだが、まだ許せる範囲だ。
「お兄様、約束は果たしました。早く始めま‥‥‥‥」
そう言いかけて私は、馬車の中にいるもう1人に気づき言葉を失った
「うん?あぁ、一緒に行きたいと言われたので連れてきたぞ」
‥‥‥これはまずい。
一気に今まで立てた計画が崩れていく音がする。
「エルミアお姉様!!なんでいるんですか!?」
「あ、フレデリカやっと気づいた。ダーネルだけいい思いするなんてズルいから私も乗った。私のことは気にしなくていいよ、庭園に居れればいいから」
エルミアお姉様は手元で何かを描きながら説明する。
まずい、何がまずいって家族で1位2位を争う自由人がいることも、2人が全く芸術感性が合わずよく言い争うことも、エルミアお姉様の気にしなくていいは絶対に気にしなくてはいけないことも、この後ドレス案の意見合わせがあることも全部まずい。
こうして混乱している内にエルミアお姉様は馬車から降り庭園に向かい始めている。
ダーネルお兄様は‥‥‥えっ白い布でバラを作って公爵様に説明している。待って一体何処からその布出してきたの。まさか馬車に付いてるカーテンとか言わないよね。
恐る恐る馬車の中を見ると片方カーテンが付いていない。あぁ‥‥
‥‥しかもさっきから横の公爵様から冷たい圧を感じる。どうにかしろとひしひし伝わってくる。
ひとまず声を2人にかける。
「お兄様、お姉様。一度こちらに集まってくれるとうれしいのだけど‥‥」
「「‥‥‥‥‥」」
ですよね、こんな柔らかな言葉では2人は動かない。
恐る恐る横の公爵様に目をやる
‥‥‥ヒィ
視線で人を殺せそうなのだけれども!?
配慮するって言ったよね!?守ってよ!
涙目になり、もうここから逃げだしたいとうずく足を必死に地面に付ける。
‥‥‥仕方がない。できればこの手は使いたくなかったのだが‥‥
これで公爵様が我が家に探りを入れないことを願って!
ふぅっと一息深呼吸。目を閉じ、想像する。
横に垂れた若葉色の髪を耳にかけ、目を開ける。
そうすれば私はもう、私ではない。
「んふふ〜二人とも。一体誰の許可を経て自由に行動してるのかしら〜」
最大限お母様の雰囲気と口調を真似る。
すると「ピキッ」っと2人が固まり行動が止まる。
よし、効いてる
「ひとまずここに集まりなさ〜い」
目を細め笑い圧をかける。すると2人は大人しく従い私の前に集まる。
「で、ダーネル。貴方は何をしにここに来たのだっけ?」
「‥‥‥フレデリカのドレスの意見合わせです」
「エルミアは?」
「‥‥‥内緒で付いてきた」
「そう、じゃあ今回は庭園には行かないで私達について来てね〜。次は連絡をきちんとしなさい。相手方に迷惑よ」
「‥‥‥ハイ」
よし、まとまった。お母様の真似をやめて威圧を止める。
「手間を取らせてしまい申し訳ありません公爵様。早速中で本題に入りましょう」
「‥‥‥‥」
‥‥あれ、何故か公爵様がじっとこちらを見つめている。出来ればあまり詮索しないで欲しい。
暫く謎の視線合わせをされた後、彼は口を開く。
「‥‥‥ああ、1人増えたところで問題ない。客人たち、中へ案内しよう」
問題がありすぎます
「‥‥‥お兄様、今日中にバラしたカーテンは直しておいて下さいね」
「良い出来だったのだが‥‥」
「お兄様!」
「分かった分かった」
まあ、小規模な被害で済んだのだから上々だろう




