第八十四話 『アンリーシュ・イグナイト』
――ブシュゥゥゥ!
兄の隣にストライカーを並ばせ、様子を見守る。
兄にも通信機を装着してもらっている。
さすがに猫耳型ではなく、一般的なタイプだ。
これで会話のやりとりができる。
「兄さん、準備はいい?」
「あ、ああ……ゴクリッ」
「兄さん……」
緊張している。
それは通信からの声で分かる。
当然だ。
グリムヘッドに乗っての初めての中型魔獣との戦闘。
まだ、慣れてないだろうし、緊張して当然だ。
しかも、オレにはストライカーがいる。
けど……兄さんには……
「兄さん……先陣はオレとストライカーがやるから、兄さんは気楽に援護をお願い」
「いや……それじゃあ……」
「そんなに気張らなくていいよ。オレ、兄さんのことも、ストライカーのことも信じてる。それに、こっちには戦闘のプロ――ストライカーがついてるし、安心して!」
「フィル……わかった! お前たちを信じるよ!」
倉庫の扉から数十メートルほどの場所。
そこでオレと兄さんが並んでいる。
その後ろには、武装したローダーが数機待機していた。
オレたちが撃ち漏らした敵を排除するためだ。
倉庫の後ろと両脇は岩の壁に囲まれている。
出入り口は正面だけだ。
だから、正面を抑えておけば、後方の心配はほとんどいらない。
さらに、倉庫の扉の前にはもうひとつ門扉がある。
この二重構造のおかげで、侵入は難しい。
とはいえ、完全ではない。
そして、今回の数だ。
ある程度、抜けると考えたほうがいい。
その抜けた魔獣をローダでなんとかする。
そういう作戦になった。
「……さっきはありがとう、兄さん」
「なんのことだ?」
「ストライカーの警告に従ってくれたことですよ」
「………」
「ほんとは、探知してなかったんじゃないですか?」
「……さぁな」
「……どっちでもいいですが、そのお陰で準備が整いました。あのまま、突然襲撃されていたら、間違いなく死人が出ていました……全滅だってありましたよ。だから、ありがとうございます」
「それは、ここを切り抜けてからだな」
「ですね。では先に先行します。魔獣が見えたら狙いを定めて砲撃をお願いします。ストライカーが言うには、砲撃の予測ができ、当たることはないそうなので気にせずに砲撃して欲しいと言っています。ですので、頼みました、兄さん!」
「わ、わかった」
「そろそろ行くか、ストライカー」
「了――」
そういうと静かに浮かび上がり、ゆっくりと動き出した。
――ブシュゥ。
エアスラスターを小刻みに噴射する。
その中で、ストライカーが語りかけてくる。
「……問:なにか、変な匂いがしませんか?」
「ななななにが? べべべ別に、しししないけどぉぉ!」
オレはなんとなく言わんとしたことが分かった気がした……
だから、必死に知らないふりをするっ!
「いえ、なんというか……生臭い?」
「あーーーっ!」
「なんですか? 大きな声を上げて……ああ、理解しました」
「なにをっ!!?」
「先ほどのヒュリエという女性の裸体を見て、こうふ……」
「いわせねぇ~よっ!!!」
「そうですか。なんでもいいです。ですが、もし生殖行為をするのであれば、是非見せてもらえませんか?」
「おまえぇぇぇぇ!!! こんな時になにいってんのぉぉぉぉ!!!」
「いえ、わたしの時代では子供は文字通り機械的に製作するだけになってしまっていて、知識としてはあるのですが見たことがないのですよ。ですので、とても興味があります。だから、是非……」
「あふぉかぁぁぁ! オレにそんな趣味はないってのぉぉぉ!!」
「……そうですか……非常に残念です」
こいつ……この前から、とんでもないことばかり言ってくるなっ!
ほんとに、もう……!!
「そ、それより、そろそろ見えるんじゃないかっ!?」
「了――確認しました。敵補足、その数二十五体! 戦闘モードに移行します」
「ああ、やってくれっ!」
――「クァンタムジェネレーター、マキシマム・ディスチャージ――エネルギーフロー安定!」――
――ヴゥン……ゴォォォォ……!
「ミューオン電子制御板、正常稼働!」
――ピピピッ……キィィン……!
「アクチュエーター、高分子ゲル、ボロフェンナノヘキサジン人工筋肉、全系統リンク!」
――ガシュンッ……ゴギンッ!
「超伝導フレーム、異常なし! タキオンセンサー、スキャン開始!」
――ヒュゥゥゥゥン……シュゥゥ……!
「ジャイロスコープ、同期完了!」
――シュィィィン、カチッ、カチッ……!
―――全システム――オールグリーン!―――
「……よしっ! いくぞ!」
『プロトコル・アクティベート!!』
――ゴゥンッ!!
――ストライカーの両目が赤く光った。
その紅の光は、冷たく無機質な死神の視線。
情けも、ためらいも、そこにはなかった……




