第九十二話 『休息』
「はぁ……疲れた……」
オレは自分の部屋のベッドにダイブして呟いた。
フィルの部屋は、石造りの壁。
重厚な木の梁がむき出しの、ひんやりとした空間だった。
物は少なく、壁際には小さなタンス。
書類や道具が並ぶ棚が一つあるだけ。
窓辺の粗末な机には、使い込まれた羽ペンがある。
そして、革表紙の書物が数冊置かれている。
貴族の屋敷とは思えぬほど質素だ。
だが、彼にとっては落ち着く唯一の場所だった。
ベッドの中でフィルは今日の出来事を想い出す。
「アマーリエさんのあの行動はびっくりしたな……」
アマーリエさんが自分の服を迷いなく裂いたときは驚いた。
けど、それを傷口にあてがって止血しているのを見て……正直、感心した。
あんな事、普通の令嬢に中々出来やしないぞ。
あんまり、知らないけど……
オレの偏った知識の中の貴族像の感覚だけど。
あながち、間違いじゃないと思う。
それより……
ヒュリエだ……
アーマーの返品を求めると――
「いやっ! これ欲しいっ! わたしのっ!」
「………」
駄々っ子かよっ!
あれは、なだめるのに苦労したな……
でも、最後はラサラの説得もあって渋々返してくれて良かった……
……その時もその場で脱ぎだして……
さすがに周りが止めて、アマーリエ様にお小言を言われてたな。
……いかん、ヒュリエの裸を思い出してきた……
それに、返還してもらった時のあの匂いつきのアーマー……
あれはいいものだったなぁ……
もう一度……
って、なにいってんだ……オレっ!
おさまれ……おさまれ……
「………」
オレ、こんなに性欲旺盛だったかな……
前世の子も胸を揉ませてもらうまで、知らないフリしておけば……
って、ちっが~う!
ああ……なんだろうか……この感じはっ!
年相応に旺盛になってきたとかか?
前の世界のオレもこんな感じだったのだろうか?
……思い出せない。
けど……このままいくとまずい気がする……
ガス抜きしとかないとな……
今じゃないけどねっ!
それよりも……ストライカー……
喜び勇んで、魔獣の解体をやり始めたよ……
一箇所に集められたディノベイダーの死骸を前にオレは圧倒される。
中型しかも、三~五メートル程の魔獣だ。
それが、二十七体もあるのだ。
圧倒されない方がおかしい。
兄さんのグリムヘッドも使い集めたため、あっという間に終わった。
そして、そのままの何台かのローダーと共に穴を掘っている。
さすがに、内臓は持ち替えられないため、埋めるのだそうだ。
そのまま放置していると、他の魔物がよって来るかもしれない。
それに、腐って病原が広がると大変になる。
たしかに、それはありえる。
ペストや天然痘のような伝染病。
それが広がるのは、いつだって“腐敗”や“不衛生”から始まる。
そう考えると、遺体をきちんと埋めるのは当然のことだろう――
「おまえ、解体なんて出来るのか?」
「了――出力を抑えたレーザーメスで解体していきます」
すると、手の甲から小型の小銃のようなものが出て、器用に解体していく。
しかも、するすると簡単に解体してく。
「おお~」
オレは感嘆の声を上げた。
すでに、冒険者ギルドや業者たちも現場に集まる。
そして、それぞれの手で解体を始めていた。
だが、ストライカーの手際の良さに皆、感心していた。
ストライカーに何故そんなに上手いのかを聞くと、
「動物や魚を捌くのと同じですよ。それをただスケールを大きくしただけです。だから、わたしの記録にある解体の知識で解体しているにすぎませんよ。あとは、刃物と違いレーザーですので素直に焼ききれるのです。出力を調整すれば、いいだけですしね」
他の業者も負けていられないっ!
そう思ったのか、異様に解体合戦が盛り上がっていた。
周りにはかなりな台数の荷馬車があった。
たしかに、これだけの数だ。
これでも足りないのではないかと思える。
使える部分は、革に骨、肉、脳は……どうなんだろ?
目玉? ま、まぁ、頭部は謎だ。
使える部分もあるのかもしれない……
しかし、一番は内部に宝石。
……のような、魔石と呼ばれるものがある。
それが、神経が脳に繋がっているとストライカーは言っていた。
そして、
「……推測ですが、この魔石がスイッチの役目になっているのかも知れませんね」
「それって、前に言っていた魔術の仕組みがどうとかのことか?」
「そうです。このような宝石が体内にある方がおかしいのです。もしかしたら、人の体にも……」
――ジィィィ。
「おい……何故、オレを見ているのかな?」
「いえ……フィルにも備わっているかどうかが、気になりました」
「……オレに魔力はない……よって、あるわけがないよ。はは……」
最近は考えなくなっていたが、オレは少し嫌な思いになってしまう。
「否――フィルに魔力は存在していると思いますよ」
「はっ? どういうことだ?」
「アーマーの力だけでは説明がつきません。あのような戦闘は、普通の子供には無理です。……あの娘もそうです。だからこそ、魔力が「見えない形で働いている」のではと推測します。つまり、外に発現させるか、内側に使うか――その違いに過ぎません」
――そう、ストライカーは言っていたっけ?
オレは疲れた体をベッドので癒しながら、考えていた。
たしかに、ストライカーに言われると、そうなのかもと思える。
だが、ほんとに「そうなのか?」と疑念も消えない。
もし、そうなら、少しはオレも魔術を使えるのだろうか?
「………」
わからない……
けど……今は……もう……疲れた……
目を瞑っていると、いつのまにか眠りに落ちたのだった。




