第九十五話 『力の行方』
一抹の不安が胸をよぎる――
ストライカーについて話すのはいい。
だが、父はその力をどう受け止めるのか……
下手をすれば、自分の判断が間違っていたことになる。
最悪、この家を出る覚悟さえ必要かもしれない。
まずはその点を父に尋ねた。
「一つお伺いしてもよろしいでしょうか? 父上」
「……またか。お前は心配性なのだな。まぁ、いい。言ってみろ」
オレの不安を察した。
もしくは、前も同じように尋ねたことがあった。
そのせいなのか、父は「またか」と呆れたように言葉を発した。
「わたしが、あのローダー……ただしくは『ストライカー』と言いますが。その力を知って、父上はどのように扱おうとされるのでしょうか?」
「わしがその力を使い、権力を手に入れようとでも思っておるのか? それとも――世に喧伝し、誇示するとでも?」
「……」
「ふむ……おまえの中の“わし”は、どれほど思慮の浅い人間なのだろうな……安心せい。そのようなことはせん」
父は目を細め、淡く笑った。
「わしも、力の使い道くらい知っておる……大きすぎる力の行く末は――二つに一つだ」
さらに、はっきりと力強く、口を開く。
「ひとつは、自ら終わりの見えぬ戦いへと身を投じるか……もうひとつは、力と共に滅びるか――だ」
そう話す父はどことなく哀愁が漂っていた。
「これは……少しでも歴史を学べば、誰しもが目にする『拭えぬ事実』と言えるだろう」
その後、オレを見据えてしっかりと言い放つ。
「こころせよ。もし、おまえがその力を隠し、平穏な暮らしを送りたいと思うのであれば――知り得た者をすべて排除する覚悟を持つことだ」
「……っ!」
「父上! それは……」
オレも兄もその言葉に圧倒され、呆気にとられた。
兄は驚きの言葉が出てしまう。
「落ち着け、二人共とも。それくらいの覚悟を「持て」ということだ。実際にそのようなことをしなくても良い。フィルがそれを実行するのであれば、アルトメイアもわしも排除しなくてはならない。ただ、信用ならぬ者には、見せるな。もしくは、見られれば排除! しろということだ」
「「………」」
たしかに、波風立たせずに心安らかに生きていく――
そうするには、それがいいのかも知れないが……
オレはそれは出来ないだろう……
「……フィル。おまえはその方法が取れぬだろうな……おまえは優しすぎる。それは長所であり、短所にもなる。だが、覚えておけ、強大な力を扱うモノには責任が伴う。それに……あの力は、強大すぎる」
「はい。しっかりと覚えておきます」
オレは父の言わんとしたことが分かる。
だから、そういう他なかった。
それは、自身の戒めでもある。
「そうだな。くれぐれも、力の使い方を間違えるなよ」
「わかっています」
「――わかっているなら、いい」
父の目が鋭く細められる。
「だが、強大な力を持つ者には、必ず選択を迫られる時が来る。……わかるか?」
「……戦うか、守るか。ですか?」
「違う」
父は短く切り、言葉を続けた。
「――貫くか、曲げるかだ」
その言葉に、フィルは目を伏せ、息をのんだ。
「力を持つ者は、いつか選ばねばならない瞬間が来る。貫くべき時と――あるいは、それを一度、曲げる決断を」
父は静かに言葉を続けた。
「貫くことが大前提だが……」
視線がフィルの瞳を捕らえる。
「時に曲げることもできなければ、お前はただの剣になってしまう。己を見失ったまま、振るわれるだけのな」
「……」
「忘れるな。力は守るためにある。壊すためではない」
父の言葉は、オレの中で静かに鳴り響き続けていた――
「心しておきます……ですが、わたし自身にはそんな力なんてないんです。全ては、ストライカーの力です……あいつが凄すぎるだけなんです」
ぽつりと、うつむきながら本音を漏らす。
誇れるのはストライカーの力であって、オレではない。
そんな思いが消えなかった。
すると父が、静かに口を開いた。
「……聞いた話によると、アレはお前の命令しか聞かないらしいな」
「そう……ですね」
「なら、それはお前の力だ。お前自身に力がなくとも、お前自身の意思で力を振るえるものを持っている。それは神剣や魔剣、グリムヘッド系統と言ったものと、どこが違う? どれも、自身の意思で力を振るえる。そうではないか?」
「……たしかに、そうです」
「なら、それはお前の力だ」
「そうだよっ! フィルは前にボクに言ったよな。「兄さんが命令して、皆が助かったんだ。それは兄さんの力だ」と。今回はそれを、フィルに伝えるよ。あれは、フィルの力だ。だから、自信を持ってくれ」
「兄さん……」
その言葉に、心の奥で何かがふわりとほどけた。
不安も、疑いも、少しずつ、静かに霧のように消えていく。
兄のまっすぐな声に、父の確かな言葉に――
父も、少し柔らかな顔で頷いていた。
「そうだ、アルトメイアの言うとおり、自信を持て。おまえはそれだけの力を手にしている。ただ、扱い方を誤るなよ」
「……はいっ!」
二人の温かさに背を押された。
そんな気がして、オレの声も自然と大きくなった。
「さて……この話はここまでだ。本題はここからだ。いいか?」
「「はい!」」
「今回の魔獣の襲撃……何者かが手を回していた可能性がある」
父の眼は真剣さを帯び、それが冗談ではないことを告げていた。




