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第九十一話 『戦いのあとに』

 ――「ごめんなさい……紫晶(ししょう)級のわたしには、ここまでしかできませんでした……」


 申し訳なさそうに、チスタはうつむきながら言った。


 「紫晶(ししょう)級」――


 これは、冒険者、剣士、魔術師など、各分野における実力を示す等級である。

 軍事、研究機関、聖職者などにはまた別の階級体系が存在する。

 だが、この等級は基本的に世界中で広く共通認識とされている。


 以下に、その等級を簡潔にまとめる――と。


 ⑩ 黒曜こくよう   オブシディアン      訓練生・入門者

 ⑨ 琥珀こはく   アンバー         補助要員・見習い

 ⑧ 紫晶ししょう   アメジスト        見習い

 ⑦ 黄玉おうぎょく   トパーズ         一般戦力

 ⑥ 青玉せいぎょく   サファイア        熟練者/副隊長クラス

 ⑤ 紅玉こうぎょく   ルビー          精鋭・上級冒険者

 ④ 翡翠ひすい   ジェイド/エメラルド系  賢者・特務官

 ③ 白金はっきん   プラチナ英雄       師団長

 ② 龍晶りゅうしょう  ドラゴンクリスタル伝説級 世界を動かす者

 ① 幻珠げんじゅ   ファンタズムパール    超越者




 と、このようになっている。


 つまり、「紫晶級」は見習いクラスにあたる。


 だが――それでも、オレはチスタは十分すぎるほど優秀だと思った。


 そもそも、あの年齢で回復魔術を扱えるだけでも稀少だ。

 軽い捻挫や擦り傷を癒やす程度だと想像していた。

 それが、あんな重傷を“塞ぐ”までに至ったのだ。

 それだけでも素直に「すごい」と思えた。


 ――証拠に、周囲の者たちは皆、チスタに敬意を表している。

 それがなんだか、オレには誇らしかった。


 そんな折、ヒュリエがラサラさんと一緒に戻ってきた。どうやら彼女も回復したらしい。


「フィル!」


 そう言って、ヒュリエが勢いよくオレに抱きつこうとしてきた――


 が!


 オレはそれをひらりと回避する。


 理由は単純明快だ。

 彼女、まだアーマーの能力を解除していない気がする!

 あれに抱きしめられたら、オレの命が危ない……!


「ま、まて、ヒュリエ! おまえ、それの能力きっているか……?」


「え……? あ……まだ切ってなかったね。あはは……ごめん」


「………」


 ごめんじゃ済まない……


「はやく切ってくれ……」


「うん! ……これでいいかな」


「ふぅ……」


 ようやく能力が解除されたのを確認して、オレは安堵のため息をついた。


「……でも、これすごいねっ! 誰にも負けない気がするよっ!」


「……聞き捨てなりませんね。お嬢様。わたしと戦りますか? ……うっ……」


 ラサラは先ほどの聖戦詩(バトル・リリック)の影響が体に出ていた。


 覚醒し、肉体は超人的な力を発揮するが、体に負う反動が計り知れない。

 その為、解除した後にはそれが一気に噴き出す。


 ラサラはその場に倒れ込む。


「はぁはぁ……」


「ラサラさんっ! どうしたんですかっ!?」


 オレは倒れ込んだラサラさんが心配になる。


「……大丈夫よ。あの詩を使った後のラサラはこうなるの……ただ、疲労が溜まっているだけ。けど……ラサラ……ありがとう、守ってくれて」


「い、いえ……それがわたしの任務ですので」


 ……そこにはオレが入れない何かがある。

 オレはそう感じた。

 そこに、入り込むのも無粋な気がして静かに成り行きを見守った。


 そして、兄もやってきた。


 と、その隣に一緒に父もいた……


 どうやら、兵士がこの訓練場での状況を報告したみたいだ。

 そして、早馬を飛ばし、騎士団長『ウェルズ・エクセリオ』と『壊滅の斧騎士団(K.O.A)』の騎士団員と共にやってきたのだった。


 兄から大まかな状況を聞いていたのだろう。


 倉庫に入ってくると、てきぱきと指示を出していた。


「報告は後で受けるっ! 今はけが人を診療所に運ぶのが先だ! 手の空いているものはローダーを動かし、馬車にけが人を運び込み、運搬しろっ! 冒険者ギルドと解体屋に連絡をし、魔獣の回収を頼めっ! 回収をスムーズにするために魔獣を一箇所に集めておけ、解体を出来るものは先に始めろ! まずは、こんなところか。アルトメイア、フィル!」


「「は、はいっ!」」


「後日、詳しい詳細の聞き取りをする。覚えておけ!」


「「はいっ!!」」


「お前らも手が空いているなら、けが人や魔獣をはこべっ! わたしは騎士団長と話がある!」


 父のその顔は領主そのものだった。

 その的確な指示にオレは関心してしまう。


「……ふっ。だが、よくやったな。二人共。アルトメイアから、ある程度の話は聞いた……これか、これがお前の力なのだな」


 ストライカーを見て、父はそう告げる。

 さすがに、オレも隠しきれない……


 むしろ、最後まで隠し通していればここの皆はもしかしたら……


 兄さんを信用してないわけじゃない。

 けど……今回のあの魔獣の量を考えると……


 だから、今回のストライカーの使用は間違ってないと思いたい。

 それで、父に隠せなくなったとしても。


「それに……あのヒュリエ嬢の見慣れない鎧……あれもか?」


「……そうです」


 オレは素直に答えることにした。

 もうすでに、ストライカーもバレているのだ。

 ここで、隠してもなんにもならない。

 むしろ、全てを話したほうがスッキリする。


 オレはこの時、そう思えた。


「……そうか。ともかく、負傷者は出ているとはいえ、あれだけの魔獣の襲撃でこの被害に収まったのだ。お前たちは、よくやった。本当に立派だ……わしも鼻が高い」


「父上……」


「さぁ! ゆっくりしてる暇はない! さっさと手を動かせっ! ではなっ!」


 そう言うと父は颯爽と騎士団長の元へと歩き出すのだった。


「……ふぅ」


 おれは安堵の吐息を吐き緊張をほぐした。


「……フィル、お前はすごいな……」


「兄さん……そんなことはないですよ。兄さんがいたから、皆を守れたのですよ」


「……いや、オレだけでは倒しきれない……お前とストライカーのお陰だ。オレなんか、大した役にたってはいない」


 兄は悔しそうに俯き、拳を強く握り締めた。


「その理屈でいくと、オレも何もしてないですよ……ストライカーが異常なのです。オレはただストライカーの指示に従っていただけ……けど、兄さんは他のローダたちに的確に指示しながら、魔獣を倒していたじゃないですか……オレには、あんな風には出来ません。オレより、ずっと立派ですよ」


 これはオレの本心だ。

 オレはほんとにストライカーの指示に従っていただけ……

 自身で何かをやった訳じゃない……


 それで、兄さんがオレを褒めるのはどうにもやるせない。

 オレ自身も自分で考え、自発的に動かないといけないと思い知る。


 兄さんは的確にヘッドローダーの指揮をしていた。

 それだけでも、オレからみたら立派なことだ。


「そうなのだろうか?」


「そうですよ。だから、もっと自信を持ってください」


「……フィルにそう言われると、結構照れるな……なぁ、フィル」


「なんですか?」


「オレは立派に父の跡を継げるのだろうか?」


「……兄さん以外にそれが出来いないとオレは思いますよ」


 オレは本心から、そう告げた。


 その言葉に兄の表情が少し柔らかくなった気がした。

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